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蛙の代わりに雨乞いを……?

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蛙の代わりに雨乞いを……?

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1.協力者を探して

 堂島 結(どうじま・ゆい)は、兄でありパートナーの堂島 直樹(どうじま・なおき)と、公園に備え付けられているベンチへと腰を掛けていた。
「梅雨だっていうのに、随分と天気が良いよね」
「散歩日和、って言うんだろうね、こういうの。まぁだからって、無茶は禁物だよ、結」
 穏やかな日差しの中、穏やかな会話をしながら、ベンチの後ろに佇む、大きな木の陰の中で二人はそんなやり取りをしている。流れる風が二人の頬を柔らかく撫でた。と――

「おや?うん?何処かで見かけた顔だよね、いや……絶対に何処かで見たことがあるぞ」

 そんな不思議な言葉が二人の斜め後方から飛んできたのは、そんな時である。
突然の言葉に驚いた様子で結が振り向くと、其処にはウォウル・クラウンが立っている。ニヤニヤとした表情が彼にニュートラルで、そしてそれを結は知っていた。
「えっと、こんにちは。ウォウルさん……だったよね?」
「知り合いなの?」
 恐る恐る男の名を述べる彼女を見て、隣に座る直樹が結とウォウルの顔を交互に見る。
ウォウルは二人の近くに歩きながら近付き、ポケットに突っ込んでいる片手を出して、顔の前でひらひらと翻した。
「あぁ、そっか。思い出したよ。うんうん、そうだそうだ。君は確か、以前コウフクソウを探すときに一緒だった……確か――そうだ。堂本 結ちゃんだった」
「え……と、“堂島”です」
「そうだったっけか。あっはっは、ごめんごめん。少し物忘れが激しくてね。そうだそうだ」
「………?」
 二人のやり取りを、微笑を浮かべながらに見つめる直樹に気付いた結が、慌てて直樹にウォウルの事を説明し、紹介をする。話を聞いた直樹は立ち上がると、ウォウルに挨拶しながら握手を求めた。
「どうも。結がお世話になったみたいで。兄の堂島 直樹です」
「いやいや、僕の方こそお世話になったからね。お礼を言われる様な事はしていないですよ。よろしく、直樹さん」
 ウォウルが敬語を使っているのが物珍しかったのか、結は唖然としながらその様子を見ている。と、そこで彼女は、ある事に気付いた。ウォウルの手には、何かが乗っている。
「先輩、あの……手に乗っているのは……?」
「ああ、これね。蛙さんだよ。どうやら困っているみたいでね。ほら、最近梅雨だって言うのに雨が降らないだろう?どうやら彼等からすればそれはかなり不味い事らしくてね、今にも干からびてしまいそうな彼を助けようと思っているんだ」
 ウォウルの言葉に首を傾げる直樹は、そんな事を尋ねてみた。
「助ける、って言うと?」
ウォウルは手に乗っている蛙から先程聞いた事を簡潔にまとめて二人に説明を始めた。黙って聞いていた二人は、彼が話し終えると立ち上がる。
「そういう事なら、お手伝いするよ! ねっ? お兄ちゃん」
「ああ、そうだね。僕たちに出来る事があるなら協力しようか」
 二人の言葉が意外、と言う調子でもなく、ウォウルは「ありがとう」と礼を述べた。やはりいつも通り、へらへらしながら。
「えっと、人数がたくさんいるなら、お友達呼んでみよう」
 思い出したかの様に結が呟くと、バックから携帯電話を取り出して画面とにらめっこを始める。
「おやおや、これは何とも頼もしい人が手伝ってくれたもんだね」
「ウォウルさん。このベンチに蛙を寝かしてあげた方がいいんじゃない?暑いなら少しでも涼しい所にいさせてあげた方がいいしさ」
「それもそうですね、ではお言葉に甘えて」
 胸ポケットからスカーフを取り出したウォウルは、ベンチにそれを敷くとその上に蛙を横にさせた。
「では、彼を此処に置いておけるとして、僕は何かいい物がないか探してくるとしようかな。代わりに彼を見ていていただけますかね」
「うん、いいよ。結も今友達呼んでくれてるみたいだから、蛙の事は僕が見ておくよ」
「どうもすいませんね、ではちょっと行ってきます」
 そう言うと、ウォウルは二人のいるベンチを後にした。どうやら何か、応援が来るまでの間、蛙の負担を少しでも減らせるものを探すらしい。ウォウルを見送る二人は、少し心配そうな表情で蛙を見つめている。

     ◆

「“晴れ”もいいけど、此処まで暑いとちょっと困りものよねぇ……」
 一人そんな事を、誰にともなく呟きながら歩いているのは琳 鳳明(りん・ほうめい)である。極力日陰を歩きながら公園内を散策していた彼女の前を、にへらにへらしながら歩く男が一人横切った。
「……何今の。すっごく怪しいんですけど」
 尤もな事を呟き、彼女はその男――ウォウルを呼び止める。
「ちょっと君!何やってるのかな?」
「うん?」
 鳳明に呼び止めれたところで、彼の表情が特に引き締まる訳でもない。だらしない笑顔のまま、ウォウルは後ろを振り返った。
「僕に何か用かな?」
「用がないなら呼び止めないわよ」
「そうだよねぇ、いやはや、これは失敬」
「で?君は此処で何を?」
「見ればわかるだろう?歩いているのさ」
「……そうじゃなくて」
「うん?気難しい御嬢さんだねぇ。確かにもっとお話ししていても楽しいんだけど、生憎と僕は今急いでいるんだよ。なんなら手伝ってほしいくらいさ」
「わ、悪かったわね、気難しくて! って言ってもそんな事言われたの、君が初めてだけどさ……まぁ、それはいいや。で? 手伝って欲しいって言うのは?」
 言いながら、彼女は首を傾げた。するとウォウル、何を思ったのか突如として彼女の腕を掴み、歩き出す。
「おや、その口ぶりからすると手伝ってくれるんだね? いやぁ、助かったよ。うんうん。兎に角行こうか。道すがらにでも事情は説明するよ」
「ちょ! まだ手伝うなんて言ってないでしょ!?」
 鳳明の焦りの言葉で、ウォウルは足を止めた。
「だったら、手伝ってはくれないのかい? こんなに困っている人間がいるっていうのに……そんな困り切った僕を見捨てて、御嬢さんはこれからを生きていくのかい?」
「そこまでは……行かないでしょ、普通。生きていく、とかそういう話じゃなくてさ――」
「言ったろう? 生憎と僕は急ぎなんだよ。手伝ってくれるのか、くれないのか、どっちなんだろうねぇ」
 “むんず”――なんて表現が最も似合うだろう様子で、ウォウルは鳳明の顔を覗き込んだ。笑顔ではあるが、その旨何処か今までと違う笑顔なのは、恐らく何かしら心境の変化が見られたのだろう。
「わかった! わかったから、顔近い!」
「おっとごめんね。うんうん、手伝ってくれるんだね。ありがとう!」
 まるで作り物の様に、にっこりと笑顔を浮かべた彼は、今度は彼女が協力してくれる事をわかったのか、腕を持つことなく、歩みを進める。
「で? “事情は道すがら”って言ってたけど、いつ説明してくれるのかな?」
「うん。実はね――」
 先行するウォウルは、一切彼女の方を向く事なく話を始めた。