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リアクション
1.砂漠の変容
砂漠には所々にトゲを持った植物が生えている。サボテンではなく、トゲを持った樹木が目立つ。
空には白い鳥が舞い「テケリ・リ、テケリ・リ!」と可憐な声で鳴いている。
「……」
数ヶ月前にこの地を訪れたことがある鬼崎 朔(きざき・さく)は辺りを見回して首をひねる。
彼女の記憶では、この砂漠はサボテンすらも生えない不毛の土地であった。
「なんだかずいぶん変わったね」
足場の悪い砂漠だというのに、はねるような足取りで朔に続くのはブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)だ。彼女もまた、朔とともにこの地を訪れたことがある。
「水が湧き出したことで、砂漠全体に影響が出たのでありますか?」
スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)はドリルを使って砂漠の底の岩盤を砕いた機晶姫の一人だ。
散見される有刺植物は、どれも貧弱な枝振りではあるがほんの数ヶ月のうちに育ったとは思えないほどの範囲にわたって生えているようだ。
白い鳥も、砂漠の中に何か餌になるものがあるからこそ、ああして空を舞っているのだろう。
「ほう、そんなにも変わったのですかな」
尼崎 里也(あまがさき・りや)は腕組みをして陽炎に揺らめく地平線を見つめる。見つめているようだが、里也の細い目は何かを見つめているのかただ放心しているだけなのか判別しがたい。
「うん、前はでかいミミズとバイク振り回すおっちゃんたちしかいなかったよ」
カリンは答える。『でかいミミズ』というキーワードを耳にした途端、糸のような里也の目がほんのわずかに見開かれる。
「あれはすごかったでアリマス」
スカサハが身震いする。『すごかった』という言葉を聞いて、里也の目はさらに開く。
「むふ」
再び糸目に戻った里也は、唇の端に笑みを引っかけ、一人で何度も頷くのだった。
「なぁ、バイク振り回すって、あのバイクを振り回すのか? どうやって?」
前原 拓海(まえばら・たくみ)は、バイクを振り回す蛮族に対抗するためなのだろうか、おもちゃの車を振り回しながらカリンに尋ねる。
「なんだかよく分からないけど、バイク担いで、とやー!! って振り回してたよ」
カリンはそのときの蛮族の動きを再現してみせる。
拓海は、信じられないといった顔つきながらも、実際に相対したときのためにその動きを頭に叩き込む。
「……」
砂漠の暑さにやや疲労の色をにじませるのは拓海のパートナーのフィオナ・ストークス(ふぃおな・すとーくす)だ。拓海とはパートナー募集BBSで知り合った。拓海とは携帯でメール交換はしても、通話はほとんどしないくらい。
「……」
フィオナは何も言わない。拓海とは暑い中、余計なカロリーを消費して声をかけるほどの仲ではないからだ。
「よく分からんが、とにかくバーサーカーみたいなもんなのか」
「うーん?」
バーサーカーは、かつて森の王とも呼ばれた熊の毛皮を被った戦士の呼び名だ。熊の毛皮を被ることによって、その力が自らに宿るという宗教観を持つ彼らは、戦いの場では人間離れした力を発揮したという。
「所詮はバイクを振り回すだけの連中だ――」
つぶやく朔の言葉には、すでに殺気がこもっている。蒼空学園の生徒だから、この場所にやってきた、というだけではないようだ。
拓海は、なんとなく里也を振り返った。里也ならば豊富な人生経験からくる言葉でうまく朔をなだめてくれるのではないかと期待したのだ。
里也は、一瞬だけ拓海と視線を合わせると、カリンとスカハサを左右の腕を使って抱き寄せる。
「私たちが、盾になってやらなければいけませんな」
「はい! 朔様をお守りするのがスカサハの役目であります!」
「ボクたちが、守らなきゃだね」
憎悪によって研ぎ澄まされた刃は、それ故に危うい。
尼崎 里也は誰よりもそのことを理解していた。
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