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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第3回/全3回)

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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第3回/全3回)

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第四章 

 イルミンスール魔法学校内、救護所では、花嫁たちの水晶化の解除が次々に行われていた。
 パッフェルが行ったのと同様に、『青龍鱗』ミルザム・ツァンダの手の中で柔らかな光を発している。水晶化した箇所に『青龍鱗』を触れさせると、潮が満ちてゆくように体が正常化していった。
「日奈々!」
 水晶化が解かれた冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は、パートナーの、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)の元へ駆け寄ると、安堵と喜びのままに抱きついた。
「日奈々、心配かけてごめんね」
「うぅん… よかった… 本当によかったですぅ…」
 日奈々が嬉しさに満ちた涙を流すと、千百合も共に涙して、2人で泣き崩れていった。
 同じように葉月 ショウ(はづき・しょう)葉月 アクア(はづき・あくあ)に抱きしめられていたが、顔は真っ赤にさせていた。照れる想いはあれど、パッフェルとの戦闘における功績と失態を考えると、嬉しさと悔しさ、恥ずかしさも湧いてきて、どうにも複雑な気持ちであるようだった。
 悔しさを胸に、パートナーに顔を見せられないでいるのは大神 愛(おおかみ・あい)である。
「すみません… あたしが役立たずでしたばかりに…」
 顔を俯けている愛を、神代 正義(かみしろ・まさよし)は、しっかりと抱きしめた。
 正義の抱きしめる強さにも胸を締め付けられた愛は、十二星華の力とは言わない… せめて自分にとって大切な人達を守れるくらいには力が欲しい、と願うのだった。
 水晶化が解かれ、パートナーの顔を見た瞬間に安心して気を失ってしまう者もいた。 ノエル・ミゼルドリット(のえる・みぜるどりっと)は正に、
「ごめんね、心配かけて」
 と伝えると、ふっと気を失ってしまった。
 また、ラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)のように、横たわったまま譲葉 大和(ゆずりは・やまと)の手を握り返して、
「ボク、負けなかったよ」
「えぇ、立派でした。立派でしたよ」
 と、笑顔と涙顔を交わし合う者もいた。
 互いに不安だった気持ちを押し込めて、いや、やはり安心した気持ちの方が強かったのだろう。ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は顔を合わせるなり、笑みばかりを浮かべて再会した。
「信じていました」
「うんっ、待ってくれてるって思ってた」
 出来る事を必死に全力で。詳しくたくさんお話しするのは、これからの事。再会は、最高の笑顔で果たせたようだ。
 再会の時を、リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)は静かな怒りと共に迎えたようだ。顔は笑っていたが、緋山 政敏(ひやま・まさとし)は笑み返せないでいた。
「見捨てたわね。見捨てて、置いて行ったわね」
「あ、いや、あれは……」
 どうにもこうにも。政敏は咄嗟にリーンを抱きしめた。
「ちょっ、ちょっとっ」
「心配は、してた。本当だ」
「心配は… って…。まったく…」
 リーンは片手だけそっと、政敏の背に手を添えた。
 水晶化を解除してゆく『青龍鱗』を、ベルバトス ノーム(べるばとす・のーむ)教諭はじっと、ずっと、ミルザムについて周りながら見つめていた。
「水晶化を解除する方法は、見つからなかったのですか?」
「そうだねぇ、解析と検証を続けたいけど、検体が居なくなりそうだからね、難しくなるよねぇ」
「現状では、『青龍鱗』の力が唯一の解除方法、という事ですか?」
「悔しいけど、そうなるねぇ」
 水晶化を解除された時から、アリシア ルード(ありしあ・るーど)は教諭の顔を見ていなかった。笑みを浮かべた横顔を見ただけで、それ以外は教諭は顔を逸らしているようにも見えた。
 じっと、ずっと見ているのは興味だけにあらず。
 抑えるために。教諭はアリシアの顔を見れないでいたのだ。


 救護所内、ミルザム・ツァンダに同行するエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)、そしてアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の両氏に提言をしている生徒がいた。
 志方 綾乃(しかた・あやの)は、『青龍鱗』の管理をミルザム・ツァンダに委ねるべきだと提言していた。
「イルミンスールは女王候補を擁立しないのですよね? それなら私も、女王器はミルザム様にお渡しするのが良いと思います」
「女王候補の… 擁立?」
「何でもない、近頃はそう言ってくる生徒も居るが、断言しよう、そんな事はあり得ぬ」
 アーデルハイトはミルザムにそう言ったが、女王器を渡す、という意見には賛成した。
「青龍鱗を確保した時点では、クイーン・ヴァンガードの設立に際しての組織作りと管理体勢が不十分であるように見えたからのう、イルミンスールで保管しておったが… 女王候補宣言での襲撃事件もあった事だしのう」
「お恥ずかしい限りですわ」
「今はもう、バッチリなのですかぁ?」
「えぇ、ようやく整ってきました。女王器は、クイーン・ヴァンガードが死守してみせますわ」
 綾乃は今後、女王器を確保した際には早急にヴァンガードが保護するべきだ、とも提言した。今回のように十二星華に狙われた場合、情報が少ない分、対応が後手に回ってしまう事になると。
 今回の事件に関しては、イルミンスールだけで解決するには条件が悪すぎた事を強調し、
くれぐれもイルミンスールの威厳が失墜するような報道・記録はしないようにミルザムに告げた。
「それで? 裏切り者への処罰はどうするつもりです?」
「ちょっと、マーク、そんなストレートに言わなくても」
 ジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)は強気に言ったマーク・モルガン(まーく・もるがん)の袖を掴みながらに言っていた。綾乃より先に、女王器はヴァンガードに渡した方が安心だ、と提案していたが、その時にも、ジェニファは控えめに言っていた。マークは小さく息を吐いてから続けた。
「姉さんも十二星華やパッフェルには、もう関わりたくないって言ってたじゃないですか」
「それは… 言ったけど…」
「裏切り者という表現は、しない方が良いのぅ」
「一度裏切った者は、また裏切ります。イルミンスールが不利になれば、再び裏切るに違いありません」
 アーデルハイトはミルザムと短く視線を合わせると、言葉を選びながら応えた。
「今回、パッフェル側についた生徒への処罰は、なし、とする」
「そんな! どうしてですか」
「さっき彼女が言ったように、パッフェルや十二星華の情報は多くない、むしろ生徒たちは殆ど知らぬと言ってもよい。我が校を襲撃した者に協力するという行為自体は軽率だが、奴らの目的や思想が見えにくい現状では、誤った判断をしてしまっても仕方がない、よって、そういった生徒の居場所を奪うのではなく、正しい道に導く事も学校の役割の一つであるという考えからじゃ」
「………………」
 表向きは、そうである。よって今回、パッフェルに協力した生徒への「お咎め」は各学校共になし、である。
 「パッフェルに協力した生徒もいたようではあるが、それは皆、パートナーを助ける為に仕方なく協力していた、または協力する事を強要されていた為であり、女王器を奪取する際には一役買ったという事を考慮した上で、処罰の対象としない」として通達されるようである。
 パッフェルに協力した生徒たちが、この決定を聞いた時、「クイーン・ヴァンガードや各学校は誤認している」と思い、日常の生活に戻るなら、彼らには監視をつける事で今後、パッフェルとの接触や、十二星華の動きを探る駒にする事ができる。この内容で、ミルザムと各学校が同意した為、彼らへの「お咎め」は無いのである。
 女王候補であるミルザム・ツァンダと十二星華の争いは、当然の如く、水面下での争いも激化の形相を見せ始めたのだった。


 暗い、クライ空洞中。水晶と化した岩壁が、わずかな光道を反射して踊らせていた。
 背丈ほどの水が噴いている。
 噴水の水を見下ろしているパッフェル・シャウラに、歩み寄るティセラは静かに告げた。
「唯一の誤算は、その瞳の傷ですか?」
「…………」
 波打つ水面に自身の顔が映っている。右瞳からは紫色の泪が流れ、頬を伝っていた。
「……これで私が動けば…… シリウスも、『青龍鱗』も動く」
 パッフェルが右瞳を輝かせると、噴き上がる水が紫色を帯びていった。
「誰も、殺さなかったみたいね」
「…… 死ななかった…… ただそれだけ」
 顔を映した水面へ、パッフェルは蠍をそっと投げ入れた。蠍は瞬時に動かなくなり、煙を上げて溶けていった。
 微笑を浮かべてティセラは去ったが、パッフェルはじっと、溶けた蠍を見つめていた。

担当マスターより

▼担当マスター

古戝 正規

▼マスターコメント

 こんにちは、古戝正規です。
 「剣の花嫁・抹殺計画!」の完結編、如何だったでしょうか。
 
 青龍鱗はシリウスの元へ、そしてパッフェルは逃走しましたね。
 今後の女王器を巡る争いに、パッフェルはもちろん登場致します。
 パッフェルに会いに、または討伐の為に。
 彼女の行く末を、私も楽しみにしております。
 
 次回作のシナリオガイドは近日公開予定です。
 再びに、お会いできる事を祈っております。