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ロック鳥の卵を奪還せよ!!

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ロック鳥の卵を奪還せよ!!

リアクション

「チッ……」
 月明かりが僅かに差し込む、キマクの山間。その奥地に造られたとある補給所で、ボスは苦虫を潰したように眉をしかめ飛空艇を見上げていた。
「あの野郎、余計な手間作りやがって。今度見つけたら、血祭りにしてやるっ!!」
 本来であれば、ここへは燃料の補給に立ち寄るだけだったのだが……ヒロユキの攻撃によって、飛空艇は予想以上にダメージを負っていた。
 そのため、応急処置の時間を大幅に割かなくてはいけなくなってしまったのだ。
「野郎ども! さっさと、修理を終わらせろ! じゃなきゃ、さっきの奴みたいにイルミンスールから追ってが来るからな!!」
 イライラした調子で盗賊たちに八つ当たりすると、ボスは飛空艇内へ戻っていった。
 ところが――
「た、大変だボス!」
 再び、慌てた様子で駆け込んできた盗賊。
「今度は何だ!? くだらねぇ報告だったら、ぶっ飛ばずぞ!」
 不機嫌さを隠すことなく怒鳴るボス。
 しかし――
「な、なんか……ロック鳥の専門家とかいう女が来てるんです」
「あぁ? 女だ?」
 盗賊の報告に、眉根を寄せるボス。
 そこへ――
「アンタが、この盗賊団のボス?」
 突然、一人の見慣れない女性が船室へと入り込んできた。
「だ、誰だテメェ!?」
「ん? そこの子分Aから聞いてなかった? ロック鳥の専門家よ」
 さも当たり前だと言わんばかりに、女性はロック鳥の専門家だとボスへ告げる。
 実は彼女――イルミンスール魔法学校から卵誘拐の連絡を受け、真っ先にキマクへと飛んで来た茅野 菫(ちの・すみれ)だった。
「あんた達、ロック鳥の卵を売りつけるつもりなんでしょ?」
「だったら、何だって言うんだ!?」
「図星みたいね。だったら……私と取引しない?」
「何っ?」
 不適な笑みを浮かべる菫。
「あんた達は、卵を売って大金を手に入れたんでしょ? で、私はその先――雛が生まれてから儲けたいわけ」
「ど、どういうことだ」
「つまり、私は雛で金儲けしたいわけ。どうせ、金持ち連中は雛の世話なんて自分でするつもりなんてないんだろうし……だったら、私のロック鳥に関する知識を活かして世話係として取り入って、金持ちに大金で雇ってもらうのよ」
 傲岸不遜な態度で自分の計画を告げる菫。
 だが――もちろん、彼女の目的は大金などではない。
「どうせ卵を売りつけに行くんだったら、私も一緒に売り込んでくれない? もちろん、空京に着くまで卵の世話は私が一人でやるし、紹介料だって払うわ。どう? 悪い話じゃないでしょ」
 菫の目的はただ一つ。
 盗賊たちに上手く取り入り、他のイルミンスールの生徒が駆けつけてくるまでに卵を保護することだった。
「……なるほどな。まぁ、俺らも卵の扱いには少し手を焼いてた所だ。飛空艇の修理が終わったら出発するからな」
「それじゃ、交渉成立ね」
 ボスと握手を交わす菫は、盗賊内部に見事侵入したのだった。

「おう、野郎ども。修理のほうはどうなってやがる?」
 菫に卵の世話を任せたボスは、外へ出て飛空艇の修理作業の進行状況を確認しに来た。
 しかし――
「ボス、それが……もう少し時間がかかりそうなんです」
「なにっ!? だったら、喋ってねぇで作業に集中しろ!!」
 出発はもう少し先になりそうだった。
 と、そこへ――
「ん? 何だ?」
 補給所へ一台のバイクがやって来た。
「おい、テメェら! 何もんだ? ここは、俺たちの縄張りだぞ!」
 バイクには旅人らしき運転手の男と、その彼女と思われる女性がタンデムシートに座っていた。
 しかし、二人は盗賊たちのことを完全に無視して二人だけの世界に浸る。
「昶ぁ、次の村までどのくらいかかるのぉ?」
「そうだな……あと、二時間ぐらいだな」
「えぇ、そんなに? ん〜でも、昶とくっついていられるならいいかなぁ♪」
 甘えた声で、彼女は運転手の背中にギュッとくっつく。
 そして彼氏のほうは、そんな彼女のフルフェイスヘルメットの下から伸びる黒髪を、サラサラと優しく撫でるのだった。
「昶と一緒なら、どんな旅も楽しいよ♪」
 実は、この不自然なほどにイチャイチャするカップル――卵奪還のために薔薇の学舎から駆けつけた、女装で彼女役に扮する清泉 北都(いずみ・ほくと)と、パートナー兼運転手の白銀 昶(しろがね・あきら)だった。
 二人はカップルを装い、盗賊たちを挑発して誘導する作戦だったのだが……
「おう、コラッ! テメェら、シカトぶっこいて何イチャついてんだよっ!?」
 見事すぎるほど、独り身の盗賊たちは作戦に掛かってしまった。
 そして――
「ねぇ、昶。この人たち、こわーい」
「何だか、可愛そうな奴らだな」
 可愛そう、という哀れみの言葉が盗賊たちの琴線に触れてしまった。
「こここここ、この野郎!! ぶっ殺してやろうかっ!?」
 盗賊たちは、バイクに跨る二人へ襲い掛かってきた。
 しかし――
「へっ、悔しかったらボコって見ろ」
 突然、昶はアクセルを全開まで回すと、闇夜に砂煙を立てて逃走し始めた。
「ま、まちやがれ!!」
 当然、盗賊たちは二人を追いかける。
 だが――
「しまった、そういうことか! お前達! 戻れ、戻れっ!!」
 ボスが盗賊たちを呼び戻そうと叫んだが……時はすでに遅かった。
「あ、アレ!? 身体が動かなななな!?」
 追いかけていった盗賊たちは、次々と地面へ倒れていく。
 実は昶は、逃走する際に風に乗せてしびれれ粉をまいていた。
「クソッ……あいつら、イルミンスールの手先だったのか! お前ら、戦闘準備だ。しびれ粉に気をつけろ!!」
 ボスが武装を整えて追撃に向かおうとした、そのとき――
「ねぇ、おにーさん達」
 どこからやって来たのか、一人の少女がボス達へ話しかけてきた。
「イルミンスールから追っ手が来るよ? ぐずぐずしていて大丈夫?」
「あっ? 何だテメェ! そんなことは、言われなくてもわかって――」
 イライラしていたボスは、少女の胸倉を掴み上げとようとした。
 だが――
「おわっ!?」
 咄嗟に、ボスは身を屈めた。
 すると、次の瞬間――
「……よく、避けましたわね。頭領を張ってるだけありますわ」
 突如、一人の僧侶がボスに向かってメイスで襲い掛かってきた。
「何者だ、テメェ!? イルミンスールからの追ってか!?」
「何者だとか聞かれましても、あなた方のような卑劣な輩に、名乗る名前などございませんわ!」
 挑発するような口ぶりを見せたかと思うと、僧侶は再びボスへと襲い掛かる。
 実は僧侶の正体は――卵奪還のために駆けつけたリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)で、彼女の目的は盗賊たちの混乱を引き起こし、他の生徒が到着するまで時間を稼ぐことだった。
「あぁ、教えるのが少し遅かったみたいだねぇ。もしかして、他のイルミンスールの生徒も近くまで来てるかもしれないねぇ?」
そして、謎の少女――リリィのパートナー、ナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)の言葉に、残っていた盗賊たちに焦りと恐怖が伝播した。
 しかし――
「オラオラッ! 最初の威勢はどうした?」
「くっ……」
 ボスと果敢に一騎打ちを繰り広げ、彼らを足止めするリリィだったが……僧侶である彼女には戦闘は明らかに不利だった。
「オラァッ!! 終りだッ!!」
 ボスは、リリィのメイスを拳で弾き上げると、一気にリリィの懐へと潜り込んだ。
 だが――

 ズゴーンッ……!!
 
「な、何だ今の爆発は!?」
 突如、闇夜に響いた爆発音に、ボスも盗賊も……リリィたちでさえも呆気にとられて動きが止まる。
「ぼ、ボス! あれを見てください……!!」
 辺りを見回していた盗賊が、何かに気づいた。
「な、何だ!? 何が起きてやがるんだ!!」
 盗賊の指し示す方へ視線を移したボスは、驚愕した。
 ――モウモウと立ち上る煙と火の手。盗賊団の飛空艇は、メインエンジンから火災が発生していたのだった。
 この、謎の爆発と火災。
 実は――
「よしっ、これで盗賊団の足止めは完了だね!」
「そうだな。雛は、必ず我が校で孵すのだ」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)と、パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)による破壊工作だった。
 イルミンスールから卵が盗まれたと聞いた彼女達は、真っ先に小型飛空艇と空飛ぶ箒を駆使してキマクへと向かった。
 そして、盗賊団を発見してからは破壊工作を仕掛ける隙を窺っていたのだが……たまたま、清泉北都やリリィ・クロウといった他校の生徒達が盗賊たちの注意を惹きつけてくれたおかげで、飛空艇へと近づくことができたのだった。
「さぁ、イルミンスールに喧嘩を売ったんだから、その報いはブリザードの魔法で受けてもらうからね!」
 爆発音を聞きつけて来た盗賊たちは、カレンのブリザードによって瞬く間に凍らされていく。
 そして更に――
「ふぇ? な、なんだか急に身体が痺れてててて……」
「お、俺は何だか急に眠くなって……ふぁ〜……」
 突如、身体が痺れたり眠気に襲われ始めた数人の盗賊たち。
「ん? って……おい! いつの間にか敵がいるぞ!!」
「う、うわぁ!? どっから現れたんだ!?」
 実は――
「さすがに、バレたか……しょうがないな」
「朝斗、こちらも発見されてしまいました。作戦を変更します」
 盗賊たちの周囲には、機晶型飛行翼でキマクまで飛んで来た榊 朝斗(さかき・あさと)が、事を穏便に済ませようとして光学迷彩等を駆使しつつ、しびれ粉やヒプノシスを使って敵を戦闘不能にしていた。
 更にその近くでは、同じく機晶姫用フライトユニットで飛んで来たパートナーのアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が、飛空艇に破壊工作を行っていたのだ。
 そして今――
「フンッ!」
「はっ!」
 敵に見つかってしまった二人は、盗賊たちが武器を構えるのと同時に動き出した。
「ぎゃぁ!?」
「ぐわっ!?」
 瞬時に服の袖から二丁拳銃を取り出した二人は、機械的ともいえる素早さで敵が構えた武器を銃身で弾く。そして、その隙を狙い……もう片方の拳銃で弾丸を放った。
 無駄のない流れるような動きとコンビネーションを取り入れた近接銃撃により、あっという間に周囲の盗賊たちは殲滅されていく。
「ぼ、ボス! も、もうダメだ! 逃げましょう!!」
「何言ってやがる!! く……クソッ。止めろ!! アイツ等を止めろぉ!!!」
 闇夜の補給所に飛び交う、盗賊の悲鳴とボスの怒号。
 今や、盗賊団は生徒達の奇襲と撹乱によって完全に浮き足立っていたのだった。