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バトルフェスティバル・ハロウィン編

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バトルフェスティバル・ハロウィン編

リアクション



勝ち取れ! 最後のアピールタイム

 第二試合のアピール会場はロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)によるかぼちゃ転がし。誰でも手軽に遊べるものをと作った中身は160cmくらいの板に外枠を付け、障害物の棒はあちこちに付けてハロウィンお化けの人形を被せて可愛らしく演出し、仕上げは板を傾け下側に1〜5と得点の書かれたポケット付けるというシンプルなボール転がし。転がすのは手の平に乗るぐらいの小さなカボチャにジャックオランタンの顔を描いた物で、可愛らしく楽しい童話のような出店だ。
 そんなお店に合わせて選ばれた九条院 京(くじょういん・みやこ)文月 唯(ふみづき・ゆい)は、あかずきんとおばあちゃんスタイルの狼
。美術が得意な唯の手伝いもあって、京は満足のいく赤いずきんとワンピースに白のエプロンドレス。唯はふさふさな耳と尻尾が上手くいったことに満足しながらも、ネグリジェやナイトキャップをつけるのは恥ずかしいのか少し躊躇いつつ遊戯の前へと進む。
(京が可愛い格好してくれるならって引き受けたけど、この格好だったらもう少しエプロンのフリルを多くしてやれば良かったな……)
「唯、何か言った?」
 じゃらりと鳴る音に視線を落とせば、強気な目が見える。身長差も申し分ないくらいにはまり役なあかずきんと狼なのに、なぜ首輪で繋がれリードは彼女の手にあるのだろう。仮装が出来る今日1日限りですら物語本来の力関係になることは許されず、なんとも哀愁漂う狼がそこにいた。
「いいや、なんでも。対戦相手って、あの人たちかな?」
 緑の衣装が爽やかな織機 誠(おりはた・まこと)はピーターパン。動きやすそうな衣装はどんな遊戯ももってこいだが、その背中にはマイラヴァーと大きく筆文字で書かれており、正面からの爽やかさとは大きくかけ離れている。しかし、これが珠輝のプロデュースによるものだと知れば、誰もが納得するだろう。知らぬは、着ている本人だけである。
 そして、同じ店でプロデュースを受けていた朱 黎明(しゅ・れいめい)と組むことに縁を感じたのか、お互いにお菓子を交換しながら店側の準備を待っている。
「どうぞ、かぼちゃのお団子です。しかし、さすが朱さん。随分セクシーな着こなしですね」
 体は人間、下半身は馬のケンタウロス。馬の色は黎明に合わせて赤褐色、上半身はもちろん裸。けれども普段の眼鏡を活かすためにもちょっぴりおしゃれに裸ネクタイをすれば、今ここに鬼畜眼鏡ケンタウロスの誕生! と熱く珠輝が語っていただけあり、落ち着いた黎明の色気を活かした仮装になっている。
「さすが珠輝ですよね……あの人の考えには、いつも驚かされるばかりですよ。では、お返しにこれを」
 色とりどりのキャンディーの中から1つ受け取り、家で待つパートナーのために持って帰ろうと腰につけてあるお菓子入れにしまい込む。しかし、色こそカラフルだが辛い物が大好きな黎明の味覚に合わせて用意された激辛ハバネロキャンディーであることは、食べた者にしか味わえぬ苦しみかもしれない……。
「お待たせしました、3回転がしてうまく高得点のポケットに入るよう、頑張って転がしてくださいね」
 ロザリンドが3つずつかぼちゃを渡し、にこにこと側で見守るように立っている。どうやら、仮装大会のアピールに使われるということで傾斜を少し難しく調整したようだが、彼らがどんなアピールをするのだろうか。
「では、私からさせてもらおうか。例えどんなに恥ずかしい格好をさせられることになっても甘んじて受ける気でしたが……些かこの時間になると寒すぎる」
 くすくすと零れる笑いに手を振りながら、かぼちゃを手に軽くストレッチをしている。弓でも持っていればその格好良さは人一倍際だっただろうが、可愛らしいカボチャとあってはコミカルな物で、どうアピールに活かすのだろうか。
 眼鏡をかけ直し、じっとボードを見る。その真剣な眼差しに観客の女性陣はキャアキャアと歓声を上げるのもつかの間、彼の格好良さはもたなかった。
「B……いや、ギリギリCくらいか。確かに持ちやすくて投げやすいが……」
 はぁ、と溜め息を吐く黎明に注がれる白い視線。女性に取ってはなじみ深い単語とカボチャを手で遊ばせていることから、彼が胸好きなのが窺え折角の盛り上がりが台無しだ。しかし、サマになる投球ポーズと知的溢れる色気に見ているだけなら害はないと再度盛り上がる。何より火を付けたのは、投げ終わったときのネクタイを緩める仕草ではないだろうか。
 そうして誠へとバトンタッチされるのだが、こちらも知的眼鏡な雰囲気で、どちらかというとピーターパンのイメージとは違うかもしれない。しかし、目つきが悪いのもなんのその、無邪気な子供らしさを演出しようと最大限の笑みでアピールを試みる。
(大丈夫です、明智さんが私の為に考えてくれた衣装ですから。明智さんにはお世話になりっぱなしですね、あのとき、も――?)
 体育祭のことを思い出しかけて、一瞬だけぐらりと揺れる視界。しかしすぐに何でもないかのように晴れるので、自分の中に抱えた矛盾や穴の空いた記憶を特に気にすることなく、予定通りこなしていく。
「さあ、わた……じゃないですね。ボクとネバーランドにレッツゴー!」
 拳を突き上げるように元気に飛んでみても実際に飛べるわけもなく、照れ笑いを浮かべてかぼちゃをなげる。2人の合計は10点なので、そこそこにいい成績ではないだろうか。
「京はパーフェクトをとるのだわ。絶対勝つんだもん」
 よし、と気合いをいれる小さな両拳に苦笑しながら、引っ張られるように遊技の前へと進む。今までも散々模擬店を巡ってきたのにまだ遊び足りないとでも言うかのように京の目は輝いている。
「おばーちゃんの家にお菓子を届けにきたのだわ。けど、病気みたいだから通り道で貰ったお菓子もぜーんぶ京のなのだわっ!」
 自分の頭上に掲げるお菓子がたくさん入ったかごと、唯が繋がれたリードのおかげで笑いを誘い、不憫な狼にエールまで贈られる始末。盛り上がった観客に満足して京がかぼちゃを投げるが、結果は1点。パーフェクトを狙いたかった彼女には予想外過ぎる点数だ。
「…………っ」
「まあ、かぼちゃもそれぞれ重さも違うし、さっきと傾斜も違うみたいだから上手くいかなくてもしょうがないよ」
 次は頑張ろうねと2個目のかぼちゃを差し出す唯に対して、まっすぐに1点のポケットに入ってしまったかぼちゃを指さす京。
「……とってきて」
「え? それはルール違反だよ。ほら、次を……」
「ご主人様が投げたボールを取ってくるのは、犬の使命なのだわ!」
(だから、それってルール違反な上に俺は狼の仮装のはずなんですけどー!?)
 2人のやりとりにまた笑いが起こり、隣で見ていたロザリンドもクスクスと小さく笑っている。ひとしきり笑いの渦が落ち着いた後に彼女からやさしく遊戯の再説明があり、渋々納得した京は挽回に燃える。しかし、この痛手が大きかったのか点数は8点に落ち着き追い越せなかった。
「くやしいのだわ……」
「ほらほら、京が断然勝ってる部分もあるんだからそう落ち込まない」
 ね、と受け取ってきた参加賞の真っ赤な目のように見えるキャンディを差し出され、そのリアルさに何度見てもほんの少し身震いする。
「なにが?」
「かわいさ部門では、圧勝でだよ?」
 自分以外は男性陣ばかりの参加となった第二試合で、そんな部門の勝負が成立するものか。そう文句が言いたくても、着るまではあまり可愛らしい服など着ないので少し照れくさくもあり、こんな服を着た自分がどう見えるかなんて出来るだけ考えないようにして遊び回っていたのに、思い出させるようなことを言うからついずきんを深く被って顔を隠してしまう。
「そ、それは服が可愛いからなのだわ……」
「うん。可愛い京が着るからこそ、より可愛く見えるんだろうね?」
「……――ッ!?」
 一体何を言い出すんだと怒鳴りたい気持ちも半分、素直にありがとうと言いたい気持ちも半分。けれど、恥ずかしさのあまり沈黙に耐えきれなかったのは唯も同じようだ。
「ごめん、ハロウィンだからって困らせすぎたね。でも、嘘は言ってないから」
「……がと」
「え?」
「ああ、ありがとなんて、2度と言ってやらないんだから聞き返すんじゃないのだわ!」
 あまりの剣幕にキョトンとしつつ、顔を真っ赤にしながらの珍しいお礼の言葉。
「……はい」
 何も言うまいと苦笑しながら、唯はリードを持っていない京の手をひいて、残りの時間をめいいっぱい楽しませてあげようと、また2人でお店を巡るのだった。
 最後は、四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)たちの射的。第一試合のクラシカルな感じと違い、エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)と2人で開発した簡易魔法発動装備の試作品とも言える小杖型を使ってジャックオランタンを狙うという物。そのため、杖の先端には星オブジェがついておりファンタジーな雰囲気だ。フィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)もよく充電した杖を準備し、いつでも試合が開始出来るように備えている。
 こんなゲームにぴったりの仮装と言えば、魔女っ子やアイドル。なんと今回は、2チームともその組み合わせとなった。
 露出が若干高めのサスーンデビルの仮装をした遠野 歌菜(とおの・かな)と、パートナー達の手により魔法少女リュ子の格好をさせられたリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)。仲の良い2人は一緒にチームを組み、魔女っ子アイドルらしく盛り上げようと打ち合わせもばっちりだ。
 対するは駆け出しアイドルのはるかぜ らいむ(はるかぜ・らいむ)。黒いロリータ服をハロウィンでおなじみのカボチャアレンジを加え、クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)も珠輝の店で正統派魔女っ子のコーディネートをされた。だがしかし、試合開始まではもったいぶるかのように黒く厚ぼったいマントをで衣装は隠され、正統派の魔女のようにも見える。
 しかしこの2チーム……イルミンスールや薔薇学では、アイドルや魔法少女の育成でもしているのだろうか。
「装弾は5発、楽しい物だと油断すると危険だから気をつけてね。まとに当たった個数で景品が変わるわ」
 魔女の仮装をした唯乃から2本、クライスに手渡された。まるで魔法使いの試験がこれからあるかのようで、少しわくわくする。
「らいむさん、頑張りましょうね!」
「うん、同じ系統で負けられないよね!」
 杖を1本ずつ持ち、遊技の前に並ぶ。曲は、らいむがアピールタイムで歌おうと思っていた物をバックミュージックに流してもらった。
 軽快なポップスに合わせてステップ、ターン。振り付けの一部のように的を狙うが、あくまでもアピールタイムという前提のためか観客側を向いていることが多く、動きながらではあまり狙えない。
「クライス君、いつまでそんな格好してるの!」
 もうサビに入ろうかというのに、いつまでも控えめな動きをしているパートナーに痺れを切らしてサフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)が声をかける。薔薇の学舎では女性から票を獲得できても、男性からは票が獲得しにくいのではないかという案で、同じ学舎の珠輝と相談しクライスに仮装させたのだ。もちろん、嫌っている本人に話せば逃げ出されてしまうので、事前計画をしっかりと立てた上での犯行だ。
 けれども、自分自身は珠輝にプロデュースされたくなかったのか、自前で薄緑のナイトドレスに白のケープ、白薔薇の髪留めを用意しバンシーの仮装をした。泣き落としようの目薬も携帯し、2人で男子学生へのアピールをする気満々だったのだ。
(それなのに、薔薇学生ってだけで男の子と間違えられちゃうし、むしろクライス君の方が人気だったような……)
 そんな彼の真の仮装は、サビに入った瞬間あらわになった。マントを翻せば、中は黒とオレンジのハロウィンカラー満載なポップでキュートな魔女っ子衣装だ。フリル満載、ラメ入りの黒のミニスカートとオレンジのニーハイブーツを履きこなし、オレンジのチューブトップで肩もおへそも出すという大サービス。いや、女装という時点でサービスかどうかという話はひとまず置いておいて、髪の綺麗さを生かしウィッグも被らず可愛いカボチャの髪飾りまでつければ、どこからどう見ても女の子だ。
 変貌ぶりに沸く人をかき分けて、トトもやっとたどり着いた。すでに試合が始まっているなら参加出来ないかもしれないが、せめて友人たちの勇姿を一目見ようと応援に駆けつけたのだ。
「クライスは……まだ出番じゃないのか?」
 広場で対戦表を確認したときには、確かにクライスの名前があったはずなのにと遊戯の近くを見てみると、友人の存在に気付いたクライスはそちらの方に微笑んだ。
「ボクは魔女っ娘クラりん☆ よろしくねー♪」
(こんな格好でよろしくなんてされたくないのに、なんで勝手に動いちゃうんだよ……なんか地響きみたいな声援も聞こえるし)
 心の中で青ざめていても、ステップは止まらない。珠輝によって何か呪いでもかけられていたのかと怨みを募らせるが、実際は無意識レベルで本人のノリがいいだけのようだ。
 らいむも声援を独り占めされないように歌いきり、お互いに5発ずつ打ち終わった。鳴り止まない拍手にお互い顔を見合わせて、杖を変えそうとフィアの元へと向かうが、2人は立ちくらみを起こしてしまう。
「あ、れ……?」
 歌もダンスもレッスンを重ねているから体力には自信があるのにとらいむが体制を整えようとするが、その危なっかしい様子に観客席は大騒動だ。
「らいむちゃーん! 俺が医務室に……」
「バカ、1番近いのはオレだろ!」
「クラりんは大丈夫ー!?」
「はいはいはい! マネージャーの許可無く近寄らないの!」
 サフィがずずいと前に出て注意を促すと、近くにいた武を引きずって2人の元へ向かう。
「な、なんで俺が……」
「だってはるかぜさん1人みたいなんだもん、ほっとけないでしょ?」
 こうして、騒動が収まるまでマネージャーの真似事をすることになったサフィと武。しかし、クライスが着替え終わるまで普段と違いすぎる言動に、武は振り回されることになるのだった。
 同じ学校としてか、魔法使いの家系としてか。歌菜は遊技の隅でエルと気になる点を会話している。
「そっか、SPに関係して……」
「普通に使う分には問題ないのです。ただ、上限を超えて撃とうとしたり魔力をチャージしようとするのが危ないのです」
 彼女たちは、振り付けに応じて杖を振っていた。回数を明確に数えてはいないが、かなり大きく動いていたので予定数をオーバーしてしまっていたのかもしれない。
(でも、思ったより負担が無いのなら良かった……)
 ほっと安堵の息を吐くと、七枷 陣(ななかせ・じん)が時間稼ぎのように遊技の中央に立ち、マントを翻す。吸血鬼の仮装をしている彼は、マントやタキシードという全ての衣装を真っ白にし、さらに肌の見える部分も白粉で白く、目は右に青と左に赤のカラコン入れて印象づけて付け牙という一風変わった色合いだった。
「トリックオアブラッド……。美味しい血を下さいな。さもないと、醒めない悪夢に連れてくぞっ!」
 その隣を、ふらふらとくっついてくるリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は、真っ黒なだぼだぼの服とお化けのカボチャの被り物とで足下がおぼつかない様子だ。
「とりっくおあとりーとぉっ☆お菓子頂戴な〜。さもないとぉ……おおっ!?」
 やってしまった、と顔を覆いたくなるような激しい転けっぷり。バランスを取ろうと伸ばされた腕は陣のマントを掴んでしまい、巻き添えを食った彼も一緒に転倒してしまった。そうして始まる口論も関西弁を含む物だからか、まるでコントでも始まったのかと笑って見守っている観客に対して気が気ではない小尾田 真奈(おびた・まな)。自分1人の力では止めきれないと思ったのか、まだ話の途中だった歌菜に助けを求めたが、近場での騒動に気付いてない2人じゃない。
「真奈ちゃん、今行くよ! リュースさんも、杖の使い方には気をつけてくださいね?」
 先攻の騒動が収まるまではと店の裏手に隠れるように座っていたリュースがやってくる。ピンクとフリルを基調とした可愛らしい衣装、くるくるとクロワッサンように巻かれたツインテールに仕上げたウィッグにもピンクのリボンを付け、キャミソールやミニスカートが似合うようにばっちり処理もし、ニーソックスにレースのガーターベルト、厚底の靴とどこからどう見上げても魔法少女そのものだ。
「……大きいですね。背が高いなら厚底を履かなくても」
 フィアが充電の終わった杖を差し出しながら、ポツリとそんな正直な意見を漏らす。パートナーたちの手にかかり仮装させられたとは言え、自分がこの仮装大会ですべきことがわかっているリュースは、実に割り切った笑顔で答えた。
「仮装コンテストに女装は必須って聞きましたし、やるからには完璧を目指さないと」
 そうして、未だコントと思われながら喧嘩をしている2人の前にでて、歌菜はキメポーズを取った。
「トリック・オア・トリート☆今日は、貴方のハート頂いちゃいます♪」
 赤で統一された、悪魔の角と羽根、そして尻尾。手にもったペロペロキャンディが小悪魔の可愛らしさとハロウィンらしさを出し、続いて出たアイドルの卵に観客は大盛り上がりだ。そして、同じようにリュースもハートと天使の羽根をあしらった独自のステッキを持ってポーズを取る。
「アイドル魔女リュ子、頑張ります。キラッ☆」
 再び沸き起こる地響きのような歓声。その声に圧倒された陣がどうすれば良いのかと辺りを見回していると、真奈がそそくさとリーズの後ろにまわり3人で打ち合わせる。
「ご、ご主人様。今本番だと言うことお忘れでしたか? この遊戯、SPが関連するそうですので、私たちがサポートをして――」
 歌菜たちが観客に手を振ったりして声援に応えている間に状況を飲み込んできた陣は、大きく頷いた。
「よっしゃ、任せとけ歌菜ちゃん!」
「さぁ、歌い踊ろう!」
 ニッと笑う陣とハイタッチをかわすと流れ始める音楽。みんなと踊れるものをと考えての選曲で、少し機嫌良く歩いているときのテンポに滑らかな耳に残りやすいメロディ。Aメロが始まる前にリュースが遊戯代に近づき、それを隠すように陣たち3人が間に立って踊り出す。
 ――お菓子のような甘いハート♪ お薬のような苦いハート♪ 貴方のハートはどんな味?
 その間に、SPの低いリュースは遊戯をこなしていく。先攻組のように振り付けに合わせられれば1番見栄えも良いのだろうが、倒れてしまっては元も子もない。きっちり数を数えて打ち終わると、リーズがそれを不自然にさせないためにカボチャの被り物を取り去って元気っ娘な吸血鬼へと大変身し、注目を浴びているうちに陣たちの列に一旦入る。
 ――君の〜心覗かせて♪ 甘いトキメキ? 苦いドキドキ? どっちでも良いから〜
 そして、遊戯をするために下がってきた歌菜に近づいて2人揃い、サポートしてもらいながらリュースも一緒に歌う。少しばかりSPに余裕のある歌菜は、それでも慎重になりながら振り付けの一部として遊戯をこなし、上手く効果として遊戯をクリアしていく。
 ――トリック・オア・トリート☆ 今日はパーティ☆ きっと貴方のハートは甘い味♪ トリック・オア・トリート☆ 貴方のハート頂いちゃいます♪
 大歓声のうち遊戯が終わり、唯乃は景品を渡そうとエラノールと相談する。当てられた個数により飴やパンプキンチョコ、パンプキンプリンにパンプキンケーキと用意していたけれど、お店を盛り上げてくれたお礼もかねて多めに渡そうかと迷っているようだ。
(でも、飴以外は私が作った物だし、たくさん渡しても喜んでくれるかどうか)
 そんなところに珠輝の店へ差し入れした帰りのリアが通りがかり、その出来の良さに驚いている。
「僕のところでもかぼちゃタルトを出してますが、遊戯でも素晴らしい景品が貰えるのか」
「素晴らしい……かはともかく、ハロウィンらしくお菓子を用意しただけで、喫茶店のほうが飲み物もあってゆっくり――それだわ!」
 唯乃の提案にエラノールは店側さえ了承してくれるのならば良い提案だといい、リアはお店的には了承してはいけない提案に、にっこりと2つ条件を提示するのだった。
 暗くなってきた中でも存在感の大きい2m級の大ジャック・オ・ランタン。記念撮影可能だからか、この前には昼からずっとお客さんで賑わっていて、前日から頑張って作ったルイも満足げだ。
「中に入っての記念撮影もオススメです。さあワタシと一緒にスマイル、スマイル!」
 陽気な客寄せと可愛い内装につられるも、ルイの仮装はあの血糊までついたフランケンシュタイン。しかも、どうやら珠輝にメイクをほどこしてもらったときよりも血糊の量が増えている気がするのだが……。
「ただいま戻りました」
 差し入れに出かけていたリアが帰り、人手が増えたことよりもその衣装を見てうんうんと頷く。今日は仮装をする日だからと自分と一緒に珠輝へ依頼したのだが、黒のビキニにホットパンツ、黒い付け角には羊タイプのグルグルしたものを選択し、パンツからは黒い悪魔の尻尾、背中には可愛らしい小さめの黒い羽根、首にはゴツ目な黒革首輪と普段なら絶対にしてくれないであろう露出度の高めな可愛らしい小悪魔になっている。
「……血糊が足りないのならば、再び大盤振る舞いするしかないであろう」
 覚悟は出来ているのかと一睨みするリアから逃れるように、ルイは奥の団体席を指さした。
「これ以上はさすがに子供に泣かれてしまいます。それより、仮装大会に出ていたというお客様がお待ちみたいですが……」
 唯乃からの提案。それは景品のお菓子を持ち込んで、リアの店で盛り上げてくれたお礼のお茶会がしたいと言うもの。喫茶店に頼むことではないと承知の上でのことだったのだが、リアは遊戯の参加権2回と唯乃たちも出店が終わったら参加することを条件に引き受けたのだ。
「ああ、お約束があるのだ。お預かりしてきたお菓子を出して、楽しんで頂かねばならないな」
 こうして、第三試合の参加者たちはルイの店でくつろいだ。温かいアッサムティーを飲みながら甘いお菓子を食べ、後からやってきた唯乃たちも混ざりイベント終了時刻ギリギリまで楽しむのだった。



結果発表

 ついに投票時間が終了の合図が流れる。出店の時間も終わり、仮装大会も終わり……全てを審査するときが来た。けれども、ジャッジを下すのは参加者なので、教職員など上の判断は一切関係ない。自分たちの手で作り上げた物を、自分たちで判定するのだ。
 けれども、その結果が全てではない。学舎の代表になれなかった店でも訪れた人を笑顔にするし、仮装も素晴らしい人がいた。仮装しなかったからといって楽しめなかったわけではないだろうし、それぞれの結果は胸の中にあるだろう。
 そうとわかっていても勝敗というのは気になる物で、広場では結果を聞くために大勢の人が集まっていた。舞台には実行委員の薔薇学生が上がり、結果が書いているのだろう紙を神妙な顔をして開く。
「まず飲食部門……24票を獲得した、イルミンスール!」
 甘い食べ物を希望する人が多い中、イルミンスールではババロアにタルトとカボチャを使ったデザートが好評で「安心してデザートを食べるのならイルミンスール」だと口々に広まった程だ。
「遊戯部門……29票を獲得したシャンバラ教導団と百合女学園の総合チーム!」
 どちらの学舎からも楽しい雰囲気の遊戯を出店し、見事参加者の希望と一致させた総合チーム。別々の学舎でありながら一体感を出せていたのか、獲得票もダントツだ。
「そして最後に……仮装部門」
 総合チームが出たので、選ばれてないのは残り3校。2部門制覇するか、それとも4校に敗退した2校に選ばれてしまうのかがこの一瞬で決まる。誰もが息をのんで静まりかえる会場に、響き渡る声。
「21票を獲得した、可愛い仮装の……蒼空学園!」
 各々自分に似合う物を選んだのかばらけてしまい、学舎代表の仮装グループを決めることが出来ないチームもある中、蒼空学園と薔薇の学舎は可愛い仮装で競い、パラミタ実業高校はセクシーで追いかけた。しかし、これも団結力の差か蒼空学園が勝利を収める形となる。
 つまり――売られた喧嘩を買い、校長命令で主催した薔薇の学舎は……4校に敗退するという無様な結果になってしまった。
 もちろん、高みの見物をしているだろう校長陣は自分たちの勝利に当然だと笑う者もいれば、この結果にどうお仕置きをするかと怒りに震えている者もいるだろう。その姿を想像して、ヴィスタは熱気に包まれる広場を冷めた目で見つめている。
(……こりゃあ弁解の余地がねぇな。勝つ気満々だっただけに、この結果だけを報告出来ねぇだろ)
 とは言え、生徒たちもリベンジに燃えていたりする辺り、近い再戦もあるのだろうかと面倒ごとが増えないように願うばかりだ。興奮冷めやらぬ生徒たちをかき分け、直が戻る。イエニチェリとしてでは聞けなかった生徒たちの感想を聞けたはいいが、同じようにこの結果を深く受け止めているのか、少し苦笑いを浮かべている。
「ただいまー……っと、ウチが惨敗なぁ。せやけどみんなが楽しんだんやからそれで十分やんな」
 やれやれといった様子でヴィスタから仮面を受け取り、溜め息を吐いて広場を見つめる。
「……と、言えないのが僕の立場か。何か、他で勝利を掴む策を提案しないといけないな」
 帰路につき始める参加者を見て、そんな気遣いをまわさなければいけないことに再び溜め息が漏れそうになるが、逆にそれを口実にまたこうして皆に楽しんで貰えればと、そう思いながら見送るのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

浅野 悠希

▼マスターコメント

この度はご参加ありがとうございます、GMの浅野悠希です。
家の諸事情で前回までのシナリオが大幅に遅れ、そのしわ寄せでこちらも遅れることとなりまして、申し訳ありませんでした。

ハロウィンということで皆様仮装や悪戯に凝る方が多く、出店へのアクションがおまけのような方が目立ってしまい、悪戯や交流を希望していた方々にもお店で楽しんで頂くことになりました。キャラクターらしく振る舞えているのか心配ではありますが、いかがでしたでしょうか。
誰かにお菓子をあげに行くというアクションをされた方で、その描写が出来なかった方はお相手に個別コメントにてお知らせさせて頂いております。シナリオが追えなかった別の場所で交流されていたと思いますので、それぞれに楽しい様子を穴埋めして頂ければと思います。

また、今回投票結果で主催の薔薇学が3部門全てに敗退という結果になってしまいました。
校長の怒りを静めるためにも再戦の申し込みがあるかと思いますので、勝利を勝ち取った学園は連勝を目指して、そして敗退のチームは次こそ勝利を目指して頑張ってくださいね。

お届けが大変遅くなってしまいましたが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。