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リアクション
6.砂漠でワルツを
伏見 明子は上空から蛮族に向かってサンダーボルトを放つ。
そのたびにSPタブレットを一口かじる。明子のジャケットのポケットで携帯電話が振動して自己主張する。
「もしもし!?」
「おー、オレオレ」
明子は片手で器用に箒を操りながら携帯電話に出る。
「夢野先輩、今取り込んでるんですけど」
明子の中学時代の先輩夢野 久(ゆめの・ひさし)だ。今回の騒動に、明子を引きずり込んだ張本人でもある。
「おー、囮役ご苦労さん。こっちの準備はいいぜ」
「了解、弐識さんを降ろして後方支援に回ります!」
ドーヅェを挑発していたときとは打って変わって静かにしていた弐織 太郎は器用に箒の上に立ち上がった。
「ありがとう。では」
太郎は校門の前で級友と別れるような気安さで片手をあげると、宙に身を翻した。
「弐織さん!」
太郎は砂漠の上に着地する。その衝撃音に、ドーヅェの意識が集中する。
「いまだ!」
太郎の叫びに、砂をかぶせたシートの下に身を潜めていた学生達が一斉に身を起こす。
「偽ドージェ、校長の事業を邪魔するとは許せん! ゆくゆくは新日章会に入り国益を守ると誓った、この前原拓海! 義によって貴様を討つ!」
さりげなく個人的な野望が混じった台詞を口にした拓海は、メーザー銃型の光条兵器を構える。
「あーん、胸の谷間があせもになっちゃう!」
久のパートナーであるルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)は、胸の谷間にたまった汗を指ではじく。
「さてと、行きますか!」
宮坂 尤(みやさか・ゆう)が打刀を抜き放つ。
「よ、よし、やるぞ……」
スヴァン・スフィード(すう゛ぁん・すふぃーど)は震えながら拳を握りしめる。
「うぉぉぉぉ!!!!!」
猩 朱紅(せい・しゅこう)に至っては、両拳で自分の胸を強くたたいている。ゴリラの習性として有名なドラミングである。どの鼓動から容易に想像されるとおり、朱紅は学名Gorilla gorilla 、すなわちゴリラさんの獣人である。超感覚を使用する前からどことなくゴリラさんな雰囲気の女性だ。
「よし、タイミングあわせていくぞ!」
国頭 武尊の号令とともに、一斉に攻撃が放たれる。
武尊を始め、ほとんどの学生が爆炎波などの、炎による攻撃だ。
同時に放たれた魔力による熱は、砂漠を灼熱地獄に変える。
「……」
上空で状況を観察していた伏見 明子はすさまじい熱量によって生み出された上昇気流にあおられる箒をコントロールしながら下に目をこらす。
「先輩、敵はまだ健在ですよ!」
明子は久とつないだままの携帯電話に向かって叫ぶ。ドーヅェの体を包み込む青色の光の壁が、炎を完全に防いでいる。ドージェの体には、熱は一切届いてないようだ。
「わかってる! ところで明子」
「何ですか?」
「言えるうちに言っとく。あー……何だ、気ぃ使わして悪かったな……」
「縁起でもないこと言わないでください!」
明子は、電話の向こうの相手に向かって叫ぶ。向こうからは、苦笑が返ってくる。
「全く、冗談の通じないやつだ……一度でだめなら二度三度たたき込むまでだ」
苦笑しながら、久は通話を切った携帯電話をポケットにしまう。アーミーショットガンを近距離から放つべきだろうか。
「はーい、みんなこれ飲んでね」
ルルールが怪しい液体を配る。魔力を増強する効果のある特製スープだ。色といい香りといい、不気味な代物だが、魔法によって攻撃する者、光条兵器を使用する者は、何となく悲愴な顔をして一息にスープを飲み干す。
「……」
一人、戦列から飛び出す者があった。蒼空学園の鬼崎 朔だ。その手には、短刀型の光条兵器が握られている。その柄に刻まれた朱十字紋が朔の憎しみに呼応するかのように赤く輝く。
「朔ッチ、一人じゃだめだよ」
体内から無理矢理に光条兵器を引き抜かれたカリンは、地面に膝をつきながらも懸命に叫ぶ。しかし、その声は憎しみに突き動かされる朔には届かない。
「スカハサ、行きますぞ」
「了解であります」
尼崎 里也と、スカサハ・オイフェウスが朔を守るために前に出る。
「射線上に誰か出たぞ! フォーメーション変更だ! シーリル、合図を」
「はい!」
武尊のパートナーであるシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が光術で空にオレンジ色の光球を飛ばす。
上空から状況を観察する明子から、久へ矢継ぎ早に連絡が入る。
学生達は、訓練された兵のような素早さで新たな陣形を完成させる。朔の危険性を少しでも下げるために、数名の学生が武器を手に前へと進む。そこには、空から降下して砂だらけになった弐織 太郎の姿もある。
「もう一度、一斉攻撃だ!」
それぞれの持てる力の限りを尽くした攻撃の準備に入る。
「さて。出し惜しみもここまでにしようか」
佐野 豊実(さの・とよみ)が雅刀を構える。彼女の視線の先には、同じように雅刀を構えるサーシャの姿がある。
言葉一つ交わさなくても、通ずることがある。今がその時。
ルールルのスープによって増幅した魔力によって放たれる魔法、爆炎破、砲撃、斬撃、すべてが一つとなってドーヅェに襲いかかる。
彼を包み守護するフィールドに無数のヒビが入る。
「ヒャッハー!!」
バイクに乗った百々目鬼 迅が、その勢いを生かした右拳をドーヅェフィールドにたたき込む。フィールドのヒビはさらに大きくなる。
「刺す」
ヒビに豊実の雅刀が差し込まれる。その反対方向からはサーシャの雅刀が差し込まれている。二人は、雅刀の刀身をねじるようにしながら引き抜き、再び引き抜く。
フィールドはぼろぼろになりながらも、ドーヅェ自身は未だ全くの無傷だ。ゆっくりと拳を振り上げ、無造作とも言える動きでそれを振り下ろす。
その先には、燃えるような目でドーヅェをにらみつける朔がいる。
朔は自分に向かって振り下ろされる拳をよけようともせず、光条兵器を構える。新たなる流血の予感に反応しているかのように、光条兵器の柄に彫り込まれた朱十字紋が輝く。
しかし、朔の視界は急回転する。
「命を粗末にしてはいけませんぞ」
朔の背後から、里也が合気投げの要領で朔を転倒させたのだ。背後から里也が自分に触れたことにすら気づかなかった。
車同士が正面衝突するようなすさまじい音が響く。
「スカハサ!」
「朔様……守れてよかったであります」
スカハサがいつもと少しも変わらない笑顔で朔を振り返る。ドーヅェの拳を受け止めた彼女の両腕は、無残につぶれていた。
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