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黎明なる神の都(最終回/全3回)

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黎明なる神の都(最終回/全3回)

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 第15章 ネヴァンの島

 小島とはいえ、それなりの大きさはある。
「ネズミーランドとどっちが大きいかな?」
 見えてきた浮き小島を見て、トオルが呟き、地球に行ったことのないシキは首を傾げた。
 中央の小高い丘の上に、立派な屋敷が見える。
 ネヴァン達はあそこだろう。

「富豪の屋敷、というだけあって、中々のものですね」
「ファリアスの領主宅より大きいかもしれませんね」
「まあ、あちらは街の中、こちらは一軒家ですしね」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)のパートナー、吸血鬼のメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)と剣の花嫁のエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が、ネヴァンの屋敷を見て感想を述べ合う。
「探すの大変そうだな。ディテクトエビルに反応するかな?」
 エースもそう言って、ちらりとメシエを見た。
「念の為言っておくけど、できるだけ殺すなよ」
 できるだけ、生け捕りたい、と言うと、メシエはやれやれ、またかといった表情で笑った。
 全く、甘いことだ。
「エースが、そう言うのなら」
 しかし口ではそう答える。
「僕も、それがいいと思います」
 メシエの内心を読みとって、エオリアがエースを擁護する。
「何でも、殺して解決、では、テロリストと同じです……」
「別に反対していませんよ」
 エースの言うことに協力する。
 それでも、事態を収束する為にもしネヴァンの死が必要であるなら、躊躇わないだろうとも思った。
 多分、エースの協力をしながら自分は、ネヴァンを殺そうとする者も援護するだろう。


 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は、小島に到着して船を降りるとすぐに、光学迷彩で姿を隠した。
 そしてまっすぐ屋敷に向かう。
 モンスターがうようよしていたり、というようなことも、屋敷内にトラップが仕掛けられている、ということもなく、それでも慎重に内部を探し回って、ザカコは小広間に辿り着いた。
 感じた人の気配は、予想通りのもので、ザカコは迷彩を解いて姿を現す。
「探しましたよ、ネヴァンさん」
 ぶつぶつと呪文を唱えて魔法陣を敷いていたネヴァンは振り返った。
 続いて、隣りに立っていた男が振り返る。
「……あなたは」
「何の儀式をしているのです?」
 呟くネヴァンに、ザカコは訊ねた。ネヴァンは微笑む。
「これは、神になる為の儀式、よ」
「神になる……?
 何という鹿げた真似をするんです……。
 まだ遅くはありません。そんなことはやめて話し合いましょう」
「馬鹿げてなんていないわ。私は、神になるの……。
 いずれエリュシオンの最たる神にだって、なってみせる」
 言い放つネヴァンに、説得は無理だとザカコは思った。
「ならば、仕方ありません」
 バーストダッシュで一気に距離を詰め、ザカコはネヴァンの持つ杖を狙った。
 だが、それを阻むようにキアンが飛び込み、ナイフを構えて身構える。
「任せたわ」
 キアンにそう言うと、その隙に、ネヴァンは走って逃げ出した。


「止まってください、キアンさん!」
 魔女の方に向かう、というトオル達と分かれ、火村加夜は、ネヴァンの後を追ったザカコを阻もうとしていたキアンの前に立ちはだかった。
 ようやく、探していたキアンと面と向かう。
 しかし彼の表情に感情の色はなく、加夜は悔しげに唇を噛んだ。
 説得は通じそうになかった。
 敵に回っているかもしれない、とオリヴィエは言ったが、こういうことなのかと納得する。
 キアンは、操られていた。
「……ごめんなさい」
 加夜は呟いた。
「あなたを、助けます。必ず」
 多少、傷をつけることになってしまっても。

 攻撃の為に飛び込んできたキアンの動きを予測して躱す。
 そこへ、レキ・フォートアウフが、キアンの気を引く為に前に出た。
 その隙に一歩下がった加夜は、カーマインを構え、一瞬躊躇ったが、そのままキアンの足を狙う。
「くっ!」
 片膝をついてバランスを崩したキアンに加夜が、とどめの、気を失わせる魔法を放とうとした時。

「チャンスアル!」

 光学迷彩で姿を隠し、隙を狙っていたチムチム・リーが、キアンにジャンピング・ボディプレスをかまして取り押さえた。
「キアンさん!」
 ぐしゃっ、とまともに下敷きになったキアンに、加夜が蒼白と叫ぶが、だいじょうぶなんだよ、とレキが言う。
「チムチムは100キロあるけど、もふもふしてるから潰れないんだよ」
「100キロ!?」
 蒼白として、加夜はキアンの無事を確かめる。
 チムチムの下で、キアンは意識を失っていた。
「どうする?」
「トオルさん達が『左目』を取り戻して来るまで、起こさないでおきましょう」
 そうだね、とレキも頷く。
 目を覚ましてしまった時の為に、そのまま3人で、彼の見張りにつくことにした。



 呼ぶ声が聞こえるような気がした。
 意識を朦朧とさせる、まとわりつく何か。
 必死にそれを振り払ってソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が意識を取り戻した時、周囲は魔法による閃光で溢れていた。
「……!?」
 戦闘中!? と驚き、すぐに、自分はネヴァンの術に嵌ったのだと思い出して、ソアは周囲の状況を確認する。
 背後にネヴァンが居るのが解った。
 自分は、彼女を護って戦っている。
 相手は、源 鉄心(みなもと・てっしん)と、彼のパートナーの魔道書、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)
 ヴァルキリーのティー・ティー(てぃー・てぃー)の姿は見えない。
 そして自分のパートナーである雪国ベアだ。
「ご主人!!」
 ソアを正気に戻そうと、ベアが必死に叫んでいる。

(ソアさん!?)
 ティーのテレパシーが飛び込んで来た。
 姿は見えないが、それはベルフラマントで姿を隠している為だった。
 それまで、自我を失ったように戦いを挑んできたソアが、不意に周囲に視線を走らせるのに、ティーは目敏く気付いたのだ。
(ごめんなさい! もう大丈夫です!)
 ソアが答えて、ほっとする。
「キミは、何故力を求める? それを手に入れて、何がしたいんだ」
 機を窺うソアを見て、鉄心はネヴァンに問い掛けた。
「皆、同じことを訊くのね。
 あなたは、欲しくはないの? 神となれる力が」
「それが何だとしても、他人のものを強引に奪う行為を、肯定はできないな」
 鉄心の言葉に、ネヴァンは嘲笑う。
「自らの力だろうが、外から得る力だろうが、神の力に代わりはないわ」
「……だが、その子を攫ったのは、逆効果だったな」
「え?」
 不意にソアが身を翻し、ネヴァンに向けて『雷術』を放った。
「!!」
 怯むネヴァンの杖に掴みかかり、ひったくる。
「ご主人!」
 ベアが駆け寄った。
「ベア、これを!」
「返しなさい!」
 杖をベアに渡すソアを、ネヴァンが追う。
「あっ!」
 その時、気配に気をつけていたイコナが叫んだ。
 同時にティーが、あっと声を漏らす。
 杖をネヴァンの手に戻さないように、とそちらに集中していたティーは、動こうとしたが遅かった。
 杖は、別の手が取り上げたのだ。
「!」
 その姿に、鉄心は眉を寄せる。
 パートナーの吸血鬼、ヘキサデ・ゴルディウス(へきさで・ごるでぃうす)と強化人間の九段 沙酉(くだん・さとり)を従えた、三道 六黒(みどう・むくろ)がそこにいた。
「儀式は、続けられるのか?」
 杖をネヴァンに返しながら、六黒は短く問う。
「……地下に」
 小声の返答に頷き、行け、と沙酉に合図をした。

「ネヴァンさん!」
 走り去る2人にソアが叫ぶが、六黒達に阻まれて追えない。
「散々警戒してくれたな。期待に応えて、出てきてやった」
「余計な世話だぜ」
 ち、と鉄心は顔を歪める。
 ネヴァンの去った方を気にするソアをちらりと見遣り、ふん、と六黒は鼻を鳴らした。
「身のほど知らずの正義など、何の役に立とうか。通りたければ、相応の力を示し、押し通してみせよ」
「あなたも――あの力を狙っているのですか?」
 ソアの言葉に、鉄心は、よせ、と合図する。
 説得が利くような相手ではないことは、既に知っていたからだ。
「こんな片田舎までわざわざ出向いて、手ぶらでは帰らぬよ」
 ヒョイと肩を竦めて、そう答えたのは、ヘキサデである。
「あの女の言葉を繰り返してやろうか。
 力の形など何でもよい。内なる力だろうが、外なる力だろうがな。
 要は、大きいか、小さいか。それのみだ」

 ガントレットによる抜刀と黒檀の砂時計による効果で、六黒は一気に鉄心の懐に飛び込む。
(早い!)
 応戦しながら、鉄心は舌を打つ。
 六黒の動きが大きくなった一瞬、素早く飛び退き、一刀両断を狙った剣を回避した。
「やりおる」
「……伊達に警戒してたわけじゃないんでね」
 フン、と鼻を鳴らす六黒に、鉄心も軽口で返した。


 ここを防いでも、別経路からネヴァンは追っ手に阻まれ、最終的に敗れるだろう。
 実のところ、六黒はそう予測を立てていた。
 それでも、命令されたなら沙酉は従うまでだ。
「ようやく見付けましたよ」
 エッツェル・アザトースの声に、地下への階段を降り掛けていたネヴァンの足が止まった。
「なるほど、それが龍の杖ですか。実に興味深いですね」
「あなたには必要のないものよ」
 言ってネヴァンは廊下の奥へ目をやった。
「随分大勢近付いていますね」
感情を読んで、エッツェルが笑った。
「そろそろ詰みですよ」

 駆け込んで来たのはトオル達だった。
「あっ! 見付けたぞ、てめえ!」
 ネヴァンは苛立たしそうに眉を寄せた。
「全く、面倒なことになったものね」
 ここまでとは、と、うんざりとネヴァンは呟いた。
「本当に、鬱陶しい……」
「ネヴァン?」
 何かを感じとり、沙酉が訊ねる。
「もう、いいわ。まとめて死んでしまいなさい」
 杖を構えて、ネヴァンは何事かを呟いた。
「伏せろ、トオル!」
 突然の轟音と、吹き荒れる突風より、シキの叫びは一瞬早かった。しかし注意など役に立たない。
 地響きと共に館が崩れ、次いで凄まじい嘶きが耳を貫く。
 瓦礫を避けて、顔を上げ、トオルはぎょっとした。
 そこに、龍が現れていたからだ。
「嘘だろ……」
 フラガラッハは龍を召喚する杖だと聞いていた。
 しかしまさか、室内でそれを使うとは。
 最早半分野外と化した屋敷の瓦礫を踏み越えて、龍が地上の者達を見下ろす。
 口元からは放電を纏った炎のブレスが零れ、凶暴な瞳が獲物を探した。