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蛙の代わりに雨乞いを……?

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蛙の代わりに雨乞いを……?

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5.“ありがとう”を君に 〜大切なトモダチ〜

 各方面から戻ってきた一同が最初に驚いたのは、出発前と大きく違う、ベンチ一体だった。
「ねぇ…あたしら出る前、こんなのあったっけ?」
 セレンフィリティがまじまじと見上げながら、そんな事を呟いた。
「なかったわね。普通の木陰だったもの」
 冷静に、セレアナが返事を消した。
「皆様、お帰りなさいませ。お疲れ様でしたわね」
 初めに出迎えたのは、セシルだった。
「連絡の中継、ご苦労様。ホント助かったよ」
「お役に立てて光栄ですわ」
 託の言葉に笑顔で返す彼女は、衿栖と共に彼女が用意した傘を一同に手渡す。
「皆さんお疲れ様でした。見てください、蛙さん、元気になったんですよ!」
 衿栖が一同に報告し、彼等も蛙へと視線を向ける。その先にには子供用プールで遊ぶ蛙と、その蛙にひたすら如雨露で水をかけているミルトの姿があった。
「お、蛙が元気を取り戻してるぞ!」
 貴仁が声を上げ、蛙へと掛け寄る。
「良かったな、蛙!」
「皆が頑張ったからだよね」
 突然、彼の動きが固まる。彼の隣にいたのは琴乃だった。彼女も中腰の体制で蛙を覗き込んでいる。
「こ…琴乃さん!?」
「貴仁君もお疲れ様っ! 協力してくれてありがとうねっ」
「………!?」
 琴乃から向けられた笑顔に硬直する貴仁だが、しかし彼女はすぐさま後ろに控える一同の元へと向かって行ってしまった。
「皆もお疲れ様!」
 その後ろ姿を見た彼がため息をつくと、隣からひょっこりと夜月、白羽が顔だす。
「…あれが、琴乃様、ですの」
「いっ!?」
「へぇ、良いじゃない。恋は盲目、ってね。うんうん。ま、頑張んなよ。応援するからさっ」
 ぽん、と、白羽は貴仁の肩に手を置き、笑いながら一同の輪の中に入って行った。
 彼等と入れ替わるようにして、衿栖と、美羽、ベアトリーチェが蛙の泳ぐプールへとやってくる。
「ミルト君お疲れーっ」
「やぁ、お疲れ」
「蛙さん、お変わりないですか?」
「うん。ボクが見てる限り、苦しそうだった、とかはないよ。今のところ」
 ミルトと美羽、ベアトリーチェが会話をしていると、衿栖が蛙に向かって話しかけ始めた。
「蛙さん。良かったですね、元気になって」
「えぇ、ありがとうございます」
 四人が改めてそこで、目を丸くした。ウォウルから聞いた“この蛙から助けてくれ、と言われた”と言う話を話半分に聞いていた彼等、彼女等が故に、まさか本当に蛙が話すとは思ってもいなかったのだろう。が、事実蛙は言葉を発した。 はっきりと。
「うわぁ、蛙、喋るんだ」
「それはまぁ、時々は喋りますよ」
「えぇ…そうなんですかぁ…」
 四人と一匹の蛙が話していると、ビニールシートでできたその簡易休憩所の中で声が響いた。
「皆さん、実はクッキー焼いてきたんだ、皆さんで食べてよ」
 そう言いながら、涼介がバッグから大き目の袋を取り出し、紙でできた更にそのクッキーを盛って全員の前に置いた。
「うわぁ…おいしそうだねぇっ!」
 思わず朋美が嬉々とした声を上げてクッキーを見やる。
「私たちもいただいても良いかしら?」
「どうぞ」
 アキの言葉に、涼介が笑顔で答えた。
「じゃあ…私も…」
「僕も貰おうかな」
 昴と託も皿の持ってあるクッキーに手を伸ばした。
と――誰からともなく声がする。
「あ、雨だー!」
「遂に降ってきたね」
 全員で簡易休憩所から外を見ると、あの晴れ渡る天気はどこへやら、本格的な雨が一帯に降り注いでいるのが見えた。
「やった! もう何だかテンションあがってきたかもぉ!」
 突然、セレンフィリティが来ているコートを翻し、雨の中へと飛び出した。
「うぉ! 何と大胆な女子じゃ……」
 房内が驚きと喜びを持ってその様子を見いる。
「あぁ……何故だ、折角俺様の『美』を理解する集団が現れたというのに…何故何処かへ…」
「変熊仮面さん、どうしたんでしょう?」
 柚が不思議そうな表情で、一人何かを呟きながらその場に項垂れる変熊仮面を見つめていた。
「多分、てるてる坊主が消えちゃったからじゃない? 彼等からすれば変熊さん、神様みたいな感じだったし」
「確かにね、あれは凄い光景だった」
 と、おもいおもいがそれぞれに行動し、雑談していると、紅茶を手にしたウォウルが一同の前に現れた。
「みんな、今ね、この御嬢さんが紅茶を入れてくれるみたいだよ! みんなの分もあるそうだ」
「ちょ…先輩。まだそれただのお湯よ!?」
「あれぇ? 本当だ。いやぁ、参ったねぇ」
 笑いが込み上げる一同と、そして途端、真剣な表情になるウォウル。
「本当に、今日はみんなのおかげで無事、この蛙君を助ける事が出来た。心から感謝するよ、ありがとう!」
 ウォウルが話しているところで、白羽が一同に紅茶を配り終わった。
「まぁ後はのんびり雑談でもして、残りの時間を楽しんでよ」
 お礼を述べるだけ述べた彼は、そういうと再び何処かへ姿を消した。
「最後もやっぱり相変わらず、だったね」
「ですねぇ…」
 美羽、ベアトリーチェは貰った紅茶をすすりながら、去って行くウォウルの背中を見送る。
「さー! じゃあ折角集まったんだし、雨の日パーティって事で、楽しんじゃおー!」
 琴乃が数人を集めてそんな事を言っているのを、遠目から北都とリオンが見つめていた。
「元気だね」
「そうですね」
「なんだ、君たちは混ざらないのか」
 突然二人に、進一が声を掛けた。
「良いですよ、僕等は此処で、こうやってみんなが楽しくやってるのを見てるだけで、充分楽しいですから」
「そうかい」
「シンイチよ、朕は是非、あの中に混ざりたいぞ!」
「だったら混ざってくればいいじゃないか」
「何を言うか! は、恥ずかしいし…」
「と…おおおお!」
 もじもじしていたトゥトゥが、進一が突然叫んだ事により、思わずその体制で停止する。
「ど、どうしました?」
 隣にいたリオンが慌てながら進一に声を掛ける。
「やばい、機材が…機材が壊れるぅ!」
「お、シンイチよ! どこへ行くのだ! 朕を置いて何処へ行くか! シンイチ、かむばーっく!」
 何とも面白い物を見ている、と言った具合に、二人のやりとりを笑いながら見つめる一同。と、少し離れた場所から全員に声がした。
「あの、みなさーん!」
 声の主は衿栖。全員が彼女の方へと向くと、彼女の隣には蛙を手に乗せて幸せそうな顔をしている結和の姿があった。