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リアクション
4.キマクにて
オアシスといえど、街の治安は見ただけでも良くないと分かる。
「にゃーあーうー!」
聞き覚えのある声に振り向いたトレルは、溜め息をついた。
「しつこいですね、あなた」
猫娘は全速力で走ってきたらしく、身体中が砂にまみれていた。
涼介が機嫌を悪くするトレルへ言う。
「よほど、トレルのことを気にいってるらしいね」
「私には荷物なだけです」
と、呆れた様子でさっさと歩き出すトレル。その後を凶司とエクスが追っていくと、急に何者かが前方を塞いだ。
「悪ぃな、お嬢様」
「ぎゃっ!?」
がっと首に腕を回され、トレルは身動きが取れなくなる。
とっさに涼介が『ブリザード』を起こすも、あと少しのところで避けられてしまう。
「忘れたとは言わせないぜ。こいつを返して欲しかったら、アジトへ来い!」
猫娘へ言い捨て、男はトレルを拉致して去ってしまう。
「くそ、もう少し速く対処できたら……」
と、涼介が悔しがる。凶司は地面にトレルの携帯電話が落ちているのに気づき、拾い上げた。それから猫娘を振り返る。
「助けに行きましょう」
「何? 一般人を拉致したって?」
舎弟から入った報告に国頭武尊(くにがみ・たける)は苦い顔をした。
猫型の機晶姫と揉め事を起こして以来、何かと気を配っていた連中だったが、今回ばかりは見過ごせない。
「無関係の奴巻き込んで、連中は何がしたいんだ」
吐き捨てて、武尊は立ち上がった。
「奴らのアジトを探しだすぜ」
「まさか、あのトレル嬢がさらわれるなんて」
源鉄心(みなもと・てっしん)は溜め息にも似た息をつく。
「それにしても、何故彼女が?」
と、ティー・ティー(てぃー・てぃー)が問いかけると、三人は猫娘を見た。
「相手はこの猫型機晶姫を目の敵にしているらしい」
鉄心はその顔に見覚えのあるような気がしたが、自分たちの探していた人物はもっと威厳のある顔だった。それに猫型の機晶姫なんて、他にもいて当然だろう。
「そうか。この事件は教導団として見過ごせないし、俺たちも協力するよ」
「まさか、誘拐事件が起きていたとは……」
夜薙綾香(やなぎ・あやか)は溜め息をついた。
悪漢を退治することが出来れば、報酬として古書が出るというから捜索に来た綾香だが、これは予想外の事態だった。
「それもさらわれたのが空色のショートカット、と言われると、不安ですわね」
と、アンリ・マユ(あんり・まゆ)も言う。
「ああ……あいつに違いない」
知り合いがさらわれているのなら、報酬ついでに助けるしかないだろう。
「この辺りに隠れてても、おかしくねーんだけどなぁ」
フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は周囲を見回しながら呟く。
同じく周りを見ていたリネン・エルフト(りねん・えるふと)は前方で作戦会議をしている人たちがいるのに気づいた。
「……あれって、もしかして?」
リネンの指す方向に目を向けたフェイミィは、あっと目を輝かせた。
「いたー!」
前足で耳の裏をかいていた猫娘が視線を感じて顔を上げる。
「にゃ?」
リネンが声をかける前に猫娘に近づいていたフェイミィは、目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「あなたはもしや……いや、まだ記憶喪失なのか?」
はっとしたフェイミィを無視し、エクスの足元へ避難する猫娘。それでリネンたちの姿に気づいた一同が、疑わしい目を向けてくる。
「ああ、話し中の所を悪いな。その猫に用があってきたんだけど」
フェイミィがそう言うと、凶司が言葉を返す。
「それなら、後にしてくれませんか?」
「え?」
「知り合いが悪漢にさらわれてね」
「これから、その彼女を助けに行こうとしてたんだ」
涼介と鉄心が説明をすると、フェイミィは猫娘を見て、真剣な表情を浮かべた。
「そういうことなら、オレたちも協力するぜ」
相手がどれほどの強さか分からないということで、凶司はトレルの携帯電話を使って知り合いに呼びかけた。
すでに向かっていた紫月唯斗(しづき・ゆいと)は、ワイバーンを急かしつつ、パートナーたちへ連絡を入れる。
「状況が変わった。最悪だ、なるだけ早くキマクへ来てくれ」
携帯電話の向こうでエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が慌てる。
『最悪の状況とは、いったい何が起きたのだ?』
「トレルがさらわれたんだよ」
『さら……睡蓮、プラチナム! 急いで向かうぞっ』
ぷちっと一方的に通話を切られ、唯斗は苦い顔をした。
「間に合えばいーんだけど……待ってろよ、トレル」
と、気を取り直しキマクを睨む。
「マヤー、こんな姿になってしまうなんて気の毒ですねぇ」
レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)がそう言って猫娘と目を合わせる。
彼女もまた、フェイミィたちと同じく猫娘に用があって合流したのだが、どうやら猫娘に関する情報はフェイミィたちよりも多く持っているらしい。
「この状況では、マヤーの護衛も必要になりますね。戦力に数えることはできないでしょう」
と、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)も猫娘を見やる。
「……その、猫型機晶姫が名のある格闘家だというのは、本当に?」
と、鉄心が問うと、レティシアが頷いた。
「そうですよぉ。このお方こそ、猫型機晶姫の傑作、マヤー・マヤーなのですねぇ」
目を丸くする鉄心とティー。
「世界中を放浪していたマヤーが、まさか記憶喪失で野良猫になってしまうなんて、あちきもびっくりですぅ」
「……そうか。やっと合点がいった。だから、そばにいたトレル嬢を狙ったわけだ」
彼らとマヤーの間で何があったかは分からない。けれども、人質を取るなんて汚い。
レティシアは猫娘改めマヤーへにっこり微笑んだ。
「記憶が戻るまで、あちきたちが護衛するので安心して下さいねぇ」
――待っていろよ、トレル。王子様が今すぐ、助けてやるからな!
連絡を受けてタシガンを飛び出した佐々木八雲(ささき・やくも)の後を、佐々木弥十郎(ささき・やじゅうろう)は追っていた。
『精神感応』で漏れ聞こえてくる八雲の呟きに、恥ずかしくならざるを得ない。
どうやらキマクで悪漢たちにさらわれたトレルだが、アジトやその他の情報を聞く前に八雲は家を出てしまっていた。
弥十郎はアジトの場所や相手のことをそれなりに知っていたが、八雲は全速を出していて追いつけそうもない。呼びかけても、トレルのことで頭がいっぱいになっていて気づかないだろう。
困った兄だと思いつつ、弥十郎は八雲から目を離さないように集中した。
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