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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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6-05 ジ・アナザー・ピルグリミッジ(人生行路)

 出発が遅れに遅れたのは、【獅子小隊】のイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)
 彼ら彼女らは、ほぼ出立後に、黒い鴉の群れが旧オークスバレーへ飛んでいくのを眺めることになる……というくらい、最も出発が遅れた組なのだが、イリーナにしてみれば、早くレオンハルトに会いた、いや合流したい一心でそんなもの見えず、ルカルカは♪黒羊に行けば〜どんな夢も〜と歌っており、ウォーレンは、ん? 何か飛んでいくぞ……と二人に言ってみたが聞く様子もないらしいので、彼も見なかったことにしてハイキングー☆と割り切ることにした(「っと、俺はちゃんと遠征のことも考えてるぜ? まずはたどり着かなきゃだな!」)。
 これは、そんな三人とパートナー達の旅物語である。

 遅れたついでに、一行は、基本的に「遠征」ということが抜け落ちた頭で、まるっきり旅行者という感じである。
 ウォーレン、「い、いやだから俺は。ほら、ちゃんと出発前に銃の整備。ポケットには地図、筆記用具、飴。アタックザックに予備の弾、食糧、ロープ、ビニールシート、布等……林檎が嵩張るな、誰かいるか? ……って皆、聞いているか?」
「ピクニックならお菓子を持っていかないとですわー」
 エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)
ダリルさんはきっと甘いものは駄目でしょうから、プレッツェルも焼きました〜」
 イリーナもフェリックスも、ズボンにリュックにというまるきり観光客の姿。
 一行は最初、安全に旅を進めるため、観光客を「装っていた」、のだが、……
 ルカルカも、観光客のフリなら素でいける、と自負。つまり、普通にしていればむしろ軍人よりただの観光客に近いと……
 「プチ我侭なお嬢さんルカが、珍しい所に物見遊山に行くという設定」→「プチ我侭なお嬢さんルカが、珍しい所に物見遊山に行く」。
「……ま、まあいいか。
 肩に力が入りすぎると、できる事すらできなくなる……ってな?」
 ウォーレンは、軽く林檎を齧った。
 そんな一行の中、ルカルカのパートナーには、夏侯 淵(かこう・えん)の姿が見える。
 と言うと、一行にどれだけ緊張感がなくても、かの曹操配下の猛将・夏侯淵妙才がいれば……と思われるかも知れないが、ここにいる夏侯淵は、見た目10歳程の可愛らしいお子様だ。要するにチビ……と、言うと不機嫌になるのだが……。
 でも本人も、年少化した状態で英霊として甦ったことで、いちばん基礎体力低いのではなかろうかとは、心配している。皆に迷惑はかけたくないが……疲弊する前に、無理はせず適宜休息を進言しよう、か……でも何だか悔しいぞ。弓の腕を振るう機会さえあればっ……
 ドラゴニュートのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が、じっ、と夏侯淵の方を見ている。
「何をぶつぶつ言っているのだ?」
「いあ、その、俺が弱ってるとかではなく、だな」
「……」
「……」
「……乗れ」
 カルキはわかっててくれたみたいだ。うむ、乗る……かな。馬に乗るの好きだし。
「言っとくが俺は馬じゃねーぞ」
「あ、ああ」
 カルキノスは、夏侯淵を肩と翼の間に乗せた。一瞬、三日で五百里、六日で千里を駆けた、というかつての勇姿が甦ったような……「だから俺は馬じゃねーと……」
「さて先着一名。御代は後日の酒払いでいいぜ」
 やがて、一行草原地方に着いた。
「うあ。見渡す限り、草原か」
「こんなところがヒラニプラの山に囲まれた中にあったのねー」
「遠くには、かすかに連なる山が見えているな。あそこまで、行かねばならない。……レオン」
 勿論、黒羊郷へ行くという目的を忘れてはいない。だが、黒羊郷へ遠征、ではなく黒羊郷へ旅行これが一行の基本方針となった。
 完全に出遅れた一行にしてみれば、遅れた組の獅子小隊もノイエ・シュテルンもすでに自分達よりは先行しているので、二部隊が合流し本隊がこの先の滞在先・三日月湖を発ってしまえば……このメンバーだけで黒羊郷を目指さなくてはならなくなるのだ。
 ただ、【シャンバラの獅子】として獅子小隊に合流したい筈の一行。何故か、遠征軍が獅子小隊を待って滞在しているという三日月湖の方角でなく、足がどうしても東の谷へ……向かってしまうようで。イリーナの愛の力という他ない。(「レーゼは頑張れで。」)
 やがて一行は、草原の一軒屋に着いた。
 レオンハルトも立ち寄った、草原亭である。
「イリーナもルカもまだかーて、レオンさん今頃泣いてたりしてね」
「レオン、会いたい……」
 乙女の瞳を潤ませるイリーナ。
 もうお酒が入った。
「あっ。いつの間に……」
 ダリルも今回は「帰ったらな」の隙がなかった。「お、おい、ルカルカ……」
「あは☆彡」
「最終兵器♪」「最終兵器♪」「最終兵器♪」
「黒羊郷に行けば〜どんな夢も〜叶〜うとゆううよ〜〜♪」
「あちゃぁ。お客さん……だめだね、こりゃ」
「俺の責任だ」
 ダリルは責任を感じた。
「最終兵器♪」「最終兵器♪」「最終兵器♪」
「雪を溶かし・氷を割って・何時が何処やら・道なんて知るか〜♪」
「まあ……ある意味もう遭難しているな」
「レオン、会いたい……」
 ウォーレン、「まだ、昼間です」
 ともあれ、草原亭では、黒羊郷の復活祭に関する話だけは聞くことができた。
 その後は……半分以上酔っ払いなので進軍(いや、進軍とうにはちょっと、もはや軍人とは……)速度は保てず、結局……何も出会わないまま、草原地方のど真ん中で、野宿となってしまった。
 朝方に出立している者が、夕刻から夜には草原地方を抜け、谷間の宿場で宿泊という距離になる。イリーナ、ルカルカ、ウォーレン達は、昼前に旧オークスバレーを出た上、この有り様だったのだから、仕方がない。
 イリーナが、料理を作る。
「お弁当の点が高くなるように毎日お料理お料理」
 エレーナが、お玉でぺしぺしとイリーナを叩いて指導する。
「少ない材料ですからねえ。食べられないもの作ったらイリーナを鍋にしますわよ〜」
「レオン、会いたい……」
 一同は不安げに見守ったが、最近は食べられるものができるようになった、とひと安心した。レオンへの愛のおかげか。
 夏侯淵は将軍としてのまともな意見を発揮し、夜は目立たぬよう灯かりや火を消すことをよう、また、見張りは最低二人は起きるよう、指示を出したが……夏侯淵とウォーレンを除いて、すでに皆、酔いとか鬱とか心痛などの個々の事情で、深く眠ってしまっているのだった。
 雨も降ってきた……
 ウォーレンと夏侯淵は無言で頑張って布を広げ風除け、シートを広げ雨除けを作り、二人で無言で頑張って夜を徹して見張りをし遂げたのだった。
 翌朝、カルキノスは夏侯淵+ウォーレンを背中に乗せることになる。
「……」



 しばらく歩くと、一行は、黒いものに出会った。
「巡礼?」「絶対、巡礼よ」「巡礼決定」
「まあ、巡礼ってどの世界でもそれらしい格好なので気付くかと」と、フェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)がまず、近付いていった。「すみませーん、写真撮ってくれませんか〜?」
 反応を見てみようというわけだ。
「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」
 巡礼は、とりあえず普通に写真を撮ってくれた。ぬめぬめになったカメラがフェリックスの手に戻された。「? 昨夜降った雨をしのげずに旅してきたのかな。寒かったろう可哀想にねぇ」
「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も、ルカルカの執事を装い、「うちのお嬢が難儀してて。できたら良い道等教えてもらえぬだろうか」
「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」
 巡礼は、一本しかない指で、向かう山の方とは逆の方を指した。
「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」
「ちょっと黒羊郷の神様にも興味があったり☆」
 ウォーレンも、楽しげな(?)巡礼に合わせた態度で、さりげなく聞き出そうとする。
「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」
「十代後半になると、ちょっと神秘的なものに憧れるのです」
 イリーナも。「あなた方の祭る神の名は?」「ラス・アル・……」……というそれを聞きたい。
「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」
 巡礼は、涎をぼたぼた垂らしながら、暗いじめじめした場所に一行を案内すると、また一本しかない指で上の方を指した。
「あれが、あなた方の神?」
 それは……キャラクエにも出てこないようなマイナーな気持ち悪い魔物をかたどった土塊の祭神だった。
 一行は、ぬめぬめした泥地に足を踏み入れていた。イリーナは毒を受けた! ルカルカは毒を受けた! ウォーレンは毒を受けた! パートナー全員も毒を受けた!
「どうもこの巡礼、様子がおかしいぞ!」「う……しまった。罠か!」「皆、気を付けて!」
「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」
 巡礼の正体は、キャラクエにも出てこないようなマイナーな気持ち悪い魔物だった。
 キャラクエにも出てこないようなマイナーな気持ち悪い魔物が現れた!
 キャラクエにも出てこないようなマイナーな気持ち悪い魔物が現れた!
 キャラクエにも出てこないようなマイナーな気持ち悪い魔物が現れた!
 ダリルがリカバリをかける。
 カルキノスが怒りの歌を歌った。
 ウォーレン、夏侯淵に昨夜の怒りが甦ってくる。
 ウォーレン、夏侯淵ともヒロイックアサルトを発動。
 ウォーレンは体勢を落とすと、蹴りを食らわせた。
 キャラクエにも出てこないようなマイナーな気持ち悪い魔物を倒した。
 夏侯淵も、ここぞと弓で敵の急所を射抜く。
「受けろ、我が神弓の矢を!」
 キャラクエにも出てこないようなマイナーな気持ち悪い魔物を倒した。
「えしぇしぇ」
 キャラクエにも出てこないようなマイナーな気持ち悪い魔物の攻撃。
「きゃあっ」
 イリーナは1ポイントのダメージを受けた。
 皆は、最終兵器を使った。
「【最終兵器彼女】って誰のことよっ(汗」
 キャラクエにも出てこないようなマイナーな気持ち悪い魔物を倒した。
「はにゃ〜ん☆」

 ウォーレンは、とても安堵した。今回はほんとに真面目に戦った。今回はスルメを持ってこなくてほんとによかった。
 そして、結局最終的には、イリーナの、レオンに愛たい、という一心が、一行を東の谷へと向かわせることになったのだった。