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リアクション
第3章 ぼくらの動物園戦争・その2
当たり前だが筋肉ゴリラを見た瞬間、駆けつけた二人の飼育係はブチ切れた。
ビーストマスターである二人は動物を使役し檻を囲む。大荒野バイソンと大荒野ハイエナが激しく唸る。
「さっきからウホウホウホって……、完全に馬鹿にしてやがんだろ、てめぇ!」
「ゴリラを逃がしちまいやがって! ブッ殺してやる!」
殺気立った飼育係が、バイソンに突撃を命じる。
だがその時、颯爽と空から舞い降りたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がその前に立ち塞がった。大盾ラスターエスクードを身体の前に構え、彼女ごと蹂躙しようとする野獣を押しとどめた。
「密輸を働くケチな悪党を探しにきたら……、とんだ危ない状況だったみたいね」
「な、なんだてめぇは!? バイソン、そいつを捻り潰せ!」
「そうはいかないわ!」
鼻息荒くするバイソンの角をシーリングランスで角を封じる。しかし、パワーは明らかにバイソンが上だ。リカインはパワーブレスとドラゴンアーツで腕力強化、更にヒロイックアサルトも使うと両者は膠着状態になった。
「どうしたバイソン! 何故動かん!」
「仲間を剥製にするような主人のためには働けないのでしょう」
リカインのパートナー、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は檻の上から冷ややかに言い放った。
「あなた方も剥製にして差し上げましょうか。普通の動物より好みの方もいらっしゃるようですよ」
「狐樹廊、私がこの子を止めてる間に……!」
リカインの言葉に、彼は静かに頷く。
「空京を守護せし稲荷の前でかかる悪行の数々……、今宵の手前に慈悲は期待しないほうが懸命ですよ」
手にした扇を振るった瞬間、扇は炎に包まれ燃え上がった。
「緋扇・曼珠沙華……!」
扇から放たれた爆炎波が、バイソンを操る飼育係を飲み込む。
転げ回る彼はおそらく戦闘不能。もう一人の飼育係は舌打ちをしつつ、ハイエナに命令を下した。
「ちっ! 調子に乗りやがって! ハイエナ、あの狐野郎をあそこから引きずり下ろせ!」
目をらんらんと輝かせ、ハイエナは飛びかかる。
「そうはいかないよーだ!」
暗闇から突如現れた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)のハイキック一閃、ハイエナは派手に吹き飛んだ。
慌てて体勢を立て直そうとする飼育係とハイエナだったが、そうやすやすと隙を与えるほど彼女は甘くない。
ヒプノシスを繰り出し、飼育係の意識が飛んだ瞬間、美羽の回し蹴りが側頭部に直撃した。
「ほげえええ!!」
美羽のミニスカがひらりと舞う。が、彼はパンツをのぞく間もなく吹っ飛んだ。
「そんな動物とか使って、私より目だとうなんて許さないんだから!」
「く……くそ……、大人を馬鹿にしてぇ……」
飼育係は涙目になりながら、懐から拳銃を取り出そうとする。
だが、リカインのもうひとりの相棒、ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)が腕を捻り上げた。
「いでえええ!!」
「ふん……、飼育係にしては随分と物騒なものを持ってるじゃないか。どうやら噂通りまともな動物園ではないらしいな。おいおまえ、密輸に関するデータはどこにある。こうなったら洗いざらい喋ってもらうぞ」
「そ、それは……」
「吐けって言ってるのよー!」
ボスンと鈍い音ともに、美羽は飼育係のみぞおちを蹴り上げた。
「ぐええっ!!」
「なんなのー? だんまりなのー? だんまりを決め込むつもりなのー? そんなの許さないんだからー!」
なおも容赦なく厳しくドスドスと腹を踏みつける。
「しゃーんなろーしゃんなろー」
「……あの、お嬢さん。それじゃ彼も話せないんで、その辺にしてやってくれやせんか?」
遠目にそんな様子を見つつ、美羽のパートナー、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は苦笑いを浮かべた。
「美羽、頑張ってるなぁ。あれなら向こうはもう大丈夫だよね。よし、今のうちにゴリラさんを救出しよう」
そう言うと、檻に近付きピッキングで鍵を開ける。
しかし、既に鍵は壊されていた。
「あれ……、おかしいなぁ? ねぇ、ゴリラさん鍵が壊れちゃってるけど……?」
「ウホウホ?」
ナイスガイスマイルの赤城長門と目が合い、コハクは息を飲んだ。
「喋るゴリラさん……、だよね……?」
激しく頷く長門。
「……だ、だよね。なんか聞いてたのより、随分人類気味だけど……、ま、いっか。早速で悪いけど、ゴリラさんが喋れるのと動物園の悪事について確認したいんだ。人間の言葉で悪事についておしえてもらってもいいかい?」
「ウッホホホホ!」
「だからあのね、人間の言葉でお願いしたいんだけど……」
「ウッホウッホ! ウホッホホー!」
「……って、全然喋らないよ、このゴリラ!」
◇◇◇
同時刻、動物園の広場に、大型トレーラーが停まっていた。
荷台にはたくさんの動物たちが檻ごと運び込まれている。どうやらこの車で動物たちを輸送するようだ。
そこに佐野 亮司(さの・りょうじ)が音もなく近付く。光学迷彩と隠れ身で気配は完全に断たれている。
そっと運転席を覗き込むと、ドライバーの飼育係はラジオを聴きながら居眠りしている様子。
……悪い奴ほどよく眠るたぁ、よく言ったもんだな。
亮司はドアを開けると、ヘキサハンマーの一撃で居眠り野郎を車外にブッ飛ばした。
「ぷぎゃああああ!!」
一発で目が覚めた彼は激しく痛む顔面を押さえつつ、拳銃で運転席に弾丸を撃ち込んだ。
「だ……誰だ! 出てきやがれ!!」
「出てこいと言われて、素直に出る馬鹿がいるか。てめぇも商売人なら駆け引きってもんを考えろ」
亮司の声だけが響き、飼育係はきょろきょろと辺りを見回す。
「まあもっとも、密売に手ぇ染めてる時点でてめぇらに商人の資格はねぇ。地上とパラミタ間での商売は、俺の夢だ。密売なんて姑息な手段で達成されちまうのを、黙って見過ごすわけにはいかねぇーんだよ!」
ブラインドナイブスで背後に回り込み、後頭部にハンマーの二撃目。
悲鳴を上げて飼育係は気を失った。
「なんだ今の悲鳴は!? おい、どうした? 何があった!?」
荷台から仲間の飼育係が降りてくる。
その瞬間、ガツンと凄まじい音がして、トレーラーが大きく揺れた。
騒動に乗じて接近した桐生 ひな(きりゅう・ひな)が、ヘキサハンマーで車体をおもくそ殴っている。
「悪の動物園にお仕置きなのですー。目に止まるもの全て平たくならしてやるのですよー」
「こ、このクソガキ、イカレてやがる! 今すぐやめないと酷いことするぞ!」
そう言って、飼育係がパラミタ大イノシシをけしかけるも、ひなはすかさずハンマーで気絶させた。
「ゲェ!」
「私の頭はおかしくないですよ? 正常運行おーるぐりーんなのですっ」
ふらふらとハンマーを振りかぶり、そのまま激しくスタンプ。
がっしゃああん、という石畳が弾け飛ぶ音と共に飼育係はぺちゃんこになった。
「動物さん達さえ居れば平和なのです、人間は動物園の模様にでもなるが良いのですー」
そして、残った飼育係に狙いを定め、ハンマーをぶんぶん振り回して追いかける。
とその時、高速で振られたハンマーが顔面を直撃しかけ、思わず亮司は光学迷彩を解除してしまった。
「ひぃっ! あ、あ、あ、アブねーだろが! ハンマーはもっと優しく丁寧に扱え!」
ひなは足を止め、振り返る。
「むむっ、そんなところに隠れていたのですか。でも、私が悪いわけじゃないのですっ、コソコソ隠れてるからいけないのですよー。やましいことがないなら堂々と姿を見せて、正面から戦えばいいのですよ〜」
「そう言う問題じゃねー! 第一、敵の背後から一撃必殺、こういうのが作戦ってもんだろ!」
「正義の味方はコソコソしないで、悪と戦うものですー」
「おまえはただ思いっきり暴れたいだけだろうが!」
ハンマー使い同士、なにやら意見の相違があったらしい。
二人の口論が始まると、もぞもぞと草むらが動き、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が顔を出した。
慎重に辺りの様子を警戒する。
「……なんだかよくわからないけど、戦いは終わったようですねぇ」
動物を救出する機会を窺っていたようだ。
荷台に乗り込むと、ピッキングで檻を開けて、捕まった動物たちを次々に解放していった。
「よしよし、もう大丈夫ですよぉ〜、早く森にお帰りなさい〜」
これにて一件落着……と思われたが、危険はいつでも闇に潜むものである。
「ガオオオオオオオ!!」
「きゃああ!!」
先ほどまで大人しかったシャンバラ虎が、不意に踵を返し、メイベルに飛びかかってきたのだ。
鋭い牙が肩をかすめ、血がにじむ。
さらに迫る虎の牙を、メイベルのパートナー、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が受ける。
「くぅ……、メイベル、大丈夫!?」
「だ、大丈夫……、かすっただけですから……」
セシリアは安堵の息を漏らし、すかさず暗闇を睨みつけた。
「いるのはわかってるんだから! パラミタ撲殺天使が撲殺してあげるから、とっとと出てきなよ!」
彼女の野球バットをガジガジとかじる虎の向こう、暗闇から飼育係が勝ち誇った顔で姿を現した。
「誰もいないと思って油断したのが、おまえらの運のツキよ。よーし、そいつらを食い殺せ!」
興奮する虎を引き離そうと、セシリアは恐れの歌を歌う。だが……。
「ガオオオッ!!」
「うわあ!」
目と鼻の先で咆哮する虎に、上手く歌が歌えない。というか、うるさ過ぎて音程が取れない。
「頑張って、セシリア。複式呼吸ですぅ〜、お腹から声を出せば虎さんにも負けないのですぅ〜!」
「フーテンの人みたいに言わないで。僕、こんなに大声出せないよ!」
そこにメイベルのもう一人の相棒、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が飛び込んできた。
「ここはわたくしに任せて下さい」
フィリッパは目を大きく見開き適者生存を放った。
虎はうううと唸り、ゆっくりと後ずさる。
「てめぇもビーストマスターか! おい、虎、負けてんじゃねぇ! オレがおまえの主人なんだぞ!」
飼育係も負けじと適者生存を放つ。
ビーストマスターとしてのレベルはほぼ同格のようだ。中間管理職のお父さんさながら、フィリッパと飼育係の間で身動きが取れなくなった虎は、二人を交互に見つめたあと、その場で頭を抱えて自分の殻に閉じこもった。
「と、虎! サボってんじゃねぇ! おまえがサボるとオレの身の安全が……」
焦る飼育係に三人の修羅がバットを構えて近付く。
「よくも虎をけしかけたのですよぉ〜! 乙女にすることじゃないと思うのですぅ〜!」
「撲殺! 撲殺! 撲殺!」
「これまで動物を虐げてきた報い……、わたくし達がたっぷりとおしえて差し上げますわ」
「ひいいいぃぃぃぃぃぃ!!!」
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