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忘れられた英雄たち

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忘れられた英雄たち

リアクション

 ネイトを中心に剣戟は鳴り止むことなく、闇夜にいくつもの火花が咲く。

「オラァ、喰らいやがれッ!」

 ネイトが盾を構え、強力な突進攻撃を放つ。
 その技はランスバレスト。騎士にとっての最強の必殺技。
 ネイトのランスバレストは周囲にいる者達を全員吹き飛ばした。

「オラオラッ、こんなもんかァ!? ちったぁ気合入れやがれ!」

 ネイトの咆哮が大気を震わせる。
 ネームレス戦隊の隊長の名前は伊達ではなく、英雄と評される相応の実力を有していた。

「ちょっと、アンタ!」
「あァ?」

 声のした方向をネイトが振り向く。
 そこには、ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)が佇んでいた。

「アタシは金色の戦士『ヴェルディー作曲・レクイエム』よ!」
「おォ、そうかァ!」
「アタシが発表された頃は、派手な曲だの何だのと揶揄されたけど。
 後世に残って、有名になっちゃえばこっちのモノなのよ!」

 レクイエムが広く得ている名声の使用。
 それにより相手を焚きつけようとした作戦。だったのだが。

「そうかッ! そりゃ、有名になって良かったなァ!」
「ありがとう! って、アンタ。もっと悔しがりなさいよ!」
「あァ? んなこと知らねぇよ!」
「きー! 何よアンタ、妬ましい!」

 自分の思っていたのとは違った反応を見せるネイトに、レクイエムは地団駄を踏んだ。
 それでも、当初の目的である時間稼ぎは成功。
 その隙にアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)が破壊工作の技術を用いてあちこちにトラップを仕掛ける。
 一通り仕掛け終わると、パートナーのパピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)の元に戻ってきた。

「ぶっぶー、魔道書ずーるーいー!!
 なーんでぱぴちゃん隅っこで見てないといけないワケぇ? おっもしろくなーいー!」
「パピリィ、そんなにむくれないで下さい。
 ボク達は今回、ヴェルの悪乗りに付き合っているんですから」

 アルテッツァは苦笑いをしながら、パピリオを諫める。
 そして、トラップの場所等をパピリィにゆるスターで全員に伝えることを頼んだ。

「ッたく、なんだお前。時間稼ぎかァ?」

 ネイトが辟易とし、レクイエムに長剣を向ける。
 そして、レクイエムにバーストダッシュで突撃しようとした、が。

「……ッ! なんだァ?」

 自分目掛けて飛来してきた矢を盾で弾き、ネイトは飛んできた方を見た。
 天禰 薫(あまね・かおる)が次の矢を番え、弓を引き絞っていた。

「ッくは、行かせはしねぇッてことかァ? 面白いじゃねぇか」

 ネイトは方向転換し、薫に向けて駆けた。

 薫の側にいた熊楠 孝明(くまぐす・よしあき)は得物を手に、苦笑する。

「呪われた生、か。俺の目的に繋がる手がかりを得られると思っていたけれど…見当違いだったかな?」

 彼の目的は一つ。『ある者を生き返らせる事』だった。

 その事は誰も知らない。今はただ、彼の胸の中に秘めているだけだった。
 目的を達成する為に、薫を利用しようと思って近づき、こうして傍にいた。

 今回も英雄たちの状態に興味を抱き、同行したが、望んだ答えは出なかった。

「見当違い? 親父、お前……何を……?」
「いや? 何でもないよ孝高。さあ、行こうか」
「足を引っ張るなよ」
「お前こそ」
「……ちっ」

 孝明はニコリと笑みを浮かべると、英雄に挑みかかる。
 熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)は父親のその余裕に小さく舌打ちをし、後に続いた。  

 ――――――――――

 激闘が行われている広場の側には、一際大きな遺跡の残骸がある。
 その頂上で紫月 唯斗(しづき・ゆいと)九十九 昴(つくも・すばる)は呟いた。

「オーケー、大先輩達よ。アンタ達の護る意志は俺達が受け継いで行く。
 正面からアンタ達を超えてソレを証明してやる。だから、ネイトさん、安心して逝ってくれよ」
「古王国の英雄ですか。
 ならその最後まで、騎士として終わらせてあげましょう。それがせめてもの手向け」

 昴は陰陽六合刀を手に決意を固める。

(せめてもの手向けとして、戦いで弔う……何より、レイカが、私の義姉が戦うのを、放ってはおけません!)

 その横顔を見た唯斗はフッと笑いを零し、昴に問いかけた。

「さて、昴、準備は出来てるか?」
「はい、でも紫月さん……」

 少し深刻な様子で昴が唯斗を見た。
 そして、動揺しながら、より一層決意を固めるために問いかけた。

「本当に、これで戦わないといけないのですか!?」
「……よし、準備は出来てるな。んじゃ行こう!」
「ええ!?」
「受け継がれる正義の魂! 俺の次は昴だ。九十九昴、覚醒の時である!」

 頂上から飛び降りた唯斗は、風を切りながら降下する。

「ちょっと、紫月さん!?」

 追いかけるように続いて、昴が飛び降りる。

「アンタを止めるのは俺達だ!」

 唯斗の宣言と共に、満月を背景に二つの影が並んだ。
 そして、声が重なる。変身は誰にもばれてはいけない。

「変身!」
「六珠解放! 陰陽纏身!」

 満月から迸る月光が二人の姿を隠した。
 そして、隊長の目前に着地する。

「白獣纏神! バイフーガ!」

 白虎のフルフェイスマスクに白金の闘衣を纏い赤いマフラー靡かせて咆哮。
 巷で噂の覆面ヒーロー、バイフーガが登場。
 右手を肩に水平に上げ、左手を胸に当てる。そして、スポットライトは月光。
 これでもかっ、と言うほどに格好いいポーズをバイフーガは決めた。

「光と闇は表裏一体、陰陽の力を用いて今見参。陰陽剣客『プレアデス』!」

 続いて物凄く恥ずかしそうにしながら、口上と共に登場したのはプレアデス。
 ハイネックのレオタード型インナーにチャイナドレス風の服を着て両手を篭手の様に包んだ羽衣が背中を回って繋がっている。
 胸元と背中に太極図のワンポイント、足はヒールの少しあるブーツにニーソックス。
 それが新ヒーロー、プレアデスだった。

 華麗に登場した後、涙声で小さくプレアデスはバイフーガに抗議した。

「や、やっぱり、恥ずかしい……です!」

 しかし、この二人意外とノリノリである。

「……えっ?」

 後ろで一部始終を見ていた天地は思わず素っ頓狂な声を上げた。
 あのプレアデスとやらがパートナーの昴なのは分かっている。

「……あれ、昴で御座いますか?」

 確認のため天地は隣に立つ光竜『白夜』に問いかけるが、白夜は重々しく長い首を縦に振った。
 それを確認した天地は天を仰ぎ、思わず叫んでしまった。
 
「どうしてこうなった!?」