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第4章 オケアニデスの真実とは


 誰のキスがきっかけとなったのか、それとも湖の周りのカップルすべてが気にいらなかったのか、夜になったので出て来られるようになったのか、本当のところは誰にもわからないけれど、激しい怒号と共に、オケアニデスが姿を現した。
 昨夜、高原 瀬蓮(たかはら・せれん)が見たのとまったく同じ、濡れそぼった姿で肌に纏わり付くようなイブニングドレスのような長いドレスの先は、ヴァイシャリー湖に同化しているように見えなくもなかった。
 オケアニデスが姿を現すと同時に、水面が生きているかのうに割れて、ヴァイシャリー湖のほとりで囮役をしていた如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)がヴァイシャリー湖へと引きずりこまれてしまった。松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は、オケアニデスのが現れると同時に茂みから飛び出したが、水のスピードは速く、2人を引き留めることが出来なかった。岩造は一瞬悔しい気持ちを味わいはしたが
「俺はあんたみたいな強いやつと戦えるのが嬉しくたまらないんでな!!!」
と言い放ちながら、大剣バスターソードを振って、爆炎波をオケアニデスに向けて放った。一緒に飛び出してきたフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)は、岩造に向かって、パワーブレスを与える!
「おら!これでも食らいやがれ!」
 岩造が飛び出したのに続いて、茂みに隠れてオケアニデスが出てくるのを待っていたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、オケアニデスに向かって爆薬を投げつけた。続けざまに破裂した爆音が、湖にこだまする。
「少女達の恋路に嫉妬し、邪魔をするとはなんと不埒な輩!蒼空の恋愛ハンターと呼ばれた私、セシリア・ファフレータが成敗してくれるのじゃ!」
 セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は、大きなことを言いながらも、ファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)の体に隠れるようにしてオケアニデスのほうへと突っ込もう…としたが、湖上のオケアニデスまでは、遠いっ!!
 フイに攻撃を食らわされたオケアニデスは怒ってヴァイシャリー湖のほとりに向かって、ターゲットを定めることなく氷術を放った。神薙 光(かんなぎ・みつる)アイシア・セラフィールド(あいしあ・せらふぃーるど)をかばい、それから近くにいた空井 雫(うつろい・しずく)アルル・アイオン(あるる・あいおん)の腕を取って立たせ、茂みに向かって走るように誘導した。このヴァイシャリー湖のほとりには、今たくさんの少女たちがいる。戦闘をするのは危険な行為だ。
「雷の力でしびれちまいな!!」
 アイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)が雷術を放った。オケアニデスの絶対的な魔力の前に、雷がどの程度効くものなのか…。
 ヴァイシャリー湖のほとりで、少女たちが逃げまどっている中、愛らしいロリィタ服を翻しながら、姫野 香苗(ひめの・かなえ)は怒っていた。なんで、この爆音の中のん気に寝てるのよっ!レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)の軽い体を抱えあげようと香苗は必死になっていた。年下は趣味じゃないとか言ったって、さすがにこの状況では捨てていけない。ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)は、清良川 エリス(きよらかわ・えりす)の手を引いて走っていた。この状況じゃさすがに光条兵器では勝負にならない。この様子じゃ、オケアニデスと交渉するどころではないわっ。すると、前方に何やら人を担ぎあげようとしている人影があった。続けざまに岩造が放つ爆炎波と爆撃の明かりが、香苗の姿を映し出す。
「だ、大丈夫ですか?!」
 ぐったりとしているレロシャンの姿に、エリスは大きな声を上げた。オケアニデスの攻撃に当たったと思ったのだ。
「大丈夫も何も、寝てるのよ、この娘っ!!」
 寝てる、という最もこの状況にそぐわない単語に、エリスの思考は一瞬、止まった。
「寝てはるんですか…?」
「そうよ!運ぶの手伝ってよっ!!」
 ケガをしていないのは良いけれど、なぜこの状況で寝ていられるのか、不思議に思いながらも3人で協力してレロシャンの体を抱えた。
 ファルチェはセシリアの体を守りながらも、ヴァイシャリー湖の岸ぎりぎりまで走り込み、轟雷閃を全力で打った。オケアニデスはナナメ方向からの攻撃を、それでも水の壁を作ってかわした。オケアニデスまでの距離はまだある。ラルクの爆薬が、逆方向からオケアニデスの注意を引いている隙に、ファルチェはセシリアの体をオケアニデスに向かって思いっきり…投げ飛ばした!セシリアは雷術を自分の拳にまとわりつかせた。
「食らえ正義の鉄槌!必殺!サンダーナックルーーーー!!」
 セシリアの身軽な体は、勢いよく飛んでいった。オケアニデスまであと少し、というところに氷の柱が突如現れた。ごつんっと柱にパンチを食らわせてしまったセシリアの体は、折れた氷柱とともに、そのままヴァイシャリー湖の中へ落ちていく。
「ってしま、私泳げな……ガボボ!?」
「ちっ。何してやがんだ!」
 その様子を見て、アインは雷術の攻撃を止めた。水の中にいる分には、炎の攻撃から身を守る事は出来るかもしれないが、雷じゃ一緒にしびれちまう。
 ファルチェが飛び込むよりも早く、布の少ないビキニ姿に浮輪とシュノーケルという、謎の組み合わせを身につけながらも妖艶な美女が、ヴァイシャリー湖へと飛び込んだ。ヴェロニカ・ヴィリオーネ(べろにか・びりおーね)は、浮輪をしているとは思えないほどスムーズな泳ぎで、セシリアを回収し、岸へと運んだ。
 
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、オケアニデスが怒っていながらも、まだ魅了の魔法を使うにいたっていないなぁ、と少し離れた木の陰から、オケアニデスと戦っている人たちとのやり取りを観察していた。響からの情報が待ち遠しい、と感じていた。仁科 響(にしな・ひびき)は、百合園女学院の制服を着込んで、今朝からオケアニデスの情報を集めているはずだった。とくにヴァイシャリー家のものである、ラズィーヤをよく観察することに決めてあった。
(それにしても、これじゃあキリがないよねぇ…。オケアニデスが魅了の魔法を使わないのは、使わなくても防げる程度の攻撃ってことかなぁ。でも、こんなこと続けてても解決しないよねぇ。…あれ?)
 湖のほとりから、女の子たちが避難をしているというのに、オケアニデスの正面に進み出る者があった。フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は、セラ・スアレス(せら・すあれす)の手を握り締め、緊張で震える声を抑えながら、凛とした声を張り上げた。
「私とセラさんが梨穂子さんと先輩、そしてさっきあなたに攫われた人たちの身代わりになります!梨穂子さん達を助けてくれませんか?怒っていらっしゃる理由は私にはわかりませんが…、私の学友達がきっとオケアニデスさんの想いを叶えてくれるはずです!」
 セラは、何かあったらもちろんフィルを守ることを最優先するつもりであったが、オケアニデスが女性であることからも、オケアニデスに手を挙げることに躊躇も覚えていたので、素直にフィルのそばに立っていた。オケアニデスが願いを聞き届けたのかは不明だが、勢いよく水が割れて、2人に襲いかかろうとした。
「自己犠牲の精神は美しいものでござるが、それでは何も解決しないでござるよ」
「サルの言う通り!朕が彼氏になってあげれば、オケアニデス様の怒りも静まるアルっ!」
 風間 光太郎(かざま・こうたろう)幻 奘(げん・じょう)は、水の手が伸びる前に、フィルとセラの体をかっさらった。
「何をなさるのです!せっかく梨穂子さん達を返していただけるところでしたのにっ!」
「オケアニデスが約束を守る保障はござらんっ!そうしたらただ犠牲者が増えるだけでござるっ!」
 光太郎の言葉に、フィルはうつむいて悲しそうな顔を覗かせた。セラは黙って、フィルの肩を抱きとめた。

「オセアニデスは、人と交渉する能力はあるんじゃな」
 エリス・カイパーベルト(えりす・かいぱーべると)は、フィルの言葉に耳を傾けたオケアニデスの様子を眺め、オケアニデスの体がますます欲しいと思った。一部、出来れば全体を捕獲出来ることが望ましい。
「そのようですわね」
 アリス・ファムアルフート(ありす・ふぁむあるふーと)はエリスに付き従いながら、オケアニデスの様子を眺めていた。エリスが欲しがっているものを手に入れてあげたい。しかし、オケアニデスの魔力はなかなかに強そうであった。でも、オケアニデスのあの容姿…、マリンブルーのロングウェーブの髪、きつい顔立ちだけど美しい顔立ち、いつかどこかで見たことがあるような…。
「オセアニデスがもう少し消耗するまでは、何も出来なさそうじゃのう。もっと強いやつはおらんのか」
 確かに、攻撃の手を緩めている様子はないのに、まるで歯が立っていない様子である。オケアニデス自体も、積極的な攻撃には出ていないようであるけれど。
「私たちの力でも、あの状況ではまだ手出しできませんわ。もうしばらく、静観されるのが得策ですよ」
 アリスの進言に、エリスは目を細めて、オケアニデスを見つめた。