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リアクション
★ ★ ★
「屋台が一杯にゃ~♪」
秋月葵さんとはぐれてしまったイングリット・ローゼンベルグさんは、絶賛食べ歩きを満喫中でした。
食堂番長さんの屋台で売っていた巨大たこ焼きを制覇し、今はフランクフルトソーセージの最後の一口を串から囓り取ったところでした。さすがは獣人、ワイルドです。
「次は……じゅるり。かき氷にゃ~」
かき氷の屋台を見つけると、イングリット・ローゼンベルグさんは縁台に座って、メニューの端から頼んでいきました。
「まったく、葵はどこにいっちゃったにゃ~。きっと、浴衣姿が小学生に見えたから、迷子として補導されたに決まってるにゃ~」
秋月葵さんが心配して探していることなど微塵も気にとめていません。むしろ相手を子供扱いです。
「まったく、アンネリーゼさんはどこにいるのでしょうか……」
かき氷を食べ過ぎてキーンとなった頭をかかえているイングリット・ローゼンベルグさんの前を、笹野 朔夜(ささの・さくや)くんが足早に通りすぎていきました。
お祭りだとはしゃいで飛び出していったアンネリーゼ・イェーガー(あんねりーぜ・いぇーがー)さんを心配して、後を追ってきたのです。
けれども、この人混みです、なかなか見つけることが出来ません。
「アンネリーゼさんは背が低いですから、これじゃますます見つけにくいですね。一人では、この人垣では何も見えないでしょうに……」
せっかくお祭りに来て何も見ないで帰ったのでは不憫だからと、笹野朔夜くんはなおもアンネリーゼ・イェーガーさんを探すのでした。けなげです。
★ ★ ★
「まだ始まらないようですわね」
ピョンピョンとジャンプしてメインストリートの様子を人垣越しにうかがいながら、アンネリーゼ・イェーガーさん御当人は通りを散策していました。
その手にはすでにお面やヨーヨーやリンゴ飴があり、充分にお祭りを堪能しています。
ピンクの市松模様に小花をあしらった可愛い浴衣を着た豪奢な金髪のアンネリーゼ・イェーガーさんは結構目だつと思うのですが、さすがにお祭りの人混みの中では似たような人がたくさんいます。
ピョンピョンしているアンネリーゼ・イェーガーさんの前の通りを、ゴーレムの「フォルテシモ」くんの肩にちょこんっと乗ったノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)さんが、のっしのっしと歩いて行きます。
「あん、だから大丈夫だよ。おねーちゃんも頑張ってね」
何やら携帯電話で話しているようですが、相手は今回お留守番のエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)さんのようです。
お祭りの様子を逐一教えるという約束で、エリシア・ボックさんのゴーレム、フォルテシモくんを借りてきたのでした。
そのとき、突然、警笛が鳴り響きました。
「はい、そこのゴーレム、路側に寄って。そこ、そこのあなたですよ、あなた!」
会場警備の婦警さんに怒られて、なんだかきょとんとしたノーン・クリスタリアさんがゴーレムを歩道の方へと寄せました。
「はい、ゴーレム運転中の携帯の通話は道路交通法違反ですから。で、運転免許は?」
「えっ? 免許?」
ノーン・クリスタリアさんがきょとんとします。どうやら、ゴーレムの無免許運転だったようです。でも、ゴーレムって、運転免許がいるんでしたっけ? シャンバラでは、みんな自由にゴーレムとか使い回しているような気もしますが……。
ちなみに、地球では、ロボットも車道を歩くと車両扱いとなり、車検を通っていない物扱いで公道は走行制限を受けます。オモチャですっと言いはっても、やはり公道でラジコンを走らせたら怒られます。どうも、この婦警さんは、今日の警備のために地球から初めて空京に派遣されてきたお手伝いさんのようです。
「仕方ないわね。切符切りますから、住所と名前を……。後でちゃんと罰金払ってくださいね。それとも、保護者の方呼ぶ?」
「えっ、えっ、えっ!?」
ノーン・クリスタリアさん、軽くパニックです。年齢的には保護者にはなっても、自分が保護されるだなんて、本人だけはさらさら思ってもいません。それにしても、この状況はいったいどうしましょう……。
「どうしたの、ごまかそうとしたってだめですよ」
「ええっと、ああっ、あんな所に迷子のちっちゃい子がぁ!」
問い詰められて、ノーン・クリスタリアさんがあらぬ方を指さしました。そこでは、たくさんの食べ物や屋台の戦利品をかかえた秋月葵さんが、周囲をキョロキョロしながら落ち着きなく歩いています。実際には、イングリット・ローゼンベルグさんを探していたのですが、傍目には不審者か迷子でした。
「どうしたの、あなた。迷子?」
婦警さんが秋月葵さんに声をかけました。
「えっ? このあたしが迷子のわけないもん」
なんでと、秋月葵さんが思いっきり不服そうに言い返しました。
「迷子ですね。こっちに来なさい」
「だから、違うもん」
思いっきり子供の迷子扱いされて、秋月葵さんが子供っぽく頬をふくらませます。そんなことだから子供扱いされるのです。まあ、可愛いわけではありますが。
そのときでした。
「だ、脱出だよー!!」
脱兎のごとく、ノーン・クリスタリアさんが逃げだしました。早い! 凄い! 酷い!!
「ああっ、こら、止まりなさい」
「今だもん!」
婦警さんが気をとられた隙に、秋月葵さんも逃げだしました。
「どいてどいてどいてー」
ずどどどどっと、ノーン・クリスタリアさんがゴーレムとともに走り抜けます。
「あわわわわ、あんなのが走っていって、道路は大丈夫なのでしょうか?」
まだ喧嘩神輿が始まってもいないのにと、ユーリカ・アスゲージさんが目を白黒させてノーン・クリスタリアさんの乗ったゴーレムを見送りました。
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