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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

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第1章
 ティル・ナ・ノーグ、ハイ・ブラゼル地方第四世界。街中に立つ酒場には、今日も荒くれガンマンと契約者が集まっている。
 だが、彼らの表情には、どこか不安や緊張が浮かび、店内にはぴりぴりした空気が漂っていた。
「……みんな、大会に出場するつもりなの?」
 ウェイターの仕事に一息着けて、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が周囲のガンマンたちを見回した。
「おおよ!」
「逃げ出したら男がすたるってもんだ!」
 酒を引っかけているガンマンふたりが、グラスを掲げて答えた。その姿は、どこか投げやりな様子にも見える。
「でも……サンダラーって人は他の参加者を皆殺しにしてしまうんだよね」
 歩が不安げに呟く。ウェイターとして働くうちに、ガンマンたちとも顔見知りになり、通じ合わせたものも多少はある。その人間が今から死んでいく所を見せられるのは、さすがに悲しくもあり、怖くもあった。
「でも、いかに危険な挑戦でも、背を向けるのは……ガンマンの誇りに沿わないのでしょう?」
 と、杜守 柚(ともり・ゆず)。彼女も酒場の客から話を聞くためにここにやってきたのだ。
「のたれ死ぬのも荒野の掟……ってやつだよ」
 口を挟んだのはジェニファー・リード。歩と同じくウェイターとして働いているはずだが、今日はエプロンも着けていない。
「価値観の違いは認めるべきだと思うけど……でも、人ひとりが死ぬかも知れないというのは、嫌な気持ちだね」
 杜守 三月(ともり・みつき)も小さく息を吐く。
「もちろん、そうならないように俺たちも協力する……」
「だから、おねがい!」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)の言葉を遮って、歩が身を乗り出した。
「……死ぬ気で戦ったりしないで。誰かが死んだら、ジェニーちゃんみたいに仇討ちをしようって人がまた増えるかもしれない。それがずっと続いたら……」
 くしゃっと歩の顔が涙に崩れかける。
「お……お、おう! あ、安心しろよ!」
「ま、まあ、優勝するのはオレだしな!」
 慌てたガンマンたちが、ぶんぶんと首を縦に振る。
「よ、よーし! じゃあ、今日はあたしが払っておくわよ! 貸すだけなんだから、戻って来なかったら承知しませんよ!」
 拳を振り上げて叫ぶ歩。わっと歓声が酒場に沸いた。
「……言いたいことを言われてしまったな」
 なんとなく乗り遅れた心持ちで、牙竜。騒がしくなる酒場から目を移し、ジェニファーに向ける。
「なんとしても、大会が終わるまでに調査をしてみせる。だから、……死ぬなよ」
「そうです! 私たちに任せてください」
 ジェニファーに向けて宣言する柚。
「……正直、君たちが来るまでは、サンダラーと相打ちになる覚悟だったんだけどね。でも、そんなことしたって意味がないことが分かってきた。……だから、君たちに賭けることにしたわ。この大会に、新しい意味が生まれるように」
 腰の銃にそっと手を添えて、ジェニファーが呟いた。
「柚! ちょっと来てくれ」
 三月が酒場の一角から声を上げる。色あせたポンチョを着た男と、何かを話していたようだ。
「あっ、あなたはこの界隈で一番の事情通、“マウス”ハンスさん!」
 柚の言葉の通り、小柄で鼻の利きそうな男が、指を立てて何事かを囁いた。
「今度の大会で危なくなりそうだから、一旦この町から出ようって爺さんがいるんだ」
「せっかくだから、人生最後の旅を満喫しようって家財を売り払おうとしたんだけど、そうしたら家の奥から古い本が見つかったらしい」
 ハンスの説明を引き継ぐ三月。柚がぱっと振り向いた先で、牙竜が小さく頷いた。
「俺たちが買い取ろう。すぐにピースメーカーに運ばせる」