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リアクション
4
「はぁい、向日葵おねえちゃんっ。ファイルです。よいしょっと」
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、ファイルの詰まった段ボールを運んでくる。
「ありがとう、ヴァーナーちゃん」
と、秋野 向日葵(あきの・ひまわり)がヴァーナーを向くと、ヴァーナーは両手を広げて上半身をフリフリと揺さぶっている。
察した向日葵は、
「はいっ、ごほーびだよー」
と、ヴァーナーをやさしくハグしてあげる。
「うわぁーい。うふふー」
ヴァーナーは、一つ向日葵の手伝いをするごとにハグのご褒美をもらっている。
現在彼女らは、3階の自社データサーバーの管理室にいる。
「しかし驚いたな」
大岡 永谷(おおおか・とと)は不審な者が近づかないよう気を配りながら、サーバーの配線を手伝う。
「空京放送局が、裏でこんなことをしていたとは……」
永谷の言葉に、向日葵は反論する。
「放送局が、じゃないよ! あの取締役が、だよ」
「それは確かにそうだが」
「不正とはいえ、取締役はややこしいルートを採用しましたね」
影野 陽太(かげの・ようた)はナゾ究明のスキルを発揮しながら、ビルの図面とにらめっこしている。
「放送局の収益を、空京たからくじを通して着服する。マネーロンダリングに近いやり方だ」
「せっかくダークサイズから放送局を守ったのに、今度は身内が局の私物化を狙うなんてっ。もう次から次へと……」
向日葵はため息交じりにモニターで、取締役のデータのやり取りを探る。
湯島 茜(ゆしま・あかね)とエミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)も、向日葵を手伝いながら、不正に関するそもそもの疑問を投げる。
「だいたい、たからくじの当選券の確保ってできるものなの? 当選番号って、コンピュータでランダムに決まると思ってたよ?」
それに答えるのは陽太。
「プログラムの開発に関わっていれば可能です。もちろんモラル的にも法的にも厳しく禁じられてますが」
「なるほど。では今までも、取締役は当たりを出しまくってたのでありますね」
エミリーは結論を出すが、陽太は首を振る。
「いや、そうではないのがこの人のやっかいなところです」
「どういうことだ?」
永谷の質問に、向日葵も口を開く。
「今まで取締役は一回も当選してないのよ」
「え? どうしてだ?」
永谷は驚いて向日葵を見る。
「決まってるじゃん。自分が当たりばっかり取ってたら、変な風に見られるでしょ?」
「当然そうだろうな」
「取締役が狙ってるのは、キャリーオーバー分です」
「キャリーオーバーって何?」
「空京たからくじはキャリーオーバー制度が採用されています。いわば当選金の積み立てです。貯まりに貯まったキャリーオーバーを一気にかっさらうつもりですね」
「今まで売れてない番号を意図的に当選させてきたの。ダークサイズのせいで破損したサーバーの修復をしてたら、そのデータを偶然見つけたんだけどねー」
「なるほど。逆説的だが、ダークサイズのおかげで不正も明るみに出たわけか」
「むぅ〜。悔しいけど一理ある……」
向日葵は納得がいかない顔をする。永谷は向日葵を諭すように、
「まあ反省したわけではないだろうが、ダークサイズも放送局の復旧に一役買っている。今日は敵ではなさそうだ」
「どうかしらねっ。もしかしたら取締役の当たりくじを横取りする気かもよ」
『横取り』という言葉に、茜はぴくりと反応する。
「まさか。やつらはあくまで放送局が狙いだろう?」
「あ、それに関してですが……彼らもたからくじを狙ってますよ」
「な、どういうことだ陽太さん」
意外な情報を知っていた陽太を、永谷たちが見る。
「いや、実は、今回の敵は取締役だけだと思ってたので、根回ししてダークサイズと協力関係を結んでるんです」
「な、なにー!」
取締役も敵だが、彼らにとってはダークサイズも敵対勢力。陽太は裏でそんな根回しをしていたのだ。
向日葵は当然怒る。
「何でダークサイズなんかと協力しなきゃいけないのよ! 君、あたしの軍師のくせに! 軍師のくせにー!」
向日葵は陽太の胸をぽかぽか叩く。
「ひどいですっ! ダークサイズのわるいひとたちとお仲間なんてっ!」
ヴァーナーも向日葵に乗じて陽太をぽかぽか叩く。
「す、すいません……でも不正の証拠をつかんだら、俺にも情報が回ってくる手はずになってますから……」
陽太は言い訳をするが、向日葵は納得がいかない様子。しかし永谷は腕を組んで考える。
「そうか。まあ俺としても、利害が一致するなら協力してもいいんじゃないか?」
「ええー! 永谷くんまで!」
「もちろんダークサイズに放送局の金は絶対に渡さない。しかし取締役の不正を暴くまではいいんじゃないか」
と、永谷は大人の対応。
「で、不正の証拠というのは何なんだ?」
「おそらく取締役のもとにあるであろう、たからくじの当たり券。そして決められた当選番号のデータです。それがセットになって初めて取締役を告発できます」
(そっか。それが手に入れば、あたしたちは大金持ちなんだね!)
茜の目がきらりと光る。
「ならばっ! その証拠品を抑えるのは我々に任せてもらいましょうっ!」
「しまった、やつらにばれたか?」
ばんっ!
管理室のドアを盛大に開いてポーズを決めている、風森 巽(かぜもり・たつみ)、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)、月美 芽美(つきみ・めいみ)、芦原 郁乃(あはら・いくの)、荀 灌(じゅん・かん)。
「大丈夫! 私たちは100パーセント向日葵ちゃんの味方!」
待ってましたとばかりに声を張り上げる透乃。
復旧作業のふりをして秘密裏に動いていた陽太たちは慌てる。
「あ、あの、少し静かに……」
と、彼らを抑えようとする陽太に構わず、
「蒼い空からやってきて! 復旧作業を手伝う者! あと貴公らを助ける者! 仮面ツァンダーソークー1ッ!!」
まず巽が前に一歩出る。さらにそれを押しのけて、
「熱い拳に想いを込めて! 殴る! 燃やす! ぶっ壊す! 美少女戦士部、烈火の拳姉、霧雨透乃!」
「静かに燃え上がれ、希望を忘れぬ強き想い! 絶望を恐れぬ強き心! 静寂の勇姫、緋柱陽子!」
「煌く雷光を纏い舞う勇姿は、夜空を翔る流れ星。流星の戦婦、月美芽美!」
三人はわざわざフォーメーションを決め、
「私たちの正義を貫くために、ここに参上!」
と、ユニゾンする。
「あの、マジでちょっと静かに……」
「そしてそしてー!」
とさらに彼女らを押しのけて、
「向日葵と正義を行うために、今回もやってきた! 正義の秘密結社カルモニア大首領! 芦原郁乃だよ!」
郁乃は思いっきり存在をアピール。その隣にいる灌が、
「あ、どうも。荀灌と申します」
と、普通に挨拶。
「だぁーっ! ちょっと荀灌! もちっとまともな台詞はないわけ?」
郁乃は台無しにされた気分になって灌を責める。
「と言われましても、私は正直よくわかってないんですよ……」
郁乃に追及されながら、何も説明されてない灌は、一生懸命言い訳をする。
さらに巽も、
「そうです! まるで我らがかませ犬みたいじゃないですか!」
さらに透乃たちも続いて灌にクレームをつける。
「もうっ! おいしいところ持っていこうとしないでよぉ!」
「いや、別にそういう狙いでは……」
彼らはどうも登場の打ち合わせをしていたらしく、それが上手くいかなかったのは結構なフラストレーションのようだ。
その様子を見て、ついけらけらと笑いだす向日葵。
「ああ〜ん! 向日葵ちゃん、笑わないでよぉ!」
顔を赤らめて向日葵に向かう透乃。
「と、透乃ちゃん……やっぱり恥ずかしい……」
陽子は透乃の袖を引く。
「あははー。こういう感じ、結構面白いわ」
芽美は、まんざらでもなく楽しんでいる。
「まあとにかく!」
巽は何とかこの場を収めようと、声を上げ向日葵たちをあおる。
「我らは貴公らを助け、取締役から当たり券と当選番号のデータを奪い、さらにその横取りを狙う、謎の闇の悪の秘密の結社ダークサイズ、略してニャークDSを叩きのめすのです!」
正義のヒーロー組は打ち合わせておいたフォーメーションを決める。
「さあ、取締役のところに向かいましょう! 我らは何をすればいいですかッ!!」
「とりあえず、待ちです」
「……あ。そう……ですか……」
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