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リアクション
「お話中悪いんですけど、私からも要望があります!」
綾乃は片手を上げ、ラズィーヤに顔を向ける。
「駅に費用をかけすぎると、運賃の値上がりの原因になるじゃないでしょうか?」
「かといって、あまりにも美しくないのは問題ですわ。それに、費用がかけたとしても、お客さんに負担かけるつもりもありませんのよ」
「えっ、でも…。運営していくための費用を確保するためには、いきなり安くするのは危険なんじゃないんですか」
見た目にも一切妥協しないという彼女に綾乃が目を丸くする。
「客を引きこむためには、見栄えも重視するものですの。料金は後々考えさせていただくとして…、通常の席まで高くするのはどうかと思いますわ」
さすがラズィーヤといったところだろうか、客の負担のこともすでに考えているようだ。
「乗客を増やすなら、気軽に乗れる値段にするものですわ。初乗りから下車駅までの区間ごとに、料金をいただく感じにすれば問題ありませんわね」
「長距離っていう点もありますし、その方がいいですね」
小さな電車も長距離バスでもよくある設定だが、効率よく利益を得るためにはその方法もよさそうだと頷く。
「それで駅舎のお店についてもちょっと提案が…。ヴァイシャリー市内の有名店に、駅中へのテナント出店を打診してくれませんか?」
「―…収益の配分のこともありますし、少し時間がかかってしまいますわね」
「向こう側と相談しなければいけないですからね…」
運営費用をどれだけ稼げるか…というのもあり、すぐに見つけるのは無理と言われてしまう。
「出店希望の方を、これから募集していこうと考えてますの」
「声をかけてもらった方が、こっちの意見も通りやすい利点もありますね。あ、あと、駅の改札口はICカード乗車券「Naraca」対応にするのも忘れずにお願いします!」
「Naraca…?どうしてそれが必要なんですの?」
「パラミタを横断する計画ですし、スムーズに通れるようにですね」
「徒歩か乗り物などで移動して、別の列車に乗り換えてもらうしかありませんわ」
特別な列車でなければ、そこへは行けないからと乗り換え乗車について言う。
「ともあれ危険そうな場所は好みませんし、計画の中には入れてないんですの。ゆっくりと楽しめる旅がコンセプトですもの」
「なるほど…そうなんですね」
「ですから、ICカード乗車券の対応はしなくても大丈夫ですのよ。後、駅舎にお店を造るなら、それなりの人手が必要になりますわ。それを考えると、店の担当が減ってしまってオープンも遅れてしまいますわ」
ただでさえ工程が山済みなのだから、作業が進まなくなってしまう。
それではいつまでたっても、遠くの町へ出かけられないのだ。
「あれこれ考えていると、駅舎の完成も困難になってしまうってことですか…」
「えぇ…。皆さんにも負担がかかってしまいますもの」
「作業が増えてしまうと大変というか、体調管理のことも考えなきゃけいないんですね!なんだか建築って大変なお仕事のように思えます…」
建物の建設とは想像していた以上に過酷な労働なのか…と思い、店の建設は次ぎの機会を待つことにした。
「先に提案した祥子たちと、皆の意見をまとめるとするか」
もう他にアイデアはないな?とフロア内にいる者たちの顔を順番に見ると、静麻は意見を表にまとめる。
「ヒパティア、気に入ったアイデアがあったら言ってね」
コンピュータの画面に映されたAIの少女に、戻ってきた祥子が話しかける。
おそらく黙ったままのヒパティアのことが気になったのだろう。
ちゃんと意見が言えるか心配になり、見に来たのだ。
「それは、私が決めていいことなんでしょうか?」
1人で決めてよいものなのか、分からない…と困り顔になる。
「ううん、本来は担当する人たちと相談するものだよ」
それが何を意味しているのか理解したフューラが言う。
「ヒパティアは皆とアイデアをまとめたいみたいです」
「分かったわ。一緒に考えましょう」
小さな声音で言う彼女に祥子が微笑みかけ、予想図を描こうと用紙をテーブルに広げる。
「屋根の色は3案出てるけど、どれがいい?」
「水色の屋根…、空にもヴァイシャリーの湖みたいな色にも見えますね…」
「水の都っていうイメージにもピッタリかもね。この色…好きなの?」
「たぶん…この感情は好きなんだと思います」
「私はいいと思うけど、皆はどう?」
「ライブの話も出たことだし、この方がいいかもな」
ラブが描いたステージの絵とリヨン駅の概観をプリントした用紙を、エースが寄せて合わせてみる。
どっちの要素も活かせているな、と他の皆も頷いた。
「このまま基礎工事を進めるわけにもいかなそうだから。私もここで聞かせてもらうわ」
明確な範囲を決定せずに行うわけにわね…と、祥子はソファーにポフッと座る。
「屋根の色も決まったわけだし、とりあえず皆のアイデアを3Dにしてみてくれないかな」
「はい。少し待ってください」
エースにそう頼まれたヒパティアは、ポリゴンを作りネットから見つけた表面材質を設定する。
正面だけでなく側面などが見えるように立体映像化し、スクリーンにそれを映した。
大きな時計台の隣には駅舎があり、その正面にはちょっとしたコテージのような待合室がある。
終電を逃したり始発待ちとして寝泊りも出来そうな感じだ。
中央の噴水が見えるように壁が造られていない。
駅舎の近くには屋根つきの大きなステージが置かれている。
「この人数で何日くらいで完成出来るか、予想日数も教えてもらっとくか。あっ、店を造る部分は省いてね」
「―……」
ヒパティアはまた黙ったまま、完成までにかかる日にちを計算する。
―…………。
「完成日数が半年以上、必要になります」
「えぇーっ!?そんなにかかるのか!」
「人数と…身体の疲労感がないように、計算したのですけど」
「うーん、困ったな…」
店の内装工事を省いてもらっても、この人数ではエースが考えている規模は難しそうだ。
「レールの完成や列車の工事などの、進行度合いに合わせること考えるなら。百貨店っぽいのは厳しいみたいだよ」
「ここで妥協するのもな…」
メシエの言葉にどうしたらいいものかと、エースは悩んでしまう。
「建築って過酷な体力仕事だからな。そうだな…2階建にしてみるのはどうだ?」
「あまり高い建物は似合わないし、それでいくか」
土木建築の特技があっても、作業人数を考えるとあまり無理も出来なそうだ、と言う静麻に頷く。
「それと百貨店よりも少し小さくしたほうがいいんじゃないか?」
「まぁ…、駅だけ作業を遅らせるわけにもいかいからな」
「うん、予算のこともあるからね」
「そうだよな、メシエ。後々のことも考えると、ここで50万G以上かけるのはマズイか」
「大まかなイメージは決まったようだから、そろそろ図面に起こしてみよう」
静麻はテーブルに大きな用紙を乗せ、駅舎や待合室、ライブ会場を設置する範囲の枠をペンを手にL字のスケールで描く。
「待合室って外と中、どっちにするんだ?」
「祥子ちゃんが言うように、水の都を意識するなら外がいいです☆」
「オッケー、外だな…」
「噴水の近くに浄水ポンプを設置もしますよ。その水を循環させて使います。アダマンタイトの加工をする時に使った道具を応用すれば、可能だと思いますよ☆」
大量の水を使用する上に、汚れたそれをどこかに捨てるわけにもいかない、と詩穂が言う。
「それを元に造るってことか。他に設置したいものはないか?」
「外っていうんじゃないけど、循環浄水システムを駅舎内にも欲しいな」
処理に困らないように中の要望も言っておこうと、エースは要望を用紙に書いて設計担当の静麻に渡す。
その頃、椎名 真(しいな・まこと)はタイムウォーカーに乗り、駅の予定地となる風景をマッピングしている。
「キレイな湖の近くに出来るんだよなぁ…。停車駅としての建物だけなのかな?」
ここにどんな建物が建つのか想像つかないという様子で地上を見下ろす。
「何か草が1本も生えていない箇所があるけど、すでに工事が始まってるとか…?」
「祥子ねーちゃんがイコンでぶちぶちーって草むしりして、ヴァイシャリーの別邸にもどったよぉー」
「えっ、何時頃?」
作業してること見たよぅ、という彼方 蒼(かなた・そう)にいつ始まったのか聞く。
「うーん…だーいぶ前かなぁ?」
「何か確認でもしにいったのかな?それはそうと、駅といったらやっぱ駅弁とかあったりしそうだなぁ。誰かすでに考えていたりして…」
「てーあんしてる人いなかったら、にーちゃんつくってー!」
蒼も駅弁は必要!とまん丸の目で彼を見上げる。
「ん〜…誰もいなかったらだね」
「おみやげも〜」
「名産品を考えるってこと?」
「うん!今あるのもいいけど、新しく思いついたのもおいてみたーいっ」
にーちゃんなら思いついてくれるぅ〜!と、わんこは期待満ちた様子で瞳を輝かせる。
「ラズィーヤさんや静香さんがいるし。他の皆の意見も聞いてからだなぁ。いいアイデアが集まらなかったら、その時は…まぁ、何か考えるか」
今後の予定の相談やらで忙しそうなら、俺が提案してみるかー…というふうに言う。
「その話はひとまず後で考えることにして…。まずはマッピングを済ませないとな。うーん…平地が多いから木を退かす作業とかなさそうだな」
「じゃあ映像にまとめて持っていこー!」
「もう駅舎について話もまとまっていそうだから、タイムウォーカーで編集しながらいったん戻ろうか」
ノートパソコンにデータを取り込み、ソフトでムービーに編集作業を始める。
フルスピードで戻るとヴァイシャリーの別邸では、静麻が設計し始めようとしている。
「キレイにしたらアーチの植物の水やりにでも使えそうだな。ひとまず基礎工事分の図面を引くから1時間くらい待ってくれ」
建築ソフトを起動すると、映像データをディスクに入れてきた真が駆け寄ってきた。
「あれっ、もしかしてもう必要ないかな?」
「いや、あったほうが分かりやすいな。ありがとう」
隣のPCに現場の様子を映した映像を元に、建物の面積の枠を建築ソフトで描き、それに幅や土を掘る深さなどの寸法をつける。
枠の中を色づけし、そこに矢印をつけて何の素材を使用するか書き込む。
「それが終わったら材料を発注する感じなの?」
「皆が話している間に、必要な量を想定して発注しておいたから。そろそろ現場に届くはずだ、祥子」
「基礎以外も1人でやるの?」
「設計担当を増やして現場の方が遅れると困るからな。まぁ、頑張ってみるよ」
土台部分をプリンターで印刷しつつ、大変だけど1人でやるさ、と言う。
「全部終わってから俺も現場に行くけど、何か分からないところがあったらネット電話で連絡してくれ」
「草の除去作業だけは終わってるから、インドラでその場所を掘り始めていいかしら?」
「あぁ、先に作業を始めてていてくれ」
「了解よ」
静麻に図面をもらうと祥子はイコンに乗り、駅の予定地へ向かった。
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