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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【後編】

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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【後編】

リアクション

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 「ちょっと待ってください! そんな、『不良が一人でいるときに、小さな動物に話しかけたりしてると、相対的にいい人に見える的な、古典的シチュエーション』みたいな演出、パラ実の私には通用しませんよ!」
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、妖艶なスーツ姿で、進み出る。
 「そんな人、パラ実ではデフォです! 鏖殺寺院の暗殺者であり、アーデルハイト様を廃人にするためにやってきた極悪人であるあなたが、そんなことで許されると思っているんですか!」
 「なんだとおおおおおおおお!?」
 「メルヘン時空でキャッキャウフフしている場合ではありません! そんな暇があるんだったら……」
 ガートルードが、ウィニングの顎をつかみ、185センチの長身の自分の顔に近づけ、青い瞳で見下ろす。
 「私に設定崩壊ビームを撃ちなさい!」
 「は?」
 「聞こえなかったんですか? 私にビームを撃ちなさいと言っているんです」
 「……いいぞ。じゃあ、撃つぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 ガートルードは、ウィニングによって設定崩壊ビームを浴びせられた。
 その結果、どこからどう見ても大人にしか見えないガートルードが、13歳の年齢相応の少女の姿になった。
 「なんですか、これは! 面白くない! すばらしい!」
 「どっちなんじゃ」
 アーデルハイトが、ガートルードの「メルヘンブレイク」により、いつものツッコミ体質に復帰する。
 「って、私の目的は変な設定つけてもらうことだったんですが。ぶっちゃけ、これはどうなんでしょう。ウィニングは、アリスとか、リアルに年齢が若い少女に甘いということなんでしょうか」
 ガートルードが、冷静に指摘する。

 そこへ、英霊ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)と、吸血鬼アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)が、突如、現れる。
 「待つがよい、鏖殺寺院のテロリストめ!」
 「【暁の策士】、ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)ここに登場! さあ、博士、秘策をもって鏖殺寺院の策動を破砕してください!」
 ロドリーゴとアマーリエの後ろから、ゲルデラー博士が現れる。
 「メルヘンブレイクをありがとう。あなたがキャラの設定を崩壊させてくれると噂のウィニングですな……実は相談があります。最近、どのシナリオに行っても、定番のように『くどくどと』『がみがみと』『ねちねちと』という表現がつくのですが……本来、日常はもう少し理路整然としたキャラクターのつもりだったのですが、いつのまにかマスター間に妙なイメージが広まっているようで……あなたの能力で私をもっとはっちゃけたキャラクターにしていただきたい!」
 ゲルデラー博士は、いきなりウィニングに悩み相談を始めた。
 「……そんなことの為にあたし達をこんなところまで連れて来たのか!」
 アマーリエが、ミヒャエルの頭をポカリと叩く。
 「まあ待て、どんなキャラであれ立っているのは良いことではないか」
 ロドリーゴが慰めるが、ゲルデラー博士は論駁する。
 「ロドリーゴは半ギャグ半シリアスでそれなりに立ち始めているから良いのだ! 私は常にがみがみ扱いで……うっうっう」
 「まあ、その、なんだ、基本的に、このシナリオでの出来事は、シナリオ内で完結するだろうから、別のシナリオに行った場合の保障はしかねるんだがなあああああ……そんなに言うんなら、ビーム撃ってやるよ」
 「本当ですか!?」
 ゲルデラー博士が、がばあ、と顔を上げ、ウィニングの手を取る。
 「あんまりくっつくんじゃねえええええ!!」

 ウィニングは、叫ぶと、ビームをゲルデラー博士と、ついでにロドリーゴに浴びせた。
 「ヒャッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! わざわざミンストレルになってマイクまで用意した私の歌を聴くがよい!!」
 「ヒャッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! 余の軍用バイク捌きを見よ!!」
 ゲルデラー博士とロドリーゴは、教導団崩れのパラ実生のように、バイクを暴走させて、走り去った。
 「ああっ、博士!! どこに行く気だ!! 他校の廊下をバイクで走るな!! あと、ここは世界樹イルミンスールの中なんだぞ!!」
 「「ヒャッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! ヒャーーーーーーー!?」」
 「……だから言ったのに」
 窓を突き破って地上に落下していったゲルデラー博士とロドリーゴを見て、アマーリエは頭を抱えた。

 「なんだか当初の目的を忘れがちだぜ! ウィニイイイング!!」
 ウィニングが、アーデルハイトに設定崩壊ビームを放つ。
 「よし、来い!!」
 「ちょっと待ったああああああああああ!!」
 弥涼 総司(いすず・そうじ)が飛び出し、設定崩壊ビームを正面から浴びる。
 かくして、のぞき部部長・弥涼 総司は、B88 W58 H82のナイスバディな超美人になった。
 「わたしの名は弥涼総子(いすず・ふさこ)よ! まあ、これがわたし……」
 総司あらため、総子は、鏡を取り出して、うっとりと見つめた。
 「アーデルハイトさん、一緒にお風呂に入りましょう!!」
 「な、なんじゃと!?」
 「そもそも、最近の、貧乳やロリのブームはまったく嘆かわしい! わたしのような、巨乳! 爆乳! ボインこそが、真の欲望の対象となるべきなのよ! 人類が哺乳類である以上、大きな胸に対して欲望を抱き、欲情するのは自然な姿! わたしのような、成熟した女性へ欲情しなさい! エロい視線を向けなさい! アーデルハイトさんみたいな貧乳やロリが好きなんて、倒錯よ、倒錯!! わたしと一緒にお風呂に入って、本物の巨乳というのがどういうものか、その目に焼き付けなさい!」
 そんな中、椎堂 紗月(しどう・さつき)と、パートナーの守護天使有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)が、ウィニングの前に立ちはだかる。
 「見つけたぜニンジャ! さぁ俺を『男前なイケメン』に変えてもらおうか! これで、女の子みたいな外見の俺も、男にばかり言い寄られたりせずにすむぜ! これで、女の子と出会い放題だ!」
 「わ、私を……その……『む、胸が大きくてセ、セクシーなお姉さん』に……か、変えなさい! これで、もう、胸が……その……ほ、舗装されてるなんて、言わせないんだから!」
 凪沙は恥ずかしくて、言葉に詰まりながら言う。
 「ウィニイイイイング!! おまえら、好き勝手言いやがってええええ!!」
 「や、やっぱりだめええええええええええええ!!」
 「うおっ!?」
 ビームが放たれた瞬間、直前で怖くなった凪沙が紗月を引っ張って盾にする。
 その結果、胸が大きくてセクシーなお姉さんになったのは、紗月であった。
 「うふふふふふ。これがわ・た・し」
 「うわぁ……」
 鏡を見て笑う紗月に、凪沙がドン引きする。
 「そこのボインちゃん! あーんなことやこーんなことして遊びましょう? ふふ、安心しなさぁい……お姉さんがい〜っぱい可愛がってあげるからぁ」
 総子に向かって、紗月が襲いかかる。
 「まあ、ボインですって? ほら、アーデルハイトさん、やっぱり、貧乳と巨乳が並んでたら、巨乳を選ぶのが人類として、正しい姿なのよ!!」
 ウェルカムな体勢の総子は、紗月を抱きしめる。
 「……ならなくてよかったぁ」
 凪沙は、自分がビームを浴びなくてよかったと、心底思っていた。
 「さっきから言わせておけば、誰が貧乳じゃあああ!!」
 「いやああああん、爆発で服がはだけちゃうううううん、わたしのきれいなカラダがみんなに見られちゃーう」
 「おほほほほほほ! 爆発プレイよおおお!!」
 アーデルハイトは、魔法で総子と紗月をぶっ飛ばした。

 そこに、如月 さくら(きさらぎ・さくら)が現れ、アーデルハイトに走り寄る。
 「アーデルハイトさん! わかります、その気持ち!!」
 さくらががしっとアーデルハイトの両手を取る。
 「前回は犯人扱いして、ごめんなさい……けど今回は貴女の味方よ! やっぱり、叶うなら大きい方が良いですよね! でも、アーデルハイトさんは小さい方が可愛いと思いますけど、わかりますその気持ち!」
 「な、何を言っているのじゃ!?」
 「それに、スリムな方が良いですよね! それもわかります! まぁ、私はそんなに太らない体質ですけど……ぁ、ちょっとふくよかなアーデルハイトさんも可愛いような……でもまぁ、その気持ちわかります!」
 「な、なんじゃとお!? お前なんかに、私の気持ちがわかってたまるかあ!!」
 さくらに、共感してるのか逆なでされてるのかわからない台詞をまくしたてられ、アーデルハイトが、泣きそうになって叫ぶ。
 さくらのパートナーの機晶姫ルインアームズ・アリア(るいんあーむず・ありあ)が、その様子を見守り、つぶやく。
 「まるで、どこかの科学なのか忍法なのかよく分からないような技を使われるお方のようですね……魔法忍術とは……」
 「さあさあ、一緒に設定崩壊ビームを浴びましょう!」
 「あ、さくら、ダメです!!」
 さくらをアリアが止めようとするが、時すでに遅し。
 アリアはなんとかアーデルハイトだけは突き飛ばしたものの、さくらは思いっきりビームを浴びてしまった。
 「ふふふふふ!! やりました!! 巨乳の超スリムボディで、エリザベートさんよりも強い魔力を秘めた格闘家風なお嬢様で、スパコンより高い知能を持っているが美女装子になりましたよ!!」
 「まにあいませんでした……それにしても、わけがわからないものに……。さあさあ、いきますよ、さくら」
 「ちょっと、まだ、私の大活躍シーンが展開されていませんよ? 魔法格闘技による華麗な戦闘シーンとか!」
 「はいはい、帰りましょうね」
 さくらをずるずる引きずって、アリアが退場する。
 「なんなんだ、いったい……」
 アーデルハイトが、呆然と見送る。

 「まて!!」
 そこに、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が現れて、大演説を開始する。
 「テメェら! アーデルハイトの意見を無視しやがって、可哀想だろうが! ロリババァだなんて美味しい設定を持ちながら、貧乳を気にしていて、体型維持のためにエクササイズをしているなんて、健気で泣かせるじゃねぇか。例え設定が崩壊しようとも、本人が巨乳になって太らない体質になりたいっていうなら、俺は喜んでその手伝いをするぜ! 邪魔しようって連中は俺が身体を張って引き受けた。アーデルハイト、あんたは今のうちにビームを浴びに行くんだ! そして遠慮なく、よく見るとかなり際どい衣装の胸元を大きくなった胸で弾け飛ばして、たわわに実った果実を白日の下に晒してくれ! ロリで巨乳。やべぇ、テンションが上がって来たぁ〜!  よし、こうなったら、エリザベートとそるじゃ子もビームを浴びて、ロリ巨乳トリオの完成だぜ! ん? 何だその白い目は……いや、違うよ? 変態じゃないよ? ただちょっと、思春期をこじらせただけだよ? だぁ〜! 何だか面倒臭くなってきた! 脱げ。それで解決する気がする。 巨乳も貧乳も関係ねぇ、俺の魂が叫んでるんだ、おっぱいが見たいってよッ!」
 「そんなに堂々とセクハラ発言するなー!! 誰が見せるかああ!!」
 「ぐごふぅっ!?」
 アーデルハイトが、魔法でトライブをぶっ飛ばし、杖でげしげし殴る。
 トライブのパートナーのヴァルキリー千石 朱鷺(せんごく・とき)が、暴走したトライブを回収にやってくる。
 「わたくしがわざわざつっこまなくても、アーデルハイト様が激しくつっこんでくれましたので、わたくしは何もしません。身内の恥を晒すのもアレなので、回収はしていきます」
 ウィニングが、朱鷺を見てつぶやく。
 「おまえもビーム浴びたいとか言うんじゃないだろうなあああ?」
 「ん? 何ですか人様の胸を見て、失礼ですね。ええ、ええ。わたくしは胸が小さいですが何か? ビームなんて浴びませんよ。何なんですか、胸が小さいといけないんですか? あんまり調子に乗っていると、ギャグっぽい展開を無視したテンションで殺しますよ? こほん。とにかく、女子の胸は聖域ですので、あまり大小で騒がないでください。べ、別に貧乳を気にしてるんじゃないんですからね。それでは、失礼します」
 「おお、ツンデレテンプレ発言部分を棒読みで言って去っていきやがったあああ」
 朱鷺は、トライブを引きずって退場した。