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2020年夏祭り…妖怪に変装して祭りに紛れ混んじゃおう!

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第6章 大切な人たちとのひと夏の思い出

「綿飴にミカン味や青林檎味があるのか。どれがいい?ソニア」
 猫男に変装したグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は、女郎蜘蛛の綿飴屋で買ってやろうと、浴衣を着た猫娘の姿のソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)に選ばせる。
「青林檎の味にします」
「混んでるから他のヤツに綿飴がつかないようにするんだぞ」
「ありがとうございます。―・・・はむっ、さっぱりとした甘さで美味しいです!」
「そうか、よかったな。他のところも見てみるか。ナタクは何か買わないのか?―・・・どうしたんだ?」
 話しかけても上の空の李 ナタの肩を、グレンがぽんっと叩く。
「ん?ぁあ、そうだなぁ。何か美味いもんでもねぇかなー」
 グレンと同じく猫男の格好をしたナタクは、気を紛らわせようとするかのように屋台めぐりでもしようと歩く。
「―・・・灰色のショートヘアに・・・薄茶色の眼・・・まさか・・・」
 そんなナタクの傍ら、グレンが驚きのあまり目を丸くする。
「おいナタク・・・いたぞ」
「へっ?いるわけないって・・・えっ!マジかよ!?よーし・・・」
 あの顔立ちは今度こそ本物だと確認したナタクは、虎女の姿の彼女の背後へそっと近づく。
「ぷっ。・・・テメェもこんなのに引っ掛かるんだな♪よっ、久しぶり!」
 彼女が肩を後ろから叩き振り返ったところを、つんと人差し指で頬をつく。
「小僧・・・気安くあたしに触んじゃねぇえ!」
 ムッとした彼女はキッと鋭い目つきでナタクを睨み、ゴスッと腹に1発くらわす。
「イッてて!そう怒るなって」
 ナタクは出会い頭に殴られても相手にへらっと笑ってみせる。
 手を叩かれたことにまったく怒らず、それよりも無事な姿を見れてほっとしたのだ。
「こんばんは・・・董天君さんもお祭りに?」
 怒り顔の董天君にソニアが挨拶をする。
「べっつに。ただの気まぐれだ」
「董天君・・・俺達と一緒に祭りに参加する気はないか・・・?」
 まだむすっとした顔をしている董天君をグレンが祭りに誘う。
 彼女の方は姚天君のところに行かせないよう阻んだ3人を憎んでいるが、彼女はただの残虐非道な女ではなく、仲間のために怒り必死になれるいいヤツだと思ったグレンたちには敵対する理由はない。
「はぁ?何で敵と遊ばなきゃなんねんねーんだよ。それよりも、他のヤツらも祭りに来てるんだろ?あたしのこと知らせなくていいのかよ」
「たしかに来ているかもしれないが、俺たちは知らせに行くつもりはない・・・」
「へぇーあたしを殺したいほど憎んでいるヤツに、逃がしただなんて知れたらどうなるんだろうな?」
「前に俺たちに“裏切り者になるか?”と訊いたな?」
「ここで逃がしたら完璧にそうなるんじゃねえの?」
 グレンの問いかけに董天君はフンッと笑い飛ばし睨む。
「あぁそうだ・・・誰かを助けるためならなってやるさ・・・。裏切り者にな・・・」
「―・・・・・・」
「董天君、俺と勝負しようぜ!」
 ナタクは訝しげにグレンを無言で睨む董天君の手を掴み、金魚掬いの出店へ強引に引っ張り勝負を持ち掛ける。
「おいっ、この野郎!あたしに障んじゃねぇっつただろうが、離しやがれ小僧!」
「俺が勝ったら今後、俺のことを名前で呼んでもらうからな!」
 董天君の手を離し金魚掬いのポイを持たせる。
「―・・・どうする?まあ・・・ナタクに勝つ自信がないのなら・・・無理にとは言わないが?」
 ナタクと勝負させようとグレンは董天君をわざとらしく挑発する。
「フンッ。そんな言葉で、あたしが勝負してやると思ってんのか?」
「董天君さんが勝ったら今日1日、ナタクさんを好きにしてもいいですよ?」
 グレンに続きソニアが気を惹くそれらしい言葉を言う。
「―・・・ふぅん。あたしが勝ったらいいんだな?」
「えぇ、どうぞ好きなように扱ってください」
「だったら砂袋にでもしてやるぜ」
「勝負はこれを含めて3回です。使用ポイは1個までですから破けたらそのまま使うか、無理ならギブアップ宣言してくださいね?1分間金魚掬い、始めてください!」
 ソニアはホイッスルを鳴らし、ストップウォッチで計る。
「ちっ、ポイが破けちまった」
 開始から10秒経過した頃、ナタクのポイが金魚に破られてしまった。
「それじゃあ使い物にならねぇな」
 ポイを少し斜めに傾け、器に20匹掬っている董天君が勝ち誇ったように言う。
「へっ、それはどうだろうな。これでもまだ使えるんだぜ?」
 器用にポイの端っこを使って金魚を掬い、水に落ちる前にひょいっと器に投げ込むように入れる。
「そらそらそらぁあーっ」
「小僧なんかに負けてたまるか!」
 互いに負けるものかと金魚を掬いまくる。
「はい終了ですっ」
 終了の合図を出し不正がないようにソニアは2人の器を素早く取り上げる。
「私が数えますね。―・・・2匹差で董天君さんの勝ちです」
「あーっ、ちくしょうっ。後もうちょいで勝てたのか」
「フンッ。このあたしに勝とうなんざ、2千万年早ぇえぜ」
「じゃあ次は射的だ!」
 今度こそはと銃にコルクをぎゅーっと押し込み掴み挑む。
「落としづらい景品は、落としやすいやつの10個分相当とする。勝負は5分間だ、始め・・・っ」
 今度はグレンが開始の合図を出す。
「よし、落としたぜ!」
 ナタクはドロップの缶に銃口を向け、コンッと撃ち落とす。
「なぁんだそんなのを狙うのか?あたしは大物を狙ってやる」
 銃にコルクを詰めた董天君はシャチのぬいぐるみを狙う。
「失敗か。まぁいい、もう1度撃ってやる。外しただと!?ちっ、今度こそ・・・。このっ、このぉおっ!全然落ちねぇぞ、どうなってんだ!?」
 何度撃ってもポンッと軽く当たるだけで、ぬいぐるみはびくどもしない。
「まだチャレンジするかね?」
「当たり前だ!」
 ぬりかべからひったくるようにコルクを掴む。
「―・・・落ちねぇええ!」
「おいおい、別の狙った方がいいんじゃね?」
「うっせぇえ、黙れ小僧ーー!!」
 董天君はガォオッと虎のように凄まじい威圧のオーラをナタクに発する。
「終了だ・・・。この勝負・・・、数を数えるまでもないな」
 大物狙いでいった董天君より、数で勝ちを選んだナタクの方が勝っていると、誰が見ても明らかな結果が出た。
「俺が本気を出せば、ざっとこんなもんだぜ」
 勝ったナタクは得意げにケットシーの髭を引っ張る。
「次は輪投げにするか。ちょうど空いてるし、やろうぜ」
 人魂の輪投げ屋を見つけ、董天君の手を無理やり引っ張って連れて行く。
「一々あたしの手を掴むんじゃねぇえ!」
「仕方ねぇだろ!混んでるんだし、逸れたらどうすんだ。おーい50ずつ個くれ」
 栄螺鬼に輪をもらい、受け取った半分を董天君に渡す。
「手持ちの輪がなくなったら終了です。では、始めてください!」
 ソニアが開始の合図を出す。
「先行はもらうぜ、おらぁああ!」
 董天君はシュシュシュッと輪を人魂に投げまくる。
「やったぜ、奥の50点に入った!」
「んなぁ!?くそっやるなぁ。でも負けねぇぜ、次は俺の番だ!」
 絶対勝つぞと意気込み、ナタクはふよふよと浮かぶ人魂に輪を投げ入れる。
「あーっ、ミスった!―・・・ふぅ、もう終いか。んぁあー、やべぇえ!!あそこでミスらなきゃ・・・ちくしょうー」
「得点を発表しますね。勝ったのは・・・・・・・・・ナタクさんですっ」
「ぉおお・・・やったぜぇえ!」
「はぁあ!?このあたしが小僧に負けただと!」
「董天君さんはマイナス10点のところに入れてしまったので10点差です」
「小僧なんかにっ」
「ほらほら、そうじゃなくて名前!」
 悔しそうにする董天君にナタクがニッと笑う。
「くっ・・・、うぅっ・・・・・・。ナ・・・ナタク」
「ナ・・・何だって?小さくて聞こえないぞ」
「―・・・ナタク!」
 ナタクの腹を殴りつけ、広場から出ようとする。
「げほっ。(そんなに悔しかったのか?それとも恥ずかしいのか?)」
「手助けが必要な時は・・・いつでも俺たちに連絡してくれ・・・。“誰かを傷付ける”以外のことなら力になる・・・信じてもらえないだろうが・・・」
 広場を出ようとする董天君に、グレンが自分たちの携帯の番号とメールアドレスを書いた紙を渡す。
「―・・・さぁ?あたしは十天君の1人だからな。どこで何するか分からねぇぜ?貴様らを騙すかもしれないしな」
「嘘をつくようには見えないが・・・」
「勝手に言ってろ」
 フンッと笑い飛ばした董天君は、渡された紙を持って広場から出て行く。



 地元の福島県にも妖怪がいたと聞いたことがあるという伊礼 悠(いらい・ゆう)は祭りに来る数時間前に調べた。
 その結果は彼女には人間と変わらないように思えた。
 和服に着替え亀姫の格好をして祭りへ参加しにやってきた。
「人と変わらないように見えますね。あの女の方も妖怪なんでしょうか?」
 葛餅を箸でつまんで食べようとしている着物姿の女をじーっと見つめる。
「えっ、えぇえ!?頭に口が!!」
 飾りだと思っていたのがガバッと開き、そこへ葛餅を放り込むように入れてむしゃむしゃと食べる女を見た彼女は、驚きのあまり目を丸くする。
「おや。そんなに不思議ですか?あなたも妖怪なら私のことをよく知っているはずでしょう?」
「あ・・・えーっと・・・二口・・・女さん?」
「えぇそうです。知らないような感じに見えたので、他の種族が紛れているのかと思ってしまいました」
「あは・・・あははっ。いやですね、そんなはずないじゃないですか」
 来たばかりなのにここでボロを出して、化かされて帰るはめにならないように無理やり作り笑顔をする。
「それならいいんですけどね。もし他の種族の方でしたら・・・。丸呑みにするところでした」
「まっ丸呑みですか!?」
「冗談ですよ、冗談・・・。お祭りの場ですし、いたとしてもそのような真似はしませんよ」
「―・・・じょ冗談でしたか」
「じゃあね、亀姫さん」
 二口女はふりふりと片手を振って、悠から離れていく。
「はぁ・・・驚きました。寿命が縮まりそうな思いをするってまさにこのことですね・・・」
「冷たい飲み物を買ってきたぞ悠」
 隠神刑部狸に変装したディートハルト・ゾルガー(でぃーとはると・ぞるがー)は、悠のために屋台で買ってきた正体不明のジュースを渡す。
 彼の格好は悠が必死に似合う妖怪を探した結果、長髪の白髪のかつらを頭に被り、口や頬につけ髭をして動物のつけ耳をした姿だ。
「ありがとうございます、ディートさん。ふぅ・・・深夜でもこの混み方だと少し暑いですからね。冷たくて美味しい・・・何味ですか?」
「すまん、分からないんだ。すぐ作れるのがそれしかなかったらしい・・・」
「え!?な・・・なんですか、この色!飲んで大丈夫なんですか!?」
 緑色と黒色が渦を巻いているような、奇妙な色のジュースを飲んでしまった悠は、カップを持つ手をガタガタと震わせる。
「あれ・・・、私の肌が・・・?緑と黒のまだら模様になっていくんですけど!?あぁあっ、こんなんじゃ学校に行けませんっ!」
「数分で元に戻るから心配しなくても平気じゃ」
 慌てる悠に売主の白粉婆が、すぐに元に戻るから安心しろというふうに声をかける。
「そ、そうでしたか。あ、肌の色が元に戻っていきます」
 元の肌の色に戻り、彼女はほっと息をつく。
「他の屋台も見てみましょう。―・・・懐かしいお店があります!結構並んでますね」
 ディートハルトと逸れないように裾を掴んだ悠は型抜き屋へ行く。
「んー皆さん、結構失敗してますね。そんなに難しいんでしょうか?ちょっと見てきます」
 列は彼に並んでいてもらい、に絡新婦の姿の豊実が描いている絵を覗いてみる。
「へー・・・お上手ですね。(どれも型抜きが難しそうです)」
 型には濡れ女の髪まで細かく描かれた絵や、アンサーが描かれている。
「ふふ・・・そう?出来合いのがあるけど、少し待っててくれれば絵のリクエストも受けるよ」
「じゃあ一反木綿を描いてください」
「一反木綿ね、分かった。君の順番が来たら渡すね」
 注文を受けた豊実は、メモに書いておく。
「えっと次のリクエストは・・・これだね」
「(さすが絵師だけあって手馴れたもんだぜ。つーか資料も見ずに、よく描けるな)」
 豊実が一反木綿を描く姿を久は関心したように見つめる。
「―・・・順番が来ました!」
「この針で型を割らず抜き取れば景品がもらえるって遊びなのは知ってるか?」
「はい、知ってます」
 久に型抜きの仕方を知っているか聞かれ、悠はこくりと頷く。
「じゃあ型と針をここに置いておく。制限時間はないから慎重にな」
「分かりました。ディートさんも隣で一緒にやりませんか」
 悠はテーブルの上に置かれた針を手に取りディートハルトを誘う。
「型はこの描いてあるのをいただいてもいいですか?」
「いいよ」
 大首を描いた型を豊実が悠に渡す。
「ありがとうございます。このいただいた型を割らないように抜くんですよディートさん」
「この針を使えばいいのか?」
「そうです。あっ御代を渡さないと・・・、はい!」
「まいどあり」
 悠は袂の財布を取り出し、久に代金を手渡す。
「結構難しいですね」
 針を使い彼女は慎重に型抜きをする。
「髪のところが難しい・・・割れてしまったか」
 カリカリと削っている途中でディートハルトが型をパキッと割ってしまう。
「残念でしたね・・・ディートさん。―・・・出来ました!」
「おっ、出来たか」
 欠けているとことがないか、久が抜いたやつをチェックする。
「どれどれ・・・ちゃんと抜けているな。よし景品だ受け取れ」
「ありがとうございます、何が入っているんでしょうね。ラムネとヨーヨー・・・それと抹茶の飴ですね」
「今飲むか?」
「えぇそうします」
「どれ開けてやろう」
 ディートハルトはラムネがこぼれないように、ゆっくりと開ける。
「いい感じに冷えて美味しいですね」
 彼に開けてもらいシュワシュワと音を立てるラムネを飲む。
「他のところも見てみましょう!」
 悠は彼の裾を引っ張り、他の屋台を見てみようと走る。



「いろんな屋台がありますね」
 超感覚で犬耳と尻尾を生やし、犬を模した面を被って犬神になりきっているレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は屋台を見て回る。
 和服姿だが普通の袴の裾より広いやつを着てやってきた。
「何であたしがこんなの着なきゃならねぇんだよ・・・ちくしょう・・・」
 火炎猫の変装をしているウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)は赤い髪の毛を下ろし、何故かゴスロリを着せられている。
 顔を俯かせ赤面しながら、火車に見えるように飾った荷車をひきいている。
「ふむ・・・色々出店がありますね・・・綿飴・・・たこ焼き・・・焼きそばにあんず飴?・・・どんなのでしょう?」
 レイナは3人分買って2人に渡す。
「おっ、美味そう!」
 受け取ったあんず飴らしきものを、ウルフィオナはさっそくぱくつく。
「ありがとうございます、お嬢様」
 自前の猫耳と作り物の尻尾に加え、もう1本尻尾をつけて猫又に変装したリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)の服装は、丈が短くミニスカのように裾の広がった着物、長い足袋と草履を履いた格好だ。
 いっきに食べるウルフィオナと異なり、リリの方はもらったあんず飴を上品に食べる。
「何だ?何か腹の中からこう、シュワァシュワァアーッて炭酸みたいな感じがするぞ!」
「あら本当ですね。それになんだか少し身体が冷えて涼しくなった感じがします」
「看板にこれは飲み物ですって書いてありますね」
 レイナはあんず飴らしきものを買った店の看板を見ると、かっこ書きでそう書いてある。
「固形の飲み物かー。他にはどんなのがあるんだろうな!おーいレイナ、あれ食ってみようぜ!あっちのも美味そうっ」
 荷車を引きながら走り、服の恥ずかしさを忘れたウルフィオナは暴走し始める。
「まったく、お嬢様を差し置いてあそこまではしゃげるなんて・・・コレだから駄猫は・・・」
 そんな彼女を見てリリは、はぁと嘆息する。
「あ゛!?何か言ったか!」
「地獄耳ですね」
「何か文句でもあるのか?祭りに来て食べたいもん食べて何が悪いんだ!?」
 ムッとした顔をしたウルフィオナが、リリにズンズンと詰め寄る。
「連れてきてくださったお嬢様を差し置いて、あのような暴走行動は言語道断です!」
「祭りに来た時くらい、いいじゃねぇかっ」
「いけません」
「何ぃいいっ」
「ジャぁ・・・いつものことですが毎度毎度よく飽きないものです・・・」
 ジャガバターを食べるか聞こうと、ウルフィオナと尻尾を上げて怒るリリの方へ振り返ったレイナは嘆息した。
「2人とも、そのあたりにしてそろそろ止めたらどうですか?それ以上、喧嘩すると何も買ってあげませんからね」
 ぎゃぁぎゃぁと言い合いをする彼女たちの頭にぽんっと手を置きぐしぐしする。
「そっそれだけは簡便してくれーっ!」
「あぁあっ、お嬢様。ワタシとしたことが申し訳ありませんっ」
「分かってくれればいいです」
「(ふぅー危ねぇ。このままろくに何も食べられずに帰るところだったぜ)」
「(ワタシとしたことが、つい駄猫なんかにカッとなってしまいました)」
 レイナの許しをもらった2人はほっと息をつく。
「さっきはあんず飴みたいなのを食べて少し涼しくなりましたけど、なんだかまた暑くなってきましたね」
「お嬢様、カキ氷屋がありますよ」
「行ってみますか」
 少しでも涼しくなろうとレイナはリリが見つけたカキ氷屋へ行く。
「へぇー、あぁやって作ってるんですね」
 そこへ行くと雪女が吹雪で水を一瞬で凍らせてカキ氷を作っている。
「いらっしゃい。何にしますか?」
「えっと。苺のカキ氷を3つお願いします」
「かしこまりました」
 そう言うと雪女は氷の刃で苺を刻み、苺のシロップをかけたカキ氷の上へトッピングする。
「はいお待ちどうさま、犬神さん」
 ひんやりと冷たい冷気を纏ったカキ氷もらう。
「甘酸っぱくて美味しいですね」
「混んでて少し暑いのに、なかなか溶けませんねお嬢様」
「うんめぇーっ。くぁあーっ!頭がっ、キーンときたぁああっ!」
 ばくばくといっきに食べたウルフィオナは、大声を上げて頭を抱える。
「(まったくこの駄猫は。1度に沢山食べるからそういう目に遭うんです)」
 彼女を横目で見てリリは嘆息する。
「向こうに焼き鳥が売ってるぜっ」
「はいはい。今買ってあげますから、そんなに急がないでください」
「おー、すげぇえ。肉が空中でさばかれてるぜっ」
 イベタムが自身の刃で、鳥肉をさばく姿にウルフィオナは目を輝かせる。
 それを鳥のような姿をしたふらり火がゴォオウと紅の炎で焼いていく。
「火炎猫か?何か妙な格好してんな?」
「あっ、これは・・・ちょっとしたイメチェンだイメチェン!」
 ここで無言になったら怪しまれると思い、恥ずかしさを我慢しながら堂々とした態度で言う。
「ほぉう。そうなのか?」
「そうだ、気にすんな!」
「さっさと肉を串にさせイベタム。客を待たせんなボケ。ドロドロに溶かされてぇのか?」
 ふらり火は彼の周りを旋回し、挑発するように言う。
「うるせぇえ、オレ様が出来ると思ってんのか!?イペカリオヤシの仕事だろうが」
「そいやぁ、あいつどこだ?」
「何か・・・作り置きの食べているんですけど」
 レイナが指差す方を見ると、イペカリオヤシがこっそり店の品の焼き鳥を食べている。
「こんの野郎ーっ。さぼって食ってんじゃねえ!」
「あちゃーっちゃっちゃ!ごめんよぅう、つい腹が減ってさぁ」
 ブチキレたふらり火の炎でイペカリオヤシはお仕置きをくらい手を焦がされる。
「てめぇをさばいて売るぞこの野郎!」
「うぁーんやめてイベタムー。もうつまみ食いしないよぅー」
 謝りながら彼は焼けた鳥肉を急いで串に刺す。
「お待ちどうさまー」
「どうも・・・。(派手な喧嘩でしたね)」
 レイナは出来たての焼き鳥を受け取る。
 リリの方は壮絶な光景を目にし、唖然としている。
「焼き鳥ですよリリ」
「あっ!ありがとうございます」
 彼女から焼き鳥を渡された頃には、すでにウルフィオナが何本も焼き鳥をたいらげている。
「熱々で美味しいですね」
「えぇそうですね」
 他のところも見てみようと、レイナたちは時間いっぱいまで祭りを楽しむ。



「雪女だから熱い食べ物は食べられないんだよね。どうしようかな・・・」
「林檎飴がありますよアヤ」
「普通の林檎飴なのかな?3つください」
 綺人がのっぺらぼうから買ってみる。
 化粧で肌を白くし、受け取る時も氷術で手から氷の結晶を出し、雪女だというふうに表現する。
「顔があるね?」
「そうですねアヤ。食べても平気なんでしょうか?」
 ここへ来る前に瀬織に綺人は、クリスが呼ぶようにアヤと呼ぶように言っておいた。
 眉を潜めて林檎飴を訝しそうに見る。
「きゃぁあ食べるの!?」
「今、誰か何か言った?」
 突然悲鳴が聞こえ、綺人は2人に聞くが彼女たちは言っていないと首を左右に振る。
「やめてっ!」
 食べようとするとまた声が聞こえてきた。
「この林檎飴が言ってるんだね・・・」
「どうします?アヤ」
 クリスは食べづらそうな顔をする。
「どうするって、捨てるわけにはいかないし・・・」
「鳥や豚と一緒だと思いなよ。ていうかオレっちたちはそう思って食べてるけど?」
 のっぺらぼうは3人に食べるように勧める。
「大丈夫だって言うし、せーので食べようか。せーの・・・」
 意を決して綺人たちは同時に食べる。
 “わきゃぁああーっ!!”という林檎飴の絶叫が周囲に響き渡る。
「いけますね、これ」
 林檎と変わらない食感で、たっぷり蜜が入っているような甘い味に、クリスが夢中で容赦なく食べる。
「あれアヤ、食べないんですか?」
「たっ食べるよ。(うーっそんな目で僕を見ないで!)」
 目を潤ませる林檎飴の視線を逸らしぱくっと食べた。
 2人が食べるのを見て瀬織も食べきる。
「次はもっと普通のにしよう・・・」
「水風船がありますよ」
 瀬織が綺人の袖を引っ張る。
「ここ?食べ物みたいだけど」
「そーだぜ。ここでは釣りたてを食うんだ。刺身としても食えるから雪女でも大丈夫だぜ」
「やってみようかな」
 今度は海坊主がやっている水風船魚の屋台で、綺人は釣って食べることにした。
「釣れるかな・・・」
 店主から釣竿を貸してもらい、椅子に座ってじっと待つ。
「浮きが沈みましたよアヤ」
「アヤ、引いてます!」
「結構引っ張られるねっ」
 クリスと瀬織に言われるが、焦らずゆっくりリールで糸を巻く。
「釣れた!」
「ほぉう。そいつぁ河豚と同じ味がするんだぜ。といっても皮とヒレ、身だけで泳いでいるようなもんだから毒はないけどな。その口からストローで吸うんだ」
「食べてみたいです・・・」
「じゃあどうぞ」
 瀬織に水風船魚とストローを渡す。
「口の中で身みたいになってきますね、ちゃんと食感もあります。ごちそうさまでした」
「美味しかった?」
「はい」
 満足そうに瀬織はティッシュで口を拭く。
「カキ氷屋へ行きましょうアヤ」
 クリスは頭の鈴をリンリンと鳴らして走る。
「うん。行ってみようか」
 綺人たちはカキ氷屋の前に行き注文する。
「僕はグレープフルーツのカキ氷だよ」
「私のはフローズン果実のオレンジをカキ氷にしたパフェ風のカキ氷です」
「私も同じやつです」
「あっ、あの子・・・ユーリが言ってた子かな?ねぇこれ、ユーリに貸してくれた子だよね?」
 カキ氷を食べようとすると、通りがかった座敷わらしの格好をしている睡蓮を見つけて、綺人が声をかける。
「たしかに私がソーイングセットから渡したやつです」
「ありがとう、おかげで助かったよ」
「いえいえ。それくらいたいしたことじゃないですし、困った時はお互いです」
 針山に刺した状態のマチ針や縫い針、残りの糸を入れた手提げ袋を綺人から渡してもらい、少女はニコッと微笑む。
「よかったらカキ氷を食べない?お礼に買ってあげるから」
「いいんですか?」
「うん、何がいい?遠慮しなくていいよ」
「えーっとですね。100%の林檎ジュースをカキ氷にして、フローズン果実の苺を乗せたやつをお願いします」
「分かりました、今作りますね」
 本物の雪女が冷たい冷気で凍らせたジュースでカキ氷を作る。
「はい、召し上がれ」
「ありがとうございますーっ!冷たくて美味しいですっ」
 綺人に渡されたカキ氷をスプーンですくって食べる。
「よかったな座敷わらしの睡蓮」
 美味しそうに食べる少女の頭を、唯斗が優しく撫でる。
「いいのぅ睡蓮」
 エクスが欲しそうにかき氷を見つめる。
「どれがいい?」
「いっ、いいのかう唯斗」
「通りがかったついでだから」
「では氷苺にアイスやクッキー、ビスケットなどでトッピングしたやつがいいのぅ!」
「それで頼む」
「はい。―・・・出来ましたどうぞ」
「ぉおっ、なんともお洒落なグラスに入っているのぅ。―・・・うむっ、最高じゃ!」
 パフェのようにグラスに入ったカキ氷を嬉しそうに食べた。
「それじゃあ俺はこれで失礼する」
「ごちそうさまでした!」
 睡蓮は綺人たちに手を振ると、唯斗たちの方へ駆け寄っていく。



「あっちの射的はちょっと変わってるようじゃな、行ってみるかのう?」
 エクスたちは舞首が頭に点数番をつけて浮いている射的屋を見つけて向かう。
「当てた点数の合計で景品が変わるぜっ」
 小三太の方がエクスに説明する。
「ほほぅーそうなのか」
「ちょっとやってみるか」
 唯斗はペイント弾の銃口を的に向けて撃つ。
「外れだごらぁあっ!」
 ごぅおっと悪五郎は口から火を吐き、放たれたペイントが的に届く前に消滅させる。
「あー!酷いですよっ」
 睡蓮が抗議の声を上げる。
「黙りやがれ小娘!オレ様たちがルールなんだぜ、ぎゃっははは」
「むむっ!こうなったら1点でも点数をとってくださいっ、鬼の唯斗兄さん」
 ゲラゲラと笑う又重に少女は、ぷぅっと頬を膨らませる。
「くっ。この・・・」
 地面へ転び唯斗は台の傍から狙う。
「ぐぁっ!やりやがったなっ」
「こうして手元を隠してしまえば、どこへ向けて撃つか分かりづらくなる」
「ちくしょうが、これ以上取られてたまるかっ」
「そこっ、避けるのが遅れている・・・」
「また当てやがったなぁあ!」
「―・・・ふぅとりあえずこんなものか。的が動く上に炎で防がれては、なんとも当てづらい」
 炎で妨害されながらもなんとか13点取った。
「点数分とっとと持って行きやがれ!」
 舞首が悔しそうに大声を上げる。
「好きなのを選ぶといい」
「そうですね・・・こっちのは5点、あの天女の羽衣みたいな衣装は50点ですか。うーん、この鬼火の形をした抱き枕にします!」
 唯斗に点数分選ばせてもらい、睡蓮は抱き枕を嬉しそうに抱きしめる。
「食べるのもいいですけど、遊んで景品がもらえるのもいいですね」
 他の遊べそうな出店がないか探しに歩く。



「フーッフフフ。だいぶ盛り上がっているようなのだ。しかぁあーしっ、このままでは面白くないのだっ!」
 煙は不敵な笑みを浮かべ、拡声器にスイッチを入れる。
「皆様、ここで重大発表なのだ!何とこのお祭りに人間が変装して混ざって楽しんでるという情報が入って来たのだ!」
 空気を振動させて広場中に響く。
「だけどただ人間を見つけて化かすってのは面白くないので、ルールをつけて妖怪1体につき1人まで人間かどうか確かめられるってのはどうなのだ?」
「人間だと?強化人間と地球人がか?」 
 鬼火が疑問符を浮かべたような声音で言う。
「そぉおーなのだっ!あまり名が知れ渡ってない妖怪も、結構有名な妖怪まで慎重に確かめるといいのだ!最終的に人間だとばれなかった人は一緒にお祭りを最後まで楽しめると言うことでよろしくなのだ」
「本当かー?」
「信じられないけどなぁー」
 妖怪たちは訝しいげに思いながらも地球人と強化人間を探し始める。
「もし嘘だったら今の声のやつ、とっちめてやろうぜー」
「それいいね、賛成ー」
 冗談なのか彼らはそう話しながらゲラゲラと笑う。
「聞きました?九尾狐の煙様。もし誰もばれなかったらその時は九尾狐の煙様が、きっと煮て焼かれて・・・その先は黙っておきましょう」
「うっ・・・だ大丈夫なのだ、大丈夫・・・なのだ」
 嘘だったらとっちめるという言葉に、煙は顔面を蒼白させる。
 その発信源を発見した天代は、物陰で見ている。
「(あわわっ、これは大変な現場を見てしまいました。というかめくるめく笑いの予感しかしないんですけど・・・)」
 彼が墓穴をほるんじゃないかとじーっと様子を窺う。
「(1人で来ている人は狙われたら、庇ってくれる方がいなさそうですよね・・・。て、我輩も1人じゃないですかっ!?)」
 隙間妖怪になりきっていはいるものの、見つけられたらどうしようと慌てる。
「(はっ!妖怪が1人の人に近づいていきます)」
 彼女の視線の先にはニサトに接近する鬼がいる。
「おい、お前は本当に化け狸か?」
「は?そうだけど。見て分からねぇのか?」
 ニサトは眉間に皺を寄せて鬼を睨む。
「ほぉう。だったら何かに化けて見せろよ。今ここで!」
「ここで!?」
「どうした?化け狸のくせに、何も化けられないのか?」
「(ま、まずい。本当に化けることなんて出来ないぜっ!だがここで誤魔化させなかったら、化かされちまうっ)」
「ほらどうした、やってみろ」
 なかなか化ける気配のないニサトを鬼が急かす。
「さっき九尾狐が拡声器を使って、この祭りの中に人間が紛れていると言った。もしかしてお前、人間じゃないのか?」
「(誰がそんなはた迷惑なことをっ!)」
 ニサトは焦りながらもばれないよう冷静に対応しようと、どうやって化けたふりをするか考える。
「よ、よし。今から化けるから見てろよ」
 後ろに隠したドライアイスの袋を、鬼に見つからないようにゆっくりとおろし、水を入れて白いスモークを発生させる。
「どうだ?化けたぜっ」
 スモークで視界を相手の視界を遮り、木箱の中に隠れた。
「なんかシンプルな化け方だな・・・」
「じゃあ戻るぜ?」
 鬼から見えない側の蓋をそっと開け、自分の入っている箱の中に隠し持っているドライアイスに水をかけ、スモークに紛れて箱から出て用のなくなったそれを物陰で蹴り飛ばして隠す。
「これで分かっただろ?正真正銘、俺は化け狸だぜ!」
「すまねぇな疑って」
「そんな細けーことは気にしねぇえ!(はぁよかった)」
 鬼が去っていった後、ニサトは安堵の息をつく。
「そこのヤツ、お前は本当に亀姫か?なんだか怪しいな」
「えぇえ!?」
 突然、化け狸に疑われた悠は目を丸くして驚く。
「私はどこから見ても亀姫ですよ!だったら福島のことをお話します。天神という大変賑わっているところや、いろんな場所の方面へ向かうバスが集まる佐世保駅があります!」
「それは現代のことか?なら平安時代末期、陣が峯城のある一帯は何家領の会津蜷河荘だった?答えてみろ!」
「ぅう〜っ」
「答えられないのか?正解は摂関家だ!お前、亀姫の偽者だな?」
「ちょっとど忘れしただけですっ」
「そんなに言うなら亀姫の姿から狢になってみろ」
「―〜〜っ!」
「どうやらなれないようだな。耳や尻尾も生やせないようだしっ。化かして遊んでやる!」
「きゃぁああ!?―・・・どこでしょうここ」
 突然突風が吹いたかと思うと、彼女は和風の旅館の中にいた。
「あのーどこへ連れて行くんですか?なっ、何ですかこの料理!」
 仲居に迎えられ部屋に案内されると、至れり尽くせりのような豪勢な料理が目の前に現れる。
「これ・・・食べていいんですか!美味しそうですね、いただきまーすっ」
「悠!しっかりするんだ、悠!」
 化かされている悠を、ディートハルトが正気に戻そうと駆け寄るが、彼の声は彼女にまったく届かない。
「こんなご馳走食べられるなんて幸せです。フッフフフ、フフフ!」
 料理だと思ったのは実は、食べている感覚も化かされている影響で偽者だと分からず、葉っぱや石ころでまったく食べられていない状態だ。
「貴様は本当に烏天狗か!?証拠を見せてみろっ」
「はぁあ!?何だ突然!」
 座敷わらしを探している七枷 陣(ななかせ・じん)は突然、化け狐に詰め寄られて人間か疑われる。
「そういやさっき、おかしな情報が流れたっけ。祭りに人間が来てるとか。俺は烏天狗だっつーの!」
「じゃー飛んで見せてみろよ!」
「いいか?良く見とけやっ」
 バーストダッシュのスピードを利用して飛んでみせる。
「どうやっ!」
「飛んだ!?いやー疑ってすまなかったなぁー」
 へらへらと笑うと狐は去っていった。
「誰がこんなこと仕掛けたんだろうね」
 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は眉を潜め、なんでこんなことしてるんだろうと考え込む。
 それを見た生徒たちはこんなことを仕掛けたのは誰かと発信源を探す。
「あぁーっ、変な情報流したのてめえらか!さっき俺も人間かと疑われたぜっ」
 騒ぎを見ている煙たちを見つけ、怒ったニサトがズンズンと近寄る。
「逃げんな!」
 陣は煙の煙の尻尾を掴み、ジャイアントスイングのように振り回し投げ飛ばす。
「飛んでけやっ」
「おーっ、よく飛んでいったなー」
 ぶっ飛んでいく煙の姿をニサトが見上げる。
「ぎゃぁあああーっ!?―・・・ぶへっ。はう!?」
 地面から起き上がると、妖怪たちが訝しげな目で煙を見下ろしている。
「九尾狐が烏天狗にあっさりやられるなんて妙だな。さては人間だな!?」
「後生なのだ・・・仲間外れにしないでほしいのだ・・・」
「問答無用っ。化かしてやる!」
「うわぁあーっ!お化けが、お化けが追ってくるのだぁあ、俺を食べないで欲しいのだぁあ、ひぎゃぁああーっ!!」
 化かされた煙は泣き叫びながら、化け物屋敷の中でお化けに追いかけられる幻を見せられる。
 数十分前の恋の笑いの意味が、まさにこんな結末が起こるだろうという予測だったのだ。
「思った通りになりましたね」
「まぁ、予想通りの落ちアルな」
 その光景をパートナーたちが遠くから見ている。