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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

リアクション

 ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)は、今日こそゲイルスリッターを捕まえてやろうとはりきっている。
「これまでに判明している襲撃場所と目撃情報からすると、やっぱりこの近辺が濃厚よね……」
 彼女はあらかじめ目星をつけておいた場所周辺を慎重に見て回る。すると、どこからか声が聞こえてきた。
「襲撃者だ! ヴァンガードの隊員が襲われているぞ!」
「え、うそ!? どこどこ!」
 慌てて周囲を見回すミネッティ。だがどの方向から声がしたのか分からない。
「うう、もたもたしてると犯人が逃げちゃうよ。ええい、こっちだ!」
 ミネッティは自分の勘を頼りに走り出す。闇雲に辺りをかけずり回っていると、誰かが言い争う声が耳に入った。
「誰だおまえ? ただでさえ居残りくらって出遅れてんだ。そこどけよ」
「我こそは、ヴォルスング一族のシグルズ。クイーン・ヴァンガード……腕に覚えのある『つもり』の連中が集まっているそうじゃないか。一つ、このシグルズの相手を願えんかな?」
「なんだと、邪魔すんならおまえもぶっとばすぜ?」
(何々、もしかしてあのシグルズって人が事件の犯人!? 思いっきり名乗っちゃってるけど……)
 ミネッティは曲がり角から様子を窺う。彼女は少々勘違いしているようだが、対決を申し込んだのはシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)。歴としたイルミンスール魔法学校の生徒である。一方、対決を挑まれたのはウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)。こちらも同校の生徒だ。
「では、俺がこの試合の見届け人となろう」
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が言う。と同時に、ウィルネストが仕掛けた。
「こんがり丸焦げに焼いてやるぜー!!」
 ウィルネストはいきなり火術を放つ。シグルズはエンデュアと心頭滅却を使用し、これを受けきった。
「へ、なかなかやるじゃねえか」
「今度はこちらからいくぞ」
 シグルズがウィルネストに突進していく。が、シグルズはウィルネストにぶつかる直前で大きく飛び上がった。
「どこに向かって攻撃して――うわっ」
 刃と刃が激しくぶつかり合う音に、思わずウィルネストが耳を塞ぐ。彼の頭上ではシグルズの攻撃をゲイルスリッターが受け止めていた。
「やはり姿を現したな!」
 すかさずアルツールがサンダーブラストを唱える。ゲイルスリッターはこれを避け、ウィルネストに雷がヒットした。
「ぐぎゃあ!」
「ちい、かなり素早いな。シグルズ、思い切りやってくれ。連携して撃ち落とすぞ」
「おう!」
(な、なんか本物っぽいのがでてきた! 一体どうなってるんだよー)
 危険を感じると同時に戦況が気になり、ミネッティは顔を出したり引っ込めたりする。
 シグルズが己の力を解放して、大きく剣を振り回す。SPの消費が大きいサンダーブラストはそうそう連発できない。アルツールはシグルズの剣をかわすゲイルスリッターの動きを慎重に観察する。
「まだ……まだだ……もう少し……そこだ!」
 アルツールが狙い澄ましたサンダーブラストを放つ。雷がゲイルスリッターの真上に降り注いだ。
「今度は避けられないであろう!」
 アルツールは直撃を確信する。が、ゲイルスリッターは手にした鎌を掲げた。鎌が雷撃を受け止め、ゲイルスリッターは全くダメージを受けない。
「な……なんだあの武器は……」
 アルツールが呆然としている隙に、ゲイルスリッターはウィルネストを倒しにかかる。
「しまった!」
「いちちちち……くっそう、俺が黒こげになっちまったじゃねえか。状況がこれっぽっちも把握できないんだが……」
「君、飛ぶのだ!」
「は? どわあっ!?」
 ウィルネストが空飛ぶ箒で急上昇する。
「あっぶねー! おいおい冗談じゃねえぞ」
「こいつが事件の犯人だ。君も撃退に協力したまえ」
「よく分からねえが、探してたやつが目の前にいるんだ。好都合だぜ。この紅蓮の魔術師ウィルネスト様が消し炭にしてやらあ!」
 ウィルネストはこれまでの鬱憤を晴らすように、箒で飛び回りながら火術を撃ちまくる。
「おい、そんな無茶苦茶に攻撃するものではないぞ!」
「うっせー! 俺が片付けてやるからお前らはそこで大人しく見てろ!」
 シグルズの声にも耳を貸さないウィルネスト。やがて一本の木に火が燃え移った。
「さあこいつで止……あっちゃー!」
 木から上った炎がウィルネストを包み込む。ウィルネストはそのまま落下して地面に激突し、
「なんでいつも俺ばっかこんな目に……きゅう……」
 気を失った。
「……」
 自ら手を下すまでもなく倒れたクイーン・ヴァンガードに呆れ……たかどうかは分からないが、それを見てゲイルスリッターは速やかに姿を消す。
「やれやれ、とんでもないことになったな。早くこの生徒を起こして消火させねば。今は俺もシグルズも氷術が使えん」
 アルツールが脱力してウィルネストに近寄る。そこにミネッティが出てきた。
「ねえ、何が起こってたの? さっきの人が犯人みたいだけど、最初はその人とあっちの人が戦ってたし」
「おや、見ている人がいたのだな。俺とシグルズは襲撃犯を誘き出すため、そしてついでにクイーン・ヴァンガードの青二才連中の実力を測るために、一芝居打ったのだよ」
「なるほど、謎が解けたよ。あー、でも犯人逃がしちゃったなあ」
「仕方あるまい。それよりこの生徒の目を覚ます手伝いをしてくれ。火事にでもなったら事であろう」 
「分かった!」
 アルツールたちはこんがり焼けたウィルネストを起こす作業に移った。

「やっと見つけた、あなたが噂の襲撃者ですのね。私イルミンスール魔法学校のエフェメラと申しますの」
 エフェメラ・フィロソフィア(えふぇめら・ふぃろそふぃあ)は今まさにゲイルスリッターと対峙していた。彼女は蒼空学園の制服にヴァンガードエンブレムという格好で囮捜査を行っていたのだ。
 対話を試みるエフェメラを相手にせず、ゲイルスリッターは己の目的を遂行しようとする。相手に話し合いに応じる気がないと見たエフェメラは、ヴァンガードエンブレムを外しゲイルスリッターに投げつけることで意思表示をした。
「ご存知? イルミンスールの校長は蒼空学園を敵対視していますの。あなたの思惑は知りませんけど、私達は蒼空学園が邪魔、あなたはクイーン・ヴァンガードが邪魔。私達良いお友達になれると思いますの」
 ゲイルスリッターは興味がなさそうに踵を返す。
「ふふ、そうはいきませんわ。リン!」
「おっけーメラっち! 任せるにゃん!」
 エフェメラが合図すると、山猫の姿に獣人化して待機していたリンクス・フェルナード(りんくす・ふぇるなーど)がゲイルスリッターの前に飛び出す。
「にゃははん♪ 残念無念ここから先は一方通行だよん、戻ってくれると嬉しいにゃん」
「そういうことですの。確かにあなたはお強い。でも今時力だけでは足りませんわよね。何をするにも人手があって損はないと思いますの」
 エフェメラは、自分は100%正しいと確信した笑顔で笑いかけ、襲撃者の人間らしい打算に期待する。しかし、振り返ったゲイルスリッターの視線が彼女の背筋を震わせた。
 紅く、それでいて凍りつくような眼。
 かつて感じたことのないような恐怖がエフェメラを襲う。
(な、なんですのこの眼は……)
 声を出すことができないエフェメラ。ゲイルスリッターは大きく飛び上がった。
「逃がさないよん」
 リンクスがゲイルスリッターを追って跳ぶ。が、ゲイルスリッターはさらに加速してこれを振り切った。
「な……山猫になった僕より速いなんて……。うーん、残念ながら今回はミッション失敗だにゃん。――さ、メラっち、フォルリンに電話してあげないと」
「え、ええ。分かっていますの」

「そうですか、了解しました……」
 エフェメラからの連絡を受けて、フォルトゥナ・フィオール(ふぉるとぅな・ふぃおーる)が携帯電話を切る。フォルトゥナはエフェメラの交渉がスムーズに進むよう、襲撃者を捜す他の生徒たちを攪乱する役割を担っていた。
「交渉決裂、か。後のことはクイーン・ヴァンガードの連中に任せてさっさとずらかろう」
 フォルトゥナが引き上げようとすると、一人の生徒がやってくる。
「確か今度はこっちの方から聞こえてきたよな……。ん、おまえは? ヴァンガードが襲われてるって叫んでたのはおまえか?」
「やべ……」
 後退るフォルトゥナ。反対側からも生徒がやってくる。
「はあ、はあ……襲撃者が出たって聞いたけど、どこ!?」
「俺は最初あっちだって聞いたんだが」
「私は向こうって聞いたわよ」
「……どういうことだ?」
「どういうこと?」
 フォルトゥナは面倒なことになる前に逃げ出す。
「あ、待ちやがれ! おまえ、騙しやがったな!」
「どうしてこんなことするのよ!」
「細けえこたあいいだろ、こっちのが面白い」
 ぼさぼさ髪で制服を着ていないという利点を生かし、フォルトゥナはパラ実の愉快犯を装って生徒たちをまきにかかる。
 
 こうして今夜も、ゲイルスリッター撃退がかなうことはなかった。