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攻城戦・あの棒を倒せ!

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攻城戦・あの棒を倒せ!

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 一方、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)リース・バーロット(りーす・ばーろっと)は、陣地の一番外側に壕を掘っていた。
 「樹海に比べたら、ここは作業がしやすくていいな」
 「ええ、これでしたら私でも掘れますわ」
 草は生えているが、樹海の木に比べたら根は細く浅い。サミュエルが草を刈った後なら、バチツルはほとんど必要なく、スコップだけで作業をすることが出来た。
 「掘った土を取りに来たよ!」
 技術科のプリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)とパートナーの機晶姫ジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)が、手押し車を押してやって来た。
 「ありがとうございます、プリモ殿」
 頭を下げる小次郎に、プリモは慌てて手を振った。
 「お礼なんか言わないでよ、小次郎さんたちを手伝うって言うより、こっちで土を使いたいから取りに来たんだもん」
 「土や草も、大事な材料であるからな」
 ジョーカーがうなずく。それは、樹海での戦いで教導団の生徒たちが学んだことの一つだ。
 「そうでしたか。では、どうぞ使ってください」
 小次郎とリースは、手押し車に土を積み始めた。

 掘りやすい土のおかげで、壕を掘る作業は順調に進んだ。だが、逆に困っている者もいた。
 「ううむ、思ったより地盤が軟弱でございますね」
 ざらざらと崩れて来る横穴を見て、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)はため息をついた。陣地内にトンネルを掘りたいのだが、土に素掘りで人が通れる大きさのものをとなると、穴の壁面の強度が不足するようで、なかなか難しい。
 「これが完成しないと、作戦の前提が崩れるのですがね」
 作業の様子を見に来たマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)が、出入り口になる縦穴の上で眉を寄せる。
 「壁面を固めながら掘れば強度は保てると思うのですが、時間がありませんのでどこまで出来るか……」
 ハインリヒは困り顔で答える。その時、
 「接近して来る者が……いえ、すみません、教官でしたわ」
 シートの隙間から外の様子を監視していたハインリヒのパートナー、クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)が言った。
 「楊教官です。様子を見にいらしたようです」
 ヴァリアは慌てて、侵入者対策として囲いの入口に設置した鳴子を外しに走る。
 「ちょっと、様子を見せてもらうわよ」
 シートにドアのように入れられた切れ目をめくり上げて、技術科主任教官の楊 明花(やん みんほあ)が入って来た。ぐるりと陣地を見回した後、周囲を見回しながらゆっくりと歩き出す。その足が、ハインリヒが掘っているトンネルの前でぴたりと止まった。
 「その横穴はやめておきなさい。上でバリケード作ったり戦闘で駆け回ったりしたら、素掘りじゃ恐らく強度が足らないわ。中に誰か居る陥没したら生き埋めになるし、上に居る生徒にも怪我をさせるわよ。……それにこの縦穴も、落とし穴と同じと見做されて危険行為にカウントされるわ。故意に罠として人を落とす目的で掘らなくても、戦闘中に転落する可能性がある場所に深い穴を掘るのはダメよ。丈夫な蓋を外れないようにしておくならいいけど、そういう使い方をするつもりじゃないんでしょう?」
 「……今からならまだ、作戦を考え直す時間もあるわ」
 マーゼンのパートナー、吸血鬼アム・ブランド(あむ・ぶらんど)がマーゼンを見た。
 「わかりました。ご教示ありがとうございます、教官」
 マーゼンは頭を下げる。
 「ここまで掘ったのに諦めなくてはならないとは……」
 ハインリヒは残念そうだ。
 「別の策を考えねばなりませんが、当日の朝に指摘されて慌てて埋めるよりもマシですな」
 マーゼンは冷静に言った。
 「戦闘中このトンネルに隠れておいて、敵の後背をつくつもりでしたが、トンネルでなければ隠れられないというわけでもありませんからな」

 その頃、ハインリヒと同じ工兵科の青 野武(せい・やぶ)は、やたら熱心に、バリケード用の材木を切る時に地面にこぼれたおがくずや木屑を掃き集めていた。
 「そんなもん何に使うんだ?」
 ノコギリで板を切っている大岡 永谷(おおおか・とと)が、不思議そうに野武を見る。
 「エコが叫ばれている昨今、おがくずと言えど大切な物資として活用できるところを見せようと思うのだよ」
 野武は胸を張る。
 「時代は今、もったいない精神! 我が教導団も、エコロジーな戦いを展開すべきなのだ!」
 (……エコとかもったいないとか言うなら、そもそもこんな運動会をすべきじゃないような……材木だって新品だし)
 永谷はそう思ったが、野武があまりにも熱心なので、口には出さずにおいた。
 「ところで、おぬしは何を作っているのかな?」
 今度や野武が永谷の作っているものを覗き込む。
 「運動会なんだし、ちょっと遊び心があってもいいかな、って言うか……精神的なトラップを作れないかな、って言うか」
 「うむ、精神戦も大切であるな」
 永谷の言葉に野武はうなずく。
 「どのくらい上手く行くかは判らないけどね。まあ、たいした仕掛けでもないし、引っかかってくれれば儲けもんって感じかな」
 板を切り終わり、ペンキの缶を開けながら、永谷は言う。