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リアクション
第6章(2)
疫病を治す鍵を探しに向かった者達は、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)の案内で賢者の塔に辿り着いていた。
この塔の最上階に住む師王 アスカ(しおう・あすか)は盲目の賢者で、目を魔法の帯で覆っているにも関わらず絵を描く事を趣味としていた。
「あら〜ロールちゃん。見ないうちに大きくなったわね〜。何年ぶりかしら〜」
「お久し振りです、賢者様。ローズです」
「今日は沢山の人を連れてきたみたいね〜。何かあったの? ロールちゃん」
「はい。今日は是非賢者様のお力をお借りしたく、こうして参りました……あと、ローズです」
「私の力? ロールちゃんが私を頼るなんて珍しいわね〜。いいわよ、お話して頂戴〜」
「……ですから、ローズです」
「あらあら、それは大変ね〜」
ローズから事情を聞いたアスカは微妙に心配そうな声を出した。本人は深刻な状況だと捉えてはいるのだが、如何せん、元がのんびりしている為それがほとんど感じられない。
「困ったわね〜。助けてあげたいのは山々なんだけど、魔法を使う為の媒体が手元に無いのよ〜」
「その媒体があれば治す事は可能なのですか?」
「そうよ〜。そこのあなた、妖精の果実を持ってるわよね〜」
「え、えぇ。確かに私が所持していますが」
アスカが月詠 司(つくよみ・つかさ)の方を見る。司はクレアニスで献上された妖精の果実を持ち歩いたまま旅に同行していた。
「私の魔法でそれを強力に、おまけに数も増やしてあげちゃうのよ〜。そうすればどんな病気だってすぐに治っちゃうわ〜」
「それが出来るのなら是非お願いします! 媒体は今どこに?」
希望が見えた事でローズがアスカににじり寄る。対するアスカはのんびりした空気のまま、媒体の在り処を答えた。
「ん〜、多分下の階で遊びまわってると思うわ〜」
「――という訳で探索に来たのですが、見つからないですね……」
勇者達は一旦アスカと別れ、下の階にあるという媒体を探しに来ていた。だがそれらしい物は見つからず、徐々に階が上がって行く。そしてある階の探索を始めると、途端にアルト・インフィニティア(あると・いんふぃにっと)の目が輝きだした。
「この感覚……わたくしの撮影魂がここだと伝えていますわ」
「さ、撮影魂? とりあえずこの階を重点的に探して――あ」
ローズの目がある柱の陰に向く。そこにはラルム・リースフラワー(らるむ・りーすふらわー)の姿があった。
「い……いぢめる?」
「何だろう、賢者様のお友達かな?」
少し怯えを見せるラルムにとりあえず接触を試みようとするローズ。だが二人が接触する前に、アルトが暴走を始めた。
「す……素晴らしいですわ! この愛くるしい姿、衣装との一体感。これぞ芸術、わたくしの求める物ですわっ!」
パシャパシャとフラッシュを焚きながら撮影しまくるアルト。興奮しながら徐々に接近するアルトの姿は恐怖と認識され、完全に怯えたラルムはガーディアンを呼んだ上で上層階へと逃げてしまった。
「あぁ! お待ちになって! もっと近くで撮影を!」
「しなくて良い。それより状況を自覚してくれ、オジョウサマ」
リデル・リング・アートマン(りでるりんぐ・あーとまん)がアルトの首根っこを捕まえる。呼び出されたガーディアンのハーモ二クス・グランド(はーもにくす・ぐらんど)の視線は護衛対象のラルムが一番恐怖と感じたアルトに向けられていた。
「ニクスはラルム様に対する脅威を優先的に排除する。目標捕捉……攻撃開始」
ハーモニクスがアルトへと襲い掛かる。その剣は彼女の護衛であるカルネージ・メインサスペクト(かるねーじ・めいんさすぺくと)が防いで見せた。
「システム、戦闘モードを起動。対象をアルト様への脅威と認定……防衛開始」
カルネージの護衛スタイルは牽制となる攻撃を撃って相手を近づけさせない攻勢防御。フライトユニットと加速ブースターを展開したこの機械人形は、圧倒的な機動力を持ってハーモニクスへと対抗しだした。
「楽しそう〜! アンジェも遊ぶ〜♪」
さらに事情をよく理解していない強殖魔装鬼 キメラ・アンジェ(きょうしょくまそうき・きめらあんじぇ)が乱入し、戦闘が派手になる。そんな中、ローズは逃げたラルムを追う為に一人、階段を登って行った。
「多分この辺だとは思うけど……もしかして一番上にいる賢者様の所まで行っちゃったのかな」
上層階を一つ一つ、ラルムを怯えさせる事が無いよう丁寧に捜索する。そんなローズの苦労が実り、二つ上の階に積み上げられている箱の陰にラルムが隠れているのを見つけた。
「……いぢめる? いぢめる?」
ラルムは本当に僅かな部分だけを見せ、それ以外の部分は完全に隠れている。ローズはラルムが安心できるよう視線を相手の高さに合わせ、神官と医者、二つの立場で培った優しい笑みを浮かべて見せた。
「大丈夫だよ。私は君のお友達になりに来たんだ」
「……お友達?」
「そうだよ。君は賢者様のお知り合いだろう? 私達は賢者様に会いに来てるから、君とも仲良く出来ると嬉しいな」
「……いぢめない?」
「もちろん。さぁ、こっちにおいで。お友達の印に握手をしよう」
ローズは優しい人物だと判断したらしく、ラルムがおずおずと陰から出て来る。それでも握手をすると緊張が解けたのか、すぐにローズの頭の上に乗るほどの懐きようとなっていた。
「さて、媒体探しを再開する前に、下の戦いを止めてから一旦賢者様の所に戻った方がいいな。それじゃあ、一緒に行こう」
ラルムを頭に乗せたまま階段を下りていくローズ。二人が階下で見た物は、何故か武器を捨て、関節技の掛け合いにまで発展しているハーモニクスとアンジェの姿だった。
「あらラルム、お帰りなさい。見つけてもらったのね〜」
勇者達が最上階に戻ると、しっかりベッドに入って眠っていたアスカが起き上がった。ラルムはアスカには完全に懐いているらしく、するすると彼女の頭の上まで登っていく。
「思ったより早かったわね〜。これで魔法が使えるわ〜。ロールちゃんありがと〜」
「ローズです。 それよりも、どういう事ですか? 賢者様」
「あら、言わなかったかしら〜? 魔法を使う為の媒介っていうのは、この子なのよ〜」
アスカが軽く呪文を唱える。すると頭の上にいたラルムの身体が浮かび、仄かな光を放ちながら緑色のクリスタルへと姿を変えていった。
「じゃあ早速やっちゃうわね〜。 ツルツル〜ピカピカ〜ハゲオヤ(以下自主規制)」
さらに別の詠唱を始めるアスカ。彼女とクリスタルの間に魔力の橋がかかり、両者の間を行き来する魔力は徐々にその密度を増して行った。
「ぶえぇぇっくしょん!!」
「どわっ!? びっくりした……」
「これは失礼しました。しかし健康自慢の私がくしゃみをしてしまうとは……これは風邪をひかないよう、もっと鍛えないといけませんね」
「それ以上鍛えるのかよ……」
同時刻、ルイ・フリード(るい・ふりーど)と篁 大樹の間でそんなやり取りが交わされたそうだが、それはまた別のお話。
「――はい、出来たわ〜。これを持って行けば快復間違い無しよ〜」
預かっていた妖精の果実をローズに渡す。魔力の橋に置かれたそれは賢者の力によって強化され、少し食べるだけで疫病すらも跳ね返す回復力を生み出していた。
「ありがとうございます、賢者様。これでイズルートは救われます」
「気にしないでいいのよ〜。それじゃあ私は疲れたからまた眠るわ〜」
ついでとばかりに魔法の機晶石をローズに渡し、再びベッドに潜るアスカ。ローズは受け取った物をしっかり握りしめると、もう寝息を立て始めているアスカに深々とお辞儀をした。
「本当に……ありがとうございました、賢者様」
「ムニャムニャ……気に……しない……のよ…………ロール……ちゃん…………ムニャムニャ……」
「……ですから、ローズです」
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