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リアクション
第3章 リフルという少女
1.リフルの素性
「それくらい教えてくれたっていいじゃないですか」
「駄目だ。プライバシーに関わることだからな」
休み時間、蒼空学園の職員室。雨宮 七日(あめみや・なのか)が一人の若い教師を問い詰めている。
「どこから転校してきたかも、転校する前はどんなことしてたかも、それに住んでる場所まで秘密だなんて、絶対におかしいです」
「そう言われても」
「転校生と仲良くなりたい生徒を邪険にするって、教師としてどうなんでしょう」
「はあ……分かった分かった。いいか、ここだけの話だぞ……」
教師は周りを見回すと、小声で言った。
「分からないんだよ。どこからきたのかも、どこに住んでるのかも全部謎。俺だっておかしいとは思うぜ。でも下っ端にゃどうしようもない。嘘じゃないからな。さ、もう休み時間も終わりだ。分かったらさっさと自習に戻れ」
教師は七日を職員室の外に追い出す。
「怪しいですね……」
腕組みをして考え込む七日のところに、三人の少女たちがやってくる。そのうちの一人が言った。
「初めまして。私は百合園女学院のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)と申しますぅ。クイーン・ヴァンガード襲撃事件が頻発しているということなので、お友達を心配してやってきました。そうしたら最近転校生がきたという噂を聞いたのですが、ご存じですかぁ?」
「ああ、それなら今私のパートナーが話をしにいっているところです。場所は――」
七日はメイベルにリフルの居場所を教える。三人は礼を述べて去っていった。
「さてと、私は皐月に連絡してやりますか」
2.束の間の静けさ
日比谷 皐月(ひびや・さつき)は襲撃事件について探っていたところ転校生の噂と姿を見聞きし、その様子を見て放っておけなくなった。
「今オレはクイーン・ヴァンガード襲撃事件を調べてるんだ。少し協力してくれねーかな」
皐月は事件の話をきっかけにしてリフルと会話しようと試みる。
「はい、これ禁猟区で作ったお守り。よかったらとっといてよ。ところで――」
皐月が本題に入ろうとしたそのとき、背後で声がした。
「キミ、襲撃事件について調べてるの?」
皐月が振り返る。そこにいたのは如月 玲奈(きさらぎ・れいな)だった。
「ちょうどよかった、私も事件について調査して回っているとこなんだ」
「へえ、そうなのか。キミはうちの生徒じゃないよな?」
「うん。なんか物騒な事件が起こってるって聞いてさ、イルミンスールからわざわざ来たんだ」
「そりゃお疲れ様。それで、何か分かったのか?」
皐月がそう尋ねると、玲奈はぐっと顔を近づけて言った。
「それがね、なんでも襲撃者はとても素早いって話よ。クイーン・ヴァンガードたちが抵抗する間もなくやられたのは、不意打ちを受けたのに加えてきっとそのスピードについていけなかったからね。それからこれは実際見た人に聞いたんだけど、こーんなにおっきな鎌を持ってるんだって!」
両手をいっぱいに広げてみせる玲奈。教室にいる生徒たちは彼女の話を聞いてがやがやし始める。
「……ここで話すのもアレね。キミ、ちょっとこっちに来て。せっかくだからお互いに情報交換しよう。問題は、手に入れた情報を襲撃犯と戦おうとしている生徒たちに教えるかだよね。危険だけど、どうせ止めても無駄だろうな……」
「え? いや、こっちは別にこれといって有力な情報なんかもってないし。ってか事件云々ってのは建前で、オレは転校生と仲良くなりたいだけ――」
抵抗むなしく、皐月は玲奈によって教室の外に引きずられていく。入れ替わるようにしてメイベルとセシリア・ライト(せしりあ・らいと)、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が入ってきた。
「こんにちはぁ、あなたがリフルさんですね。私メイベルって言いますぅ」
話に聞いていた特徴から、メイベルはすぐにリフルを見つけて話しかける。
「転校してきたばかりのときって、なかなかクラスに馴染みづらいですよねぇ。私はここの生徒ではありませんけれど、よかったらお友達になりませんかぁ」
リフルが無反応なのを見て、セシリアがフォローした。
「こんなこと言ってるけど、メイベルちゃんも昔は友達いなかったんだよー」
「ちょっと、セシリアったらぁ」
「いいじゃん、過去のことだし。今は沢山の仲間と楽しくやってるんだからさ。それにしてもメイベルちゃんが初めて見せてくれた笑顔はかわいかったなあ」
メイベルが顔を赤らめる。
「リフルちゃんも笑えば、きっともっとかわいくなるよ!」
「あ、それは同感ですぅ」
「うふふ、二人ともはりきってますわねえ」
フィリッパはメイベルとセシリアをにこにこした顔つきで見守っている。しかし、その表情の下では様々な思いを巡らせていた。
(それにしてもこの転校生、クイーン・ヴァンガード襲撃事件に前後する形で転校してくるなんて、事件に何かしら関係があるのではないかとついつい疑ってしまいますわ。ドラマの見過ぎでしょうかね……)
やがてリフルが立ち上がる。
「あら、どちらに行かれるんですかぁ?」
「……図書室」
「図書室ですか、それはお邪魔しては悪いですねぇ。ではまた今度お話ししましょう。私は普段百合園にいますので、いつでも遊びに来てくださいねぇ」
メイベルの言葉を背に、リフルは教室を出て行く。
「……行っちゃったね。まあ心を開いてくれるにはまだまだ時間がかかるだろうな。焦らずじっくり、だね」
「そうですわね。また機会を見つけて蒼空学園に来てみましょう」
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