百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

嘆きの石

リアクション公開中!

嘆きの石

リアクション

「もはや、対話ではどうしようもない。不可能だ」
 佐野 和輝(さの・かずき)が口を開いた。
 和輝もまた、可能ならば対話での解決を図りたかった1人だった。
「それじゃ、ここに今残ってる面子は、全員石の破壊で意見は一致ね?」
「破壊で解決すればいいのですが、俺達もこの瘴気の中、そろそろ限界でしょう」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の言葉に御凪 真人(みなぎ・まこと)が言った。
 確かに、そう言って手を挙げた真人は若干小刻みに震えていた。
 むしろ今まで事の顛末を見守り自重した契約者は、よく我慢した方だろう。
「あの衝撃波が曲者だ。手練れの契約者でさえ、あの始末」
「……ねぇねぇ」
 アニス・パラス(あにす・ぱらす)が和輝の服の裾を引っ張った。
「ならここは、あたしの銃の出番だわ」
「ちょっと、セレン……」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、指先でセレンフィリティを突いた。
 この限られた時間の中で冷静に対処しようと語りかける和輝に、セレンフィリティはライフルを構えて見せた。
「なら俺は召喚獣で畳み掛けます」
「真人……真人……」
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が、真人の肩を叩いた。
 契約者3人の話し合いにそれぞれのパートナーがチャチャをいれる形に、それぞれが――何です――と言葉だけで返した。
 話し合いの最中3人とも誰も石を見てではなく、お互いの顔を見ながらであったために、気付けなかった。
「冷静に作戦会議をしているところ悪いんだけど、出来れば今すぐに、石を見て欲しいわ」
 スノー・クライム(すのー・くらいむ)が全員に話しかけ、ようやく3人は一斉に石を見た。
 それは、非常にわかりやすい構図となった。

 ――うんざりだッ。綺麗事ばかり抜かす貴様らは、うんざりだッ!

 フィリナの石が、頭の中に直接響いた。
 低く、暗く、腹の底から叫んでるとも、吐き捨てるようにも聞こえた。
「……そうか。なら無理矢理でも俺が送ってやるよ……。ラティオにも会えない地の獄へ」
「怒り心頭でカンカンになって、ヤカンみたいにピーピーうるさくなったわね」
「状況は悪いですが、逆に俺達としては戦いやすくなりましたね」
 フィリナが放つ瘴気が石の頭上に集い、人型を成し具現化した。
 戦いたくはなかった。
 出来れば救いたかった。
 だが、こうなってしまえば、誰かが解き放たねばならない。
 それがどういう結末であれ――。
 これが、最後の戦い。
 とてもわかりやすい、ラストバトルの構図。
「む〜っ、分からず屋のフィリナに、皆でお仕置きだも〜ん!」
 全員がもはや瘴気に冒されかけ、長く戦えない身体であるのは、アニス自身も感じていた。
 ならばせめて、一太刀に全ての力を注ぎこめるよう、仲間全てに清浄化を唱えた。
「無茶ばかりして……。仕方ないから、しっかり暴れてきなさい。こっちはしっかり守ってあげるから」
 スノーがオートガードとオートバリアを味方全員に展開した。
 誰でもそうだ。
 スノーもそうだ。
 パートナーにもしものことがあれば、皆が平常心ではいられなくなる。
 他の誰かが見たら、妬けるくらいに、平常心でいられなくなる。
「私達にできることは、これ以上、理不尽な悲しみを拡大させない事だわ。……これはこれで、どうしようもなく理不尽だけど」
「それでも、私達が道を切り拓く役目よ。何とかなる、何とかするのが契約者だものッ」
 セレアナは槍を構え、セルファは皆にゴッドスピードを掛けてから同じく槍を構えた。

 ――ここから、いなくなれェッ!

 巨大化した瘴気の腕が更に大きく、伸びた。
 ジュウウッ――!
 その瘴気の腕が大樹に突き刺さり、腐敗させながら、全てを薙ぎ払うように振るわれた。
「伏せるのよッ!」
「にゃは〜ッ!?」
 スノーに地面に叩きつけるように抑えられ、アニマは攻撃を避け、残りの面子は一斉にその一撃を避けながら散った。

 ――ああああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!

 フィリナの2撃目は、もう片方の腕のラリアットだった。
 ――ハアアアアアッ!
 セレアナとセルファが息を合わせ、その腕――瘴気の集合体を霧散させようと槍を振るった。

 ――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!

 何度も何度も、霧散と結合を繰り返すその腕に斬り付け、攻撃を送られると同時に、注意を引きつけた。
 その隙に、大樹の壁を蹴り上げ速度を増し、具現化したフィリナの上半身部分に和輝が突撃した。
 二丁銃による射撃が、瘴気の身体に穴を開けた。
「復讐すべき相手は、もう居ない。ここで奴等の子孫を不幸にしても、何も得られないばかりか、大切なものを失っていくばかりだ。それくらい、わかるだろうにッ」
 ひたすらの連射が少しずつ風穴を広げる――。
 そこは丁度、瘴気の身体と石の頂点の境界線で、瘴気の身体の中に入ることを承知で、和輝は蟲で強化したレガースを付けた足で、ハイキックの軌道から蹴り落とすように脚を振り下ろした。
 瘴気が再び集うまで、何度でもして見せる。
 一発、二発、三発――。
 しかし、瘴気の身体の修復はやはり速い。
 だが、その身体の結合は防がれた。
「同情はします。しかし、怨みを今を生きる人に向けるのは、お門違いですよ」
 真人が召喚したサンダーバードとフェニックスが、和輝を守るようにその身を呈していた。
 それでも召喚獣が呑まれ、修復の速度に追いつけないと見るや、残りの力を全てサンダーブラストの連射に託した。
 腕、肩、頭部――。
 どこでも構わず、修復の拡散による時間の遅延を狙い続けた。
「最後の一撃です、割りますよ」
 その真人の宣言に、和輝がその場を離れた。
 それと同時にサンダーバートとフェニックスが呑まれたが、構わない。
 今までで最も魔力がこもった落雷が、瘴気の頭の頭上から石まで走った。
 宣言通り、真っ二つに割れた。
「人間を化け物に変えるのも人間……ましてそれが、理不尽な悲しみの果てなのだから。正直、素面じゃやってられないわ」
 味方に危害が及ばぬように配慮しながら、しかしながら全力でセレンフィリティは放電実験を放った。
 もはやこの空間全て――電界。
 瘴気にまで電気が走り、所々バチバチと火花を散らすのが見えた。
「悪いけれど、あたしの弾は、フィリナ――あんたが後悔するよりも速いわよッ!」
 ライフルを構え――ライトニングウェポン――引き金を引いた。
 その弾丸は石に命中するや、石から瘴気へ一気に火花を散らし、爆発した。
 瘴気が全て石の中――フィリナへ収束されていく。
 ――やったっ!?
 否。
 一拍の静寂ののち、今までと比較にならない衝撃波が放たれ、全ての契約者が地に伏せた。