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リアクション
1
幸いにも快晴に恵まれた、空京放送局の朝。
パラミタ大陸征服という壮大で無謀な夢を掲げる、謎の闇の悪の秘密の結社・ダークサイズによって、前回の事件でボロボロにされた放送局ビル。
復旧作業は行われているのだが、思うように進まずなかなか放送を再開できない。
ビル的にも財政的にも大きなダメージを負った放送局は、有志を募ってビルの補修を大幅に進め、同時に放送局の復活を宣伝に利用しようと、大きくお手伝い募集を展開。幸いにも多くの人々が今日、放送局に集まっていた。
「今日は、空京放送局復旧のため集まっていただき、ありがとうございます」
空京放送局の取締役が、あいさつがてら直々に頭を下げる。
「みなさまに、いつも楽しみにしていただいている空京放送局。ご覧ください、この無残な姿を。全てあのダークサイズとかいう不届き者たちの仕業。現在放送は休止しており、局の儲けも私の給与も……いや、みなさまに喜びをお届けできないのが何よりも悔しい! 弁償に関しても、あのパーソナリティ二人を通じてダークサイズには請求済みですが……」
取締役はダークサイズへの恨み節を語り始める。
話の長さに徐々にうんざりしてくる面々。氷見 雅(ひみ・みやび)もその一人だ。
「話長いわねぇ……」
雅は眠たくなってくるのを隠そうともせず、ひとりごちる。
「責任者の挨拶というのは、そういうものですよ」
と、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)が雅に声をかける。
「あら、君は確か」
「その節はどうも」
「こないだの事件でジャーナリストみたいなことやってたよね」
「ええ、『プロジェクトN』。今までにない面白い画が撮れましたよ。そのお礼、というわけではないですが、この復旧作業、私にもできることがあるんじゃないかと思いましてね」
「っていうか君、そんな恰好で作業するの?」
エメはパーティにでも着ていきそうな、真っ白のスーツに白手袋といういでたち。エメはニコリと笑い、
「問題ありません。ただの普段着ですから」
「あ、そう……」
雅も深くは追及しない。エメはふと周囲を見渡し、
「ところで今日はダークサイズの面々はいないんでしょうか? 私はてっきり」
雅も一緒に周囲を見ながら、
「そうなのよ。あいつらのことだから絶対面白がって参加すると思ったのに」
前回、放送局の破壊に大活躍だったダークサイズメンバーは全く見当たらないのだ。
その中で、雅は見覚えのある顔を見つける。
「あ、ねえねえ、君! 今日ダークサイズは来ないの?」
雅に話しかけられたニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)は、ドキリとする。
「いや、僕はダークサイズなんて知らないね……」
ニコは何故か顔をそらして否定する。
「何言ってるんですか。局の屋上が吹き飛ぶきっかけを作ったのは、確か……」
エメが追い打ちをかけようとすると、
「私の契約者が申し訳ありません。悪戯が過ぎたようですね。ほらニコさん、お謝りなさい」
と、ニコのパートナーのユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)。
「ダークサイズに便乗して、悪戯なんかするからですよ。いくらたまたま居合わせたとはいえ……」
エメはふと、ユーノの言葉尻に引っ掛かる。
「ん? 君はすでにダークサイズに入団……」
「知らない! ダークサイズなんて知らない!」
声をあげて否定するニコに、エメはさすがにピンと来たようだ。
「君、また何か企んでるんですか?」
ユーノに背を向け、エメはニコに耳打ちをするが、ニコはニヤリとするばかりであった。
「とにかく今日は、謝罪と反省こめて、全力でお手伝いさせていただきます。こんな破壊行為をするなんて、ダークサイズは許せませんね!」
ニコが内緒でダークサイズに加入していることを知らないユーノは、まだ見ぬダークサイズに怒りを燃やす。
そんな中でも取締役の挨拶は続く。
「……そういうわけで、今日は皆さん、事故の無いよう……」
取締役が挨拶の締めにかかろうとした時、
ドドドドドドドドド!!
何やらすさまじい轟音、いや、騒音が聞こえてくる。
「な、何かね、騒々しい」
取締役をはじめ、居合わせた人々が音のする方向に目をやると、彼方からド派手に砂埃を上げながら、数々の車、バイク、また徒歩で走ってくる影が近づいてくる。
「なんだなんだ?」
動揺する人々をよそに、黒塗りの車、ジープ、バイクなどなどと、それらに護られるように車五台分もあろうかという長さのリムジンが、放送局の前に乗り付けてきた。
「いやっほー! こういう登場もなかなか面白いぜ!」
早速テンションが高いラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)を見て、
「あ、ダークサイズ」
影野 陽太(かげの・ようた)が思わず声を上げる。
「な、なんと! やつらがダークサイズ!」
取締役は驚き、すぐに怒りの目を彼らに向ける。
黒塗りの車から、これまた黒ずくめのSPたちが出てきて、
「どけ! 道を開けろ!」
「何をする!」
「エリア確保」
「絨毯良し」
「暗殺者の人影、なし」
「カメラ小僧、なし」
と、偉そうに人々を制し、ひたすら周囲の空間と安全の確保に奔走する。続いてSPの一人がリムジンのドアがガチャリと開ける。
「わたくしたちは……」
やたら丁寧な言葉遣いの艶っぽい声が、車の中から聞こえてくる。
「謎の、闇の、悪の、秘密の、結社、ダークサイズ……」
「だ、ダークサイズ!」
取締役は、律義にオウム返しをして応える。
黒ずくめの一人が差し出す手に、真っ赤なマニキュアを施した細く美しい手を乗せ、車を降りる女性。
金のウェーブがかかった長い髪、真っ赤なロングドレス、そしていわゆる超ナイスバディの美人だ。
「わたくしは、ダークサイズ大幹部の一人。女子部長・姉、キャノン ネネ(きゃのん・ねね)……」
「きゃ、キャノン ネネ……? ダイソウ トウ(だいそう・とう)じゃないのか……」
取締役は妙に芝居がかってたじろぐ。
「そして私は」
ネネと名乗る女性に続いてリムジンを降りたのは、銀のストレートヘアに銀と青を基調としたスーツ。こちらは背も低く、胸のサイズも控えめに、やさしい笑みをたたえている。
「ダークサイズ大幹部の一人、女子部長・妹、キャノン モモ(きゃのん・もも)」
「二人合わせて、キャノン姉妹とは、わたくしたちのことですわ」
キャノン姉妹と名乗る二人は、数人のSPを従えて、居合わせた人々に向かってポーズをとる。
「きゃ、キャノン姉妹……?」
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)も思わず声を上げる。
ネネはそれを聞き逃さず、
「あら、ダイソウちゃんったら。こないだわたくしたちのこと、紹介してくださらなかったのね」
「お姉さま、それは仕方がないことですよ。ここに来る待ち合わせに、これだけのメンバーが来てくれたのも、半分奇跡のようなものですから」
チクリと不満を漏らすネネを、モモが諭す。
「どうでもいいけど、派手な登場好きね、この人たち……」
雅が思い出したようにポツリと突っ込んだ。
ネネは不敵な笑みを浮かべて取締役に向き直りる。
「あなたが空京放送局の責任者ですわね?」
「そ、そうだ。ダークサイズが一体何をしに来た!」
長身のネネに老齢を迎えた取締役が対峙すると、彼の目線はどうしてもネネの胸元に行ってしまう。
「何をしに、ですって? フフ……わたくしたちは」
ネネは豪華な胸に挟んでおいた、これまた豪華な扇子を取り出し、ゆっくりと開いて見せる。さらにダイソウ譲りかと思わせる鋭い目線で取締役を睨みつけ、
「わたくしたちは! 修理のお手伝いに来たのですわ!」
「何を! 修理の、え、お手伝い?」
睨んでおきながら、お手伝いの申し出に、取締役も混乱する。
そこにモモが進み出る。
「そうです。私たちの目的はあくまで放送局の支配です。破壊することは本意ではありません。あくまで局が健全な状態でなければ、私たちにとってもメリットはないのです」
「ですから今日のところはあくまで休戦。わたくしたちとあなたたちで手に手を取り合って、今日はお仕事をいたしましょう?」
放送局支配を明言しつつ、あくまで今日は放送局復旧を強調する二人。
ここまで言われてしまうと取締役もぐうの音も出ない。
「し、仕方ない……しかしな! だからって弁償の請求額は減らさんからな!」
ネネは、フフ、と不敵な笑みを浮かべる。
「かまいませんわ。その辺はダイソウちゃんのお仕事ですもの。わたくしには関係ございませんわ」
取締役はキョロキョロと周りを見て、
「それで思い出した。ダイソウなんとかいう首領はどこだ。あいつにも一言言わんと気持ちが収まらん」
「知りませんわ。とくに探してもないし」
「探してすらないのか! ちょっとかわいそう!」
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