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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

リアクション


第7章

 結局……
 大会の優勝者は、ジャンゴということになった。
 これは、契約者たちがサンダラーとの戦いで精神力や集中力を使い果たしたことにくわえ、ジャンゴに着いた契約者たちが夕方まで身を休め、大会に復帰したことによる。
 腕と意気を併せ持ったローザマリアも、作戦を使い果たした上で、十人以上の無法者と同時に彼らを相手取ることは無理だ、と判断したのだ。
 ジャンゴが望んだのはダウンタウンの再建に町が資金を提供することであった。とはいえ、ジャンゴの目的である、自分たちの強さと存在を主張することは優勝の時点で達成されているので、願いは聞こえの良いものを選んだだけとも取れる。
 ルメンザによれば、
「優勝できたのは自分等のファミリーのおかげっちゅうことを、忘れるな」
 とのことで、まだ町には抗争の火種が残されていると言える。



 保安官事務所……の、すぐ裏に作られたブラゼル・レンジャーズ事務所。
「と、いうことで。私たちは保安官とは別に警備を行う権利を得たわ。ただし、捕まえた後は司法官に引き渡すことしかできないのだけど」
 ローザマリアは、市長から渡された書面の内容を確認して言った。
「はわ……それって、なんだか微妙じゃないー?」
 と、エリシュカ。
「よそ者がそれだけの待遇を得られただけでも、十分でしょう」
 エシクが答える。グロリアーナも頷き、
「とにかく、町と市民を守ることはできるわけだ」
 その背後では、受付と貸したリアトリス・ブルーウォーターが、通り掛かった相沢 洋に声をかけている。
「大会では大健闘だったね、ブラゼル・レンジャーズに入らない?」
「いや、私は教導団員でだな……」
 困ったように洋が首を振っている。そんな姿を見ながら、とりあえずパトロールに向かおう、とローザマリアは決めた。



「お前さんたちの協力のおかげだ。好きなだけ飲んでくれ!」
 葉巻をくわえた“有情の”ジャンゴは、瓶の中のいかにもきつそうな酒を飲み干して豪快に笑った。
「思い切った作戦と大胆な行動のおかげだな」
 にやりと国頭 武尊が口元を吊り上げた。
「ボクの言った通りさ。悪党面するよりも、みんなのためを考えてるってフリを見せれば、悪党だって市民のヒーロー扱いされるんだ」
 自慢げにブルタ・バルチャが体を揺らして笑ってみせている。
「サンダラーをあそこまで痛めつけたのは俺様だからな。やつをあそこで一時的にでも倒しておかなきゃ、今頃どうなってたか分からないぜ」
 自分の働きを確実に抑えておこう、とゲドー・ジャドウがアピールしている。
「それより、約束はどうなるんだ? 調査隊がもう、大いなるものについてあらかたの調査を終えちまったぜ」
 若松 未散が不機嫌そうに聞く。ジャンゴは眉を跳ねさせ、
「確かにそうだな。これじゃあ、借りっぱなしだ。……何、また何か問題が起きたら俺様を頼ってくれよ。お前たちのおかげで、俺様はここで一番の有力者になったからな」
 そして、ジャンゴは何度目かの乾杯の音頭を取った。



「ヒーーーヤッッハー!」
 大空に向けて、高らかな叫び声が響く。
「この景色を見て悲しいと思うか!?」
 マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)は、がれきと化したダウンタウンで叫んだ。
「お前たちには開拓精神が残ってないのか? いいか、俺のような真のアメリカンならこう思う……この土地は俺たちのものだ! これから開拓され、俺たちのものになるんだ!」
 両手を高く振り上げるマイト。
「お、おお! 家ぐらい、すぐに立て直してやらぁ!」
「俺たちの土地だぞ、バカやロー!」
 その勢いと熱量に、意気を失っていた市民たちにも、どこか活気が戻って来たようだ。
「いいぞ! ならば行くぞ、まずはここを立て直す! そしてもっと北へ、南へ、東へ西へ、俺たちの土地を広げてやる! 開拓精神を忘れるな! そして叫べ!」
 ぼっ、と音を立ててマイトの拳が振り上げられた。
「ヒャッハーーーーーー!」



 酒場。脚を撃たれたジェニファーは、情けなげにソファにもたれてる。
「あー、もう、これじゃ働けもしないじゃない。あんな状況で油断するなんて!」
 忌々しげに言うジェニファーに、緋山 政敏が肩をすくめる。
「お前はよく戦ってたよ。それを疑うやつはいない」
「そうそう。それに、サンダラーは倒せたんでしょ? お兄さんの仇を討てたじゃない!」
 歩が慰めるようにパラミタ製のジュースを差し入れる。それを一口含んで、ジェニファーも小さく息を吐いた。
「そうね。……まあ、君たちのおかげかな。ありがと」
「遺跡に行った連中の話だと、あの遺跡にはサンダラーのと同じ銃がいくつもあったんだろ? ってことは、『大いなるもの』ってのは、ああいうのを兵隊として何人も作れるってわけだ……」
 蔵部 食人がげっそりした表情で言う。ジェニファーは眉をしかめながら、
「あたしの兄さんを殺したのも、結局はその『大いなるもの』の仕業ってわけね……あーあ、やりきれないなあ」
「今頃、調査隊に情報が持ち帰られて、詳しい解析がされてるはずだぜ。……ってて、優しくしろよ!」
「もう終わりですよ。……また、何か調査の必要があるかもしれません。そのときは、よろしくおねがいしますね」
 狩生 乱世の治療を終えて、九条 ジェライザ・ローズが告げる。
 ジェニファーはふう、と息を吐いた。
「……一応、恩人ってことになるしね。それまでには、あたしらの傷も治ってればいいけど」



 質屋・ピースメーカー。調査報告をまとめるため、武神 牙竜が調査チームと話あっている。
「あれだけの銃が生まれていたということは、サンダラーが訪れた時よりもさらに封印は弱まっているということでしょうね」
「それは、サンダラーが人を殺していたからだろ? あいつらが殺したぶんだけ、大いなるものの力が増して封印が破られていたわけだ」
 と、閃崎 静麻。
「けど、それはサンダラーに限らないのではないかしら? 封印が弱まっているとなれば、人が殺し合うだけでも、力になるかも……」
 朝倉 千歳が眉をひそめて呟く。
「だとすれば、危険きわまりないな。この土地は、殺し合うことがそれほど禁忌とされていない……ガンマンたちの意識を変えなければ、いつかは封印が破られるかもしれん」
 ヴァル・ゴライオンの意見に、牙竜が頷く。
「……とにかく、詳しいことは調査隊に持ち帰って、他のゲートの様子と比較して解析しましょう」
 雅羅・サンダース三世が提案した。
 その顔は、ここ数日ですっかり疲れた様子だ。この世界での経験を辛く思いながらも、一方でもしかしたら、充実を覚えているのかも知れない……



 ……ふと。巳灰 四音は目を覚ました。
「……あれ? ここ……」
 頬に当たる風は、荒野の乾いたものではない。どころか、甘い鼻のにおいが含まれている。
 ぐるぐると揺れる頭が落ち着くのを待って、彼は体を起こした。傍らにはブラット・クロイチェフが倒れている。
「ブラット、起きて。ここは……」
「あ、ぁあ……?」
 こちらも、頭の中がショックで白くなっているらしい。揺り起こされたブラットは、ものも言えない様子だ。
「……ここって……」
 ふと、四音は気づいた。自分たちのすぐそばには、荒野へ向かうために使ったゲートがあり、遠くには花妖精の村が見える。
「……ボク、確か撃たれて……」
 混乱した頭を押さえる。サンダラーに銃を向けられてからの記憶がない。死んだ、と思ったら、このゲートのそばに倒れていたのだ。
「……な、何がどうなってるの?」
 その問いに答えられるものは、いなかった。

担当マスターより

▼担当マスター

丹野佑

▼マスターコメント

 本シナリオのリアクション執筆を担当させて頂きました、丹野佑と申します。
 シナリオに参加していただき、あるいはリアクションを読んで頂き、まことにありがとうございます。

 【重層世界のフェアリーテイル】を形作る柱のひとつである第四世界後編、いかがだったでしょうか。

 この第四世界にはいくつかの結末が用意されていました。
 それは以下の2つの点によって分岐していました。

1,サンダラーの大会優勝を阻止できたか?
2,サンダラーの銃は破壊されたか?

 1,では戦闘面のアクションによって、PCたちがサンダラーを相手に戦い、彼らを倒すことができたかが問題でした。
 2,については、情報収集の結果、この世界の核心に至ることができたかどうかを判定していました。

 結果としては、1,2,どちらも達成されるという最良の結果となりました。
 最終的な優勝は、大会参加者(と、その他大会に影響を与えるアクションをかけてくださった非参加者)全員のアクションを決めた上で決定させて頂きました。
 しばらくの間、第四世界ではジャンゴをはじめとした無法者の勢力が増すでしょうが、僕はジャンゴが優勝することを、悪い結果だとは考えていません。
(彼を支援したPCのアクションの結果だからです)

 さて、本シナリオ中、PCが死亡する(!)という出来事がありましたが、シナリオ終了の時点で、死亡したPCは復活しています。他のシナリオに参加することは問題ありません。
 死亡判定が存在することをシナリオガイドで告知していませんでしたが、これは本シナリオ中の死亡が、他のシナリオに影響を与えないためです。
 この不思議な死がいったいどういう意味があるのかは、グランドシナリオに向けた伏線となっています。
 なぜ死んだはずなのに無事なのか? その理由は、今後公開されるグランドシナリオで明かされます。

 また、『大いなるもの』の調査が終わってしまった今、ジャンゴは何らかの形で契約者たちに借りを返さなければならない、というところですが、こちらもグランドシナリオに展開が引き継がれます。

 一連の【重層世界のフェアリーテイル】のシナリオも、いよいよ佳境。
 クライマックスを盛り上げ、物語を完結させるため、また一緒にシナリオを作り上げることができれば、幸いです。