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リアクション
1.そして、屋上へ……
午後5時50分――。
アルティメットフリーが予言した通り、空京の夜空は満点の星に彩られている。
会場となる空京大学・教育棟屋上手前の踊り場では、参加者達がイベント前の最終準備にかかっていた。
そのうちの1組――閃崎 静麻(せんざき・しずま)と服部 保長(はっとり・やすなが)は、2名の他校生と密談をしていた。
2名はパートナーのクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)とクァイトス・サンダーボルト(くぁいとす・さんだーぼると)である。
短いやり取りの後、クリュティは静麻を眺めて苦笑した。
「それにしてもマスター、よく化けましたね。どこから見ても、淑女にしか見えませんよ?」
「ほっとけっ!」
静麻はあからさまに眉をひそめる。
淡く化粧を施したその姿は、黒髪のエキゾチック美女そのものだ。
だがそのスカートの下には様々な装備が仕込まれている。
「いっそのこと、その道で稼がれてはいかがでしょうか? ……という冗談はさておき」
クリュティは契約者をイジるのをやめ、クァイトスを引き寄せた。
「ではマスター。クリュティとクァイトス・サンダーボルトは、これより校舎の外で『ゴンサロ追跡』の任務にあたります」
「ああ、頼む。PMCへは俺から連絡しておく」
「傭兵と空賊、ですか?」
クリュティの表情が険しくなった。
PMCこと民間軍事会社「守護と自由の比翼」は確かに静麻のものだが、そこに所属する彼らを彼女は信じてはいない。
「所詮は寄せ集めの集団。はたして彼らは、マスターの呼び掛けに応じてくれるのでしょうか?」
「そいつも含めての『実験』かな? これは」
静麻は大げさに肩をすくめて見せた。
「さて、吉と出るか、凶と出るか……あっ! コーヒーでも持っていくか? どうせ中のもんは『ゴンサロ』持ちだ」
その後4人は細かい打ち合わせをして、別れた。
受付ではパラ実の姫宮 和希(ひめみや・かずき)が、タキシードの男と揉めていた。
「では、お客様は、御婦人ではないとおっしゃるのでしょうか?」
「そうだぜ! 俺はどこからどう見ても『漢』だろ?」
言ったとたん服装を見て、慌てて訂正する。
衣装をつまみながら。
「やっぱり『漢』、かなあ〜?」
「では参加料の5000Gを頂戴致しますが」
「い、いやそのう……ええーいい! タダ飯のためだ! 『女』だろ?」
ふと和希は顔を上げた。
ドアを開き、屋上へズカズカと歩を進める2組の淑女の姿がある。
(え? 大鋸?)
真っ赤な口紅とアイシャドーが印象的な、大柄な女性である。
ミニスカートこそはいてはいるが、モヒカンといい……何よりも、すね毛丸出しのゴツイ両脚。
あれは、男のものではなかろうか?
和希はよく見ようと、つま先立ちで凝視する。
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、問題の淑女と挨拶を交わしている。
モヒ子――そんな名が聞こる。
(気の所為、か)
和希の知っている王 大鋸(わん・だーじゅ)は『漢』だ。
孤児院の子供達のために、パラ実から空大の福祉学科に入学してしまった程の『漢』なのだ。
(そんな奴が、5000Gを惜しんで女装するはずもねぇか)
そして彼女が見守る中、モヒカンの淑女はドレスアップしたシー・イー(しー・いー)と共にドアの向こうへと消えて行った。
■
さて「モヒ子」こと女装姿の王大鋸は、シー・イーと美羽と共にイベント会場へ入って行った。
「そうそう、私が折角プロデュースしたんだからね! しゃべっちゃ駄目だよ、ダーくん」
「ははは……ありがとよ、美羽」
大鋸はひきつり笑いを浮かべつつ、「男」だとバレないように気を配りながら、会場の端を目指す。
■
会場には既に様々な目的を持つ者達が集まり、ゲーム前の和やかなひと時を楽しんでいた。
支倉 遥(はせくら・はるか)は2名のバニーガール――ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)と屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)を引き連れ、グループのメンバーと会談していた。
タイプの違う2人は成長期と貧乳という組み合わせだった。
「遥〜、胸がキツいんだよ」
成長期のかげゆがこぼして、遥に「イイことですね。逞しく育ちなさい」とたしなめられる。
ベアトリクスは羨ましげに眺めるが、胸パットを時折気にするしぐさが清純な色香を振りまいていることを、当人は知らない。
その傍で、空大生目当てに来た【百合園大学生ハンターズ】のメンバーが談笑していた。
桐生 円(きりゅう・まどか)は七瀬 歩(ななせ・あゆむ)の頬をツンツンとつつきながら、成果を尋ねてみる。
「ねー歩ちゃんー、どの人が好みなの? ねー王子様いたー?」
「うーん、というか、そもそも誰が大学生なのか分からないよね?」
コンパは私服の学生で混雑し、やはり料金の所為か女性が多い。
「円ちゃんはいいよね? 可愛さは、あたしたちの中で1番だもん!」
「えー、そんなこと! やっぱりあるかなあ?」
あはははー、と円は悪びれない。
「アルコリアさんは?」
「うーん、この中で一番の好みは歩ちゃんかなー、やっぱり〜」
牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)はすべて無視して、歩に抱きつく。
抱きゅむぎゅー。
あゆむちゃんにちかづくおとこはみんなしねばいいのにー☆ と言わんばかりの勢いだ。
円が気を利かす。
「ねー、ねー、牛ちゃん、どれが美味しいの? 食べさせてー」
アルコリアの尻をツンツンとつつく。
「やんっ、お尻とかアブノーマルなんだからぁ」
アルコリアの頬がサッと紅色に染まる。
「まどかちゃんは、これ!」
トリッパのトマト煮、口移しで無理やり押し込む。
そんなアルコリアの様子を、歩を微笑ましく眺めるのだった。
(あんまり興味ないのかと思ってたけど、よかった。1番お姉さんっぽいしお話も楽しいから、人気もでそうだしね)
で、いま一組の美少女(?)組――ラスティ・フィリクス(らすてぃ・ふぃりくす)と椎堂 紗月(しどう・さつき)は会場のただ中で戸惑っていた。
(ってか、何で俺は女装させられてんだ?)
胸パットまで詰めて、髪も解いて眼鏡まで……と、紗月は格好を盛んに気に掛ける。
真剣に悩む紗月を眺めて、ラスティは無邪気に笑った。
「あははは、可愛いぞ『サキ』ちゃん! 女子大生にしか見えん!」
一方。「仮面の男」ことクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、長身の女性と肩がぶつかっていた。
「いや、失礼! お嬢様」
クロセルはその女性――マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)の手を取り非礼を詫びる。
その紳士的な態度に、マリーは好感を覚えた。
「仮面さん、あなたも空大生でありますか?」
「いえ、俺はそういう訳では……」
正直に否定する。
(何と誠実なお人でありましょう!)
今時珍しく好青年な彼には、これしかない!
「わては【秋葉原四十八星華】のマリー・ランカスターであります! 後程『フルアーマー千代』こと装甲淑女ちゃ〜み〜のため、【僕】として熱湯風呂コマーシャルに挑戦するであります。よろしくであります!」
「はあ、よろしく……」
「時に、わてに何かご用でも?」
「あ? ああ、ゲームのルールが分からなくてですね。困っているのですが……」
「ほほう、ゲームでありましたか!!」
そうしてクロセルは、やけに親切にルールを指導してもらうのだった。
【逆転かしまし男娘】のメンバーはバーティー会場の端に立っていた。
ルディ・バークレオは5000Gを払い、なぜか教導団男子制服での参加であった。
「俺が女なんて……死にてぇのか? ……って、こんな感じかしら♪」
傍らの麗人はリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)だ。
蒼いロング丈のチャイナドレスに深いスリット、黒のストッキング、付け毛には銀の櫛と花を飾り……つまり「女」にしか見えない。
対する島村 幸(しまむら・さち)も、ダークピンク色のミニスカに黒上着というセクシーなスタイルではあった。
が、どう見てもかっこいいお兄さまにしか見えないのは、なぜだろう?
「そんなことを言うのは、この口ですかっ!」
ゲームマスターは両頬を思い切り引っ張られた。
……失礼致しました、マドモアゼル。
「それで、よし!」
幸はゲームマスターの両頬を離すと、ワイングラス片手にメールのチェックをはじめた。
「パルメーラ」という文字がある。
「パルメーラからのメールか?」
ルディが覗きこんだ。
昼間メンバーで校内を歩いていた際に会った時の、彼女の不安そうな様子が思い返される。
「とはいえ、報告はいつでも出来ます。いまは実行あるのみですね」
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は【秋葉原四十八星華】の面々に囲まれ、厚く礼を言われていた。
「ありがとうございます! クローディスさん」
空大ということで安心していたが、熱狂的なファンはどこまでもしつこく彼女達の後を追いかけてくる。
「あーあ、やっぱりこんな格好してたからかな?」
ファンに襲われた【ビキニアーマー愛用者】ことカロル・ネイ(かろる・ねい)は、右によじれた衣装を整える。
「でも、ほら! 今日びのアイドルは営業力がものを言うからね!」
さー、行くぞ! と元気に行ってしまった。
ラルクはオールバックの男を見た。
「そろそろストーカー対策を考えた方がいいかもな?」
「ああ、まったく! 貴殿の言う通りですな!」
ラルクの言に、プロデューサーのセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)は頭をかく。
「『まだまだ新人さ』などと。アイドルの世界には通じないものですな」
「だが、油断さえしなければ何とかなる!」
グループの頭脳(ブレイン)・夜薙 綾香(やなぎ・あやか)が反論した。
「現に、我がグループは宣伝活動をしつつも、ゴンサロの野心を砕くべく出向いてきた訳なのだから」
メンバーは頷く。
「ラルクさんも、そうなんでしょ?」
彼女達の言に、ラルクはいやと首を振った。
「関係ねぇな。俺は空大生だ。コンパで飲んで食って騒げりゃ、それでいーぜ。5000Gも払ったしな」
「そーなんですか……残念です」
彼らのやり取りをよそに、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)に口移しでグイグイ酒を飲ませている。
暫く話し込んで、【秋葉原四十八星華】とラルクは別れた。
ほどなくして【秋葉原四十八星華】は夜薙 綾香を囲み、作戦会議を始める。
「【女王様】役が互いを指名しあって、潰し合わないように! とはいえ、【6】番と【10】番は難しそうだが……」
その声を聞き流しつつ、ラルクはゴンサロに近づく男達を眺めていた。
(飲んで食って騒げりゃ、とは言ったが、ああいう輩は目障りだぜ)
男達――国頭 武尊(くにがみ・たける)と南 鮪(みなみ・まぐろ)はゴンサロと数分会話した後、立食テーブルの方へ去って行った。
ゴンサロの満足そうな様子から、何やら彼に都合のよいことを相談したことは明白だ。
鮪はともかく武尊は要注意だとラルクは睨む。
(奴ぁ、王ちゃんのことを『パラ実の裏切り者』だと考えているようだしな……)
小脇に構えたカメラも、「自分は単なるカメラマンだ」と言わんばかりのカモフラージュに違いない。
(王ちゃんに、何もなきゃいいんだが……)
曲が変わった。
■
アップテンポの曲の中、大鋸とシー、そして美羽は会場の中央に目を向けた。
満点の星空の下、スポットライトがマイクスタンドに当たる。
(はじまる……)
大鋸はそこに立つ、白いタキシードの男を燃える目で見据えた。
(『女衒のゴンサロ』――)
お前の思い通りにさせるものか! グラスを持つ手に力がこもって、パリンッと砕け散る。
だがゴンサロは卑屈な笑みを浮かべただけで、観衆に向けてシャンパングラスを掲げる。
そして主催者として高らかに「女王様ゲーム」の開始を宣言するのだった。
「Welcome to the hell! さあ、ゲームをはじめようぜぇっ!」
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