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リアクション
メニエス・レイン(めにえす・れいん)は、百合園女学院校長、桜井 静香との訪問の約束の時間5分前に、百合園女学院の校門に到着した。ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)はメニエスにつき従うように、横に控えていた。
影野 陽太(かげの・ようた)は、瀬蓮の送った情報を人伝てに聞いて、百合園女学院の人に話しを聞きたい、と百合園女学院に来ては見たものの、生徒はまだ授業中で話しを聞けそうになかったし、百合園女学院に忍び込むような真似も出来なかった。校門が見える位置でどうしようか悩んでいたその時、桜井 静香(さくらい・しずか)が、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)と共に現れた。
メニエスは出来れば、静香1人と面会して、昨夜の事件に関わることを聞き出したかったが、ラズィーヤが付き添ってくるのは、不自然なことではなかった。
「お待ちしていましたわ。メニエスさんとミストラルさんですわね。どうぞ」
イルミンスール魔法学園の制服を着た女生徒2人は、静香とラズィーヤに誘われて、中へと入っていった。陽太は、自分も面会を申し込むべきだったか、と考えたが、それに見合った理由を思いつくことが出来なかった。誰か、出て来るのを待つとしようか…。
静香はにこやかに、学校内を案内した。とくに中庭の花壇は、目を見張るほど美しく、メニエスとミストラルも百合園に来た目的を忘れてしまいそうになるほどだった。静香は、一通り校内を案内し終わると、メニエスとミストラルを校長室へと案内した。ラズィーヤは紅茶を淹れると3人の前にカップを置くと、自分は中座する旨を伝えた。
「さきほどの件で、少し気になることがありますので、家に帰ってきますわ」
ラズィーヤは静香にそう伝えると、そっと部屋から出て行った。メニエスは、ラズィーヤが席を外すと、百合園に来た真の目的である、昨日の事件について静香に単刀直入に切り出した。
「ヴァイシャリー家とオケアニデスについて、何かご存じないですか?」
「オケアニデス…?」
「文献によれば、海の妖精だそうです。百合園の生徒に関わることになるかもしれません。ヴァイシャリー湖に関わる事件について、何か知りませんか?」
静香はオケアニデスという名前は知らなかったが、妖精という単語にピン!と来た。
「遠からず、あなたのお耳にも入ることかもしれません。知っていることがあれば、教えていただけますか?」
「ジュリエットちゃんから聞いてるよっ!ボクは詳しいことは知らないけど、ラズィーヤに聞いたことなら、教えてあげる」
静香は、メニエスとミストラルに、ヴァイシャリー家の先祖に、ヴァイシャリー湖に由縁のある娘がいたこと、そしてその悲恋の話しを、話して聞かせた。
「2人とも、ホントはジュリエットちゃんたちが心配で、ここに来たんだねっ♪」
静香は嬉しそうに言って、軽くウインクして見せた。
陽太は、百合園女学院の前にいても、情報は得られない。ここで放課後まで待っているよりも、ヴァイシャリー湖に調査に行ったほうがいいのだろうか、と考えていた。そこに、ヴァイシャリー家と最も深い関係者、ラズィーヤが現れた。上手く聞き出せるかわからない、けど…。攫われた2人のことを考えると、解決を引き延ばすのは得策ではないはずだ。陽太は、考えるよりも早く、ラズィーヤに向かって走り出していた。
メニエスとミストラルは、静香の話しを聞き終わると、先ほど見た百合園女学院の図書館に、ヴァイシャリー家の文献があるのではないかとチラと考えたが、それよりも湖に調査に行っている人たちに伝えるほうが得策だろう、と判断した。校門で可愛らしく手を振る静香に見送られながら、2人はヴァイシャリー湖に向かうことにした。
ファルスのコスプレ喫茶は、いつも賑やかな喫茶店ではあるが、今日は普段にはまだ人が集まらないような時間帯から、続々と人が集まり始めていた。ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)が声をかけて結成した【情報収集班】の人の他にも、途中でその話しを聞きつけてきた人や、調査の途中で会った人たちが連れ立ってやってきたのだ。
葉月 可憐(はづき・かれん)は、玖瀬 まや(くぜ・まや)と一緒に校長室へ向かう途中に、ジュリエットや真口 悠希(まぐち・ゆき)にばったりと出会い、話しを聞いて、湖に向かうという悠希を残して、ジュリエットと共にファルスのコスプレ喫茶へとやってきた。
ジュリエットが少し調べ物をしよう、と寄った百合園の図書館にも、すでに文献を調べている生徒たちがいたので、情報を交換したり、庭師に詳しい話しを聞いたというヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、一緒に連れ立ってきたりもした。
「もう少し、人数が集まるはずですわ。それまでに今までわかったことを整理してみましょうか」
ジュリエットは、ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)にメモを取るように言いつけ、御凪 真人(みなぎ・まこと)やセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)たちが占い師から聞いたという話しを書き付けていった。
七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が稲場 繭(いなば・まゆ)に占い師から聞いた話しを伝えるために電話をしたところ、すでにヴァイシャリー湖に調査に行っているものもいれば、放課後になったら行ってみるつもりだという生徒も多くいるようだった。対策が出来ていないうちに、暗いヴァイシャリー湖に行くのは危険な行為だ。その話しを聞いたジュリエットは、早めに情報を取りまとめて、湖に向かわなくてはと思った。
ファルスのコスプレ喫茶まで来ることができないという人も、調べた情報をメールで送ってくれたり、乙女のネットワークは、個々に集めた情報が飛び交ったりしている状態にあった。
また、瀬蓮のところに集まった情報も総合すると、なんとなく、事件の概要がわかってきたような気がする。イルミンスール、百合園女学院、ヴァイシャリーの図書館には、海の妖精オケアニデスについての文献は多く残されていたが、問題は『魅了』の魔法が強すぎるらしく、それに対抗する術がない、ということであった。魅了された人は、文字通りオケアニデスの虜となってしまうのだが、そうなった時にはどのようなことが起こるのかというのは、文献から調べる事が出来なかった。
オケアニデスは、妖精のため、時間の感覚が人とは違うということ、そしてオケアニデスとヴァイシャリー家の娘が恋に落ちたのは、すでに数百年も前であるということは、昔話のようにしか伝わっていない悲恋の物語から、知ることが出来た。
数百年前のパラミタでは、政略結婚というものがまだ普通の時代であったらしいことが、パラミタの歴史の文献からもわかるため、オケアニデスと恋に落ちたと言うヴァイシャリーの娘も、オケアニデスとは引き裂かれて、どこか遠い国へと嫁がされているようだった。
「しかし、すでに湖に梨穂子様たちを探しに行かれた方たちによれば、湖の中にはオケアニデスの放った精霊がいるので手を出すことは出来ないということですし、私たちに出来ることは、オケアニデスを呼び出して説得するしかないのではないでしょうか」
エリアス・テスタロッサ(えりあす・てすたろっさ)は、ファルスのコスプレ喫茶で注文した紅茶に、無意識にテーブルの上の塩壺から塩を入れようと手を伸ばしながら言った。アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)はエリアスの手をさりげなく砂糖壺のほうへ誘導した。
「う〜ん…。そうすると、お話しするためには、オケアニデスを誘き出さなくてはなりませんねぇ」
「そうなると、やはり危険ですが、同じ方法でもう一度オケアニデスを誘き出すのが早いでありますっ!」
皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)は、どこから取り出したのか、白羽扇を握り締めながら言った。
「同じ方法というのは、昨夜の2人のように、湖で…あいびき、するということかなっ?」
セルファは真人をちらり、と見やりながら尋ねた。真人に女の子の格好をさせてみるのも、悪くない。
「そうですわね。攫われた2人のことも心配ですし。静香様やラズィーヤ様が先生方に言うようなことはないと思いますが、いつまでも寮長や先生方に隠し通せるものではありませんわ。今夜、オケアニデスを誘き寄せましょう」
ファルスのコスプレ喫茶で、情報の取りまとめをし、他にも協力してくれる人たちに、情報の共有をすることにした。今夜、湖でオケアニデスを誘き寄せることを、ジュリエットは、瀬蓮にメールしたのだった。
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