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蛙の代わりに雨乞いを……?

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蛙の代わりに雨乞いを……?

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     ◆

 西口側、ウォウル達が見た光景等、全く意識をしていなかった雅羅たちは、何とか祠を見つける。こちらは西口側の祠とは違い、人ひとりがやっと入れる程度の大きさを有していた。
「これ、よね…って言うか、こんなのが公園の中にあったら絶対不自然だと思うんだけど…」
 雅羅の表情が引き攣っていた。
「確かに。まぁなんにせよ、目的のものがすぐに見つかったのは良かったよね」
 うんうん、と、腕を組んで祠を見つめる鳳明。隣の英虎も「何も起こらなかったしな」と、笑顔で雅羅たち同様、目の前の祠に目を向けている。と、彼の横から飛び出した変熊仮面は、どこか慌てた様な雰囲気のままに口を開く。
「待て待て! まるで“そろそろクライマクスだね、うふふ”みたいになっているが、まだ重要な問題が残っているだろう!」
「あぁ、そっか。これ使って、まだ雨降らせてないものね」
 アキがポン、と手を叩き呟く。
「アキ姉さん、やっとまともな事言ってくれたんですね」
 レオンがため息をつきながら、しかし安心したような表情で彼女を見つめた。
「何とかなるだろう。多分。何せ肝心な祠が見つかったのだから」
 ミリーネは別段変わった様子もなく淡々と述べた。が、どうやら変熊仮面が言いたかった事は、そこではないらしい。
「違う! も、ぜんっぜん違う! 何それ!? 違うぞ! やれやれ全くだ…」
 やや演技がかった様子でしな垂れた彼は、そのまま言葉を続けた。
「俺様はまだ、貴様らに何の感想も貰っていいないのだぞ…! この『美の伝道師』が、よもや感想を言われないなど、そんなつらい事があってたまるかっ!?」
「…いや、知らないって」
 一人で寸劇の様な物を始める変熊仮面を、引き攣った顔で見つめる鳳明が、一同を代表して返事を返す。
「…ぐぬぬ、こうなってしまっては仕方ない。そこの御嬢さんには申し訳ないが――」
 恐ろしい速度で立ち上がった変熊仮面が、腰に巻いていたクマさんタオルに手をかける。
「やばい、男子! みんなの前に立って死角を作るんだ!」
 エヴァルトが慌てて声を荒げ、男子一同がすかさず前へと踊り出た。次の瞬間――
「って、うわぁ! ……ん? なんだこの、ふわっとした感じは……っ!」
 足が縺れた変熊仮面が倒れそうになったところに、しかし何かがあった。故に彼は事なきを得た訳だがしかし、それが一体なんなのか、変熊仮面自身にはわからなかった様だった。しかしそれは、彼だけの話であり、少し距離を置いている一同には見える事。彼の前には――……
「て、てるてる坊主?」
「浮いて……ますわよね?」
 固まる一同、英虎とユキノが徐に口を開く。
二人の言う通り、変熊仮面が倒れずに済んだのは、彼の前に突如として現れたてるてる坊主に、彼がひっかかったからである。
「うわぁ、もふもふしててきもちー」
「あれ、なんか変熊仮面さん、人格変わってない?」
 思わず感想を述べてしまった変熊仮面の言葉に違和感を覚えた竜斗が恐る恐る呟く。
「はっ! しまった! 私とした事がっ!」
 と、慌てててるてる坊主から顔を離し、立ち上がった変熊仮面は、てるてる坊主を凝視した。
「ほう……あーした、てんきになぁあれ。か…しかし何故此処に。第一どこに吊るされて…」
 懸命にてるてる坊主の上を掌で探ってみるが、そこに糸はない。
「あれぇ…」
「糸、なさそうですよね」
「では、あれは一体…」
 リゼルヴィア、ミリーネ、ユリナが順々に口を開く。と、どこからか聞きなれない声がする。
「お前ら、此処で一体何をしてるんだ“テル”」
「ええ! 喋るの!? しかもそんな語尾に“テル”とか古典的なの着いちゃって!?」
 思わず声を荒げるセルファ。一同もただただ唖然としながらその様子を見つめているだけだった。
「雨を降らせるんなら、そうはさせない“テル”よ!」
 変熊仮面の前にいるてるてる坊主は、そんな事を言い放つとすぐさま祠の前へと移動する。するとどうだろう、何処からともなく同じようなてるてる坊主たちが、同じように“テルテル”言いながら一同の行く手を阻んだのだ。
「さて、人間諸君。我々てるてる軍団の壁――超えられるかな?…“テル”!」

     ◆

 無数のてるてる坊主たちが雅羅たちの行く手を阻んでいる状況は、ラナロックたちがいる位置からでも充分に確認できるそれだった。
「嘘でしょ…何、あれ」
「てるてる坊主って、自分では動けない筈ですよね」
 懸命に虫を捕まえていたレキ、カムイが言葉を失う。と、そこに慌てて走ってやってくる買い出しに言った三人と、歩。
「皆! 大変なんだよっ!」
「歩さんがかなり有力な情報を――って」
「あらら…遅かったかぁ…」
 美羽、結和、歩は言いながらやってきたがしかし、東口の方の出来事を確認し、表情を固める。
「おかえりなさい。皆さん。結構今、大変な事になっているみたいですわね」
 ラナロックは別段焦った様子もなく、にこやかに四人を出迎えた。
「えっと、具体的に有力な情報、と言うのは…」
 夜月があたふたしながら、今やってきた四人に尋ねる。
「もしかして、あの連中の事?」
「そう、どうやらあれ、“てるてる軍団”っていう、この辺りに住む妖精さんらしいんだ」
 ラナロックの周りに集まった一同は、歩からの話を聞くためにそれぞれ手を止める。
「彼等は…雨を嫌う妖精らしいです。此処には雨を降らせる装置が眠っている様なんですが、その装置に近付こうとする人間を妨害するらしくて……」
「なんだ、面倒じゃの。倒してしまってはいかんのか?」
 歩に続いて結和が説明していると、房内が提案をする。
「何でも倒すと、彼らの親玉が出てくるらしいんだ。倒そうって言う試みもあったんだけど、それが結果として悲劇を生んだみたい。だから、絶対に攻撃するな、って、『アユリン(歩の事)』がここら辺に住む人から聞いたんだって」
 今度は美羽が説明すると、蛙を凝視していたミルトが立ち上がる。
「じゃあ、どうやって雨降らせればいいのさ?」
「第一に、あのてるてる坊主たちは、妨害はすれども怪我をする様な事まではしないんだそうです。第二に、雨が降れば彼等は去って行く、と言う事。第三に、彼らはあの東口の祠付近にしか出ない、と言う事がありますので…」
 ベアトリーチェの説明を、ペルラが最後にまとめた。
「要はあれらを無視して、ボタンを押せ、と言う事ですわね?」
「そういう事になります」
「ならば急いでご連絡差し上げないと…!」
 懸命に何やら準備を進めていたセシルと翔が、話を聞くや慌てて東口の面々に連絡を取ろうと試みる。が、応答はなかった。
「お出になりませんわ…このままでは」
「とりあえず、反対側の方たちに連絡を入れていただけます?」
 今まで黙っていたラナロックが口を開いた。
「わかりました。でもなんて――…」
 翔が不安げに彼女の答えを待つ。
「簡単な事ですわよ、今、彼女たちから聞いた話をそのまま簡潔にご説明ください」
 判断は西口側へ言った班に任せればいい、と、ラナロックはそういう結論を導き出した。
「でも…それだと間に合わないかもしれません! 房内、白羽はそのまま雅羅さんの元へ直行してください。何としても、この話を西口方面の方々に伝えなくてはっ!」
「しょうがないのぉ…」
「あの中に行くの、結構抵抗あるんだけどなぁ…」
 貴仁の指示を聞いた房内、白羽が不承不承、と言った感じに呟いてから走り始める。
「間に合うといいんですけど…」
 心配そうに、セシルが救援に向かった二人を見送る。

     ◆

 ウォウル達から見ても、それは何とも難儀な光景だった。東口側の空が、部分的に真っ白い靄に覆われていて、もしかすれば遠目で雨雲の様に見える物で埋められているのだから。同時に、北都の携帯にかかってきた突然の電話も、如何に事態が深刻かがわかるものだった。
「ウォウルさん、連絡だよ」
「うん? もしもし、ああ、僕だよ。ウォウルだ。 ――へぇ…そうなんだ、わかった。じゃあこっちから増援を派遣するから、君たちは蛙君の介抱を引き続き頼むよ」
 ウォウルが適当に話を済ませると、電話を切って北都へ返す。
「なんやて?」
「あのてるてる坊主たちの正体がわかったのさ。申し訳ないんだけどねぇ、北都君とリオン君、それにセレンさんとセレアナさん。君たちは今からちょっとばかり東口に向かってくれないかい?大至急だ」
「えぇー! スイッチ押せないじゃん!」
「事態が事態。ほら、行くわよ」
「ぶー…」
「わかった。で、僕たちが行くのは?増援としてかな?」
「いいや、君たちに頼みたいのは伝言だ」
 ウォウルの返事を聞いたリオンが首を傾げる。
「伝言、ですか?」
「あのてるてる坊主、一体でも倒せば厄介な事が起こるらしい。それを伝えて貰おうと思うんだよ。ただ向こうからもこちらからも連絡が取れないからね。だから君たちが行ってそれを伝えて欲しいって訳」
 ウォウルから事情を説明された四人は、すぐさま東口へと向かう。それを心配そうに見守る一同。
「くれぐれも、てるてる坊主は倒しちゃだめだからね!」