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2020年夏祭り…妖怪に変装して祭りに紛れ混んじゃおう!

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第2章 祭りを盛り上げるための準備・・・櫓の周りに出店を作ろう

 祭りに参加するエリザベートやアーデルハイト、生徒たちが妖怪の変装して来る数時間前、魄喰 迫(はくはみの・はく)はひとぼし櫓を作ろうと葦原の広場へやってきた。
「だいぶ久しぶり来たな、あたしは昔と同じ犬神の変装するか。今回は他の生徒たちも沢山いるみたいだから、パーッと盛り上がろうぜ!」
 一緒にひとぼし櫓を作ろうと連れてきたマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)の方へ顔を向けてニッと笑いかける。
「おいマッシュ、聞いてるのか?」
 何かを探すようにキョロキョロと広場を見回し、まったく聞いていない彼の目の前へずいっと寄る。
「うん?聞いてるよ」
 迫に“ちょっと付き合え”と言われ、やってきたマッシュがようやく彼女の声に反応する。
「ぼーっとしている間に、土台の基礎作り終わったぞ!基礎にそれを固定したら、まっすぐ立てたまま動くなよ」
 丸太をマッシュにぽんっと手渡し、迫はそれよりも短いもう1本の丸太と、彼が支えている柱を丈夫な紐で巻きつける。
「そっち側ちゃんと持っていてくれ」
 紐が解けないように結んだ片側を彼に持たせる。
「分かった。(暑いなぁ・・・これが終われば可愛い妖怪や人を石化出来るかもしれないから我慢しなきゃ。俺がやることっていったら、それを石化することだし。フッフフフ)」
 心の中で呟きながらマッシュはニヤニヤとどす黒い笑みを浮かべる。
「しっかり結んでおかないと、櫓の上に乗った時危ないからな。同じように柱の真ん中に、この短い丸太を」
 彼に渡したのと同じ長さの3本目をまっすぐ立てて、櫓が壊れないようにぎゅっと紐で結ぶ。
「結んだ丸太の上に乗って、基礎と今乗ってるやつと同じ間隔の幅になるようにするんだ」
 パートナーと一緒に持ち上げて柱に紐を巻く。
「次はどうすればいいのかな?」
「マッシュは丸太から降りて下の方にこの丸太を紐で結ぶんだ。結んだら細い金具みたいなのがついてるだろ?それを紐にくいこませて固定しろ」
 迫はさっき柱へ固定した方に丸太を結ぶと、彼の方は下側へ結べと言い紐で固定させる。
「それが出来たらさっき斜めに結んだやつと同じ長さの丸太を持って、柱に固定した2本目の上に乗るんだ」
「乗ったよー」
「後ろ側の方で交差するように結べ。こっちの下側は出来たぞ」
「これでいいのかな?」
「それじゃあ交差の中心を紐で結んでくれ」
「うーんっ、これくらい締めれば平気かな?」
「あぁ、それくらいなら崩れないな。さぁこの作業を後3隅部分やるぞ」
 マッシュに手伝わせ残りの3隅部分も手早く作る。
「結構疲れるねぇ・・・」
「まぁそういうな」
 柱に丸太を固定しながら迫は、真夏の炎天下で木材を運んでぐったりしかかっているマッシュを見下ろす。
「櫓かー。なんだか凄いの作ってるな」
 身体を真っ赤に塗り、袈裟を着て赤鬼に変装している夢野 久(ゆめの・ひさし)が、櫓を作っている光景を眺める。
「どの辺に屋台を出すんだい?」
 絡新婦に変装している佐野 豊実(さの・とよみ)が久に聞く。
 彼女の格好は蜘蛛柄の浴衣にナラカの蜘蛛糸を絡ませ、額には単眼をつけ歯には牙をつけてキレイに化粧をした姿だ。
 久がイルミンスールの友人に聞き、出店を出そうと豊実を連れて来たのだ。
「あちこち店を出すより、広場を囲うようにしたほうがいいよな。橋から離れた角側に行くか」
 折りたたみ式のテーブルや会計に使う電卓などの荷物を抱え、出店を出す場所へ歩く。
「型抜きをする台と座る椅子がないとな」
 テーブルをドンッと土の上へ置き、パイプ椅子を並べる。
「すぐ遊べるやつも描いてきたけど、無地のはリクエストをもらってから描くためにとっておこう」
 絵を描くために持って来た道具箱の中をチェックした豊実は、すぐ描けるように自分用のテーブルに置く。
「普通の型抜きとレベルが違うな・・・。値段を下げておくか。まぁ遊びだし、楽しんでもらえればそれでいいからな」
 久は彼女が用意して来た絵を見て型抜き屋と書いた看板に、良心的価格の設定の値段を書き加え、テーブルの傍に置いた。
「とりあえず始まるまで櫓を作っているところを見ているか」
「うんそうだね」
 豊実と久は椅子に座り、祭りが始まるまで櫓が完成に近づいていくのをじっと眺める。



「まずはご飯を炊かないとね。えっと釜は・・・あった!」
 迫とマッシュが櫓を作り始めた頃に、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は屋台に出す稲荷寿司と、小豆飯用の飯を炊こうとリュックから釜を取り出す。
 変装はそっと長屋の部屋を借りた弥十郎は、すでに振袖に着替えている。
 響の方は彼に“何が似合うかな?”と聞き、“猫又とか、化け狐とかは多いと思うんだ。意表をつくような格好をしてみてよ。”と言われ資料検索をして瓢箪小僧に決めた。
 “それなら、大きい瓢箪を用意すればいいだけだからね。”ということだ。
「同じ大きさの粒を選ぶのって結構大変だったよ」
 もっと美味しく炊くために、同じサイズの米粒を1粒ずつ選んだ米を、笊の中へ入れる。
「お米を洗う時は、最初の水をすぐ流さないとね」
 シャッシャと水で研ぎ、研ぎ汁を空っぽのバケツの中へ流す。
「ご飯はこれでよしっと」
 小豆飯と酢飯用の飯を別々の釜に入れて炊き始める。
「炊いてる間に胡瓜の一本漬けを作ろうかな。洗ってからこの両端を切らないと」
 バケツの中にある水を柄杓ですくって胡瓜を洗い、まな板に置いて粗塩を振りかける。
「えぐみをちゃんととっておくのは料理人として基本だね」
 両手で胡瓜を押さえつけて、まな板の上でゴロゴロと転がし、熱湯をさっとかけて下ごしらえをする。
「脱水しやすくなるだけじゃなくって、味が染み込みやすくもなるから、しっかり板ずりしておかないと・・・。後は調味料をまぶしつけて冷やすだけだね」
 砂糖と塩、辛子粉をまぶしつける。
「作るだけじゃなくって、食べながら遊べるようにしないとね」
 歩きながらでも食べられるように胡瓜を串に刺す。
「冷蔵庫で冷やしたいんだけど、術で使えるようにしてくれないかな?」
「うん、いいよ」
 仁科 響(にしな・ひびき)に頼み、雷術で小さな冷蔵庫に電力を送ってもらう。
「出来るまでだいたい半日くらいかかるかな」
「結構かかるんだね。切れそうになったらまた術で送っておくよ」
「ありがとう、頼んだよ。さてと・・・そろそろ酢飯を詰める油揚げの用意もしておこうかな」
 油揚げをまな板に乗せて半分に切り、指で切り口の中の隅まで広げる。
 それとたっぷりの水を鍋に入れ、火にかけて油抜きをする。
「もう3分くらい経ったかな?」
 携帯電話で時間を確認し、笊にあげて水をかけて冷やす。
「一度に沢山重ねられないから、少しずつ丁寧にやらないとね」
 油揚げを数枚重ねて手で挟み、パッパと水気を切る。
「持って来た砂糖を入れて・・・、醤油とみりんの順番に加えるんだったよね」
 鍋の中に油揚げを並べて水を入れ、調味料を加えて落し蓋をし、煮汁がなくなって焦げないように注意しながらコトコトと煮詰める。
「あっ!煮ている間に、すし酢も作っておかなきゃ」
 その間にすし酢を作ろうと器に砂糖と塩、梅酢を入れて混ぜて、さっぱり目の味にする。
「油揚げの方はもう良さそうだね」
 煮汁が少なくなり、火を止めて油揚げを冷ます。
「ご飯も炊けたみたいだから酢飯を作ろうかな」
 炊けた飯を釜からすし桶に移し、すし酢と炒り胡麻を加えて混ぜる。
「うーん・・・これじゃあちょっと物足りないかな?隠し味をちょっと入れてみよう」
 イナゴを炒って粉にし、酢飯にさっと混ぜてみる。
「酢飯を油揚げに詰めて・・・これで稲荷寿司は完成だね。で・・・炊けた小豆飯は食べやすいように小さな握り飯サイズに握って、お皿の上に置いておこうっと」
 甘辛い風味にした稲荷寿司を大きな皿の上へ盛り、別の皿に小豆飯を乗せる。
「一応、一通り準備出来たかな?ちょっとだけ休んでおこう」
 屋台の屋根で日陰になっているところで折りたたみ式の椅子に座り休憩する。



「屋台を出す場所はこの辺りでいいか」
 妖怪たちに手料理をふるまおうと長屋の広場にやって来た本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は、血のような赤いマントを纏い同じ色の服を着て、笑顔が張り付いたような白い仮面で顔を覆い隠し赤マントに変装した。
 お好み焼きの屋台を出す場所を決め、鉄板を台の上にセットする。
「さて、まずはイカをさばくか」
 イカの足を掴んでぐいっと引っ張り、内臓を取り出して汲んできたキレイな川の水で中を洗う。
 まな板に乗せて食べやすいサイズに、包丁でスッと切り分ける。
「他の魚介類も用意しておこう」
 タコは1cmサイズにトントンと切っておき、海老の殻を手早く剥き取る。
「いったんまな板を水で洗ってから野菜を切ろう」
 柄杓でバケツの水をすくい、まな板を洗ってネギをタコ切った時と同じくらいの幅に切る。
「キャベツはすぐ足りなくなるから大目に切っておかないとな」
 ザッザクッと大まかに切り分けてから千切りにし、ボウルに入れておく。
「貝類はすぐ使う分だけ殻から出しておくか」
 小さな包丁を使い、ホタテや砂抜きしたアサリを殻から出す。
「次は生地を作ろう。水とサラダ油・・・塩を混ぜて、薄口醤油や本味醂、酒などを順番に加えるんだ」
 それとダシの素や小麦粉を少しずつ加え、胡椒で味を調える。
 おろし金で山芋をすりおろし、刻んだネギと一緒に天かすや卵が入った具の中へ入れる。
「他の具と生地を混ぜた後に、キャベツを混ぜないと水分が出てしまうからな。注文をもらった時に混ぜよう」
 生地をお玉ですくって具の入ったボウルへ注ぎ、菜箸で手早く混ぜる。
「後は焼くだけですわね」
 お好み焼きを作っている涼介の傍で雪女に変装したエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)はパイプ椅子に座り、料理している光景をじっと眺めている。
「そうだな。焼きたてを食べてもらいたいから、後は深夜になるのを待つだけだ」
 魚介類をブリザードの凍てつく吹雪で冷やし、涼介たちは妖怪たちがやってくるのを待つ。



「この橋みたいなのは何かな?」
 まだ櫓の足場を作らないのか、不思議そうにマッシュは首を傾げる。
「これが足場になるんだ。丸太の橋のように見えるが、こうやって隙間を開けてからその間に丸太を固定していくんだ」
「へぇ〜そうなんだぁ。なんだか職人技を見てるみたいだねぇ」
「はははっ、そうか?それでその上に、手摺みたいなやつを作るんだ」
「なるほどねぇー」
 とび職のように命綱をつけず作業をこなす迫を見上げ、関心したように声を上げる。
「ふぅー、やっと完成したぜっ!」
 出来上がった櫓を下から眺めて、ふぅっと息をつく。
「登りやすいように、梯子をかけておけばいいな。こんなもんでいいだろ?」
 櫓に梯子をかけた彼女は、迫は完成度に満足そうな顔をする。
「まだ夕方か・・・始まるまでだいぶ時間があるな。日陰でちょっと涼んでようぜ」
「そうだねぇ。(早く始まらないかなー。見つけた子を石化したいっていうのもあるけど、とりあえず飲み物が欲しいよ)」
 団扇でパタパタと扇ぎながら、マッシュたちはのんびりと櫓の傍で祭りが始まるまで待つ。



「ひっそりと隠れた名店風もいいけど、やっぱりなるべく目のつくところがいいな。蒼はどの辺がいいと思う?」
「にーちゃんここがいいよ!」
 どこに屋台を出したらいいか真に聞かれた蒼が橋の近くを指差す。
「そうだね水を汲むのもそこなら楽だし」
 選んでもらった場所に木造の簡易屋台を作り、鍋やコンロをセットする。
「とりあえず揚げだし豆腐を作ろうかな。まずは食べやすいサイズにしなきゃ」
 6つに切り分けた絹ごし豆腐をキッチンペーパーに包み水気を切る。
「揚げだし豆腐といっても、いろいろ作り方があるからね。今回はオクラとか使って健康にもいいやつにしようかな」
 塩を手につけてオクラの表面をこすって繊毛を取り、水洗いをして布で水気を拭き取る。
「梅干は種を取ってっと。で、次はたしか合わせダレを作るんだよね」
 鍋にだし汁と酒、醤油や味醂を入れて煮る。
「煮ている間に衣の準備をしないとね」
 カバンから小麦粉と片栗粉を取り出して水と混ぜる。
「衣はこれでよしと。あっ、合わせダレの水分が飛ばないように火を止めないと!」
 タレを煮すぎないようにコンロの火を止めておく。
「油もちょうどいい温度になったみたいだね」
 菜箸を油の中に入れて温度を確認し、小麦粉を薄くまぶした豆腐を油に入れる。
「いい色がついたね、器に移そう。これは衣につけて揚げて・・・見栄えよく盛りつけないと」
 美味しそうな薄い焦げ色がつき、油を切って小さな器に盛り、オクラと梅干に衣をつけてサックリと揚げる。
「オクラの傍に刻みネギをちょこっと乗せて、梅干の隣におろし生姜を添えてから、このゴマを振りかけて・・・出来上がり!」
「おいしそうっ」
 揚げたての香りを吸い込んだ蒼はよだれを垂らしそうになる。
「獣人も食べられるように薄味もあるんだよ。調味料を使ってるから、そんなに食べさせてあげられないけどね」
 あげ間違えないようにと、真は別々のトレイへ分けて置いておく。
「祭りが始まるまで時間があるからもう一品くらい用意しておこうかな」
「なにつくるの?」
「木綿豆腐を使って、田楽を作るんだよ」
「さっきのつるつるしてるおとーふじゃないね」
 どうしてさっきと同じやつを使わないのか分からない蒼は、木綿豆腐を指でつんと突っつく。
「絹だと形が崩れちゃうからね」
「へぇ〜そうなんだぁ!おなじおとーふだけど、つくるおりょーりがちがうから、つかいわけなきゃいけないんだねぇ」
「そういうこと。さて、まずは豆腐につける田楽みそを作らないと!」
 耐熱ボウルに西京みそや酒、砂糖と味醂にすり白ゴマと刻んだ木の芽を加え、木杓子を使って滑らかになるまで混ぜる。
「ここじゃコンセントがないからね、電子レンジに電力を送ってくれるかな?」
「うん、わかったーにーちゃん」
 蒼にライトニングブラストで電力を送ってもらい、ラップをかけないまま1分間加熱する。
「おとーふをレンジにいれちゃうの?」
「切った豆腐をちょっと水気を飛ばさないとね」
 水分を吸い込むようにキッチンペーパーを加熱容器の中に敷き、豆腐を乗せて電子レンジで加熱して大皿の上へ置く。
「最後に田楽みそをつけて、火であぶって焼き色をつけるんだけど、それはお客さんが来てからだね」
「どぉーして?やいておいたほうがすぐたべてもらえるのに」
 先に作っておいた方がいいんじゃないのと思う蒼が、目を丸くして首を傾げる。
「揚げだしと違ってここまで用意しておけば後は焼くだけだし、どうせなら焼きたてを食べてもらいからね」
「へぇ〜そうなんだぁー」
「もうすぐ日が暮れるね。ちょっと休んで待っていようか」
 折りたたみの椅子に座り、蒼を膝に乗せて休憩する。
「わぁーっ櫓があります。手作りでしょうか?」
 ラヴィニア・ウェイトリー(らびにあ・うぇいとりー)と一緒に狸の親子の格好をしたラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が、完成したばかりの櫓を見上げる。
「あたしたちの手作りだぜ」
 日陰にいる迫がラムズに片手を振って言う。
「そうなんですか、凄いですね」
「こんな暑い日に頑張ったね」
 ラヴィニアも迫に声をかける。
「ここで太鼓を叩いたり、櫓の周りで盆踊りを踊ったりする予定だぜ」
「そうなんだぁ?ボクたちは屋台を出すから、そこから見てるね」
「へぇそうなのか。頑張れよ!」
 迫は屋台を出す場所を探しに行く2人に手を振る。



「仮設の屋台と網の準備が出来たぜ。そっちはどれくらい剥けたんだ?」
 準備を終えたレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)が、茹でたとうもろこしの髭を取り皮を剥いている神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)の方へ寄る。
「100本くらいですね」
「他のとうもろこしも洗い終りましたわ」
 柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)は洗ったとうもろこしを翡翠のところへ持っていく。
「ありがとうございます」
「屋台の中が日陰になってるからこっちでやったらどうだ?」
「そうですね。これだけ本数があるとちょっと重たいですね・・・」
「落とさないように気をつけませんとっ」
 レイスに言われ、日陰で作業をしようと翡翠は、バケツに入れて美鈴と一緒に運ぶ。
「それくらい俺が運んでやる、こっちに渡せ」
 あまりの重さに足をふらつかせる2人を見かねたレイスが、とうもろしの入ったバケツを持ってやる。
「ありがとうございますレイス」
「これくらいたいしたことじゃないさ。屋台の屋根の下に置いたぞ」
「それではまだ剥いていないやつを茹でましょう」
 大鍋にとうもろこしと水を入れた翡翠はコンロの火をつける。
「何等分に切りますの?」
「えーっと・・・そうですね、3等分でお願いします。その方が食べ歩きやすいでしょうから」
「分かりましたわ」
 美鈴は茹でたとうもろこしをまな板に乗せ、包丁でザクッと切る。
「もうすぐ夜ですね、とりあえずこれだけ用意しておけば大丈夫でしょう」
 別のまな板で切っていた翡翠が携帯電話で時間を確認する。
「醤油のボトルはどこに置いておけばいいんだ?」
「使いやすいようにコンロがある下の方に置いておいてください」
「この辺りだな」
 カバンから醤油を出したレイスは、翡翠に言われた場所へトンッと置く。
「えぇそうですね。―…私の変装、この着方で大丈夫ですよね?」
 白い狐耳と尻尾をつけ、白狐に変装している翡翠が美鈴に聞く。
「大丈夫ですわ、出掛けにチェックしましたし。私の髪型は崩れてません?」
 黒地にキレイな彼岸花の模様の着物を着ている彼女は、ほどいた髪の先につけている釣り針がとれたりしていないか翡翠に見てもらう。
「とれてませんよ」
「作業してる途中で取れてしまったかと思いましたわ。それにしても・・・本物に遭遇しなければいいですわね」
「祭りって結構混んでる時は、屋台で売ってるやつの顔なんてじっくり見ないだろ?」
 背から羽根を出し袈裟を着て錫杖を持ち、下駄を履いて天狗に変装しているレイスが、顔を背ければいいと言う。
「それもそうですわね」
 彼の言葉に美鈴はほっと安堵の息をつく。



「社があるところってこの辺だったかな?」
 座敷わらしを誘って屋台を出そうと、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は背の高い草を手で除けながら社へ歩く。
「この格好で私たちだって分かるでしょうか・・・」
 地味な色の和服を着て米とぎ婆の変装しているベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、顔の前に垂らし白髪に染めているその髪をつまみ、この姿で妖怪の少女に分かるか不安そうな顔をする。
「大丈夫よ。数日前に会ったばっかりなんだから!」
 シャキシャキと小豆を洗いながら、和服の少女姿の小豆洗いに変装している美羽が彼女の肩をぽんと軽く叩く。
「さっ、早く会いに行こうっ」
 ベアトリーチェの手を引っ張り社の方へ駆ける。
「わらしちゃん、・・・いる?」
 社についた美羽は木造の扉をトントンと叩き、声をかけて中にいるかどうか確認する。
「留守かな・・・」
「声だけでは誰か分からなかったのかもしれませんよ」
「もう1回叩いてみよう!」
 しばらく待っても返事が返ってこないが、知らない人かもしれないと警戒されたのかと思い、もう1度扉を叩く。
「いないのかな?―・・・開いた!」
 ぎぃーっと音を立てて開いた扉の向こうには、眠たそうに目を擦っている小さな少女がいる。
「だぁれ?むぅー・・・お外が暑いからちょっとだけ眠ろうと思ったのに」
「起こしちゃった?ごめんね、わらしちゃん。お祭りに誘うと思って来たの」
「―・・・わらしにアイスをくれた美羽お姉ちゃん?」
「えぇ、ベアトリーチェもいるわよ」
 美羽は少女から一緒に来たパートナーの彼女に視線を移して言う。
「お祭り・・・?そういえば今日、妖怪が広場に集まるお祭りがあるけど・・・お姉ちゃんはそれに参加するの?」
「そうよ、わらしちゃんも一緒に遊ぼう!」
「でも・・・妖怪だけしか参加出来ないよ?」
「だからちょっと変装してみたの。わらしちゃん、しーっよ」
 自分たちが妖怪じゃないことを言わないでと、美羽は口元に人差し指を当てる。
「うん、分かったぁ。しーっ」
 座敷わらしも真似して口元に指を当てた。
「他の皆のことも言わないでね」
「分かったぁー。わらし言わないよ〜」
「ありがとう!うーん・・・まだ屋台を出す場所残ってるかな、急がなきゃっ。わらしちゃん、私の背中に乗って!」
 妖怪の少女を背中に乗せた美羽は、早く行かないといい場所を取られてしまうと思い、バーストダッシュのスピードで広場へ走る。
「橋の近くとか取られちゃってる・・・。どこかいいところないかな・・・」
 屋台を出す丁度いい場所がないかキョロキョロと周囲を見回す。
「お祭りが始まるまでまだいっぱい時間があるはずだから、屋台や櫓を作っている人たちは妖怪じゃないわね?赤マントの人の隣にしよう!ねぇ、ここいいかな?」
「隣か?空いているぞ」
「ありがとうっ」
 涼介の屋台の隣に簡易屋台を作り、屋根変わりに大きな和傘をその傍に置く。
「洗ったもち米はもう30分以上水につけたし、小豆も洗っておいたから後は作るだけね」
 座敷わらしを背から降ろし、もち米を釜に入れて炊き始める。
「時間がもったいないから、小豆を煮ながらきな粉や黒ゴマの用意をしなきゃ。ベア、机の上に出しておいて」
「分かりました美羽さん」
 美羽にこくりと頷いたベアトリーチェは、カバンからおはぎに使うきな粉と黒ゴマを出して机へ置く。
「もうそろそろ茹で汁を1度捨てなければいけませんね」
 小豆のしわがのびた頃合を見て、茹で汁をバケツに捨てて新しい水を別のバケツから柄杓ですくって鍋へ入れ、もう1度コンロの火にかけて煮る。
「柔らかく煮た小豆に加えるのは砂糖だけじゃなく、塩も少し入れないと甘くならないんですよね」
「つやがでててきたわね」
 もち米が炊けるまで暇になった美羽が鍋を覗く。
「えぇ、火を止めましょう」
「こっちのはもう炊けたかな?」
 蓋を開けて大丈夫か、携帯で時間を確認する。
「炊けたみたいね!」
「釜からすり鉢に移して潰すんですよ、美羽」
 ベアトリーチェはすりこぎ棒を握り、潰しかたの手本を見せる。
「全部潰しちゃったら変なおはぎになっちゃうよね。えいっ、えいっ!」
 美羽もすりこぎ棒を握りもち米を半潰しにする。
「きな粉や黒ゴマのおはぎを作る時は、もち米の中につぶ餡を入れて俵型に包んでから全体にまぶすんです」
 傍で見ている美羽に教えるようにベアトリーチェは慣れた手つきで、包んだやつをきな粉が入っているボウルに入れてまぶす。
「つぶ餡は俵型に丸めたもち米を包むだけです」
「そうやってやるのね」
「火傷しないように気をつけてくださいね」
「大丈夫よ。子供用にちっちゃいサイズも作っておこう。―・・・こんな感じかな?私が作ったおはぎ食べてみて」
「食べるぅー」
「はい、お口開けてー」
 美羽は作りたての黒ゴマの小さなおはぎを、座敷わらしに試食してもらう。
「もぐもぐ・・・」
「どう・・・?」
「美味しいっ」
「本当!?嬉しいーっ」
 喜びのあまり小さな少女をぎゅっと抱きしめる。
「美羽お姉ちゃんー、もっとちょーだい」
「お祭りが始まったらね。今から沢山つくっておかないと!」
 欲しそうにむぅ〜っとする少女の頭を優しく撫で、美羽はベアトリーチェと一緒に大量のおはぎを作る。



「暗くなる前に来れてよかったな」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)は茶坊主の貸衣装屋から衣装を着て、左目に肌色のゴスロリ眼帯をつけて広場にやってきた。
 左手の掌に眼球の模型を張り、眼球の部分は目がキョロキョロと見ているかのようにコロコロとオモリが動くようになっている。
「おはぎ屋を手伝っているのか」
 美羽たちのところにいる座敷わらしを見つける。
「こんにちは」
 同じくコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は貸衣装屋から借りた着物を着て、家出決行中と書いてあるハチマキで束ねている。
「後で一緒に遊ぼうね」
「うん、わらしもお姉ちゃんたちと遊びたい。ねぇどうして金髪なの?」
 はだしで一輝に肩車をしてもらっている彼女を見上げる。
 着の身着のまま出てきた感じが出ていて、彼の方は足袋の上に草鞋を履いている。
「家出したらこうなったの」
「そうなの?」
「とりあえず深夜になるまでここで待つわ」
 祭りが始まる深夜になるまでコレットたちはおはぎ屋の傍で待機する。