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嘆きの石

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嘆きの石

リアクション

「ふ、ふふ、素晴らしい……素晴らしいですよ、嘆きの石――いや、フィリナさんッ!」
 フィリナはあれで力を使い果たした。
 それを知ってか知らずか、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は石に近づき、まるで神を崇めるかのように跪き、石を触り、抱いた。
「その身を堕として得た力、まさしく負の化身……。ふ、ふふ……愛おしい。研究どころではありません。貴方の力は私が上手に使って差し上げます」
「ふ、ふざけるなッ!」
 エッツェルと同じく、最後の攻防をトンネルの中で見届けた木本 和輝(きもと・ともき)が言った。
「これ以上フィリナさんを利用するな! お前まで過去の村人のように、フィリナさんを利用するなッ!」
「ククッ、主公の邪魔は……許しません、よ?」
 ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)がエッツェルの前に立った。
「いくらでも邪魔してやるさッ! 守ってもらうだけ守ってもらって、ラティオを殺した村人は許せないし、暗殺のためにフィリナを利用したのも許せない
そんな奴らの子孫もみんな死ねばいい。俺だってそう思ってる。でも、そいつらのせいで、フィリナさんが憎しみに囚われ続けるのは、気に食わない! だから彼女には正気に戻れなくとも、せめて、せめてこれ以上その手を汚して欲しくないんだ。それを邪魔する人には容赦しないッ」
「……消しなさい」
「邪魔モノ、ヲ、排除シマス」
 アーマード レッド(あーまーど・れっど)がガトリング砲を連射した。
 しかし、それが和輝に命中することはなかった。
 和輝の目の前が突然の落雷で抉られ、舞い上がった木片が弾を全て受け止めた。
「良い事を言います」
 和輝を守ったその一撃はレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)だった。
「正直、ワタシは今の戦いを見、浄化も破壊も全てが不可能に感じるほどの無力感を覚えました。ワタシにはどうしようもありません。しかし、そのフィリナさんの力を悪用しようとする者がいるならば、そちらに全力を尽くさねばなりません。ワタシもお手伝いしましょう」
「あたしも全力で行かせてもらおうかね」
「う〜! がんばって姐さんの役に立つもん! 姐さんの背中はあたいが守るんだ〜!」
 レイナのパートナーウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)ガルム アルハ(がるむ・あるは)も戦う意志を示した。
「……一気に冷めました。邪魔モノは嫌いです」
 バチンッ――!
 エッツェルが鞭を振るったのが、開戦の合図だった。
「邪魔モノ、ハ、排除シマス」
 レッドは機体を振りながら、多方向へ誘導ミサイルと連装ロケットを全弾発射した。
「俺が親玉っぽいのをやるよ! 残りの2人は頼む!」
「わかりました。ご武運を――ッ。散りますよ、ウルさん、アルハさん」
「了解だぜ」
「う! 姐さんについて行くから任せてよ!」
 散った3人とは対照的に、和輝は動かず鬼神力を使った。
 ドオオンッ――!
 誘導ミサイルが和輝の足元を直撃した。
「……ふむ」
 その煙から姿を現したのは、牛頭鬼に姿を変えた和輝だった。
「お前らは彼女を何だと思ってるんだよ! 彼女をこんな風にしたのは誰だ!? 彼女は悪くないだろ? 彼女を利用したり傷つけるなんて許さないッ」
 フラワシの1つを使って狂化の咆哮をあげ、もう1つのフラワシを使い、十の尾を生みだした。
「面白い事をしますね。ふふふ、きなさい……」

「姐さんはあたいが守るって、言ったもんねッ!」
 一発だけレイナに迫ってきたロケットをアルハはガントレットと歴戦の防御術を駆使して、身を呈して受け止めた。
「う! ひ! 痛い、けーど、守ったもんね!」
「ありがとう、アルハさん。では、次はこちらの番です」
 レイナは敵をレッドに定め、遠距離攻撃には遠距離攻撃で――歴戦の魔術を駆使し、魔弾を連射して放った。
 しかしレッドはダッシュローラーとブースターを駆使し、見かけ以上の素早さを披露し、そのまま高速移動しながらガトリング砲で牽制してきた。
「ククク、ここは我が、戦いやすい戦場……」
 周囲の瘴気と自らの瘴気を混ぜ合わせ、巨大な瘴気の龍を作ると、ネームレスはその背に乗った。
 その機動力を生かし、すかさず衝角で体当たりを仕掛けてきたが、身軽なウルフィオナは壁を走って見せた。
 そのまま神速で背後に回り、ネームレスが乗る龍の背に後ろから飛び乗り、その場で近接戦闘を仕掛けた。
 2本のククリで斬撃を繰り出すのだが、ネームレスはそれで巨大な斧で受け止め、振り払った。

「ふふ……バレバレですよ」
 和輝は尾を鞭のように使い連続攻撃を仕掛けるのだが、エッツェルも全ての攻撃に対応し、その一本の一撃が絡み合った。
「――ッ、アッ!」
 尾を引き寄せると吸血し、その尾を噛み千切った。
「まだあと9本もあるのですか……面倒ですね」
 氷雪比翼で飛び上がると、上空のエッツェル伸びた9本の尾をブリザードで凍らせた。
 これで使い物になりませんね――と軽い勝利宣言をしようとしたとき、和輝は自らの尾を火術で溶かし、少し火傷を負いながらも、再び攻撃を続けた。
「ふむ、やりますね……。ではもう少し、強力な技でお相手しましょう」
 更に高度を上げたエッツェルを和輝の尾は追おうとするのだが、どうも動きが鈍い。
 それは火傷の影響も含めて、エッツェルから放たれる瘴気が原因だった。
「奈落よりも深きモノ、冥府の闇より暗きモノ、大いなる海原に封じられしモノ……古き深淵の盟主よ!!」
 動きが鈍った和輝にエッツェルは奥の手を使った。
 凄まじいまでの冷気を含んだ闇黒の嵐に巻き込まれ、鬼神化は解け、その場に倒れ込んだ。
 しかし、エッツェルにも負担は大きく、すぐさま地面に着地すると、片膝をついて荒い呼吸を整えようと試みていた。

「こちらも切り札を使いましょう」
 レイナはスカイフィッシュの魔力を解放し、その力を最大限に使った天のいかづちを放った。
 それに呼応するように、龍の背で近接戦闘を繰り広げていたウルフィオナは軽身功で上空へと飛び立ち、一本のククリに轟雷閃を纏わせ、更に重ねるようにレイナの天のいかづちを受けた。
「さぁてと、そろそろ本気だしとこうかね……? これがあたしらの本気の一撃だぜ!」
 狙いは――力を使い果たしたエッツェル!
「エッツェル様――」
「主公ッ!」
 レッドとネームレスがすかさずエッツェルに近寄る。
「やってしまいなさい、ウルさん」
 力を使い果たし倒れ込んだレイナが呟くと、ウルフフィオナがククリを投擲した。
 その一撃こそまさしく――天のいかづち。
 先のフィリナとの一戦の影響もあり威力も増した雷攻撃だが、それは――仕留めるに至らなかった。
「悪あがきは美しくない、大人しく引き下がりましょう。皆さんに彼女の悲しみを解いてあげられますかな?」
 ネームレスを抱き翼を広げたエッツェルは、レッドと共にトンネルへ向かい、そのまま逃走したのだった。