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リアクション
7
「ほらほらー。ごはんだよー。ダイソウトウ出ておいでー」
空京放送局からずいぶん離れた空京のはずれ。雲海を望めるほどの隅。桐生 円(きりゅう・まどか)は何故か猫の餌を振り回しながら、ダークサイズのリーダーダイソウ トウ(だいそう・とう)を探し続ける。
「あ、あのぉ、大総統殿は猫の獣人か何かなの……?」
高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が、確認するように円に尋ねる。
「ん? 違うよ」
「じゃあそれ、意味ないんじゃ……」
「大丈夫だよ。ダイソウトウだから」
「ええー、それどういうことー?」
パートナーのエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)がダークサイズに入りたいというので連れてこられた結和だが、まだ会えないダイソウトウのキャラクターに謎が深まるばかりだ。
キャノン姉妹も一切捜索してないという、ダイソウトウの行方。さすがに誰も探さないのはまずいだろうということで、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)の呼びかけで、円に結和、エメリヤン。また翡翠のパートナー山南 桂(やまなみ・けい)、そして赤城 長門(あかぎ・ながと)が捜索チームとなり、ダイソウトウが大凧で飛ばされた風の流れなどを読んで、ついに空京の果てまで捜索が及んできた。
「可哀そうにのう、ダイソウトウ! あれだけ大勢にいじめられた挙句、こんな所まで追放とは。オレが絶対救い出してやるけん!」
長門は義侠心に心を震わせながら、拳を握る。翡翠は、
「別にいじめられたわけでは……大凧も半分自業自得ですし。あれ、そういえばあなた、ダークサイズのメンバーでしたっけ?」
「そのダーク何とかはよう分からんが、人を助けるのに身内もなにも関係ないんじゃけん!」
長門は胸を張る。
円は茂みに入ったりしながら、
「とーとととと」
「円さん、鳩じゃないですから」
珍しく翡翠が突っ込みでみんなの世話を焼く。
「しかしもう、空京のはずれじゃけん。方角を変えて探した方がいいんじゃないかのう」
長門が、さすがに全く見つからないダイソウトウを心配している。
結和も、
「やっぱり基地とかに帰ってるんじゃないかなぁ。いい大人なんだし……」
と、もっともなことを言う。
「ん? 翡翠殿、あれは……?」
桂が遠くに、崖っぷちで佇む人影を見つける。雲海の方を眺めて体育座りをしているその影は、軍帽と軍服で身を固めている。
「あれはもしかして、いやもしかしなくても……」
「み、見つけた!」
「まさかホントにまだいるとは……」
「ダイソウトウじゃけん!」
謎の闇の悪の秘密の結社ダークサイズのリーダー、ダイソウトウ。彼は人気のない崖の際でキャンプを張っていた。
ダイソウは声のする方を振り向く。数人の見覚えのある人とない人のグループが近づいてくる。ダイソウは呼ばれたと思って立ち上がり、
「いかにも。私はダークサイズのリーダー、ダイソ……」
がばっ!
何かを堪え切れなかったのか、円は猛ダッシュで駆け寄り、ダイソウにしがみつく。
(ダイソウトウだー。ダイソウトウだー)
円はまだわずかにススが残るダイソウのマントに顔をうずめる。
それを見て食指が動いたエメリヤン。つられて大柄な彼もダイソウにしがみつく。
「む、お前は何者だ?」
尋ねるダイソウだが、エメリヤンは極端に無口な性格。
「あ、う、えーと……」
と、伝えたい言葉を考える。
そこに結和がいつものように、
「あのう、大総統殿。私たちは、えっと彼はダークサイズに入りたいって……」
「うむ。合格」
「ええー。判断早いー」
四の五の言わずに入れてしまうダークサイズ。
さらにドスドスと重い足音も近付いてくる。
「うおおー! ダイソウトウ! 無事じゃったけん! よかったけんー!!」
長門も感極まってダイソウに体当たり。彼の強烈な愛のボディアタックで、ダイソウは雲海まで吹っ飛ばされる。
「うおお! ダイソウトウが落ちるけん!」
ダイソウはかろうじて崖にしがみつく。
「仕方がないですねえ……」
翡翠はダイソウのキャンプにあったロープを垂らし、長門が彼を引っ張り上げる。
「死ぬかと思ったぞ」
ダイソウは長門に文句を言うが、危機感は全くない。
「それよりソウトウ、ずっと一人でここにいたんですか?」
翡翠は当然の疑問をダイソウに投げかける。
ダイソウも至極当然といった顔で、
「遭難したらその場を動かず救助を待つ。山歩きの基本だ」
「あ、ソウトウ的にはもはや遭難だったんですね……」
翡翠はあきれるが、そこに桂がダイソウの汚れを見咎めて、
「まずはその汚れた服装を何とかしましょう。人の上に立つ者は、まず身なりが第一です」
桂は軍服を新品に取り換え、髪をなでつけたり靴を磨いたり、かいがいしく世話をし、ダイソウは借りてきた猫のように、おとなしくされるがままだ。
円が今こそチャンスと、企画書を取り出してダイソウの目の前に広げる。
「ダイソウトウ。悪の組織は何と言っても戦闘員の部隊だよ。ゆる族で『ぺんぎん部隊』を作るよ。見た目はぺんぎん、武装はロケットから自動小銃、火炎放射機に竹輪まで何でもあり。鳴き声は『イー』じゃなくて『ぺんぺん』だよ」
円は矢継ぎ早にダイソウにプレゼンする。
「確かに私も戦闘員の可能性は模索していた。これをやるなら金がかかるな。バイトをがんばらねば」
「おや、そんな構想があるのですか。ではそのために放送局のたからくじを狙ってたんですね」
桂がダイソウに尋ねる。
「よく知っているな。見ろ。前回たからくじを10枚買ったら、当たりが出たぞ。300Gだ」
「それはつまり、はずれですね」
「なに! そうなのか?」
ダイソウはたからくじの仕組みをきちんと理解していないようだ。
しかし円は、いまいち話がかみ合わないな、と思う。
「買った? 放送局のあたりくじを狙ってるんじゃないの?」
「ん? どういうことだ」
円は放送局の復旧作業からキャノン姉妹のこと、また取締役の不正のことを説明する。
「そんなことが起こっていたのか」
「本当に何も知らないんだね……」
「しかし当たりがあらかじめ決められていたとは。私がいくら買っても当たらないじゃないか」
「そうだよ。だからキャノン姉妹があたりくじを手に入れようって」
「ふむ。それはダメだな」
「え?」
「夢は横から掠め取るものではない。自分で手を伸ばして掴むものだ」
ダイソウは立ち上がり、キャンプを離れ歩きだす。
「ダイソウトウ、どこにいくんじゃけん」
「空京放送局だ」
「キャノン姉妹の応援に行くんだね」
「違う。ちゃんと公平にくじをやれと文句を言いに行く」
「え、あ、そこ律義なんだ……」
ダイソウはくるりと向き直って進みだす。そこへエメリヤンがダイソウの裾を引く。
「何だ」
「あ、ええと」
「エメリヤンは獣人なのー。放送局まで送るって、え、エメリヤン、送るのー!?」
エメリヤンはこくりとうなずく。
「ほう、お前は何の獣人なのだ」
エメリヤンはダイソウの問いに、変身で答える。
エメリヤンは山羊の獣人。2メートルを越える身長の彼は、山羊と化しても馬に匹敵するほど大きい。
「ほう、素晴らしい」
ダイソウはエメリヤンの心地よい毛並みを撫で、さっと彼にまたがる。すかさず円と結和が乗り込む。やっぱりエメリヤン。三人乗っても大丈夫。
「そうだ。幹部名を与えねば」
ダイソウがエメリヤンの幹部名を思案する。エメリヤンは耳をぴくんと動かして、首をダイソウに向ける。
彼はダークサイズに入れたら、幹部名だけは決めていたのだ。
「あ、あの、僕はバーニーセーター号……」
「よし、行けい! コクオウゴウ!!」
ダイソウの号令に、反射的に走り出すエメリヤン。
(僕、山羊なんだけどな……)
疑問はさておき、三人を乗せたコクオウゴウことエメリヤンは、空京放送局に向かって走り出す。
「うおおおー! 待つんじゃけん! ダイソウトウはオレが守ってやるけんー!」
ダッシュする長門。
一方翡翠は、
「ま、自分たちはゆっくり追いましょう」
と、桂とタクシーを捕まえに通りへ向かった。
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