リアクション
第15章 しょせん人間
本当に倒せたのか?
ドゥルジを飲み込んだ森を見下ろして、だれもが思った。
飛んで戻ってくる様子はない。が、あの不死身の姿を見た以上、死んだとも考えられない。
「あっちへ戻ってください〜、うちのルーツと鴉が、あっちに落下したんですの〜」
サー・ベディヴィアの小型飛空艇に移っていたアスカが、後ろの森を指す。
「月谷くんも探さないと」
霜月のレッサーワイバーンに助けられた真の言葉に、全員が旋回をして3人が落下したらしい位置に向かう。
ただ1人、遙遠だけがドゥルジを追った。
そのころ。
実は要もまた、傷ついた体で森を走り、ドゥルジの落下地点へ向かっていた。
枝を掻き分けて進む道なき道は、足場が不安定で、一歩踏み出すごとに砕かれた鎖骨に響く。切れた息は浅く激しく、夏場の犬のようだ。木々の間を落下したためボロボロになった服、泥まみれの手足。
しかし無様な己の姿を一切かえりみることなく、要はひたすら一心不乱にドゥルジの姿を求めた。
やがて、死龍のバラバラに砕けた骨が飛び散った場所に出る。
大量の木々がへし折れ、ぽっかりと空いた緑天井から月明かりに照らされた場所。
両膝に手をつき、切れた息を整えようとする要に、遙遠が口元で人差し指を立てた。
その指で、見ろ、と月明かりの空き地を指す。
巨大な死龍の骨にまじって、ドゥルジが大木の根元に座っていた。
上空には、背骨が折れて3分の1ほどになり、左腕も失った風龍が、見張りに立つ犬のように浮かんでいる。
ドゥルジはまず右腕の修復にとりかかることにしたようだった。
皮一枚でつながっている状態だった右腕に、引き寄せられるように集まった大小それぞれの石がくっつき、本体とつなげていく。
風龍の上で見た通り、ものの十数秒で完治した右手で、今度は首に刺さったままだった刀を引き抜き、投げ捨てた。
そうする間にも、膝から下が砕けた両足と左腕が修復されていく。
まるで砕かれた人形をビデオの逆回しで見ているようだった。
手足を投げ出してじっと動かないその姿が、異様で警戒すべきものというよりも、打ち捨てられた人形のように見えるのは、うなだれて表情が見えないからだろうか?
そこに、赤龍が現れた。
こちらもかなり痛めつけられているようで、蒼空学園に現れたときより肉がはげ落ち、骨の露出が激しい。後ろ足と左手は、両方ともなくしている。
そして。
上空からドゥルジの傍らに石を落とした直後、龍珠がこなごなに砕け、その瞬間赤龍はただの死体にかえって落下した。
破損した龍珠では、ここまでたどりつくだけで、やっとだったのだろう。
ドゥルジの命令を守り、蒼空学園の生徒と戦い、石を回収することに成功した。
だがドゥルジはかえりみない。
少し先で崩れた死骸になど一切目を向けることなく、自分の手元に石が返ってきたことだけを喜んで、大切そうに袋に入れて腰に吊るしている。
死龍は敵だ。龍珠が砕けたのも、蒼空学園で戦った者たちの成果だ。
分かっていたが、それでも、その無慈悲さが要には許せなかった。
スプレッドカーネイジを向け、月明かりの下に歩み出た。
「――悠美香を、元に、戻せ」
現れたボロボロの要に、ドゥルジはふんと鼻を鳴らした。
「もう解除済みだ。それすらも感じとれないとは、つくづくおそまつだな、人間は」
その言葉に、要は初めて悠美香の意識を探った。
『要……よかった……通じた…』
ため息のような悠美香の心の声がする。
それは今の要にとって、天上からの声に等しかった。
「悠美香! 目が覚めたのか!?」
まだ目覚めたばかりで消耗が激しいのか、悠美香からの返事はなかった。しかし精神感応で、悠美香の意識を感じとることができる。
悠美香が助かったのだと実感したとたん、激しい震えと脱力感が要を襲った。その場にがくりと膝をつき、両手をつく。
「……あ…?」
熱い水滴がぽたぽた手の甲に落ちたのを感じて、自分が涙をこぼしていたことに気づいた。
「おまえたちの相手で、思った以上に力を放出しすぎた。あいつを相手に、これでは足りない。
もう片方の石は、もう少しだけ持たせておいてやるさ」
夜空を渡る流星のように飛び返ってくる石たちを見上げてドゥルジが左手を掲げる。
石たちはドゥルジの掌に吸い込まれるように飛び込み、同化していった。
「おい、おまえ! どうしてこんなことを……石を返してほしければ、なぜ最初にそう言わない? こんなことしなければ、オレたちだって――」
「言えば返したと?」
面白い冗談を聞いたと言いたげに、ドゥルジの口元が笑む。
「そりゃ、オレにその権限はないけど、山葉は話の分からない男じゃない。おまえが正当な持ち主と分かれば、返したに決まってるさ」
「やれやれ。ばかな人間。おろかな人間だ。
おまえたちがいまだかつてその手に握った力を無条件に手放したことがあるか? 返すと言いながら武器をつきつける。正当性など一顧だにしない。
しょせんおまえたちは人間なんだ」
その淡々とした物言いから感じ取れたのは、見下しでも思い込みでもなく、ただ事実を口にしているという思いだった。
過去、そういうことがあったのかもしれない。
そういうことばかりだったから、彼は今回もまた、人間はそうすると考え、それ以外があるなど思いもしなかったのだろう。
要は「そんなことはない」と言いかけて、結局口を閉じるしかなかった。
こんな物騒な男がいきなり現れて、言われるまま本当に山葉が返したと、100%言い切ることはできない。
完全に体の修復を終えたドゥルジは、ぱちんと指を鳴らした。
降下してきた風龍に飛び乗る。
「どこへ行く! もし……もし、まただれかに害を為そうっていうなら――」
不死身であると知りながら、傷だらけの身でなおも銃をつきつける要を見て、ドゥルジは初めて、腹の底から愉快だと笑い声を上げた。
「なぁ人間。俺は、おまえたちのそういうところは嫌いじゃないよ」
目を細めてにっこり笑う。その顔は、人懐こい、ただの少年にしか見えなかった。
要の鎖骨を片手でやすやすと握りつぶしたのと同一人物にはとても見えない。
「一体どこへ…」
毒気の抜かれた思いでつぶやく要の前、風龍を操り、ドゥルジは東に向かって飛んで行く。
遙遠は地獄の天使の翼を広げ、夜の闇にまぎれてあとをつけた。
そして、パートナーたちが目覚めた喜びに沸き返る蒼空学園では。
「一体あそこで何が起きているんだ…」
シラギさん、神官さん、ヒノエちゃん、白張のおじさん、巫女のおばさん……だれにもつながらない。
発信音だけがする携帯を手に、正悟が恐怖のにじんだ声でつぶやいた。
《つづく》
こんにちは、またははじめまして、寺岡です。
公開が大幅に遅れてしまってすみません。なぜかといいますと、なんてことはない(なくはない?)、わたしの締め切り記憶間違いです。
27日だと、何の迷いもなく思い込んでいました。申し訳ないです…。
さて。
今回は前編だったわけですが、皆さんのアクションを経まして、以下の点が後編に引き継がれます。
・ドゥルジを完全に足止めすることはできなかったが、エネルギーを3分の1程度そぎ落とすことに成功した。
・LCたちは目覚めた。
・蒼空学園の宝物室に石が保管されていないことが判明した。
・石は現在ヒラニプラのシャンバラ教導団で分析されている。
・シャンバラ教導団には力のある石が2つ、力をなくした石が1つある。
・如月正悟が力をなくした石を1つ持っている。
宝物室へ向かうアクションをかけられていた方は、宝物室へたどりつけなかったこと、山葉に連絡をとろうとしていたこと、
説得に応じて宝物室行きを断念したことからお咎めはなしとなります。
また、デジタルカメラデータ、小型端末内データは蒼空学園内部機密保持のため強制的に没収されています。ご了解ください。
そして今回、前もって「判定はきつめ」とお断りさせていただきました通り、できないものはできない、ということで失敗アクション
あるいは没となっています。
そして、これが一番多かったことですが、同一アクションは名前なしで一緒に表現させていただいています。
例えば「いっせいに」とか「みんなで」とかです。名前を羅列すると半端なく、何行にも渡ってしまうからです。
アクションの例としては「氷術で攻撃する」「防御魔法をみんなにかける」等です。
そしてわたしの反省点としては、サンプルアクションをもっと増やすべきでした。
例えば「病院へLCたちを運ぶ」とかです。このアクション、いっぱいくるかと思っていたのですが、1人もいらっしゃいませんでした。
おやあ? みたいな(笑)
ドゥルジは途中で学園を離脱することをお知らせしていましたから、少ないだろうと予想していたのですが「ドゥルジと戦う」を
選択された方が想像以上に多く、たくさんの方が追いすがってくれました。
それにより、LCたちは目覚めることができたわけですが、そうならなかったらどうしようかと本気で……うにゃうにゃ…。
うん、まぁね! 後編で目覚めたよね、きっと!!(笑)
さてさて。
次回後編ですが、後編はドゥルジが向かった先になります。今度はドゥルジとの(たぶん)決着戦です。
近日中にガイドを公開させていただきますので、皆さんよろしくお願いします。
それでは。
ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
次回は後編ですが、そちらでもお会いできたらとてもうれしいです。
もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいなぁ、と思います。
それでは。また。
……しかし。今回一番悲惨だったのは山葉だった気がしないでもないですねー。
携帯オンにすりゃ何十件と着信・伝言は入っているし、戻ってきたら学園ボロボロだし、怒りをぶつけようにも敵は捕まってないし(笑)
※11/28 文章を一部修正・訂正・加筆させていただきました。
※12/01 文章を一部訂正させていただきました。
ご指摘いただきましてありがとうございます! いい作品にしていきたいと思っておりますので、これからもどんどんご指摘ください。