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リアクション
眠れる彼女が見たものは。
からりと晴れた秋の空。
うららかな陽気に誘われて昼寝してしまうこともあるだろう。
「それでね、まほうしょうじょは……あれ?」
メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が眠っていることにクロエ・レイス(くろえ・れいす)が気付いたのは、ケーキを焼く準備が終える頃だった。
彼女がリンス・レイス(りんす・れいす)を尋ねて来たのは少し前。運悪く入れ違いに出かけてしまったリンスが帰ってくるまでのつなぎに、と最近起こった話をしていたのだけれど。
「おつかれさまなのね」
それとも魔法少女の話は退屈だったのかしらと少し申し訳なく思いつつ、クロエはブランケットを持ってきてメティスの肩にかけてやった。
「メティスおねぇちゃん、たのしそうなおかお」
いったいどんな夢を見ているのだろう?
目を覚ましたら訊いてみようか。
*...***...*
ここは空京。
パラミタ大陸の玄関口と呼ばれるこの街では、様々なイベントが行われる。
今、小高い丘の上にある展示場で行われているのは、『世界の人形展』。
世界に名だたる人形師が作った作品が並ぶ中には当然、リンスの作ったものもあった。
そして、こういったイベントには大抵作り手も呼ばれるものである。もちろん、引きこもりと噂されるリンスとて例外ではない。
「あまり興味ないんだけどね」
と言いつつしっかり来てくれるあたり、律儀なものである。
しかしこうしてイレギュラーな日常にはイレギュラーな事態が待ち受けていることがお約束。
「ハーッハッハッハ!」
悪役じみた笑い声が轟き、警備員の視線が一点に集中した。展示会場二階の手すり。この会場内で人が立てそうな場所で、一番高いところである。
「何者だ!」
「俺の名はレン・オズワルド(れん・おずわるど)! そこの人形師と、奴の作品である『幻のフランス人形』をいただくぜ!」
手すりの上で危うくもポーズを決めたレンが、ホールに飛び移る。そしてそのままぽかんとしているリンスを抱き寄せ、全力疾走。
ちなみに、作り手がわかっているのになぜ『幻の』と称されているのかは、作り手であるリンス本人にもわからないことである。
「ま、待てー!」
あまりの急展開に硬直していた警備員が動き出した。が、それより早くレンは人形を用意したバッグに入れて、逃げる。
「何するつもりでいるの、あんたは」
「フハハハハ! 知りたいか! 俺はこのフランス人形をネットオークションで転売して金持ちになってやるんだぜ!」
「へえ……なんていうか、……うん、頑張れ」
リンスの視線は非常に温いものであったが、生憎サングラスをかけたレンにはその温度差が伝わらなかったようだ。「言われなくともやってやるぜ」と、やる気満々の答えが返ってきた。
「お前はこれから毎日俺の許で人形を作るんだぜ。さあ、乗れ!」
会場近くに停めた車にリンスを押し込もうとした瞬間、
「待ちなさいッ!」
凛とした声が響いた。
「誰だっ!」
追っ手か、とレンは振り返る。
振り返った先に居たのは、アイアンメイデン――通称アッちゃん――をお供に引き連れた金髪碧眼の美少女。
「誰だと聞かれりゃ答えやらねえこともねぇ」
アッちゃんが小粋な江戸っ子口調で喋りだした。西洋の見た目に東洋の口調、というのはいささか違和感が強いのだが細かいところを気にする間もなく、
「私の名前は『魔法少女アイアン・メティス』――改め、『マジカル・メティス』!」
びしりとポーズを決めてメティスが名乗ったものだから、レンの慌てようといったら尋常ではない。
何せ相手は魔法少女である。一筋縄ではいかないだろうl。
「そんな奴が現れるなんて聞いてないぜ!」
畜生、と悪態づいて運転席に乗り込むレン。それでもリンスを車に押し込んでいるあたり、やるべきことはやるちゃっかり者のようだ。
「アッちゃん!」
「おうともさ!」
アイコンタクトを取った魔法少女は、攻勢に転じる。
まずはいつものように悪党の足を止めるためにアッちゃんを振り回し――
「いや待てメティス、今日は人質が――」
「あっ」
気付いたときにはすでに遅く。
アッちゃんは、メティスの正確な攻撃に拠って車に命中。
しかし尻を叩かれた形になった車は止まるどころか加速し、ガードレールを突き破って丘の上から落ちていく。
「リ、リンスさん……っ!」
やってはいけないことをやってしまった。
その場にがくりと膝をついたメティスの耳に届いたのは、「フハハハハ!」という高笑い。
「こんなこともあろうかと! 陸空両用機に変えておいて正解だったぜ!」
そして、目に映ったのは空を飛ぶ車。
「よかった……! 無事でした! ほらアッちゃん、見てください!」
「ガードレール突き破った時点で明らかに無事じゃないけどね」
冷静なリンスの突っ込みも聞こえてくる。なにはともあれ大丈夫のようだ。
「メティス、喜ぶことも反省することも後回しにしろィ! チンピラ・レンを追うぞ! 見失っちまう!」
「はい!」
果たして彼女は無事にリンスを助けることが出来るのか。
この夢の結末は、彼女しか知らない。
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