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黎明なる神の都(最終回/全3回)

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黎明なる神の都(最終回/全3回)

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 事が済んだ後、ソア・ウェンボリスは暫くしょんぼりと落ち込んでいた。
「ごめんなさい、皆さんにご心配とご迷惑をおかけしてしまって……」
 誰もが気にするな、と言ったが、ソアは平謝りだ。
 そんなソアを見て、間近に居ながら護れなかったベアは、己の不甲斐なさを悔いた。

「くまさん、どうしたのです?」
 巨体が悶えている目立つ姿を見て、ハルカが声をかける。
「ハルカ……。頼みがあるんだが」
 不甲斐ない自分では、ソアを慰めてもやれない。
 だからハルカにそれを頼んだ。
「そあさんが落ち込んでいるのです?」
 それを聞いた途端、元気付けてやって欲しいまで言わせず、ハルカはソアの元へ向かう。
「そあさん、落ち込んでいるのです?」
 直球で訊ねたハルカに、ソアは元気なく笑った。
「ごめんなさい……ハルカさんにも、心配をかけてしまって」
「ごめんなさいは、いらないのです」
 ハルカは、首を傾げて笑った。
「みんな、そあさんが戻って来て嬉しいのに、ソアさんだけが悲しいのは、皆も悲しいのです」
「嬉しいのに、悲しい、ですか」
 ハルカの言い回しに、ソアは少し笑う。
「嬉しいのにです」
 ハルカは言って、それに、と声もひそめた。
「くまさんも、うがーってなっちゃってるのです」
「……それは、困りますね」
ソアはくすくす笑う。
「じゃあ、ちょっとベアのところに行って、話してきますね」
「それがいいのです」
 にこ、と笑ったハルカに、ソアは
「ありがとう、ハルカさん」
と礼を言う。ハルカも笑った。
「ありがとうの方が、嬉しいのです」
 だから、ずっと呼び掛けてくれたベアにも、謝罪ではなく、お礼を。


「ところで」
 と、ルカルカ・ルーは、絶対に確認しておきたいことがあり、オリヴィエに訊ねた。

 結界の解除の後、ハルカやオリヴィエ達と合流し、オリヴィエの体の方には影響はなかったのかと、教導団で保険医も兼ねるダリル・ガイザックが診察したが、異常は見つからず安堵した。
「――問題ない。
 診察代はサービスだ」
「それはどうも」
「ものすごい力の塊が落ちてきたんだよ。博士の方は本当に大丈夫だったの?」
 横からルカルカが訊ねたが、「まあ、概ね」とオリヴィエは曖昧に答える。
 ルカルカはジト目でオリヴィエを睨んだ。
「ルカさん達は大丈夫だったのです?」
 ルカルカからお土産と渡された、等身大たいむちゃん人形を抱えながら、ハルカが訊ねる。
「ん? 勿論! ルカルカにかかれば、あれしき!」
 言ってルカルカはキッとオリヴィエを見た。
「と、こ、ろ、で!
 ああいう危険な装置、もうないよね!?」
「……」
 オリヴィエは一瞬考えて、
「多分」
「今の間何よっ!? 多分って!」
「いや……ほら、ゴーレムは範疇に入るのかな、とか」
「嘘だろう」
 ダリルにまで突っ込まれて、オリヴィエはやれやれと苦笑した。


「あの結界は、どうやって施すんだ?」
 銀のプレートの結界解除に加わり、オリヴィエ達と合流した後、葉月 ショウ(はづき・しょう)はその方法をオリヴィエに訊ねた。
「企業秘密」
 オリヴィエはそうとだけ答える。
「悪用したいわけじゃない。
 別に命を使わなくても、使用するエネルギーを機晶石あたりにできれば、武器やイコンに応用できるんじゃないか?」
「そういうのに使うのは、普通の結界技術を応用する方が簡単かと思うよ」
 それに、と、オリヴィエは苦笑した。
「前例もあるしね」
「前例?」
 訊き返すショウに、オリヴィエは肩を竦める。
「私にこの方法を教えてくれた相手とは
『これは生け贄なんかに使うあまりよろしくないやつだから、くれぐれも使わないように』
と約束したんだけど」
「ああ……」
 ショウは納得してオリヴィエを見た。
 つまり彼は、その約束を破ってこの結界技術を使用したのだ。
「君が約束を破ると思っているわけじゃないんだけど」
「まあ、気持ちは解る、ような気がする」
 オリヴィエとて、悪用したわけではなかった。
「……仕方ない。諦める」
 無理に聞き出そうとしても、いいことなどないだろう。
 ショウの言葉に、オリヴィエはどうも、と笑った。



「今回の件では、色々とご協力くださり、感謝します」
 元々アヴカンからの依頼ではあったが、彼は知らないことに対してはともかく、基本的に協力的だった。
 叶 白竜(よう・ぱいろん)の述べた言葉に、
「ああ、こちらこそ。よく働いてくれて感謝する」
とアヴカンは答える。
「まさかエリュシオン人が紛れ込んでいたとはな。
 驚いたが、何はともあれ、解決してよかった。これで枕を高くして眠れるというものだ」
「……安心は禁物です」
 晴れやかな表情で浮かれているアヴカンに、白竜は釘を刺した。
「? まだ何か問題があるのか?」
「失礼ながら、今回の盗賊のことよりも、今後のことを心配する方が重要だと感じます」
 ハテナマークを飛ばすアヴカンに、白竜は言葉を続けた。
「もう少し、富を独占することなく、民に行き渡らせる策を持つべきです」
 そんなことか、とアヴカンは呟いた。
「この街は、誰もが我武者羅にやっとる。
 それで成功する奴は成功し、成功しない奴はいつまでも貧しいままだ」
「あなたも、我武者羅で成功したということですか」
「わしは棚ボタだな」
 アヴカンはくくくと笑った。
「だから今の内に満喫しておかんとな」
「いつまでも、それでは通用しませんよ。世界は変わって行くんです」
 パラミタと地球は繋がり、シャンバラとエリュシオンは和睦した。
 ファリアスのような辺境にも、やがてその影響は来るだろう。
「その時はその時ってやつだな」
 白竜は溜め息を吐いた。
「では、最後にひとつだけ。
 領主が民の為に働くのであれば、我々国軍は、有事の際にはいつでも協力いたします」

「終わりました?」
 廊下で待っていたパートナーの強化人間、世 羅儀(せい・らぎ)は、サンタクロースのような袋を担いでいた。
「……どうしたんです」
「おばさん方に色々貰っちゃって」
 羅儀は苦笑して答えた。
 市井の民から辛抱強く色々と話を聞いている内に、すっかり気に入られ、
「あんた達、今度でっかい祭があるんだって?」
という話になった時、
「これ、持って行きなさい。
 売り物にならないクズ物だけどね。でもほら、綺麗でしょう?
 これで安物のアクセサリーとか作ればいいし、このまま瓶詰めとかにしてお客さんに無料で配ってもいいわよ。
 手作りアクセサリーの材料にどうぞってね」
と言って、売り物にならないクズ宝石を、行く先々で持たせてくれた結果、このような有様になってしまったのだった。
「確か、国軍として展示参加する人がいましたっけね。渡したら喜ばれるかもしれません」
「そうですね」
 こちらの話は済みました、と白竜は歩き出し、羅儀も後に続く。

「……有能な領主が治めれば、もっと豊かな街になるのは間違いないんだけどな」
 ぽつりと呟いた羅儀に、白竜も頷いた。
「折角気のいい街の人達が多いのですから、良き領主であって欲しいですね。
 ……国軍として街の政策にまで口を出すべきでないと解ってはいますが」
 気さくに接し、惜しげもなく大量の土産を持たせてくれた人々が、不幸にならないといい、と、羅儀は思った。


「ま、とにかく、終わったな」
 うん、とソーマ・アルジェントは頷いた。
「これで憂いもなくなったし、帰る前に、祭り見物と行こうぜ」
 ソーマが、北都に手を差し延べて笑う。
「楽しそうだね」
 祭り見物なんて面倒くさそう……という表情が僅かに見え隠れするものぐさな北都に、ソーマは
「そうだな。こういう楽しいことがあると、生きてて良かったな! って思うぜ」
と笑い、苦笑した北都は、共に市場へと繰り出して行った。


 晴れて結界が失われ、魔女だった為にこれまでタラヌスで弾かれていたクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は遂に、ファリアスの地を踏んだ。
「エースにハブられてたけど!
 ついについに! オイラもファリアスの郷土料理が食べられるんだ――!」
 鼻息荒く言ったクマラに、エオリアが、
「郷土料理もいいですが、ルカルカさん達が領主宅で、労いの食事会を開いているそうですよ」
と誘う。
「えっ、ダリルのご飯! 食べる食べる〜!
 虐待された可哀想なオイラは、美味しいものを貢がれる権利があるのでぃっす!」
 ぴょんぴょんと跳ねるように歩きながら、領主宅の場所も知らないのに、クマラは先頭に立つ。
 厨房で頑張っていたのは、ダリルさんではありませんでしたよ、とは、エオリアはまだ言わないでおいた。


 機晶石の買い付けを済ませ、値段などの相場を、ヒラニプラに待機するパートナーに携帯で連絡すると、仕事は終わったとばかりに、そのパートナーがファリアスに一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)を迎えに来た。
「折角ファリアスくんだりまで来たんだから、帰る前に遊んで行かなきゃ、ほらほら、アリーセ!」
 暇そうにしているアリーセを、剣の花嫁、久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)が連れ出す。
「そんなこと言っても……大きな市が立っているだけで、別に観光地でもないんですし」
 つれないアリーセの言葉に、グスタフはふふふと笑った。
「甘いなアリーセ。観光地じゃなかろうが、人の住む街である以上、美味しいお店も絶景スポットも、産地さながらのオススメ宝飾店も存在するのだよ!
 勿論既に全てチェック済! 見よ、このお手製の『旅のしおり』を!」
 じゃん! とグスタフは、気合いを入れすぎて観光ガイドブックと化した分厚いノートを見せる。
 わあ、と通行人が振り返って、アリーセはそのままグスタフを置いて立ち去ろうかと思ったが、よく見るとそれは、同じ教導団のルカルカとダリルだった。
 彼等は、じきに行われる万博に参加をするので、その展示品を見繕っているのだ。
 同校の彼等なら、この馬鹿のことも既に知っているし、とアリーセは辛うじて踏み留まる。
「さあ、欲しいものがあったら何でもパパに言ってごらん!」
 アリーセは半眼になりつつも、仕方なく言った。
「……欲しいものはありません。
 では、任せますので、何かお勧めのものを奢ってください」
「よしきた!」
 アリーセちゃん優しい! と、嬉々としてグスタフはアリーセを案内する。
 アリーセに買ってあげたいアクセサリーも、勿論既にチェック済なのだ。
 アリーセが興味を示さないことは解っている。
 けれど、それを着けてみて、似合っていたら、俺が嬉しい、と、足取り軽くグスタフは思った。


◇ ◇ ◇


 空京郊外。
「あー、帰ってきたあ!」
 傾いた飛空艇を見て、思わずそう声を上げた小鳥遊美羽を、パートナーの剣の花嫁、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が出迎えた。
「お帰りなさい」
 無事に片付いて帰って来る、と連絡を受けて、山程の空京ミスドのドーナツを手土産に、先に到着していたのだ。
「皆さん、ご無事で。お帰りなさい」
 どやどやと飛空艇内に入ってくる一行に、ヨシュアも出てくる。
「お疲れ様。お茶の準備ができてますよ。ゆっくり体を休めてくださいね」
 ベアトリーチェの言葉に、美羽とハルカは手を取り合って喜ぶ。
「わーい、ドーナツ!」
「ゆっくり体を休めるのはいいけど、戻ってくるとしみじみ、相変わらず傾いた飛空艇だよね」
 黒崎天音が苦笑した。うむ、とブルーズも頷く。
「ハルカの為にも、いい加減家を建て替えるべきではないか?」
 ごゆっくり、と、フラリと部屋に篭ろうとしていたオリヴィエの襟を雷號が引っ掴んで留める。
「寝るのは後だ」
「ハルカは平気なのです」
 旅してるみたいで楽しいのです、とフォローしようとするハルカに、
「長旅すぎるでしょ」
と天音が苦笑した。
 ふー、と、長い息を吐き出した後、まあ、確かに、とオリヴィエは頷いた。
「……善処します」


 それでは、と、それぞれ飲み物の杯を手にした面々を見渡す。

「今回もお疲れ様でした――!」

 美羽の弾んだ声が高らかに、最早恒例のようになっているオリヴィエ宅打ち上げパーティーの、始まりの音頭をとった。
 
 
 
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