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蛙の代わりに雨乞いを……?

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蛙の代わりに雨乞いを……?

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3.雨を降らせる祠を探して

何処かへ消えていたウォウルが戻ってきた事と、同時に大掛かりな機材を持って一同から離れていた進一が戻ってきた事で、ようやく一同は行動する事になった。
 ラナロックと共にその場に残り、蛙の介抱をする事にした美羽とベアトリーチェが、暫く難しい顔をしながら何やら考え込んでいる。
「どうしたんですか?そんな難しい顔をして」
 結和が心配そうに美羽たちに聞くと、ベアトリーチェが答えた。
「何か用意できるものがあれば買ってこようかな、と思ったんですけどね、具体的に何を買ってこようかな、と」
 すると、近くにいた歩が二人の言葉を聞いたのだろう。はっとした様子で声を掛ける。
「あの、もし余裕があったらでいいからさ。子供用のプールとか、買ってきてあげたらどうかな。そこに水を張って、蛙さん、その中に入れてあげたら元気になるかもだしね」
「そっか! よし、じゃあまずはプールね」
 美羽はそれを聞くとメモに『子供用プール』と書いた。と、今度はレキが思い出した様に言う。
「あと、さっきほら…コタロー君だったよね、あの子がやってたみたいに如雨露で水をかけてあげるのも手だと思うよ」
「如雨露、ですね」
 ベアトリーチェが返事を返すと、美羽は続けて『如雨露』の文字を綴る。
「もし雨を降らせるのに成功したら、傘とかって、大丈夫か?」
 涼介がぽつりと呟くと、ずっと蛙を見ていた衿栖がはっとして彼の顔を見る。
「それならばご安心を。皆さんが濡れてしまっては大変ですからね」
 そう言うと彼女は、何処から持ってきたのか、大量の傘の束をぽん、と置いた。ざっと数えても六十本はあるだろう傘。
「準備、いいですわね」
「あとお水もありますよ!蛙さんにも使ってますけど、皆さん喉が乾いたらご自由にお飲みくださいね」
 傘の次は水の入ったペットボトルを何本も広げ始める彼女を、その場にいる一同が唖然として見つめた。
「それはそうと…今思ったんだけど、雨が降るって事は、この近所の人たち、困るんじゃないかな…」
 歩はそんな事を、心配そうな表情でつぶやいた。
「確かに、洗濯物とか干すには絶好の天気だからな」
 貴仁がそう言いながら空を仰いだ。
「だよね…よし、ちょっと大変かもしれないけど、私は出来る限り周りの人とかに気を付けるよう言ってみるね!」
 決意を固めた様に歩が言った。
「だったら僕たちは――食糧の調達でもした方が良いですよね」
「食糧…蛙の?」
「虫って事、ですわよね…」
「………」
 カムイの発言に対し、アリアクルスイドが恐る恐る尋ね、夜月が確認した。レキ、カムイも、わかってはいたが、思わず言葉を失う。
「虫はキモいから、わらわは嫌じゃ…」
「ボクも嫌だな、それはちょっと」
 房内と白羽が、心底嫌そうな顔をしながらお互いに見つめあい、「うぇ…」とでも言いたそうな表情を浮かべる。
「僕たちで頑張りますよ…ね、レキ」
「……うん」
 嫌でも仕方ない、とばかりに二人はそう言って、地面を歩く蟻、近くを飛ぶ虫たちを見た。
「よし! 後は買ってくるもの、ないかな?」
 どうやら買い物に向かおうとしていた美羽たちは、必要な品物を考え終わったのか、彼らに尋ねる。
「あ、あと、出来ればビニールシートなんかもお願い出来るかな」
 アリアクルスイドがふと、そんな事を言った。
「ビニールシート…? うん、良いけど」
「お願いね、余裕があったらで良いからさ」
 こうして買い物の内容が決まった二人が、買い出しに向かおうとすると、結和が慌てて美羽、ベアトリーチェのところへ向かった。
「あ、私も行きますよ。お二人だけだと大変ではないですか…?」
「ありがとうございます。じゃあお願いしますね」
「あ、じゃあ私もそろそろ行こうかな。色々回らなきゃならないし」
 美羽、ベアトリーチェ、豊和と歩が、そう言うと公園から出る為に近くの出入り口へと向かう。
「皆さん、お気をつけて。無理は禁物ですからね」
 翔の言葉と共に、全員が四人を見送った。

     ◆

 公園内東口へと向かう一行は、そこで思わぬ足止めを食う事になる。
「ふっふっふ、やっとお目覚めですな、御嬢さん。さぁ、先程の問いを答えていただくとしましょう! さぁ! さぁさぁ!」
 一行の前には、マントと仮面以外の物を全く身に纏っていない変熊仮面が立ちはだかっていた。
「なっ!? 貴様! また性懲りもなくっ!」
 エヴァルトが驚いた様な表情で変熊仮面と対峙する。彼は咄嗟に、変熊仮面と雅羅達との中間距離へと飛び込み、自らの体で後方にいる女子一同が彼の全容を見なくて済むような位置取りを取っていた。その横には英虎もいる。彼もまた、エヴァルト同様咄嗟に前へと飛び出していた。
「…もしかして、さっき雅羅ちゃんが見たって言うの…」
 鳳明が懸命に両の手で自分の顔を覆いながら、雅羅へと尋ねる。雅羅は声すら出せないまま、呆然と立ち尽くし数回、まるで震える様に頷いた。
「ねぇ真人! もしかして“白くてふわふわしたもの”って…」
「いや、違いますよ。第一彼、梅雨時によく見ますか?」
「…あ、そっか」
 セルファが真人の後ろに慌てて飛び退いた為、二人は顔を見合わせる事無く会話する。
「うん? なんだ。君たちの後ろには素敵な御嬢さんたちが増えているではないか! ならばなおさら俺様のこの美しい肉体を見せねばならない! 退きたまえ!」
「おいおい、退けないだろ! 俺たち退いたら凄い事になるぞ!?」
「トラ…その…」
 英虎が慌てて変熊仮面の言葉に突っ込みを入れていると、背後から細々した声が聞こえる。彼のパートナー、ユキノの声。
「あの方、マントの下は…その。ぱん…を何処かに忘れてしまわれたのでしょうか…」
「え、いや…それは…」
 ユキノの純粋な質問に対し、言葉を失う英虎。当然、一同もその質問には回答が困ったらしく、暫くの沈黙が続いた。
「でしたら…これを」
 がさごそと、英虎の後ろからビニール袋の様な物がこすれる音がして、ひょっこりとユキノが顔を出す。彼女は瞼を閉じたまま、たどたどしく歩みを進めた。
「ちょ、危ないですよ!」
 豊和は思わず彼女を制止したが、彼女の歩みは止まらない。
「竜斗さん、彼女を止めないとっ…!」
「そ、そうだよな!」
 ユリナの言葉に対して竜斗がユキノを止めに行こうとするが、どうやらそれは遅かった様だ。変熊仮面の近くまで到達したユキノが、しかし石につまずき、転びそうになった。
「おっと危ない、御嬢さん」
 これにはさすがの変熊仮面も驚いたらしく、慌てて手を貸した。
「ありがとうございます。あの…その、よろしければ、これ、お使いください」
 彼女は手にしていた、可愛らしい熊のプリントが施されたバスタオルを変熊仮面に差し出した。
「……これを、俺様に?」
「さぞ、大変な思いをしたのでしょう? 今はこれくらいしか丁度いいものがありませんので、お気を悪くしないでくださいね」
「……………」
 変熊仮面を始め、全員が絶句した。
「な、なんて純情な子なんでしょう!」
 鳳明同様両手で顔を覆っていた筈の柚が、ユキノの行動に思わず声を上げる。
「確かにね、あそこまで物怖じせずに彼の近くに行けるって、結構凄いかも」
 三月もその言葉に関心している様である。
「しかしその善意、彼の仮面の男は受け取るのだろうか…」
 少し不安そうに、腕を組みながら横を向いていたミリーネが呟く。
「だ、大丈夫だよ! あの仮面のお兄さんだって悪い人じゃないって!」
 取り繕う形でフォローを入れるリゼルヴィアは、既に顔を隠すのも忘れて変熊仮面とユキノを凝視していた。
「このかわゆいクマさんのタオルを、俺様が巻くと…?」
「ご、ごめんなさい。やっぱりお気を悪くなさいましたよね…」
 ユキノが申し訳なさそうにそう呟くと、変熊仮面は彼女からクマさんタオルを受け取った。
「…今は、お借りするとしましょう」
 こうして、風に靡く可愛らしいクマさんタオルは、変熊仮面の下腹部に落ち着く事になった。
「…これで何とかなったか」
 エヴァルトが安堵のため息を漏らすが、アキがそこで、ふと気づいた。
「あれ、あの人…今さ『今は』とか、言ってたよね…? あれ?聞き間違え?」
「確かに言ってましたよ、今」
 アキの言葉を聞いたレオナが、曇った表情で彼女の言葉を肯定した。
「…ハラハラするね!」
「しねぇですよっ!」
 レオナの強烈な突っ込みが周囲にこだます、公園西口付近だった。

     ◆

「随分楽しそうだね、反対方面の人たち」
 西口前で起こっている事など全く知らずに、フィリーネがにこにこしながらそんな事を呟いた。
「楽しいのは良い事だよねぇ、やっぱり」
 託もつられてにこにこしながらっフィリーネに返事を返した。
「それにしてもさ――」
 と、樹が詰まらなそうにウォウルへと向き、言葉を始める。
「白いふわふわしたもの、だっけ。それって結局何な訳よ?」
「そうだねぇ…梅雨によく見る、としか蛙君には聞いていないからさ、厳密に『何』と言うのはわからないんだよねぇ」
 この問いには、比較的困った表情のウォウルがそう返した。
「第一、貴方は蛙と話が出来るんですか?」
 近遠が含み笑いを浮かべてウォウルに尋ねる。
「そうだね、僕もびっくりだよ。新たな才能の開花って感じかな」
「まぁでも、ウォウルさんなら比較的普段からやってそうだけどねぇ」
 北都がぽつりと、ウォウルの隣で呟いた。
「そうなの!? ウォウル先輩、凄いね!」
 琴乃が心の底から驚いた様子で北都の言葉を真に受けるが、隣の龍矢は「まさか」などと言って鼻で笑っている。
「ねぇ、それより本当に雨、降らせられるんでしょね」
「結構そこ、重要よね。噂、で済ますには大袈裟すぎる人数集まってる訳だし」
 セレンフィリティとセレアナが互いにそう言いながらウォウルを見やった。
「さぁ、それすら噂だからねぇ。それに、大袈裟、なんて言葉はこの世の中にあっちゃあいけないと、僕は思うんだけどね」
「出ましたね、ウォウルさんの自論」
 リオンが彼の言葉に反応し、聞き耳を立てる。が、その言葉を聞いたウォウルはクスクスと笑うと、以降何も語る事はしない。少し詰まらなそうにするリオンを見て、優夏が笑う。
「残念やったね、お兄さん。何、あのおっさんそんなにおもろい事言うん?」
「こら優夏! 先輩におっさんは失礼だよ! 結構気にしてるかもしんないしさ」
「あらら、それフォローになってないよね」
 優夏とフィリーネのやり取りを見ながら、刃夜が笑った。
「なぁ、シンイチ。朕は少し疲れたぞ」
「我儘言うんじゃないぞ、トゥトゥ」
「むぅ…朕は本当に疲れた。肩車を所望する!」
 彼らの隣では進一とトゥトゥがそんな会話を、先程から数分間続けていた。
「あの二人の会話、見ていて飽きぬな」
「そうですわね、仲の良い『兄弟』、もしくは『親子』って感じですわね」
 ほのぼのとそんな事を、進一とトゥトゥの後ろから見つめるイグナとアルティアは、微笑みを浮かべている。と、彼らを見渡していたウォウルの腕に、何かがトントンと当たる。
首を傾げながら自らの腕を見ると、綾瀬が彼を見上げていた。
「あの――」
「うん、どうしたのかな?」
 二人は足を止めるが、一行はそのままの流れで進行方向へと向かって行った。どんどん追い抜かされている綾瀬はしかし、全員が先行するのを見送ると、ようやっと口を開いた。
「一つ気付いた事がありますの」
「うん?気付いた事?」
「皆様のお話を聞いている限りに、ですけれど、何故私だけウォウル様に直接呼び出されたのでしょうか?」
 口元が笑っているが、その声色からすれば『呆れている』と言う印象を受ける彼女の言葉に、首を傾げながらにウォウルが答える。
「おや?もしかして、駄目だったかい?」
「いえ。そういう訳ではありませんの。何にせよ、貴方といれば退屈はしなくて済みますもの」
「確かにね」
 どんどんと進んでいく一行の背中を見ながらウォウルが笑った。
「君のお兄さん、飛鳥君、だったかな。にね、この前教えて貰ったんだよ、連絡先。何か面白そうな事があったらかけるといい、ってね」
 「そうでしたか」と、別段何がある訳でもなく、彼女はウォウルを置いて再び歩みを進める。
「置いていきますわよ」
「あっはっは、参ったね、これは」