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蛙の代わりに雨乞いを……?

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蛙の代わりに雨乞いを……?

リアクション

     ◆

 公園のすぐ近く――雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は、未だに事態を把握出来ずにいた。何より彼女、何故今自分が人を集めるのかすら、聞かされていないのだから。突然ウォウルと名乗る男に声をかけられ、なんとなく引き受けたは良いが、これから一体何をするのだろう……。首を傾げ、しばらく考え込んでいる。
「あれ?雅羅ちゃんじゃないですか」
「あ、本当だ。おーい」
何処からともなく、雅羅に向けて声が飛んできた。聞き覚えがある声の方へと雅羅が向くと、そこには杜守 柚(ともり・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)が、彼女を見つけて雅羅の方へと近づいてくる。
「柚と三月じゃない」
 二人を見つけた雅羅は手を振り、彼女の二人の元へと向かう。
「何だか難しい顔してたけど、どうしたのさ」
 三月が笑いながら尋ねると、隣にいる柚が心配そうに彼女の顔を見つめていた。
「うんと、なんだかよくわからない事に巻き込まれたみたい……」
「え、またですか?」
「そう……“また”なのよ」
 雅羅はそのまま続けて、ウォウルと名乗る自称先輩に声をかけられた事、そしてその自称先輩が雅羅に人を呼んできて欲しいと頼んだ事を説明し始めた。
「何だか怪しい人だね、その人」
「ですよね……関わらない方がいいんじゃないですか?」
「でもなんか困ってるみたいだったし、そんなのほっとけないじゃない?」
 だから“カラミティ”と呼ばれるんだろうな。などと思う二人だが、そこは苦笑を浮かべるだけに留める。
「だったら協力しますよ」
「そうそう、困ってる友達がいたら助けるのが、友達ってもんだろうしね!」
「本当っ!? ありがとう!」
 ぱっと笑顔を浮かべる雅羅に笑顔を返す二人。と、再び雅羅に声がかかる。
「あれ?雅羅さんじゃないですか?」
 その声にきょろきょろする雅羅だったが、声の主を見つけたのか、彼女は返事をした。
「おはよう、豊和!」
「おはようございます」
 南部 豊和(なんぶ・とよかず)は更に返事を返しながら、三人の元に近付いてきた。
「どうしたんです?みなさんお揃いで」
「今、雅羅ちゃんが困っていたみたいなんで、事情を聞いてたところなんです。それで、私たちで何か力なれる事があったら協力しようって話を」
「なるほど」
 柚が簡単に説明を終えると、豊和は少し考えてから言った。
「お買い物の途中ですが、僕にも出来る事があったら言ってください。協力しますよ」
 買い物を中断して、彼はそういうと三人に改めて挨拶をする。豊和が手にする買い物袋が何とも不釣り合いな、そんな感じの四人組みの出来上がりだった。新たに加わった豊和に、“人手を探している”と言う旨を伝えた三人が足を進めると、一同は空京内にある大通りに出る。平日の昼前と言うのにもかかわらず人であふれているその通りを、四人は話しながら進んだ。
「ところで雅羅さん。その、自称先輩さんの事、全く知らないんですか?」
「うん、私まだ入った学園に入ったばかりだし、その人はもう卒業したって言ってたもの」
「ま、それが本当の事だって確証は、何処にもないけどね」
 豊和、雅羅のやり取りに、三月は冷静にそう言った。
「どちらにせよ、大勢人を集めた方が良いですよね!」
「もし本当にその人が困っているのなら、やはり大勢集めた方が良いですし、仮に三月さんがおっしゃる通り、その自称先輩と言う方が何かしらの危害を加えてきたとしても、やはり信用できる人たちを大勢集めていた方が安全なのはありますからね」
 柚の言葉に対して豊和が返事を返すと、雅羅は何を思ったか苦笑を浮かべただけで特に何も言わず、歩みを進めた。と――。
「ねぇ、あれ美羽先輩じゃないかな?」
 雅羅が指を指す方を向いた三人。その視線の先には、確かに小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の姿があった。
「せんぱーい!」
「うん? ……おぉ! 雅羅に『柚っちゃん』、『三月ん』までっ! こんなとこで何してるのさ」
「あら、おはようございます。皆さん」
 四人は律儀にお辞儀をしてから、二人へと歩み寄る。
「今少し協力してくださる人を探しているんですよ。皆さんがお二人を見つけたのでお声を掛けさせていただきました」
 今度は豊和が二人に簡潔に説明をすると、「ふぅん」とでも言いたそうな顔で四人の顔を見渡した美羽。ベアトリーチェはぼんやりと不思議そうな顔をしながら、人差し指を立てて顎に当てている。
「何かお困り、なんですか?」
「そうなんだ。雅羅が変な人に声をかけられちゃってね?事情は分からないんだけど、出来るだけ大勢を集めて来て欲しいって、そう言われたんだってさ」
「私たちは偶然雅羅ちゃんを見つけて協力する事になったんですけど」
「ほぇ……なんなら私たちにもその話、聞かせてくれないかな?」
 三人の話を聞いた美羽が興味を持ったのか、内容を尋ねた。やはり苦笑を浮かべながら、しかし今度は雅羅が二人に事情を説明する。
「さっきこの近くの公園を歩いていたんです。そしたら、『ウォウル』って言う人から声をかけられて――」
 と、ウォウル、と聞いた途端、二人が反応を見せる。
「あらら、雅羅も会ったんだ? あの先輩に」
「確かに事前知識がないと、ちょっと不審な方に思いますわよね」
 美羽はケラケラと笑い、ベアトリーチェもくすくすと笑い声をあげる。どうにもそのリアクションが不思議だった三人は首を傾げ、それを見たベアトリーチェがすかさず説明を始める。
「私たち、以前その方たちと面識があるからわかるんです。ちょっと不思議な方、ですよね。あの方」
「結構キャラ濃いもんねっ、ウォウルさん」
「お知り合いだったんですかぁ」
 柚が呆気にとられたかの様な言葉を返し、三月は「だったら安心、かな」と続けた。
「うーん、だったら私たちも行ってみようか! ねぇ、ベアちゃん」
「そうですね、今度はウォウル先輩、何をしてらっしゃるのか気になりますし」
 相変わらずクスクスと笑うベアトリーチェはそう答えてから、四人の方を向きなおして言った。それが自分たち二人の回答だ、と言う様に。
「お付き合いしますよ。案内くださいます?」
 こうして、六人は暫く辺りを見回し、他に協力して貰えそうな人を探しながら、しかしその足を一路公園へと戻す事にした。