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1.年末の休日

1 :ミシェール☆ミ:2021/12/27(月) 12:08:41 ID:M1Chel1E
空京でいちゃつくカップルたちを眠りの魔法で混乱させてるなう
本当は爆発させたいところだけど、それだと芸がないから眠らせてるの☆

2 :ミシェール☆ミ:2021/12/27(月) 12:09:26 ID:M1Chel1E
ヒントは「眠り姫」
どうしても解けなかったら、偉大なる魔女ミシェール・イズファ様を捕まえてごらんなさい♪

   *  *  *

 博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)は、唐突に眠り始めてしまったリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)を見て息をついた。
 今日はせっかくのデートだというのに、何者かの魔法で眠らされてしまったらしい。
 抱き上げてベンチへ移動し、膝枕をしてやる博季。
 自分の上着を羽織らせ、巻いていたマフラーも彼女へ貸した。
 いつ目覚めるかは分からないが、リンネの寝顔を見つめて待つことに決める。

 朝霧垂(あさぎり・しづり)はのんびりと公園を歩いていた。
 そばには生涯を共にすると決めた騎凛セイカ(きりん・せいか)もいる。
 今年ももう年末のため、垂は駐在しているコンロンの状況報告を兼ねてシャンバラ地方へ戻ってきていた。
 さすがにカップルの姿も多く見られ、今日くらいは二人でのんびり過ごせそうだ。
「あ、あれ……?」
 ふと立ち止まったセイカは、その場にぱたりと倒れてしまった。
「セイカ?」
 はっとして彼女を抱き起こす垂。
 セイカは両目を閉じていたが、眠っているだけであることに垂はすぐ気がついた。倒れたといっても特に怪我をした様子もない。
 ほっとしつつ、彼女を抱き上げる垂。
 彼女は第四師団の団長であるため、毎日忙しい日々を送っている。――年末となれば、その疲れが出てきても当然か。
 そう考えた垂は、セイカを連れてやわらかな芝生の上へ移動した。
 開けた草の上に座り込み、すうすうと寝息を立てる彼女を膝枕する。
 今日くらいは……否、今くらいは、ゆっくり眠らせてやることにした。
 無防備な寝顔を微笑ましく眺め、時折、優しく頭を撫でてやる。自分もまた、この時間を使ってゆったりと過ごすことにした。

 目賀家にて――。
「この前のいちごオレ騒動の時は、本当にごめんなさい。また今度、お姉ちゃんに直接謝らせるよ」
 と、想詠夢悠(おもなが・ゆめちか)は頭を下げた。
 雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)はその時のことを思い出して、溜め息をつく。
「ああ、あれね……まぁ、確かにあの時は心配になるのも仕方ないというか……」
 それにしても夢悠の姉はやりすぎだ。
 思わず苦笑を浮かべる夢悠に、雅羅も苦く微笑んだ。
 すると、ふいに雅羅の意識が飛ぶ。
「えっ、雅羅さん!?」

 マヤー・マヤー目賀トレルを彼女の自室へ連れて行った後、ベッドに寝かせて再び廊下へ出た。
 どたどたと階段を駆け下り、客間にいるはずの執事を探す。
「園井、これからどうするにゃっ」
 がちゃっと勢いよく扉を開かれ、中にいた園井恭栄はびくっとした。白いベッドに寝かせた矢上マシュアの寝顔に見惚れていたのか、慌てて口を開く。
「そ、そうですよね! とりあえず現状を皆さんにお話して、それから――」
「落ち着くにゃ、園井。マヤーは何も見てないから」
「!」
 呆れ顔のマヤーに申し訳ないと頭を下げ、園井はマシュアのそばを離れた。
 とりあえず二人は、お茶会の会場である大広間へ戻ることにした。メイドたちが給仕しているので何もないはずだと思っていたが……。
「こ、これは……っ」
 参加者の半分ほどが、マシュアやトレルと同じ事態に陥っていた。そう、眠っているのだ。
「な、な! ななな、なななが!」
 その場で眠ってしまった金元ななな(かねもと・ななな)を心配し、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が叫ぶ。
 ゆさゆさと肩を揺すってみたが、なななが目覚める気配はない。ぺちぺちと頬を叩いても同じだ。
「ど、どうしよう、ダリル!?」
 と、ルカルカはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)へ助けを求めた。
 すると彼は冷静に言う。
「とりあえず落ち着け。被害者は他にもいるようだから、そんなに慌てなくてもいいだろう」
 はっと室内を見回してルカルカはようやく落ち着きを取り戻す。
「そ、そっか……」
 しかし大事な友人が急に眠ってしまって心配にならないはずはない。困惑するルカルカの目に、ふいに広間の高いところに立ったマヤーが映った。
「みなさーん、お願いだからよーく聞くにゃ! 紫色の髪の毛の小さい魔女が、みんなを眠らせちゃったみたいなのにゃ!」
 誰もが注目し、それぞれの近くにいる「眠り姫」を見つめた。
「トレルも魔法にかけられて、眠っちゃったにゃ。今、執事たちがお部屋を用意してるから、順番に運ぶにゃー」
 マヤーの状況説明が済むと、戻ってきた園井が声を上げた。
「お部屋の準備が整いましたので、順番にご案内させていただきます!」

 蒼空学園の校長・山葉涼司(やまは・りょうじ)もまた、魔法にかけられて眠っていた。
 恋人である火村加夜(ひむら・かや)は、急に倒れてきた彼を見て息が止まるくらいびっくりしたが、寝ているだけだと知って安心していた。
 目賀家の使用人に手伝ってもらって客間へ運ぶ。
 そっとベッドへ寝かせられた涼司を見つめる加夜。
 先日は、それはそれで楽しかったが、今日のように無防備な寝顔を見ているのも悪くない。
 魔法を解く方法が分かるまで、加夜は涼司の寝顔を眺めていることにした。

 四谷大助(しや・だいすけ)は夢悠と協力して、雅羅を客間のベッドへ運んでいた。
 そっと毛布を掛けてやって、左右からそれぞれに雅羅を見つめる二人の男。
 雅羅のことだから何も起きなければいいのだが……と、多少心配しつつ白麻戌子(しろま・いぬこ)は廊下へ出て情報を探しに行く。
 奇妙な沈黙が訪れる中、夢悠は雅羅の耳元に口を寄せた。
「瑠兎子が来たぞー!」
 びくっとしたのは大助の方だった。雅羅はまったくの無反応である。
 困ったなぁ……と、夢悠は体勢を戻した。顔を近づけていたことが恥ずかしいのか、少し頬を赤らめている。
 ライバルと向かい合っているという今の状況に、大助は言葉もなかった。

 杜守柚(ともり・ゆず)は、少し残念に思っていた。
 この前のいちごオレ事件のことで、トレルには感謝を伝えたいと思っていたのだ。
 それなのに、隣にいる高円寺海(こうえんじ・かい)は椅子に座ったまま寝息を立てている。
「ど、どうしよう……一人じゃ運べないし、誰か手伝ってくれる人は……」
 と、おろおろする柚。
 マヤーの話によるとこれは魔女の魔法らしい。とはいえ、眠っているだけであることを知るとちょっと安心もする。悪い病気や何かだったら、それこそ一刻を争う事態になっていたかもしれない。
 次々とみんなが部屋へ移動していくのを見て、柚はとりあえず立ち上がった。
「あ、あの……誰か、海くんもお部屋に」
 と、声をかけるが、ざわめきの中では誰の耳にも届かない。再びおろおろしそうになった時、執事の園井が柚に気づいて近寄ってきた。
「私がお運びしますね」
「あ、ありがとうございますっ」
 園井に抱き上げられた海を心配しながら、柚は後を追った。