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サルヴィン地下水路の冒険!

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サルヴィン地下水路の冒険!

リアクション

 ごうごうと水が流れ続ける。あまり広いとは言えない通路に、一斉に流れ込んだ水が、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)を押し流そうとする。
「く、っ……!」
 ザカコは頑丈なザイルを自分の体に巻き、一端を床に打ち付けることで耐えていた。強烈な水圧が全身にかかり、しがみついているだけでも体力が奪われていく。
「ぐう……!」
 歯を食いしばる。運悪く、鉄砲水から身を隠せる場所が見つからなかった以上、こうして耐えるしかないのだ。
 激しい水流が彼の体を揺さぶる。勢いよく流れ込んだ水が、その体を反転させる。仰向けになって、今度は背筋に強烈な負担。もし硬いものが流されてくれば、自分の頭を守ることはできないだろう。そんな状態だ。
 どれほどの時間、そうしていたか。やがて水の勢いが弱まってきた。ふと、ザカコは気づいた。自分の見ている先……つまり天井に、継ぎ目がある。所々欠けていて、まるで何かで削られているかのような様相だ。
「まさか……いや、試してみる価値はあるか」
 疲労でくじけそうな意識をなんとか持ち直す。水流の中、何度も繰り返した動作で、カタールを抜く。
「……はっ!」
 巻き付けていたザイルを緩める。体が押し流されていく。それにあわせて、抜いたカタールを天井の裂け目に滑り込ませる。抜群の集中力である。
 愛用のカタールはがっきと音を立てて突き刺さったカタールに、手応え。天井の一部がずずずと動き始めた。
「なるほど、いざというときは、ここに逃げ込んで、鉄砲水が敵を流してくれるのに期待していたわけだ」
 鉄砲水がゆっくりと勢いを失い、もとの水流が戻ってくる。ザカコはザイルを解き、カタールをしまった。疲労ですでに力が入らない体にむち打ち、今度はザイルを天井に放り、ぽっかりと口を開けた隠し部屋へと昇っていった。
「……あたりだな」
 ザカコの見る先には、絵に描いたような宝の山……丁寧に宝石があしらわれた宝箱の中に積まれた金貨や、装飾として価値がありそうな短剣、そういったものが部屋の奥に並べられている。
「ひとりで持ち帰るのは難しそうだ。他の皆に連絡して、来てもらうか」
 と、ザカコが呟いたとき……
 ゴォンッ!
 激しい音を立てて、壁が吹き飛んだ。破片が飛び散る中から、ゆらりとゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が姿を現す。
「だ〜ひゃっはっは! みーつけた!」
 爆発の反響に重なって、ゲドーが高く笑う。
「まさか……そうやって、水路を破壊しながら進んできたのですか?」
 驚愕を抑えこんで、ザカコが体を起こす。
「あったり前よ。誰が馬鹿正直に水を泳いで渡るか。その様子じゃあ、正攻法のおかげでずいぶん消耗したみてぇだなあ? いいざまだ!」
 魔方陣が刻まれた舌をだらりと垂らし、ゲドーが笑う。その手から、魔術の炎が噴き上がった。
「ぐうっ……!?」
 交わしきれず、伏せたザカコの体が床を転がる。立ち上がろうとするも、衝撃で頭が揺れていた。
「だ〜ひゃっはっは! もっと不幸にしてやりたいが、今は俺様が幸せになることの方が大事だからな。こいつは頂いていくぜ!」
 ゲドーは宝の中から価値のありそうなものを広い、ポケットに突っ込んでいく。
「がんばって作ってくれた地図のおかげで、俺様は楽々脱出ってわけだ。じゃーな」
 ハンドヘルドコンピューターを取りだし、地図を確認する。そして、笑い声を反響させながら去っていった。
「く……っ。誰か、奴を止めろ……!」


 にわかに騒がしくなる水路の中を、ゲドーは悠々と進んでいく。身を隠しながら出口へ。日陰を歩くのは慣れたものだ。
 ようやく、出口が近づいてきたと見えた頃……
「ちょっと待った! ようやく見つけたよ!」
 びしっ! とその背に指を突きつけるレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)
「待てと言われて、待つ奴はいネェよ!」
 追われれば逃げるのがゲドーのやり方だ。振り返りもせずに走り出す。
「ま、待つアル……着ぐるみが水を吸って、動きづらいアル……」
 ようやくレキに追いついたチムチム・リー(ちむちむ・りー)が走って追いかけようとするが、止まることなくぼたぼたと水滴が垂れ落ちる体が言うことを聞いてくれないようだ。
「こらー、泥棒!」
「おっしゃる通りだよ!」
 チムチムに合わせていては追いつけないと判断したレキが後を追う。が、ついに追いつくよりも早く、ゲドーが出口へと到達した。
「だ〜ひゃっはっは、宝は俺様のものだあ!」
「はりゃっ!?」
 明かりの中へ飛び出したゲドーの眼前で、葉月 可憐(はづき・かれん)が悲鳴を上げた。中を探索する契約者たちのため、出口で料理を作っていたのである。
「その人を、止めてー!」
 後方かれレキが叫ぶ。可憐は一瞬、迷う仕草を見せたが、すぐに頷いた。
「分かりましたっ、アリス!」
「う、うん!」
 パートナーの名前を呼ぶ可憐。それに答えて、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が準備していた料理……フカヒレのスープの鍋をひっくり返した。
「うあちいいいい! 殺す気かっ!?」
 急ブレーキをかけたゲドーは浴びせかけられはしなかったものの、足にスープがかかり、慌てて水路に流れ込む水の中に飛び込んだ。
「今アル!」
 ようやく水路から飛び出してきたチムチムが、魔獣に呼びかける叫びをあげる。どこからともなく集まってきた獣の群れが、ゲドーを弾き飛ばした。
「覚えてろよー!」
 芸術的な角度とテンポで吹き飛んだゲドーが、空の彼方できらーんと輝いた。
「ふう……よかった。とと、拾っておかないと」
 レキは額の汗をぬぐいながら、吹き飛んだゲドーの懐からこぼれ落ちた宝を拾っていく。当時流通していたのだろう金貨に、今のものとは違ったカッティングがされた宝石。魔方陣のようなものが中に描かれた透明な結晶などなど、現代人の目には不思議に映るものが並んでいる。
「それが古王国のお宝ですか? すごいです」
 可憐が近づいてきて、レキの手の中にある宝の数々に目を輝かせる。
「王国に献上する前に、ひと目見てみたいと思って来たアル。盗まれるのも防げたみたいアルし、念願もかなってよかったアル」
 走り疲れてへたりこむチムチムに、アリスが料理を手に近づいていく。
「疲れてるなら、甘い物はどうかなぁ? ぷるぷるのゼリーだよ」
「やや、ありがたいアル」
 にっこりとほほえむアリスから、ゼリーを受け取るチムチム。その様子を見て、レキが嫌な予感に身を震わせた。
「ね、ねえ。フカヒレにゼリーって、その料理、何で作ってるの?」
 問われた可憐は、にっこりとほほえんで答えた。
「大丈夫ですよ♪」
「答えになってないよ!?」