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忘れられた英雄たち

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忘れられた英雄たち

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「……多分、あれでは決め手にはならないだろうな」

 レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)は武器の碧水翼剣を手にそう呟いた。
 目前の竜造とエレンの一騎打ちは、比較的互角のように思える。
 確かに、今の段階で均衡状態にある。だが、あの鉄塊のような大剣を受け止めきれずに時折避ける仕草を繰り返す。
 その際に小さな傷を少しずつ負い始めていた。そして、傷を負う度に動きが圧倒的に悪くなっていく。
 それでも均衡に見えるのは何かしらの気迫でそこに立っているからだろう。

「……だな」

 レティシアの側にシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が近寄り、同意した。
 そして、言葉を続ける。

「……相手の能力はヴァルキリーでフェイタルリーパー。
 飛び道具がないのは助かるが、その分前衛はヤバいな」

 そうシリウスは呟き、レティシアの方を振り向いた。
 そして、ある事を伝えるために口を開く。

「どうだ、共闘しないか?
 レティシアが前衛に加わってくれると協力して戦うときに心強い」
「……すまない。その誘いは魅力的だが、謹んでお断りさせてもらう」

 レティシアは頭を少し下げ、シリウスの誘いを断った。
 そして、もう一度エレンを見ながら、呟いた。

「ふむ、いずれにせよあやつらは滅ぶであろう。
 そうなる前に我は挑みたいのだ。過去の同族達の力を知り、この手で倒したい」
「……そうか、残念だな」
「すまない」

 レティシアの謝罪の言葉に、シリウスは笑みを浮かべながら言葉を返した。

「別にいいんじゃねぇか。最大の敬意を払い、自らの矜持を持って相手をしろってんだろ。
 なら自分なりのやり方ってのもあるだろうし、それが一騎打ちだったってだけだ。
 オレらがやるべきことはあらゆる点で全力で迎え撃つってことだけだからな」
「……ふむ、そう言ってくれるとありがたい」

 シリウスの言葉にレティシアも笑みを零した。
 そして、シリウスはレティシアに激励を送る。

「レティシアの一騎打ち、楽しみにしてるぜ。
 あの副隊長さんに現代のヴァルキリーの力を見せてやってやれよ」
「……ああ、ありがとう。シリウス」

 ――――――――――

 エレンの戦いは一撃必殺。
 手数も多くなく、ただ攻撃のひとつひとつが渾身の一撃。

 受け止めるだけで骨が軋み、剣圧で身体に傷が生まれる。
 それでも、竜造はエレンから離れず、回避せず、ただひたすらに剣撃を受け止めていた。

 竜造が大剣を振りかぶり、一際大きく武器を振るう。
 地面スレスレのその振り下ろしを、エレンは身体を反らし回避。

「……そろそろ、終わりにしましょうか」

 エレンは生まれた隙を見逃さず、竜造の首目掛けて反撃。
 避けようのない、当たれば即死の一閃。

 しかし、竜造はこれを待っていた。

「うらァァアアッ!」

 竜造が吼え、片手を腕ごと龍鱗化。
 硬化した腕で、直接振るわれる血染めの大剣を掴む。

「つ、がっ……!」

 瞬間、手首がそのまま吹き飛びそうな衝撃と激痛が竜造を襲った。
 手を離せば楽になる。竜造は鉄塊のような重量の刀身を掴んで離さない。

 ――やがて勢いを失い、刀身が止まった。

「……ッ!?」

 竜造の首の皮一枚といった所で止まった自らの大剣を見て、エレンは目を丸くした。
 戦いは数え切れないほど経験したが、自分の攻撃をこんな受け方をされたのは初めてだったからだ。

 竜造がエレンの大剣を力一杯地面に放り投げる。
 手首の負担の蓄積により、思わずエレンは大剣を手放してしまった。
 
 生まれた隙は大きく、相手は丸腰。
 地面に向けていた梟雄剣ヴァルザドーンの切っ先からレーザーキャノンを一瞬だけ発射。
 その勢いと、勇士の薬による肉体の速度強化を利用して反撃の一撃を食らわせる。

 質量と速度が合わさった、強烈な一撃。

 それは、エレンの鎧に亀裂を走らせ、破片を散らせた。

「……チッ、死ななかったか」

 その言葉と共に竜造は力を出し切ったのか、前のめりに倒れた。
 エレンはゆるりと大剣を拾い、竜造を向き――。

「そこまでだ。次は我の相手をしてもらおう」

 気を失い、倒れこんだ竜造の前にレティシアが立ち塞がる。
 そして、碧水翼剣の切っ先をエレンに向ける。

「ふむ、お主は相当の強敵のようだ。得物も同じで丁度良い。
 我は主との闘いを所望する、いくぞ!」

 レティシアは言葉の終わりと共に突っ込んだ。
 守ることを考えず、攻めに重点を置き大剣を振るう。
 全力を込めたなぎ払いは、甲高い音を立て受け止められた。

「また、あなたも一人なのね……。まあ、いいけど」
「ふむ……一人では退屈か?」

 その問いにエレンは答える。
 レティシアの大剣を弾き、刀身に冷気をまとわせて。

「……いいえ、全然」

 言葉と共に絶零斬を放つ。
 冷気をまとった一撃は、レティシアの大剣に当たると氷の粒がはじけた。

「そうか、なれば存分に死合おうぞ」

 レティシアが相手の大剣を弾き、軽く跳躍した。
 大剣を振り上げ、重量を利用した一撃――スタンクラッシュ。
 受け止めるエレンの足が、地面にめり込んだ。

「――ふふ、本当にあなたたちは退屈しないわね」

 初めて、エレンが笑った。
 それは狂気を感じるにしても年相応の笑み。
 先ほどまでの暗い雰囲気は消え、純粋に戦いを楽しんでいるようだ。

 二人の大剣が交錯する。
 お互いが離れず、接近戦のまま剣劇を行う。

 闇夜にいくつもの大きな火花が咲いた。
 甲高い金属音は静かな荒野に響いた。
 二人のヴァルキリーの剣戟は、見る者を魅了する剣劇へと昇華した。

 ――大剣の応酬が続く。
 しかし、この剣劇もそろそろ終わりが近づいていた。

「……そろそろ、我も限界かのう」

 碧水翼剣を構えるレティシアは、肩で息をし、身体は傷だらけになっていた。
 対するエレンは三人も相手にしたのに、傷だらけだが、息ひとつも乱れていない。

「そう、ならわたしの最高の業で終わらせてあげる」
「……恐悦至極。なれば我も必殺の一撃といこうか」

 お互いが少し離れ、大剣の柄を力一杯握り、腰を据える。
 それは一刀両断の構え。一撃にかけた大技。フェイタルリーパーの奥義。

 ――二人が駆け、大剣を抜き、刀身を奔らせる。

 交差したのは一瞬。
 先に膝を着いたのは、レティシアだった。

「……見事」
「あなたも、ね」

 二人の腹部に横一文字の傷が生まれた。
 お互いに血を流すが、ずっと立っていられるのはエレンだった。

 ――――――――――

 三人の一騎打ちが終わった後、すぐさま相田 なぶら(あいだ・なぶら)が三人の回収に向かい、その間他の仲間達がエレンを足止めしていた。

「キミ、この人達の治療を手伝ってくれ!」
「ああ、分かった!」

 なぶらとシリウスがヒールを唱え、三人の治療に当たる。
 暖かい光が三人の身体を包み、傷を徐々に塞いでいく。
 傷は深く、意識もない。が、この様子だと命に別状はなさそうだった。

「……全く、無茶ばかりして。死んだら元も子も無いのっていうのに」
「まぁ、そうだけどさ。いいじゃないか。これがこの三人の方法だったんだから」

 ため息をつくなぶらに、シリウスは声をかけた。
 まぁその通りだけど、となぶらは呟き言葉を続けた。

「でも、正直俺は震えたな。まさか、あんな強い英雄にあそこまで渡り合うなんてさ」
「……オレも同感だよ。すごいな、こいつら」

 あらかたの治療が終わり、三人を安静にさせてから、なぶらは立ち上がった。

「さぁ、今度は俺達が応えないとね。……あの英雄のためにも、この三人のためにも」

 なぶらの言葉にシリウスは頷き、立ち上がる。

「ああ、オレらがやるべきは全力で迎え撃つだけだからな!」