百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

少年探偵と蒼空の密室 A編

リアクション公開中!

少年探偵と蒼空の密室 A編

リアクション


ANSWER 17 ・・・ 襲撃者の問題 桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)榛原 勇(はいばら・ゆう)狭霧 和眞(さぎり・かずま)須藤 雷華(すとう・らいか)

V:しっかし、このゲームは明らかにおかしいな。
動画をご覧のみなさん、こんにちは。俺は、桐生景勝ちゃん、だ。
いろいろあってさ。ほら、あの、アーケードゲームの蒼空の絆ってあるだろ。
 あれについてググったり、掲示板に書き込んだりしてたら、おかしな招待状が届いてさ。

「景勝さん。他の人たちは、まだ様子を見ていて、なにもしていませんけど、本当に攻撃を開始しちゃっていいんですか? それとさっきから、ぶつぶつなにを言ってるんです。気味が悪いんでやめてください」
 景勝のパートナーのリンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)は、いつでも、こうして彼の世話を焼いてくれる、お姉さん役だ。
 いまも蒼空の絆の実験機に一緒に入ってくれている。
「後で、動画サイトに投稿しようと思って、プレイの様子を実況つきで、撮影してるんだ。この筐体の中で、犯罪が行われれば証拠映像にもなるし」
「そんなのんきなこと言って、もし、ここで危険なめにあったりしたら、衝撃映像として、パラミタ中のパソコンにダウンロードされちゃうかもしれませんよ。私は、長生きしたいんで、このトシで殺人事件の被害者になったりするのは、ごめんです。ぷいぷい」
「とりあえず、どんなに画像がリアルでも、メロンちゃんによれば、こいつはゲームなんだろ。じゃ、村を壊滅して、ハイスコアをいただくとしようぜ」
「攻撃対象の村には大した戦力もないようですし、簡単に壊滅できそうですね。でも、一緒にプレイしている人たちは、誰も攻撃していませんよ」
「だからこそ、得点キングを狙えるチャンスじゃん。このゲームは、どう見ても子供むきじゃねぇし、たぶん、このままの状態じゃ市場には出回らないだろ。つまり、プレイできるのは、レアな体験ってわけ。事件の謎は、ゲームをクリアしてから、あまねちゃんとでも連絡とって、ゆっくり考えるとしようぜ」
 上空から、標的の村の建物を複数同時にロックオンし、景勝はトリガーに指をかけた。
「攻撃準備完了っと」
「景勝さん。ちょっと待ってください。私、ものすごく、悪い予感がするんで、空京で蒼空の絆の大会に出場している榊さんたちに、携帯で相談してみますね。
 榊さーん? バッキーさーん? そちらはどうですかー? こちらは、よくわからないことになっていますー。あのー、はじめは、博士とお食事会のはずだったんですけど」


V:食事会では、ヒヤヒヤしちゃいました。僕がみんなに噂を広めていたの、博士も知ってたんですね。でも、おかげでこうやって、新型の筐体にも乗れたし、博士もこれは実験だって言っていたから、僕、榛原勇は、あれこれ試してみます。好奇心が強すぎるかな。ゲームの中で自由に遊ぶのは、別に、なにも悪くはないはず。噂通り、体がバラバラになるとか、もし、危険なめにあった時の証拠として、ここでの状況は撮影しておきますね。

「榛原です。僕は一時、戦線を離脱しようと思います。行ってみたい場所があるんです。このゲーム、すごいですよね。現実世界そっくりのマップに、終りはあるんでしょうか? 僕は、行けるところまで、行ってみたくなりました。勝手な行動をとって、すいません。僕抜きでミッションは進めていただいて結構です。それでは、失礼します」
 ボイスチャットで、他の実験参加メンバーに断ると、勇は、機体を旋回させ、天御柱学院を目指し、発進した。

V:リアルすぎる操作感覚、画像。これがゲームなのか現実なのか。僕、はっきりわかんなくなっちゃったんです。学院の、僕らがいまいるところまで、この機体がこられれば、すべてはっきりしますよね。みんなと、僕の前にこのイコンが姿をあらわしたら、これはゲームじゃない。

 勇が操作するイコンは、ニセモノとは思えない蒼空を翔けてゆく。


「あなた達は、ゲームの世界の住人ですか?」
 イコンの外部スピーカーを使用し、ルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)は、空から村の住民たちに語りかけた。
 パラミタ僻地の小さな村の住民たちは突然、襲来したイコンを見上げ、呆然としている。
「和眞さん。機体を地上に降ろしてしてください。村の人たちとコミュニケーションが取れるかもしれません」
「了解。みんな、ルーチェの言葉を聞いて、こっちを見てるッスね。どうこたえればいいのか、迷ってる感じッス。ゲームのヤラレキャラにしては、人間っぽすぎる反応ッスよ」
 狭霧和眞は、イコンをゆっくりと着地させる。ルーチェは、イコンの周囲にいる人々に再び声をかけた。
「これは、ビデオゲームですか? 教えてください。あなた達は、この村で、普通に生き、生活している人間なのではありませんか」

 V:できがよすぎるっうか、どう見ても、このゲーム、本物ッスよ。いくら、戦争ゲームが好きな人でも、これやって楽しめるとは思えないッスねぇ。戦争自体が好きな人なら、わかんないッスけど。これ、絶対CERO審査受けてないっしょ。ルーチェの意見を聞いて、村の住民に話しかけてみたんッスけど。反応が生すぎ。
 あ。オレがこうして実況してんのは、いま、ここで密室殺人の被害者になる可能性があるかもしんないんで、撮影しといた方がいいって、これもルーチェのアドバイスっす。

「集音マイクで外の声を拾います」
「OKッス」
 イコンの周囲にいる村人たちの話し声が、筐体内に響く。
「聞き取りにくいですが、何度も、悪魔、軍隊、傭兵という単語でているようです。直接、こちらに話しかけてくる人はいませんね。もう一度、質問しましょうか」
「そうッスね。やっぱり、これは、ゲームじゃないッスよ。オレ、博士に事情を説明してもらいます。ルーチェは、他の実験参加メンバーが村を攻撃しないように、お願いしておいて欲しいッス」
 安全ベルトを外し、和眞が筐体からでようとしたその時、和眞のイコンは上空から攻撃を受けた。


 ゲーム開始直後、北久慈 啓(きたくじ・けい)は、すぐに筐体からでようとした。パートナーの須藤雷華にも、プレイの中止をすすめる。
「雷華。降りろ。これは、とてもやってられん」
「啓くん。どういう意味、まだ、はじまったばっかりだよ。村の上をただ飛んでるだけじゃない」
「断言しよう。こいつは、本物だ。おまえは、いま、実物のイコンを遠隔操作している。高度に発達した科学は、魔法と見分けがつかない、という言葉を知っているか? 俺は、魔法の方でこれと同じような罠にかけられた経験がある。現実と夢の区別をつかぬようにして、人にあやまちを犯させるのは、魔術師の常套手段だ」
「キャメロットの円卓の騎士だった啓くんは、そりゃあ、なんでも経験してるでしょうけど、これについては、判断を下すのが早すぎると思うなあ」
 納得できない雷華は、首を傾げた。
「たしかに、いままでゲームセンターでやってきたのとは、だいぶ勝手が違うけど、それは博士も言ってたように、新作の実験機だからだよ。実験なんだから、蒼空の絆ヘビーユーザーの私もいつもと違うことしてみたいの」
「なにをする気だ」
「ふふ。歌をうたってみようかな。ゲームのキャラにしては、この村の人たち、普通すぎるのよ。攻撃しにくいよね。武器を使ってやっつけてしまうのではなくて、別の方法で攻めてみようと思って」
 イコンの外部スピーカーをオンにすると、雷華は、恐れの歌をうたいはじめた。
 筐体からでる気のなさそうな雷華に、眉をひそめると、啓は、シートを離れ、筐体のコクピット内を調べはじめる。
「おかしな仕掛けがあるかもしれん」
 しゃがんだり、よつんばになったり、隙間を覗き込んだり、手をのばしたりだ。

 V:村の人たち、私の歌に反応してる。怖がってる。怯えてる。なにこれ。ゲームでここまで、できるの? 私、この人たち、撃てないよ。だって、本物の人だもん。

 歌うのをやめた雷華に、啓は顔を近寄せ、耳元でささやく。
「筐体内にカメラが仕掛けられている。実験機だから、当然なのかもしれんが、ここでの行動は、博士につつぬけだ」
「えー。プライバシーの侵害だよ。そんなに私のゲームする姿が見たいの? ここで人をバラバラにして、それを撮影して楽しんでるとか? どうしよう。こっからでた方がいいよね」
「パートナーよ。俺は、最初から、そう言っている」
 雷華がゲームをやめ、二人が筐体からでようとした時、筐体のハッチが外部から開いた。


「こっち? 楽しくもないゲームをみんなでやって、それでも優勝しちゃったけどね。なんだかね、全国大会にご招待って話だったんだけど、いま、雲行きが怪しくなってきてて、孝明やフレデリカとこれからどうするか、考えてるところ。リンドセイ。いま、ヘンな声ださなかった。あんた、なにしてんの?」
「攻撃です! バッキーさん。敵の攻撃です! イコンの小隊に囲まれました。油断してたら、すっかり囲まれてました。仲間の人たちもみんなやられてます。景勝さん。こんな時こそ、がんばってください。数が違いすぎてムリ、って、そうですね、それはわかりますけど、キャー。
 機体が受ける衝撃まで実機並みです。これ。
 仲間のみなさん、聞こえてますか、敵機は、天御柱学院の所属のイコンです。機体には、ジャックオーランタンのエンブレム。
これは、たしか、ハロウィン小隊。
 なんで、本当にある小隊が、私たちを攻撃してくるんですか?」
「リンドセイ。落ち着け、おい、どうした、返事をしろよ。どうなってるんだよ。あたしたちは、これからメロン・ブラック博士のご招待を受けるらしい。あんたちと同じところに行くのかな。おーい。なんか、しゃべれよ」