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太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編

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太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編
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 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)はヒラニプラの駅から、山すそを縫うようにして、翔龍のコクピット部分だけを分離させてルートを確認していた。翔龍のコクピットは調度単独で車として動かすことができる。
 ヒラニプラとの連結部分に資材の一部を先にもてるだけ運び込み、足固めもしておいた。
「さて、山を抜けていヴァイシャリー方面の平野に出るまで、頼むぞ翔龍!」
 出発するまえに、自分の担当する作業のことを細かく報告しておいた。何かあればヴァイシャリーの方で情報をやりとりできる。
 傾斜がなるべく出ないように調べあげられた、山麓の険しい部分を大きく避けたルートを入力する。それにそって進んでいけば、細く頼りない山道はゆるやかなカーブを描き、迂回するように尾根を乗り越え、谷間を縫うようにくだった。一度実際にルートを進んでチェックする必要があったのだ。
 途中指定されたルートの道がなくなったのは、進行方向に対して許容されうる前後の傾斜を超えてしまうためで、そこだけは切り開かねばならない部分となる。他に所によってはひどく狭くなっていたり、道自体が左右に傾いて必要な幅がとれない場所などにマーカーを置いて、後ほどイコンで道を開きに戻ってこなければならない。
 その時、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)からの連絡がはいる。
『やっほー、私今ヒラニプラのほうにいるの、先にルートをチェックしてるって聞いたから、なにか手伝えない?』
「おお、今途中までルートをチェックしたんだが、道が途切れたり、狭くなっている場所がある、そこを頼みたいんだが。勿論あとで合流する」
『イコンはグラディウスをつれて来てるからなんでもできるよ、まかせて!』
「マーカーを置いてあるから、空からでも分かると思う、頼むぞ」
 通信を切って、美羽はベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と共にグラディウスに乗り込んで飛び立った。

「よーし、ここだね」
 まず一つ見つけたマーカーの周囲は傾斜していた。とてもレールなど敷けそうにない。
「ヒラニプラ周囲は荒野に近いから、草が少ない点は助かりますが、地すべりを起こさないよう気をつけましょう」
 ベアトリーチェが注意事項を述べて、どれだけ土を削るかを試算した。
「タイヤのあとがはみ出てる、車の幅もとれないのはだめだもんね」
 かつて人の通りが踏み固めていった山道は地盤的にも安定している、そこを危うくしないように、ダブルビームサーベルが埋もれた岩や土の塊を、谷の方へと転がしていった。

 エヴァルトは山岳ルートのチェックを終わらせて、元来た道を引き返す。翔龍の本体はヒラニプラに置き放しているので、山道開拓の手伝いをするにも、一端戻らなければならないのだ。
 テレパシーで美羽に一方通行ながら帰還を報告し、ハンドルをとる、途中ですれ違っても、驚かせることはないだろう。
 稜線の向こうに金色のイコンを見かけ、エヴァルトはスピードを上げた。
 足元までたどり着くとグラディウスは振り向いてエヴァルトを促す。
「あ、おかえりー。まだ半分も終わらないから、早く終わらせて次に行こうよ!」
 鉄道すっごく楽しみなんだからあ!と叫ぶ美羽のイコンが、ビームサーベルをざくざくと振るう、ベアトリーチェのサポートで大雑把な動きを細かく修正されて、きれいに土が削られていった。
「おう、すぐに戻ってくる」
 ハンドサインで美羽に手を振り、足元をくぐり抜けてヒラニプラに戻る。
「さて、環菜のパラミタ横断鉄道…いやいや、シャンバラ・レールウェイズに決まったんだった!」
 とにかくがんばるぞー!とビームサーベルが天を突き、ヒラニプラの山々に、美羽の叫びがこだました。
 彼女の脳裏には、こだまが渡りゆく世界の隅々にまで、列車が力強く走る姿が確かに写っているのだった。

「す、ストップストォーップ!」
 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が突然絶叫してアーマイゼの操作を止めさせた。山裾にこだまが響きわたる。
「な、なんですの!?」
 ラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)がよくわからない急制動に抗議した。とはいえその手つきはスムーズで、急な要求にも穏やかにイコンを止めてみせた。きっと紙コップの水もこぼれないなめらかさだが、それを感嘆する暇はなかった。
「足元に動物がいたんですよ」
「あら、危ないところでしたわね」
 工事の間、大きなイコンに住処を追われた動物が山へ向かって離れていくのを見かけた。そういった生き物達が、時々逃げ遅れたか、好奇心かで寄って来るのだ。
 ラグナはへっぴり腰でアーマイゼを降り、足元で腰を抜かした小狐に似た生き物を抱き上げて、ここには近づくなといい含めているらしい佑也の様子を眺めている。
「イコンのレーダーも計器を読むのもまだまだのくせに、あんな小さいものを見分けられるなんて…」
 戻ってきた佑也は、自分のスペースに積み上げているマニュアルを押しやってシートに座る。
「まだマニュアル読めていませんの?」
「読んでますよ、だからあまり期待しないでって言ったじゃないですか」
 要するに、彼はイコンに関して自信がぜんぜんないのである。イコンに乗り始め、レールの敷設に関わるようになってから、何日経っているというのだろう。
「じゃあ、練習ですから、ここの杭を正しく打ち込んでいきましょうか」
「ええっ、無理ですよ!」
 彼の悲鳴をラグナは聞かないふりをした。測量データを丁寧に打ち込んだのは彼であり、そっちに関してはラグナよりもよく理解しているはずである。
 おまけに今回は、戦闘には赴かないということで、アーマイゼから武装の類は外してペイロードを増やすコンテナを積んでいるだけだ。火気管制もいらないし、戦闘用のマニューバも言わずもがな、ただ正確な機動ができさえすればいいのだ。彼にはスパルタが一番いいだろう、目は悪くないのだし。ラグナはその点は不安には思わない。
「さぁさぁ、杭を打ち込み終わったら次はコンクリート板をありったけ敷いていくんですから、早くしましょう」
 先ほどまでラグナがメインでやっていた作業を、コントロールを渡して佑也が引き継いだ。
「あ、危なくなったら助けてくださいよ!?」
 何だかんだいいながら、祐也は一度関わったからには、最後までやり遂げるつもりでいる。おっかなびっくりの操作を補助しながら、着々と作業を進める。ほかに何人も作業に携わる人間はいるとはいえ、レールの敷設は膨大な作業量になる。嫌が応にもイコンの操縦に習熟してくれるだろう。
「我が「オーランド修理工房」の有望な働き手予定なのですから、頑張っていただきますよ」
 アーマイゼの装甲にペイントされた「オーランド修理工房」のロゴが、日光に照らされて浮かび上がった。
「資材はまだまだ積んであります、一気にどんどん進めていきますよ!」

「おおい、ここからはどうすればいい?」
 ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が、今までの作業が一段落ついて次を待った。現在いるこのポイントの先は、事前の打ち合わせで多少工法を変えるか、工程を追加しなければならないと目された場所だった。実際に現地にたどり着いてから、過程を決める必要のある場所なのだ。
 手足をぐんと伸ばして、満足げに成果を眺めてがりがりと首の後ろを掻いた。これまでにじっくりと敷いてきた山裾を大きく迂回するルートを眺め渡す。イコンが大きな作業をし、ゴルガイスがドラゴンアーツを駆使してイコンでは不可能な細かな作業を行ってきた。平野とは少し勝手が違い、地理的に精密を規すために、イコンとドラゴニュートの怪力という組み合わせはよいバランスだった。
「だそうだ。次は何だゴルガイス」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の操るシュヴァルツアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)を促した。
「ええと、次はデータによると傾斜を埋める必要があるとのこと…」
「だから、どうすればいいかを教えてくれと言っているんだよ」
 わたわたと測量データを展開するが、経験の差でそこからより多くを読みとれるのは間違いなくアウレウスの方なのだ。アウレウスに指示を出してもらうほうがはるかに効率がいいのだ。
「…おお畏れ多いです主!」
「おい、何故そんなに縮こまるんだ。レールをいい加減に作って事故を起こすわけにはいかないんだ、しっかり指示を出せアウレウス」
「主に指示を出すなどそのような……!」
「お前の言う通りにすると言ってるんだ、お前が行けというなら右でも左でも上でも下でも、なんだってするから、さっさとしろ」
「えっ…(言う通りにする……。主が、俺の言う通りに……)…はっ!」
 アウレウスがナニを考えたのかは知らねども、彼はそれをなんとか振り払って測量データを土木建築の知識に即して計算していく。
「お前の土木作業のスキル、この機会に存分に生かさないとな」
 アウレウスの計算を待つ間、グラキエスはヴァイシャリーの方へ通信をつないで進捗をチェックし、進行を報告した。
 他にレールにかかわるものは幾人もいる、彼らはそれぞれ範囲を分け合って、ヴァイシャリー側から、ヒラニプラ側からレールを敷き、はたまたそれらのために山裾を拓き、資材を運搬している。
「今のうちに資材の追加を申請しておくが、必要だろう?」
「ああ主…、お手を煩わせて申し訳ない…」
 彼の萎縮などもう慣れた、グラキエスは手早く連絡を入れ、何時頃届けられるか、落ち合う場所を確認して全体の進捗を見通した。
 平野が多いヴァイシャリー側と比べ、ヒラニプラ側の敷設スピードはどうしても何割か落ちてしまうようだ。しかしここで無理にスピードを優先してはならないだろう。より確実な安全を念頭に入れた作業を誓った。しかし、手のかかるヒラニプラ側の総量は平野部よりずっと少ないと言えるのが幸いだ。出来ることなら一刻も早く平野部を手伝いに行きたい。
「ああもう、次の指示はまだなのか?」
 さて下ではゴルガイスが放っておかれてぶつくさと文句を垂れていた。しかもヤンキー座りだ、グラキエスとアウレウスの馬鹿馬鹿しいやりとりにうんざりして、多少不貞腐れていたのである。
 作業が段階を踏んでクリアされ、次の作業に移るたびにこのやりとりが繰り返される。
「しかし……アウレウスの奴め、何故作業の指示一つであれほど恐縮しているのだ…」
 いい加減割り切ることを覚えればよかろうに、まったく、主至上主義も行き過ぎると困ったものである。