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1ヶ月遅れのイースター

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1ヶ月遅れのイースター

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アーリーサマー・テンペスト


 雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)に刃をかわされた小谷 愛美(こたに・まなみ)は、紅色に輝く瞳を、あたりに走らせた。その目線がカフェテラスのハズレにいて、こちらに背を向けて、事件に気づいていない様子の黒髪のロングヘアの女子生徒に留まる。

「わぁ、いい感じの髪だぴょん。いただきなのだぴょ〜ん♪」

愛美は艶然と微笑むと一気にダッシュし、背を向けている生徒に向かって、大鎌を振りおろした。鋭い鎌の刃はすっと薙いだだけで、難なく女生徒の長い髪を根元から刈り取ってしまった。女生徒はばらりと落ちた髪を呆然と見やり、次いで頭に手を触れた。女生徒は大きく見開き、わななく唇からかすかな声を上げると、スキンヘッドになってしまった頭を抱えてその場に座り込んでしまった。地面に落ちた切り取られた髪は、金色の微光を放ってふっと消えた。

 雅羅は呆然と髪を切られた生徒を見やり、次いで視野の下方に光を感じてふと目線を落とした。足元の床に、イースターエッグを潰したときに落ちた卵の殻が、床に落ちて金色の光を放っている。そこに先の生徒の切り取られた髪の束らしきものが現れた。それは円を描くように卵の殻の上にまとまり、もとの黒色から金色に変わって、輝く作りかけの小鳥の巣のような形になった。
雅羅はふと、姿は見えないものの、すぐそばに何か強い存在感を感じた。続いて、その存在らしきモノからでと思われる声が、どこからともなく聞こえてきた。

「おいらはイースターバニーだぴょん。
 今からイースターのお祭りだぴょん。
 せっかくだし何人か選んでイースターバニーになってもらったぴょんよ」

「な、何でこんなこと?!」

「イースターをやりたいって思った雅羅のお願いに応えたんだぴょん」

「そ……そんな……わ、わたし、こんなことは望んでなかったのに……」

声はさざめくような笑い声を上げただけだった。

「その巣にイースターエッグを全て揃えるぴょん。
 卵にはバニーになった人たちのもとの人格が封印されてるぴょんよ。
 そろえたらバニーを元に戻せるぴょん」

「そ……んな。こんなに広い中からいったいどうやって!
 しかもいくつあるかもわからないのに!」

雅羅が苦悩の声を上げる。ウサギの声は相変わらず陽気だった。

「そうだなー、ヒントをあげるぴょん。卵は全部で10個。
 場所は【学校入口】【校長室】【美術室】【音楽室】【食堂】【教室】【購買】のどこかだぴょん。
 ゲームを盛り上げるために、みんなの髪の毛をバニーが刈っていくぴょん。
 イースターの卵探しは楽しいよ〜。ぜひぜひ楽しんで欲しいんだぴょん」

そこまで言って、声と存在感は消え去った。

 また自分の存在が事件を引き起こしたのか……。
呆然と立ちすくむ雅羅。唇を噛み、眼下の巣を凝視する。犠牲者が多数出る前に、何とか事態を収拾しなくてはいけない……。

 四谷 大助(しや・だいすけ)は授業が終わって陸上部の部室へ向かいかけていた。ふと通りすがりにカフェテラスに目をやった瞬間、バニーガールと化した愛美に女生徒の一人が髪を刈り取られるのを見た。

「髪は女の命だって言うのになんてこった……」

愛美は獲物を狙う猫のような表情で、立ちすくむ雅羅のほうへじりじりと移動を始めていた。雅羅はショックのあまり愛美の様子に全く気がついていない。

「……って! あの女生徒、後ろの奴に気付いてないのか!?」

考える前に体が動いていた。大助はひととびで雅羅の元へ駆けつけた。いきなり雅羅をお姫様抱っこで抱き上げるや、カフェテラスのテーブルを避けつつ出口へ向かって走り出す。

「きゃ! え、ちょっと! いきなり何するんですかっ!」

「わ、えっと! 落ち着いて! オレは四谷大助。一応ここの学生。へ、変態じゃないよ」

雅羅は驚いて悲鳴を上げ、体をすくませた。思わず立ち止まった大助に向かい背後から追いついてきた愛美が、満面の笑みを浮かべ、リーチのある大鎌を大きく振り上げる。
両手に雅羅を抱えたままの大助に出来ることは、本来のスピードも出せぬまま避けるだけだ。そこへ近衛シェリンフォード ヴィクトリカ(このえしぇりんふぉーど・う゛ぃくとりか)アーサー・ペンドラゴン(あーさー・ぺんどらごん)が駆けつけてきた。

「危ないっ!」

ヴィクトリカがハンドガンを瞬時に構えて撃ち、愛美の鎌の刃を弾く。銃の発射音に続きギィンという高い音と共に、愛美の鎌が大きく跳ね返った。
衝撃によろめく愛美に向かってアーサーは突っ込み、フルーレで鎌を持った愛美の手元を狙い、剣の平で強く叩く。銃撃の衝撃だけでも相当なショックがある。そこへ叩かれたのだからたまらない。

「あ、痛いぴょんっ!」

愛美が叫ぶ。しかし得物を取り落とすには至らず、大鎌をすぐに反対の手で持ちなおした。
再度の銃声に、突然の事態に凍りついていたカフェテラスのほかの生徒たちから悲鳴が上がった。午後のお茶を楽しんでいた生徒たちの大半は、クモの子を散らすようにカフェテラスから校舎のほうへと走っていった。その動きに気づき、愛美もまた鎌を持ち直すと、生徒たちのあとを追いかけてゆく。

「……で、いつまで雅羅を抱っこしているつもり?」

ヴィクトリカが突っ込み、大助は真っ赤になってあわてて雅羅をおろした。