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リアクション
「なんて奴だ。これがヴァイシャリー湖に現れたら……!」
水路の中にまで触手を伸ばし、契約者達を一体で相手取る魔獣の巨大さに、長原 淳二(ながはら・じゅんじ)は戦慄を感じていた。
「でも、怯んでいる場合じゃありません」
と、ミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)。頷く淳二が刀を手に駆けだし、ミーナの手から閃光が放たれる。
が、そこはさすがの魔獣、二人を相手にとって、触手がひるみはしない。左右に大きく振られ、淳二を追い散らそうとする。
「く。生半可な攻撃は通じないか……」
「なら、協力するわよ! フェイミィは私と前、ユーベルはヘイリーと援護を!」
リネン・エルフト(りねん・えるふと)が飛び出し、銃を手に触手を狙う。
「一撃で倒せないってだけで、通じてないってわけじゃないだろうよ!」
大斧を構えるフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が、扇風機さながらの風切り音を立てて触手を打ち払う。触手はその勢いに驚いて引き、再び振り回して戦士らを打ち払おうとする。
「くねくね動いて……いやらしい奴ね!」
ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が矢を放ち、触手をけん制する。淳二やリネン、フェイミィへの致命打は避けられ、徐々に追い詰めているようだ。
その様子を見渡し、ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)は小さくほほえんだ。
「やはり、仲間がそろっている方が勢いがありますわね。では、少しお手伝いいたしますわ!」
頼れる仲間へ向け、祝福の魔法を唱える。きらめく光が、彼女らの体を包み込む。
「一気に行くぞ……!」
淳二が武器に冷気をまとわりつかせる。触手の動きを鈍らせる作戦だ。が、そのとき……
「危ない、後ろ!」
リネンが指さした方向から、別の触手が勢いよく振り下ろされ、淳二の背を打つ。弾かれた淳二が床を蹴って跳ね上がる間に、現れた触手は彼のパートナーであるミーナへと絡みついた。
「淳二!」
触手に足を絡め取られ、持ち上げられながらも、ミーナは相棒のことを心配している。だが、全身を太い触手が絡め取り、ぎゅうぎゅうと締め上げられ、しだいに声を出す余裕もなくなっている。
「オレの目の黒いうちは、触手プレイなんかさせてたまるかよ!」
フェイミィが叫び、一気に加速。大斧をまっすぐに構え、触手に突き立てる。痙攣する触手から、ぬるついた体液が噴き上がる。
「どうだ……!」
「ち、ちょっと! 隊列を崩すな、エロ鴉!」
フェイミィの強烈な一撃も、触手を切り落とすには至らない。それどころか、フェイミィが突出したことで前衛の数が崩れ、今まで相手取っていた触手が、リネンらの中央に入り込む。
「こいつ……! 触手ってどこが弱点なのよ!」
ヘイリーが悲鳴にも似た声を上げ、弓を放つ。
「この……!」
リネンが剣を振り下ろすが、いくつもの傷が浮いた触手はそれでも落ちない。
「きゃあっ……!」
結果、最後尾にいたユーベルのもとまで触手が辿り着き、彼女の体に触手が絡みついていく。
「あっちもこっちも……こいつ!」
フェイミィが苛立ちに任せて柄を振るっている。ミーナの両足に絡みついた触手がずるずると表皮を這い、ユーベルの上半身が締め付けられ、あばらが圧迫されていく。
「ゆ、油断大敵……ですわね……」
ユーベルが氷を海だし、脱出を計ろうとするが、内側からでは焼け石に水、すでに巻き付いた触手の動きを止めることはできない。
「させるか! 俺の目が黒いうちは、触手に女性の体を言いようにさせはしない!」
怪しい文言と共に飛び出したエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、ミーナに絡みつく触手を抱え込むように掴む。吸盤が絡みつくのにも構わず、
「うおおおおお!」
強化筋肉とアーマーによる増幅、常人ならば心臓が耐えきれないほどの力を発揮し、触手をただ力任せに引っ張る。水中から魔獣を引きずり出すには至らないが、触手が伸びきり、ぴんと張り詰める。
「おまえ! 男なら今、決めるんだ!」
「……ああ!」
淳二が答え、伸びきった触手に向けて剣を振り下ろす。一撃、二撃。冷気をこめた剣が、触手を断ち切っていく。先ほどまでは敏速に逃れ、同じ場所への打撃を避けていた触手も、エヴァルトに抑えこまれて逃げられない。ついにはぶつりと音を立てて、半ばから切断された。
「……く、っは……」
「無事か、ミーナ?」
淳二がかけより、ミーナを助け起こす。
「なんとか……。ありがとう、淳二、それに……」
機晶技術に身を包んだエヴァルトに目を向ける。彼はゆっくりと指を立てた。
「キケンなシチュエーションを防ぐため、当然のことをしたまでさ」
「こっちも、やるわよ!」
「おおっ!」
リネンのかけ声に、フェイミィが答える。
「ちょっとだけ、我慢してね、ユーベル!」
リネンができるだけ距離を取るため、触手の根元近くに手をついた。
「はあああっ!」
その掌から、強烈な電圧がかけられる。触手の中を電流が駆け抜け、筋肉が異様な反応を見せてユーベルの体から引き離される。
「後で慰めてやるからな、ユーベル! おりゃあっ!」
大斧を掲げたフェイミィが、力の抜けた筋繊維を切断していく。
「黙って戦いなさいよ!」
触手から解放されたユーベルを受け止めたヘイリーがきっと彼女をにらみつける。
「まあ、まあ……皆のおかげで、大した傷はありませんわ」
苦しげに呼吸を落ち着けながら、ユーベル。
「しかし、触手だけでこんなに手こずるなんて……他のところは、大丈夫かしら」
リネンが目を向ける。プールの別の際で行われている戦いに。
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