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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【後編】

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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【後編】

リアクション

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 その隙に、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)とパートナーの剣の花嫁フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)、同じくパートナーのシャンバラ人ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)、同じくパートナーの蝙蝠の獣人アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)が、全員マイクロビキニ姿で、ウィニングを取り囲む。
 「『設定崩壊ビーム』だってぇ? そんなものがあたしたちに効くもんか!」
 「『恥ずかしがり屋』にでもしてみるか? そしたら、その場で『イヤ・ボーン』攻撃食らわすぞ!」
 「ラズ、これ以上頭がヨクなったら困るヨ!」
 「うふふふふ……。わたくしを真面目人間にでもしてみます? そうしたら、アーデルハイト様の為に身を挺して戦いますわよ?」
 「『正義の味方』? それならお前を討ってやる!」
 「『魔法使い嫌い』? ……そのとき目の前にいるお前は何だろうな」
 「ラズが裏切り者になったら抜け駆けシテお前ブッ殺ス!」
 「ひんぬーにされたら激怒しますわよ?」
 「鏖殺寺院の手先? 上等だねぇ。まずお前みたいなはねっ返りを片付けてから仕事にとりかかるぜ」
 「『清楚なお嬢様』だって自分の身は守るぜ」
 「おなかいっぱいになったラズは本気出スゾー!」
 「あなたの恋人になるのもいいかもしれませんわね。骨の髄までしゃぶり尽くして差し上げますわ」
 「対人恐怖症? この距離だと目の前にいる奴に撃ちかかるねぇ」
 「イルミンスールが嫌い? 元から別に取り立てて好きってわけじゃねぇ。設定崩壊でも何でもねぇな」
 「ウチュウジン? ラズの脳ミソは元からウチュウジンだよ?」
 「唐突に何か探しに行くと言っても……降りかかる火の粉は防ぎませんとねぇ」
 「さあ、どうすんだい!?」
 「さあ」
 「サア」
 「さあさあさあさあ」
 「「「「やれるもんならやってみろよ!!」」」」
 「うわああああああああああああああああああ!! やめろおおおおおおおおお!!」
 ウィニングは、言葉責めで精神崩壊に追い込まれそうになる。
 「おお、魅世瑠達の作戦勝ちじゃた」
 あかりのアニメに出演していたじゃたがつぶやく。

 そこに、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)が、光学迷彩で隠れて、ウィニングに近づく。
 「魔法忍術……私の冥土戦技とどちらが上か勝負なのです! 冥土戦技・射誰理突苦迫。さあ、冥土が嗜むご主人さまへの奉公術を受けとるがいいです! どんな時でもご主人様の身だしなみをチェックする為に常にご主人様の姿を捉えて離さない鏡の術を受けるのです! 貴方は、魔法使いであり忍者であるいいとこ取りを狙って失敗した例! その中途半端差では冥土の足元にも及びませんよ!」
 至れり尽くせりで、全身鏡を取り出したナナが叫ぶ。
 「ウィニイイイイイイイイイイイイング!?」
 ウィニングはビームを発射するが、ナナのパートナーの魔女ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が、氷術を使い、氷柱を出してビームを乱反射させる。
 「自分の姿を見てみなよ。忍者で魔法使いとか滑稽の極まりでしょ? いっそうの事、YOU忍法使いと名乗っちゃいなよー」
 さらに、水神 樹(みなかみ・いつき)が、ウィニングに迫る。
 「忍者は確かに色々な術を使うが、それは魔法でなくて忍術だ。「魔法忍術」などという新ジャンルは認めない。日本人として、そんな変な設定を見過ごせない! ついでに、「ビーム」なんて魔法にも忍術にもあまり相応しくなさそうなネーミングも却下だ!」
 真面目に憤る樹も、光学迷彩でウィニングに近づき、光条兵器で目くらましする。
 「自分の姿を見なさい! 日本文化をなめるんじゃありません!」
 樹は手鏡を、ウィニングに近づける。
 「ウィニイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイング!? 俺は俺は、ニンジャで魔法使い……に、忍者ではない!? ビームは魔法ではない!? お、俺はなんだああああああ!?」
 立て続けの攻撃に、ウィニングは人格崩壊しかかってよろめく。

 その様子を、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、アーデルハイト連続殺人事件の元凶ウィニングに対してMK5(マジで切れる5秒前)の心境で見ていた。
 「……5秒経ったわ」
 美羽が、ウィニングに襲いかかる。
 「ウィニング・ウィザード・ザ・ニンジャって長いのよ! というわけで、あなたは『略してウンジャ』!」
 「ウィニイイイイイイング!? 言いがかりじゃねえのかあああ!?」
 「うるさい! ウンジャのせいで、アーデルハイトさんは何百回も殺されたのよ!? 力を合わせるわよジャック!」
 「おうっ!! ファイヤー!!」
 飛び出すジャックに、ウィニングがビームを放ち、美羽がジャックを盾にして踏み台にする。
 「「ビクトリーファイヤー!」」
 美羽の美脚に踏まれ、必殺技を叫んだ後、ジャックは「ぐはっ」と倒れた。
 「ウィニイイイイイイイイングハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
 超ミニのスカートから伸びた脚線美から繰り出されるジャンプかかと落としに、ウィニングは気絶する。
 「正義は勝つ!」
 美羽がポーズを決める。
 「小鳥遊さん!」
 ジャックが起き上がり、ぐるぐる眼鏡をすちゃっとかけて言う。
 「え、ジャック!?」
 「こんな短いスカートをはいているとは何事ですか!? 制服の改造は認められていませんよ!」
 「え、なに? いきなり……」
 「このような姿をしていては、校内の風紀を乱します。即刻、着替えてください」
 「そんなこと言われても、私、蒼空学園の生徒だから、これしか持ってないよ?」
 「じゃあ、ジャージをはいてください」
 「え?」
 「スカートの下にジャージをはいてくださいと言っているんです」
 「えー? そんなのダサすぎるよお!!」
 「ダサいとか、ダサくないとか、そういう問題じゃありません」

 美羽と、設定崩壊して「氷の風紀委員」になったジャックがもめている間に、十六夜 泡(いざよい・うたかた)が、気絶したウィニングに近づく。
 (人格が崩壊したって事は、今の内に記憶をすりかえる事もできるかな?)
 「……あなたは、アーデルハイトを守るために此処にいる〜。あなたの使命は『アーデルハイトを守ること』」
 泡が、ウィニングに偽の記憶を植えつけようとする。
 「うう、俺は、俺は……」

 そんな中、緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、パートナーの魔女悠久ノ カナタ(とわの・かなた)を探して、あたりを見回していた。
 「カナタのやつ、急にブツブツ言い出して、どこいったんだ? せっかく、ウィニングを倒せたと思ったのに……」
 そこに、銃を手にしたカナタが、すごい形相で走ってきた。
 「あ、あれって、そるじゃ子が持ってた「魔女殺しのリボルバー」じゃないのか!? 消滅したはずなのに!?」
 ケイが驚く。
 「300回も殺されて生き返るなどと……ふざけておるのか? そんなにすごい魔女ならパラミタはアーデルハイト一人おれば安泰ではないか! そもそも5000歳という無茶設定からして、わらわは気に入らなかったのだ! 更にはレア満載のアイテム一覧に本来魔法使いが装備不可能なものまで所持しているスキル一覧と……。アーデルハイトの何から何まで気に入らぬ! ただでさえ、ロリ系魔女という位置づけが被っておるのに……許せん……許せん!」
 「え、ちょ、何言ってるんだ!?」
 「「魔女殺しのリボルバー」は恨みを弾丸に込めるという話だが……。アーデルハイトを300回程度しか殺せなかったのは、そるじゃ子の恨みが浅かっただけではないのか? わらわなら一発の弾丸で1000回はあやつの体を穿てるほどの憎しみを持っている。ちょうどよく、ウィニングに接触し、もう一丁の「魔女殺しのリボルバー」を手に入れることができた。憎しみこそ最強の武器! 魔女を持って魔女を殺すのだ! MK5の刺客として、このわらわ自らがアーデルハイトのハラワタをぶちまけてくれるわ! あの世でわらわにわび続けるがいいアーデルハイトーーーーッ!!!」
 カナタは、「魔女殺しのリボルバー」をアーデルハイトに向かって連射する。
 「な、なんじゃお前は!? うわああああああ!?」
 「や、やめろ、カナタ!! ぐはっ!!」
 「ケイ! なぜ止めようとする! おぬしも悔しかろう! アーデルハイトが使っているのは暗黒の魔術の類だぞ!」
 「暗黒の魔女になってるのはカナタだろっ! ううっ、俺は魔女じゃないから死なないみたいだが、地味に痛え……」
 身体を張ってケイがカナタを止める中、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が空気を読まずに満面の笑みで走りよる。
 「アーデルハイトちゃんのオナカみたいにプニプニです! プニプニきょにゅ〜はきもちいいです!」
 ヴァーナーは、アーデルハイトをかばってビームを浴びており、巨乳になっていたのだ。
 「こら、今、さらっとすさまじく失礼なこと言わなかったか!?」
 柱の影に隠れていたアーデルハイトが怒る。
 「ケイ、さわってさわってー。カナタちゃんは、MK5……マジで・カワイイ・5人組ですか?」
 「なっ!? さ、さわれるわけあるかー!!」
 あくまでマイペースなヴァーナーに、ケイが赤面して叫ぶ。
 「ほう、ロリ巨乳か……」
 目のすわったカナタが、ヴァーナーの胸をつかむ。
 「プニプニですー。……え、カナタちゃん、い、いたいですー!?」
 「ロリ美少女枠はわらわのものだー!!」

 「待ってください!!」
 そこに、ケイとヴァーナーの共通の友人でもある、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が現れる。
 「ウィニングさん……ちゃんと、マニュアルを読まないとだめですよ!?」
 「マニュアル、だと……!?」
 目覚めたウィニングが、呆然とつぶやく。
 「このノートパソコンを見てください! ウェブ上で公開されている、『蒼空のフロンティア』のマニュアルです! プリントアウトしようと思いましたが、更新される可能性があるので、こちらにしました!」
 ソアが、ウィニングにノートパソコンを突きつける。
 「自由設定に登録出来ないこと第一項! 『特殊な技、魔法、能力などを付与することはできません』! よって、ウィニングさんの『設定崩壊ビーム』は、シナリオ上では自称扱いとなります!」
 「え、設定できない?」
 「そうです! みんな、『自称』設定崩壊ビームを受けて、『自称』変な設定になっているだけです! 目を覚まして下さい!」
 ソアが、周りに必死に呼びかける。
 ソアのパートナーの白熊型ゆる族雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、その様子を見てにやりと笑う。
 (ふっ、ウィニングも「真面目」な設定であるご主人を敵に回したのが運の尽きだな……俺様だったら、めんどくさくてマニュアルとか読む気しねーぜ! まあそんなことより、ゆる族の俺様としては、セバス・チャンの野郎が気にくわねぇ。ここは、ご主人に便乗してやるぜ!)
 「おい、セバス・チャン! おまえも実はマニュアル見てねーだろ! 自由設定に登録出来ないこと第二項! 『各種ステータスを無視した設定を付与することはできません』! ゆる族だけど脱皮したので老眼鏡執事の格好をしています、なんて自称だ、自称!」
 「な、なんですって?」
 「実際、俺様にはタダのゆる族にしか見えねーなー? くっくっく……」
 「そうだったんですか!? それで、無効扱いになってしまっていたせいで、皆さん、私のことをゆる族と見抜いていたんですね!? 老眼鏡執事の私をゆる族だと推理するなんて、どうやっていたんだろうと思っていたんですが……」
 「いや、それは、前編のサンプルアクションに『セバス・チャンっていう名前のゆる族』とか推理するっていうのが書いてあったからじゃないのか……?」
 ベアの言葉に衝撃を受けているセバスチャンに、ケイが指摘する。
 「ウィニングさん! コメディ時空だからって、このままやりたい放題させるワケにはいきませんっ! 『設定崩壊ビーム』は『自称』です!」
 「いや、その、俺はNPCだし……。マニュアルに書いてあるのは、PC用の内容だし……」
 ウィニングは、あくまで『自称』で押し通すソアに後ずさるが、周囲を見回してみた。
 「……なんとなく、従ったほうが助かる気がするな。じゃ、じゃあ、設定崩壊ビームは『自称』で!」
 「むう、ケイも身体を張ってわらわを止めてくれたわけであるし、何をしているのか自分でもわからなくなってきたぞ……。悪かったな、アーデルハイト」
 カナタの手にしていた「魔女殺しのリボルバー」が消滅する。
 「今回暴走して、わらわもおぬしの気持ちがわからなくもなかったぞ」
 「いや、私も、客観的に見たら大人気なかったのではないかということに気づけたのじゃ……」
 「あー、よかった……」
 和解するカナタとアーデルハイトの様子を見て、ケイが脱力する。
 「いつのまにかきょにゅーじゃなくなっちゃったですけど、みんなおともだちでよかったです!」
 ヴァーナーが、ウィニング含め、皆にハグする。


 ソアが、誰かに向かって微笑みながら言う。
 「みんなもたまにはマニュアルを読み返すと、意外な発見があるかもしれませんよ。素敵な自由設定を作ってくださいねっ」


 こうして、すべてが解決したところで、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が、アーデルハイトに大演説する。
 「貧乳を気にしてるじゃと……? 貧乳の何が悪い! よいじゃないか貧乳! よいじゃないかロリ! なあに恥ずかしがることはない。皆貧乳が大好きさ! むしろそこまで歳を重ねて未だその体型であることを神に感謝するべきだ! 無駄な起伏のないその滑らかなラインは芸術と言っても過言ではない! 美しく、小さく、清らかで、生命力に満ち溢れたその造形……そんな素晴らしいロリ体型なのに何を憂うことがあろうか! アーデルハイト女史は一体なにが不満なのかね? 単純な魅力だけではないぞ? 商品価値だって十二分にある。例えば、アーデルハイト関連グッズとか出してみたまえ。売れに売れて一財産稼げること間違いなしじゃぞ。アイドルとして売り出してみたまえよ。『イルにゃんスール』でも、アーデルハイト女史が人気ナンバーワンだろう。その愛くるしい姿ならどんな男でも虜にすることができようさ。わかるかね? その姿だからこそ! その可能性に溢れた姿だからこそこういった付加価値を得ることができるんじゃないか! さあ、劣等感なぞ脱ぎ捨ててその体型を愛するのじゃ! そのままの自分を愛することで、道も開けようぞ! ……ま、わしは貧乳も巨乳も好きじゃがな? 胸に貴賎はないのじゃよ」
 「……」
 アーデルハイトは大変複雑そうな表情をして沈黙していたが。
 「実際に私と似たような外見のお前がそこまで言うなら、まあ、今日のところはそういうことにしておいてやろう……」
 「おお、上から目線な発言がたまらんのう、アーデルハイト女史!」
 いつもならキレるアーデルハイトだが、なんとなく従っておくことにしたようであった。


 「まあ、なんだかんだで廃人にならずにすんだからな……お前を許してやらんこともない。私は情け深いことで知られるアーデルハイト・ワルプルギスじゃ。そのかわり、今後、私の元で働くのじゃぞ」
 同じくらいの外見年齢ではあったが、老獪な態度で、アーデルハイトがそるじゃ子に言う。
 「ああ、パートナーのチャンの恩人だからね。あたいはこれからあんたに仕えることにするよ」
 そるじゃ子が、たじろぐことなく、ハードボイルドに言う。
 「よかったな、そるじゃ子」
 その様子を見守っていた、七尾 蒼也(ななお・そうや)が、そるじゃ子の肩に手を置く。
 志位 大地(しい・だいち)も、少し離れたところから見守る。
 「カツ丼の兄ちゃん。……その、ありがとな」
 「ん?」
 「……なんでもないよ」
 蒼也に向かっての小さな声のお礼の言葉は、そるじゃ子はハードボイルドに言わなかった。


 その後、凄腕暗殺者のそるじゃ子、セバスチャン、ウィニングを3人も飼ってるうえ、殺されても絶対死なないとして、アーデルハイトはすごい存在としてたたえられるのであった。