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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(後編)

リアクション

 血まみれの弾丸が村長の腹部から摘出された。
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は、手早く治癒魔法と縫合にかかる。パラミタや地球ほどの医療施設がそろっているわけじゃない。普段の治療よりもずっと、集中力が必要だ。
「おい……おい、大丈夫か?」
 シン・クーリッジ(しん・くーりっじ)に医療の心得はない。ローズは額の汗を拭いながら、心配げに声をかけるだけだ。
「ああ……ひとまずはこれで。傷はふさげたはずだよ」
 包帯を巻きつつ、ローズが答える。
「なんでまたいきなり、市長を殺そうとしたんだ?」
 市長を運んで来た皆無が、首をひねる。
「為政者を憎むものというのはどこにでもいるものですわ。わたくしの時代にも……」
「あいつは別にこの町の住人ってわけじゃないだろ」
 アンにぼそりと告げて、反対方向に首をひねる。
「たぶん、市長が『大いなるもの』の復活のためにこの大会を開いたと思ってたんですね。でも、そうじゃないから殺そうとした」
 答えたのは、先に来て腕の治療を受けていた誠一だ。
「そうじゃないからって、殺す理由になってねえだろ」
 と、シン。
「それが、いるんですよ。気に入らないからって殺そうとするやつがねぇ」
 誠一が肩をすくめて、どこか遠い目をして答えた。
「でも……いったい、なんでそんな風に考えたんだい?」
 ようやくイスに座ることができたとばかりに息を吐きながら、ローズ。
「……もし、君たちの言う『大いなるもの』が、封印の遺跡に関係のあるものだったら……心当たりがある……」
「市長!」
 治療を終えたばかりの市長が、脂汗を浮かべながらうなっている。シンは慌ててその顔をぬぐった。
「お話しても大丈夫ですの?」
 アンの問いに、市長はたぶん、と頷く。
「安静にしていた方が……」
「いや、どうも、事態は私が知らないところで動いているようだ……違いますか?」
 ローズが止めようとするが、市長の首が今度は横に振られる。……確かに、その通りだ。
「サンダラーのふたりは私の用心棒として雇った……のだが、あるとき、私は封印の遺跡という……場所の存在を知って。彼らに調査に向かわせた。この2つ前の大会が始まる前です。町の警護には保安官もいることだし、彼らはもっと大きな仕事をやりたがっていたから」
「遺跡……遺跡って、どっかで聞いたような」
 皆無はアゴに手を屋って頷いた。今朝、契約者たちの一団もそこに向かったという。
「彼らと調査団は、その遺跡に向かい……そして、彼らだけが戻ってきた。そのときには、あの姿だった。そして彼らは大会に参加し、参加者を皆殺しにした」
「様子がおかしいと思わなかったのか?」
 シンが聞くと、市長は小さく首を振る。
「理性では妙だとは思ったのだが、現実の彼らを目にすると、不思議とそんな気にならなかったのです。まるで何かが邪魔をするように、彼らのことを探る気になれなかった」
 一同が顔を見合わせる。
「彼らの所行もそうだ……私は確かにならず者など居なくなれば良いと思っていました。だから、サンダラーのふたりが彼らを消してくれて、都合が良いと思った……」
「おい、おい、正気かよ?」
 シャロンは腰に手を当てて苛立った様子だ。
「おそらく、正気ではないのでしょう……どこかでおかしいと感じていても、いざ彼らがやっていることを止める気にはならないのです。もしかしたら、打たれている無法者たちだって同じ気持ちかも……」
 市長の呟きに、皆無はわしわしと頭を掻いた(ローズに止められたことは言うまでもない)。
「じゃあ、何か? あいつらがやってたら、なんとなーく止める気が無くなって、それで止めなかったってことか?」
「そう考えざるを得ないねえ」
 誠一が頷く。
「人の心か……それとも、本能のようなものに干渉している、ということかな……」
 ローズは小さく呟いた。
 だとすれば、それは何者の力であろうか?