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虹色巨大卵救出作戦

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虹色巨大卵救出作戦

リアクション



Scene1

 キマク郊外の町の外れに掛けられた見世物小屋である。
 見世には「戦慄の蛇女」とか「人間火炎放射器」などなどオドロオドロしい絵看板が掲げられ見物人たちの興味を引いている。
 その中でも一番目立つのは全長15メートルもあるという「虹色巨大卵」の絵看板だ。
「さあさあ、世にも不思議な蛇女、親の因果が子に報いたかぁ……お代は見てからで結構だよ。さあさあさあさあ入って入って、間もなく始まるよ〜」
 見世物小屋は、連日、珍しいもの見たさに集まってきた人々で賑わっていて、だいぶ繁盛しているようだ。
 そんな中に、高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)はいた。
「へぇ、見世物小屋ねぇ……地球じゃあんまり見かけねぇなぁ……」
「ちょっと一部気持ち悪そうだけど、卵はキレイっぽいね。
ねーねー悠司、見て行こうよ〜」
 悠司は、レティシアに腕を引っ張られ「ま、いいか」と見世物小屋へと入っていった。

 その見世物小屋の楽屋では、妹尾 静音(せのお・しずね)フィリス・豊原(ふぃりす・とよはら)が見世物小屋の興行主 ネルソンの前にいた。
「それで?」
「百合園のお嬢様が服を切り刻まれるショーなんてウケると思うのですけれど」
 自分たちと剣舞姫が戦い、彼女の剣でフィリスたちの衣服が段々と切り刻まれて裸になるという、一種のストリップ企画を持ち込んだのだ。
「……」
 ネルソンは値踏みをするように静音とフィリスを見た。
 ふたりともに、なかなか美形ではある。
「その格好で舞台を?」
 ストリップがどうこう言っている割には、用意してきたと見せる衣装は露出度は控えめだ。
「段々と見えていくのがいいんじゃない」
「なんでしたら、ここでリハーサルをしてみせましょうか?」
 にっこりと微笑む静音とフィリス。
「私は、お客が喜ぶのであればかまわないがね……とりあえず、ジーニャンと交渉してみてくれたまえ」
 と、ネルソンは共演者に指名された剣舞姫ジーニャンに交渉しろと、彼女を呼ぶようにスタッフに伝える。
「あなたに決定権はないの?」
「どう思っているか知らないが、すでに用意されたプログラムに新規で割り込み、既存の演目の出演者に競演を依頼するのだ、それくらい当然だろう?」
 いくら興行主とはいえ、多くの者が働く現場の秩序を乱すことはしないとネルソンは言う。
 正規の演目に組み込まれたければ、次のシーズン(そうとう先)まで待つしかない。

「……呼んだ?」
 やって来たジーニャンは、ほっそりとした小柄な美少女で、剣術や武道などには縁のないようにみえる。
 そこで、彼女に事のしだいを伝える静音とフィリスであるが、
「嫌よ」
 ジーニャンの一言で交渉は一瞬で決裂した。
「でも……」
「そんなに演りたければ、あなたたちふたりですれば?」
 食い下がろうとする静音にジーニャンが提案する。
 その言葉に静音とフィリスは顔を見合わせた。
 ここで引き下がるか、内部に入り込みかく乱するチャンスを待つか……
「あたしたちお金がいるんです、出演料はずんでくださいね」


※ ※ ※


 その見世物小屋を見下ろす丘の上。
 王 大鋸は、虹色巨大卵と双子の妖精を助け出すため再度挑む。
 ララ サーズデイ(らら・さーずでい)は大鋸の隣に並び立ち、見世物小屋を見据えたまま口を開いた。
「別に君の見方をするわけじゃあない。私は剣舞姫とやらと手合わせしてみたいだけさ」
 ふと大鋸を見上げる。自分を見下ろしていた彼と目が合う。
「ま、君の侠気には感じ入ったがね。私はそこに高貴な魂を感じ……」
 ララの言葉がなんか面映く視線をそらせる大鋸だ。
「何を照れているんだ、変な奴だな」
「って言うけどぉ、見世物小屋の興行主って四天王だってねぇ〜」
「だから何だ?」
「ワンワン、キミはいつも四天王を目指す男といってるけど、永遠に目指す男って勢いなくらい目指してないじゃん、本当にやる気があるのかい?」
 大鋸を見上げて、桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が口々に言う。
「目指す気があるかだと? あるに決まってんじゃねーか!
だがな、今はそれよりする事がある。
俺は妖精たちに卵を返してくれって頼まれた。
それを引き受けた以上、妖精たちとの約束を反故にする気はね]え!」
「……」
 円とオリヴィアは顔を見合わせた。
「でも、ネルソン倒せば、四天王と卵が手に入ると思うが?」
「ぐっ…… しのご言ってねーで行くぞ! おら!!」
 円のツッコミに図星をつかれた大鋸は、チェーンソー振り上げると見世物小屋へと走っていってしまった。
「おい、ワンワン! まだ話は終わってないぞ?!」
「結果は同じデモ、四天王を目指すことヲ優先したラ、妖精たちとの約束ヲないがしろにシタ気になるのだろウ……不器用なやつダ」
 不満そうな円にシー・イー(しー・いー)が言う。
「撲殺! 撲殺! 眠らせちゃうぞ〜」
「ミネルバちゃんも、一緒に遊ぶ〜」
 大鋸を追ってオリヴィアとミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が走り出し、円もそれに続く。
 彼らを見送るシー・イーは目を細めた。
「さて、我々も行くカ」


※ ※ ※


 見世物小屋の裏手側である。
 そこには、シー・イーと共にやってきたメンバーがいた。
「まさか、こんな昼間からやるとは思いませんでした」
「そうだね〜 ま、考えようによっては、興行中で油断してるかもしれないじゃん」
 物陰に隠れ様子をうかがいながら、ラッセ・ハールス(らっせ・はーるす)が呆れたようにつぶやくのに生琉里 一葉(ふるさと・いちは)が応える。
 一葉たちが様子をうかがっている見世物小屋の裏口は、大きなテントの搬入口だった。
 何人かのスタッフが忙しそうに出入りしているのが見える。
「1番の目的はあくまでも卵の奪還、その無事を考えるなら戦いは避けるべきだな……」
「そうね、しばらく様子を見て、大鋸くんたちが騒ぎを起こすのを待ちましょう」
 中原 鞆絵(なかはら・ともえ)にパートナーのリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)をはじめ裏口組が相づちをうった。

 そして待つこと数分、どこからか機関銃を乱射する音が聞こえ、それに続いて人々の悲鳴や叫び声があがった。
 その騒ぎに裏口で作業していたスタッフたちも現場へ向かい、裏口は無人になり、それを見計らって裏口組も潜入を開始した。
「裏口の確保は私に任せて!」
 脱出口を確保しておくというリカインと一葉を残し、裏口潜入部隊はテントの中へと侵入していった。
「…まったく、また騒動に首を突っ込んで……」
 ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)は、裏口組として参加した神和 綺人とクリス・ローゼンの後姿を見送りひとりごちる。
「…ふたりには一度、危険なことにはかかわるなと説教する必要があるな……」
 特に女の子のクリスにはきつく言い聞かせなければいけないと、ユーリは心に誓う。
 とりあえずは、この騒ぎが治まった時、怪我人たちの治療にあたろうと、その準備を始めるユーリだった。


※ ※ ※


 見世物小屋の正面から突入するなり、影野 陽太(かげの・ようた)は機関銃を乱射した。
 なんの前触れもなしに学生たちが乱入してくるなり、機関銃乱射という暴挙に遭遇した一般の見物客は大混乱だ。
「いきなりなにするんだ?!」
「陽動作戦でしょう!!」
 いや、まあ、そうなんだけど……
 悲鳴と叫び声と怒号の中、見世物小屋のスタッフらしき人々がやって来る。
「なんだ? どうした?」
「あ、またお前か!?」
「こんどは、いったい何のマネだ?!」
 大鋸を見つけたスタッフたちが口々に非難する。
「……」
「評判が悪いですな……」
「だーっ!! こまけぇこったぁいいんだよっ!!」
 レイ・コンラッド(れい・こんらっど)のツッコミに大鋸はヤケクソっぽく叫ぶと、スタッフや見物人たちをチェーンソーで威嚇しながら、見世物小屋の奥へと突っ込んでいってしまった。
「ワンワンってば! 待てって! 成長のないヤツだな……」
「ワンちゃんらしいっていうんだよ〜」
 桐生 円が「四天王を目指すために時期を見定めろ」と呆れたように言い、晃月 蒼(あきつき・あお)が大鋸をフォロー(?)する。
「それに、裏で妖精さんたちに酷いことをしてるんだもん、許せないよぉ〜 ……それに〜」
「それに?」
「ワンちゃんをフルボッコにしたなんて、もっと許さないんだからぁ〜」
「……」
 大鋸を守る勢いで(遅れをとってるようだけど)意気込む蒼にレイは複雑そうな表情をした。
(あまり危険なことに首を突っ込んで欲しくはないのですが……確かに非人道的な行為には非常に怒りを覚えますな、蒼様もお怒りのご様子、是非力になりましょうぞ!)
「俺が相手だぜ!!」
 弐識 太郎(にしき・たろう)が止めに入ったスタッフに鉄拳を見舞う。
 組み付く相手を、思い切り殴り飛ばし、蹴り飛ばし、投げ飛ばす。
「へー強いね」
 太郎は声をかけられた方を見ると、きらきらと瞳を輝かせた栂羽 りを(つがはね・りお)が自分を見上げていた。
「ふん……ここで暴れてれば、もっと強いやつが来るんだろう? それを待ってるんだ」
「じゃ、人間火炎放射器って人もくるかなぁ?」
「かもな」
 太郎はそう答え、握る拳にさらに力を込め向かってくるスタッフたちに立ち向かう。
 りをは太郎を見送り、パートナーのサバト・ネビュラスタ(さばと・ねびゅらすた)を見た。
「ひゃっはーっ! 人間火炎放射器だかなんだか知らねーが、なんでもかかってきやがれっ!! 『火術』なら俺だって得意なんだぜ!」
 とか言いながら火の玉をスタッフたちに投げつける。
「よーし! 私も人間火炎放射器待つもんね!」
 りをがちょこまかと素早い動きでスタッフたちを翻弄する。
「……りあ も あにさんも、好き勝手やりすぎ」
 ジェラルド・ツァラトゥストゥラ(じぇらるど・つぁらとぅすとぅら)がハラハラしながら、りをとサバトのふたりを見守る。
「……あにさんは、どうでもいいけど、りあが迷子にならないように気をつけなきゃ」
 言ってるそばから、りをを見失いそうになって、ジェラルドは慌ててりをを追っていった。

 そんな彼らの前に騒ぎを聞きつけ駆けつけてきた見世物小屋の出演者、伸縮自在シェン・スゥと水激のスィージィーが現れた。
「なんだぁ? まだこりてねぇってーのか?」
「ふん……大勢引き連れてきたようだけど、烏合の衆じゃどうしょうもないんだよ?」
「烏合の衆かどうか、その目で確かめさせてあげましょう!」
 陽太の機関銃が火を噴くが、それをシェン・スゥはすべて受け止め、そして跳ね返し、そして、ぐ――――んと伸びた腕が、陽太をブン殴り吹っ飛ばし、返す手で弐識 太郎を殴り飛ばす。
「おまえらを相手にしにきたんじゃねぇ!」
「そうかい? でも、こっちらも興行を邪魔されて黙ってるワケにはいかないんでね」
 チェーンソー振り回す大鋸に向かって、スィージィーの水流が勢い良く浴びせかけられそのまま側にいた円や蒼たちを巻き込み押し流される。
 ついでにミネルバ・ヴァーリイの『小人の鞄』も流された。
「も〜 ミネルバちゃん、怒っちゃうんだもん!」
 とか、ミネルバの「ディフェンスシート」が全体を包みこみ、同時にオリヴィアの「ヒール」が仲間たちを癒し、回復した仲間たちの反撃が開始される。
 そんな中、オリヴィアはヘキサハンマーを大鋸にワザとヒットさせた。
 そのまま、昏倒する大鋸。
「マスター……」
「円のやりかたはいまいち手ぬるいんだよねぇ……ワンワンは、少ししたら、起こしてやるさ」
 もちろん、大鋸を四天王ネルソンと直接対決させるために、だ。


※ ※ ※


 表の騒ぎに乗じて侵入した裏口組は、テントの中に入ってすぐに目に付いた巨大な物体に、しばし目を奪われていた。
 全長15メートルほど、高さも10メートルはある。
「とても、抱いて逃げられる大きさじゃないよ……」
「まだ何があるかわからんのじゃ、気を抜くでないぞ」
 呆然としているレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)が気合を入れる。
 このだだっ広いテントの中、しかも見物人たちが数十人いる中で、周囲への警戒を怠らず、アレを運び出す算段をするのは、結構難しいかもしれない。
 と、そこへやって来たのは村雨 焔(むらさめ・ほむら)だ。
 どうやら、ネルソン側の者として侵入組みと対峙するらしい。
「おっと、これ以上は近づけさせないぜ!」
「卵を守りたい、そう願う者たちの邪魔はさせん! この薙刀の錆になりたくなければ退くがいい!!」
 中原 鞆絵が薙刀を構える。
 彼女は、裏口侵入組を見送ったものの、自身の血のたぎりを抑えきれず、リカインに後を託しやって来たのだ。
 焔は、鞆絵の『チェインスマイト』で繰り出される薙刀の攻撃をかわす。
「どうした? 息があがってるんじゃねーか?」
「まだまだじゃ!」
「ふん……目の前の卵ばかりが目的じゃないんだろう? 正面から突っ込むばかりが道じゃねーんだぜ?」
「そうか……あの目立つ卵に目を奪われてちゃいけないんだね」
 焔が言わんとしていることに気づいたレキは周囲を見回す。
 小柄な機晶姫ルナ・エンシェント(るな・えんしぇんと)が、コンテナの物陰から合図しているのが目に入った。
「どうやら水先案内人のようだな」
 ルナの指し示すほうに妖精たちが捕らわれていると確信して、数名がそちらへと向かっていった。