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湖中に消えた百合達

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湖中に消えた百合達

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 茂みで張りつめた空気も、湖で“囮”を意識して緊張しているカップルも関係なく、いつも通りお嬢様一択で楽しげな様子の人物がいた。ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)その人だ。
「さ、お嬢様、わたくしの立てた筋書き『お嬢様とメイド、主従を越えた禁断の愛』作戦で妖精を招きよせますわ♪」
 お嬢様こと神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)は、囮になるためデートしましょ♪というミルフィの言葉に異論はなかったものの、人が多くいる気配を感じて、身を固くしていた。
「ミルフィ、、でも、人もいるし、恥ずかしい、、、」
「お嬢様、これは人助けですわ。おふたりを救うためにも、オケアニデスを誘き出すのですわ♪」
「ん、、うん」
 日も良い感じで暮れ始めて、時間的にそろそろ…?と、動き出した人が多いようだ。
 ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)
「オケアニデスを誘き寄せる妙案がありますわよ、大丈夫皆が噂してる様な方法じゃないわよ」
 と、いたずらっぽい瞳をくるりんと動かして、オケアニデスではなく、清良川 エリス(きよらかわ・えりす)を誘い出すことに成功していた。ヴァイシャリー湖には、すでに何人ものカップルが肩を寄せ合っていて、エリスは目のやり場に困っていた。
「どんな方法をとらはるつもりなんですか?」
「ん〜、それは後で説明しますわ。オケアニデスがどの辺りに現れるかわからないけれど、ひとまず、あの辺りに座りましょうか♪」
 ティアは、周りを見て照れるエリスに、あんまりじろじろ見るものじゃありませんわよ、とひと気のない方へ手を引いて行った。そんなひと気のない方向へと歩みを向ける女の子たちに目を向けて、心配気に呟く人がいた。
「そろそろ暗くなってきたし、オケアニデスが現れるかもしれない。女の子たちがやたらと多いけど、危なくないですかね…」
 菅野 葉月(すがの・はづき)は、危険な囮役で女の子たちが危険にさらされることが気になっていた。危険なんて考えずにここぞとばかりにデートを楽しんでいる人たちもいるのだが、もちろんそんなことには気がつくはずもない。
「大丈夫よっ!回ってる情報によれば、オケアニデスを倒そう!って人たちも集まってきてるみたいだしっ。ワタシたちは女の子として、男の子には出来ない囮役をがんばろうよっ」
 ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、張り切っていた。ここぞとばかりにデートを楽しみたい人たちの中の一人が、自分のパートナーだとは、もちろん葉月は気付いていない。
「だから、ねっ!ワタシたちもさっ」
 いきなりキスに持ち込むことは出来ないとは言え、ここで積極的にいかなければいついくのっ!という勢いで、ミーナは葉月をなるべくひと気のいない方向へと引っ張っていく。葉月としても、オケアニデスを誘き出す役目を引き受けたいと思っているので、とくに抵抗はしない。葉月はミーナよりも、周りの様子や囮役を引き受けようと思っているであろうカップルのほうが、気がかりだったのだ…。
 
 神薙 光(かんなぎ・みつる)は、まだ明るい空に薄く輝いている細い月を眺めながら、どうしたらオケアニデスを助ける事が出来るのか、考えていた。アイシア・セラフィールド(あいしあ・せらふぃーるど)は、ただ浮ついているカップルもいる中、真面目に悩む光の姿に、胸をときめかせていた。月が見たいと言ったアイシアの言葉を受けて、帰りが何時になるかわからないから、と生真面目に寮長に外出届を出してくるところも、光らしくて良いとうっとりと思っていた。
「アイシア様。どうしたら、オケアニデスを助けてあげる事が出来るでしょう。もちろん、僕は梨穂子さんや先輩を返してもらうことを優先させるつもりですが」
「光さん…」
 本当は、自分も浮ついた人の一人で、良い雰囲気になりたかっただけなのだけど、光の真摯な瞳に打たれると、アイシアは何も言えなくなってしまうのだった。光さまの鈍感…、と思いながらも、一緒に月を眺めながら散歩出来る今を、大切にしたかった。

 しかし、囮役を引き受けようと思ったのは女の子同士のカップルばかりではない。危険を伴う役目なのは間違いがないので、不本意ながらもオケアニデスを誘き出すためならば、と女の子の格好をさせられている者もいた。大草 義純(おおくさ・よしずみ)は、ジェニファー・グリーン(じぇにふぁー・ぐりーん)がどこかからガメてきた百合園の制服に身を包み、
(ス、スカートって、なんかスースーするっ)
と、違和感に耐えながら、ヴァイシャリー湖のほとりに腰をおろしていた。ジェニファーと手を重ね、早くオケアニデスが出て来てくれないものかと思っていた。
「ただ、話ししてるだけじゃ、オケアニデスが出て来てくれるわけないじゃん?」
 ジェニファーは、制服から出ている義純の首筋をぺロっと舐めた。髪が長いのも似合うけど、ちょっと邪魔〜、と思いながら義純の肩に手を添えて、そのまま押し倒す。ジェニファーは、本来の目的を忘れて自分の下になった義純を楽しそうに見降ろしていた。
「ほら、しっかりやんないと出てきてくれないよ?」
と言い訳を口にしながら、ジェニファーは制服のファスナーに手をかける。あっけにとられていた義純もさすがに我に返り、叫んだ。
「ち、ちょっとは自重してください!」
「これも人助けでしょー?」
 ジェニファーは、強引に義純の唇に自分の唇を重ねる。その場所はまさに昨夜、梨穂子と先輩が唇を重ねていた場所に他ならなかったのだが…、オケアニデスは現れなかった。やはり妖精は女装を見破るのか…もしれない。もちろん、オケアニデスが現れないのだから、ジェニファーを止めることは誰にも出来ないのだった。

「…駄目、です…。その…悪いですし…そろそろ、帰りましょう……?」
 興味津津でカップルを覗き込んでいたファニー・アーベント(ふぁにー・あーべんと)に、フィール・ルーイガー(ふぃーる・るーいがー)は小さな声をかけた。覗きも悪いけど、2人の邪魔をするのも悪い…。事件の話しを聞いたからてっきり調査に行きたいのかと思ったら、逢引を見たいだけだなんて…。同じ湖にいても、オケアニデスから囮役の人たちを守りたい、と目的を持っている人もいるのに、とフィールは同じ百合園女学院の制服に身を包んだ、遠鳴 真希(とおなり・まき)の背中を見つめた。真希はフィールの実況中継に、時々興味を惹かれてカップルを覗き見てみるものの、すぐに顔を赤らめて、元の体育座りに戻っていた。ユズィリスティラクス・エグザドフォルモラス(ゆずぃりすてぃらくす・えぐざどふぉるもらす)はそんな真希の様子を時々ちらりと見ていたが、基本的には真希が七瀬 歩(ななせ・あゆむ)から受け取った情報に目を通していた。ヴァイシャリーの昔話についての記述を、ユズは読み返しているようだった。
 目の前の、座っていても長身とわかる見目の良いカップルが、倒れるように重なったのを見て、ファニーが大きな声を出し、真希はまたつられてカップルのほうへと目を向けた。掌で顔を多いながらも、指の間から、重なる2人の影を見てしまった。
「フィーっ!アレが逢引っていうものなの?!漫画とは違うねっ!」
 ファニーは、目の前の見慣れる光景にやや興奮気味だ。