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リアクション
7.血で編んだ鎖を引いて
駿河 北斗(するが・ほくと)は小型飛空挺にパートナーとともに乗り込み、上空から戦いの推移を見守っていた。
「ベル、ミストを」
「……」
ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)は無言でドレスの胸元をゆるめる。
「北斗、あのフィールド、砕けたら辺りをずたずたにするかも」
ベルフェンティータを氷とするなら、炎そのもののようなクリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)がつぶやく。彼女は自前の空飛ぶ箒に乗っている。
「魔法障壁だと思うけど……あのヒビの入り方まであらかじめ記述されてるよ」
魔女としての観察眼だろうか。クリムリッテは、すでに戦っている誰もが気づいていないことに気がついたようだ。
「とはいえ、目の前に壁がありゃ、砕かないわけにはいかないだろ!」
北斗はベルフェンティータの胸元からミストと名付けた光条兵器を一気に引き抜く。そして、小型飛空挺から飛び降りる。
「……バカ」
ベルフェンティータは一言つぶやくのみだった。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
重力に惹かれた北斗の体は、弾丸の速度にまで達する。地面が砂である砂漠でだけ使える戦法だ。
地上全体をカバーしていたドーヅェフィールドにも、ついに決定的なヒビが入る。
「よっしゃ!」
北斗は立ち上がり、ドーヅェの腕に切りつけようとする。
「なん……だ?」
ドーヅェを守っていた青い光の壁は、無数の破片となって、ドーヅェの体に突き刺さった。
ドーヅェの体中から、血が噴き出す。
「ガアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
獣の断末魔を思わせる声が響き渡る。青い光の破片は、まるで一つ一つが意志を持っているかのようにドーヅェの体の奥へと突き刺さっていく。
「こ、これはチャンスですよね!?」
松永 亜夢(まつなが・あむ)が混乱しながらも、アサルトカービンの銃口をドーヅェに向ける。
その瞬間、ドーヅェの身体が二回り以上も大きくなる。筋肉が、内側から膨れあがっているのだ。異常な現象であるが、その筋肉の形状も生物として不自然きわまりないものだった。まるで、昆虫の外骨格を思わせる。
亜夢は、涙目になりながらもトリガーを引く。
「悪趣味な……人体改造なんてものじゃないわね」
上空でクリムリッテでつぶやく。彼女の眼力でも、あの青いかけらが正確にはなんなのかは判別できない。かけらがドーヅェの変容のトリガーとなったことは容易に想像できる。
「なんだかよくわからないけれど、とりあえず燃やしますか」
クリムロッテは箒を急降下させる。
ドーヅェ、あるいはドーヅェだったものはまるで操り人形のような動作で両腕を空に掲げる。
「そんなやる気のないフロントバイダブルセップスがあるか!!!」
弐織 太郎が激高しながらも横っ飛びしてドーヅェの正面から飛び退く。
「ゆくゆくは新日章会に入り国益を守ると誓った、この前原拓海! この前原が! ドージェを退治してごらんに入れますッ!! って、え……あれ?」
中に向かって演説していた前原 拓海にピンク色の光線が降り注ぐ。
「ぐべぁ!」
ドーヅェビームを正面から食らって、一斗缶がへこむような悲鳴を上げて吹き飛ぶ拓海。
「後は頼んだぞー……」
吹き飛びながら、拓海はパートナーのフィオナに向かって叫ぶ。
「あらあら。お達者で〜」
フィオナは、一つの点となった拓海に向かってハンカチを振った。助ける気はかけらもないらしい。所詮は、メールをやりとりするだけの仲ということだろうか。
赤い鎖が、フィオナの頬をかすめる。
「あらあら〜?」
フィオナは鎖がかすめていった頬に触れる。人差し指がぬめるような感触がある。
ドーヅェの右腕から、深紅の鎖が伸びている。
「あ? あんな得物どこから出しやがった」
武尊が木刀を構える。
「どんだけ筋肉があろうと、アゴを狙えば!」
一気に接近し、木刀の切っ先から三寸の部分をドーヅェのアゴに叩き込む。いくら首の筋肉を鍛えようとも、武尊の渾身の力で振り抜いた木刀の一撃による脳しんとうを免れることができない。
「っが!」
ドーヅェは反射的に右腕をふるう。武尊による木刀をまともに受けながらも、深紅の鎖は木刀を固めとり、武尊の体を打ち付ける。
鎖に打ち付けられた武尊のツナギが赤く染まる。
「武尊さん!」
シーリルが悲鳴を上げてヒールを放つ。
「大丈夫だ! この鎖……」
武尊は後ずさりながらも、何とか耐える。彼のツナギを染めたのは、彼自身の血液ではない。
ドーヅェの右腕に握られた鎖だ。その鎖は血液によって編まれている。
「グガアア!!!」
武尊の一撃が効いたのか、ドーヅェは獣じみた叫びを上げて顔を押さえる。
「あれは……」
両腕を砕かれたスカハサを戦闘圏から退避させ、ようやく戦闘に復帰した里也は目を見張る。
ドーヅェの顔が、サルのそれに変わっていたのである。
「朔、カリン、どういうコトですかな?」
対外のことには驚かない里也もさすがに混乱しているようだ。
「分からない……冷静に対処しなければ」
スカハサが重傷を負ったことで、ようやく冷静さを取り戻した朔はいつも通りの口調で答える。しかし、そのいつも通りの冷静さの裏には、自分とドーヅェへの煮えたぎる憎しみが隠されている。
「里也……」
カリンがすがるような目で里也を見る。里也は小さく頷くと、朔に声をかける。
「スカハサのことは心配無用ですぞ」
「そう……じゃあ、早く倒して迎えに行こう」
朔は光条兵器を構える。柄に刻まれた朱十字紋はもはや輝いてはいない。しかし、彼女は自分の内側からわき上がる力を感じていた。
「さて、生かすために剣を振るうとしますかな」
里也がかつて復讐のため、窮極まで練り上げた剣技をふるう。目にもとまらぬ残撃がドーヅェの体に叩き込まれる。
朔もまた、光条兵器をふるってドーヅェに斬りかかる。
傷を負うごとに、ドーヅェの顔はめまぐるしく変化していく。表情ではない。顔自体が、変わっていくのだ。
「ドージェどころか人間じゃないって感じだね」
サーシャは死角から、ドーヅェの筋肉のスキマを縫うように雅刀を突き刺す。ドーヅェの顔は、巨大なネズミを思わせるものへと変わる。
「……ふむ。中々深々と刺さった、ね」
豊実はサーシャの反対側から、同じように雅刀を突き刺している。今やドージェの顔は、巨大なトカゲのものへと変わっている。
「――――――――――――――――――――――――!!!」
顔が人間のものでなくなったのか、ドーヅェは悲鳴を上げることすらできずにのたうつ。
血で編んだ鎖が、まるで命を持ったように宙を舞う。実際に舞っているのはドーヅェだ。燃え尽きようとする何かにおいたれてられるように、砂漠の上でのたうち回っている。
「――これで終りにするぞ! 最後の一斉攻撃だ」
もだえ苦しむドーヅェに、無数の炎が降り注いだ――
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