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番長皿屋敷

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番長皿屋敷

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    ★    ★    ★
 
 通りの中央にドーンと立って、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)は客引きをしていた。客引きと言っても、完全重装備の竜騎士の格好なので、はっきり言って通行妨害に等しい。特別声をあげて客を呼ぶということをしない代わりに、交通整理よろしく手を振って、歩いてくる者たちを店の方へと誘導している。
 そこへ、一台のスパイクバイクが通りかかった。エシク・ジョーザ・ボルチェの指示通りに、彼女の手前でギュルンと後輪をすべらせてバイクのむきを変える。
 風にはためいていたビロードのマントが、勢いで甲冑姿の右半身に覆い被さった。さっとそれを右手で払いのけると、織田 信長(おだ・のぶなが)はゆっくりとバイクから降りた。
「わしの愛馬を頼む。凶暴だから気をつけてな」
 エシク・ジョーザ・ボルチェにスパイクバイクを預けると、織田信長は取り出したシルクハットを被りなおし、ゆっくりと店にむかって歩き出した。
「さあ、この聖書をお持ちなさい。これを持っていけば、ただで御飯が食べられるのです。これも神の思し召し。けれども、この聖書を売り払った場合は天罰がその身を焼き払うでしょう。気をつけなさい」
 勝手にそう言うなり、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が持っていた聖書を織田信長に押しつけた。
「おお、これはデウス様の書か。ありがたくいただこう」
 微塵も拒絶することなく、織田信長がベリート・エロヒム・ザ・テスタメントから聖書を受け取った。
「まあ、なんて素敵な人なんでしょう。彼の者に祝福あれ」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが、小躍りして喜ぶ。普段の日堂真宵やアーサー・レイスたちの扱いからしたら、まさに天にも昇る気持ちであった。
 バタンと両開きのウエスタン扉を押し開くと、織田の麩瀬長は店の中へと入っていった。
「お帰りなさいませなんだもん、御主人様」
 ひらりとフリフリの衣装を翻して、秋月葵が飛んでくる。
「うむ、殿と呼ぶがよい」
「ええと、ここはメイドカフェで、戦国武将カフェではないんだよね……」
 かみ合わない会話に、秋月葵が戸惑う。
「四番テーブルに御案内してくださいませ」
「はーい。こっちだよ、御主人様」
 レジについている和泉真奈に言われて、秋月葵が織田信長を案内していった。
 
    ★    ★    ★
 
「さすがに、少し自制してはどうかな」
 大量の料理を次々に平らげていくイルマ・スターリングを見て、道明寺玲が冷静に言った。周囲の人間はこの豪快な食べっぷりの細身の女性に目を見張っているが、道明寺玲としては見慣れた風景だ。
「大丈夫どす。まだいけはりますえ」
 けろっとした顔で、イルマ・スターリングが答えた。
「こ、これは負けられないわ。メイドさん、二巡目おねがーい」
 なぜか、がぜん対抗意識を燃やし始めた獅子神玲が、ペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)を呼びながら叫んだ。
「凄いよね。ねえ、るる、あれ撮って、あれ撮って」
「はいはい。分かったから」
 ぜひブログに写真を載せたいとラピス・ラズリにせがまれて、立川るるがその凄まじいテーブルの写真を携帯で撮っていった。
「わあ、みんな豪遊してるんだもん。負けないんだよね!」
 イルマ・スターリングの食べっぷりを横目で見て、小鳥遊美羽が燃える。
「お待たせです、お嬢様ー」
 割烹着姿のリン・ダージが、小鳥遊美羽の注文した料理を載せたカートを運んできた。さすがに、手で運びきれない量だったのだ。
「わーい、じゃあ、さっそくポッキーサービスだよね」
「はいはい、お嬢様。あーん」
「あーん」
 せがまれて、リン・ダージがポッキーを小鳥遊美羽に食べさせる。
「うーん最高」
「よかったですね、お嬢様――リーダー、サービス料追加です」
「はいはい。特別サービス料追加と……」
 リン・ダージに言われて、ココ・カンパーニュが法外なサービス料を注文票につけていく。
「お姉ちゃん、ここはぼったくりじゃないんだから、ちゃんとしましょうね」
 横で見ていたアルディミアク・ミトゥナが、ちょんと0を一つ横線で消した。
「これぐらい、いいじゃない」
「だめです」
 むくれるココ・カンパーニュにアルディミアク・ミトゥナがきっぱりと言い渡す。
「うむ。今のところは、店もゴチメイたちも平和だな。できれば、このまま何ごともなく過ぎてくれればいいが」
 一般客を装って店内で警備をしているエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、ほっとしたように言った。
「メイドさん、ハートマークお願いですのー」
 オムレツを前にしたエイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)が、神代明日香を呼んで言った。
「はい、お嬢様……って、ノルンちゃんもエイムちゃんも食べ過ぎですぅ」
 一応オムレツにケチャップでハートマークを描きながらも、神代明日香がパートナーたちに注意した。
「だって、好きな物頼んでいいって言ったじゃない」
 無数のアイスのお皿を積みあげたノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が反論した。
「そう、お食事を我慢してはいけませんわ」
 エイム・ブラッドベリーもうなずく。
「太るですよぉ」
 神代明日香が言ったが、二人はわざと聞こえないふりをした。
「お茶……お代わり……ください……」
 ネームレス・ミストがまったりと手を挙げてメイドさんを呼んだ。近くにいたアルディミアク・ミトゥナがむかおうとする。
「はーい、ただいまですぅ!」
 それを見た神代明日香がすっ飛んでいった。未だ、ライバル心むきだしである。
「あらあら。忙しそうですわね。じゃあ、お腹もいっぱいになったことですし、そろそろおいとまいたしましょうか。あっ、代金は明日香さんにつけておいてくださいませ」
 いつの間にかオムレツをぺろりと平らげていたエイム・ブラッドベリーが、皿を下げに来た久世沙幸に言った。
「ええっ、エイムさん帰っちゃうんですか?」
「もちろんですわ。さあ、行きますわよ」
 あっさりと言われて、ノルニル『運命の書』が迷う。このままここに残って神代明日香の様子を見守るべきか、フリーダムなエイム・ブラッドベリーに無茶させないように一緒についていって帰るべきか。
「どちらかと言えば迷惑そうなのは……」
 ノルニル『運命の書』は、結論を出すと、あわててエイム・ブラッドベリーの後を追いかけていった。